[本編完結]伯爵令嬢は悪魔と呼ばれた公爵様を応援したい。

ゆき

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カイゼル・ハディソン視点

似た者同士

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我が家の執事と共に応接室に現れたハンナ嬢はどこか緊張した面持ちで口を開いた。


「お初にお目にかかります、ルーベル伯爵家の長女、ハンナ・ルーベルです。今日はお招きいただきありがとうございます」

「ああ、わざわざ足を運んでもらい申し訳ない。どうぞこちらにかけてくれ」


対面するソファに促すと、令嬢らしいたおやかな動作でゆっくりと腰を下ろす。

彼女の綺麗な所作は人目を引く。


その華やかな顔立は守ってあげたくなるようなか弱さよりも、芯のある強さや凛々しさを感じさせる。

だからといってそんなハンナ嬢を、社交界の毒華と称する連中の感性を疑ってしまった。


「今日は折り入って君に相談があるんだ」

俺は早速本題に入ろうと口を開く。


「相談?公爵様が、私なんかに?」



「君の妹であるホーリィ嬢についてだ」


照れくさい気持ちを隠しながらそう告げると、彼女はますますわからないと言った表情で首を傾げる。



「あの、うちの妹が公爵様に何か粗相でもしてしまいましたか…?」

「いや、そうではない」


粗相なんてしていない。

むしろ、その逆だ。


「これは姉の君にしか相談できないことなのだが、聞いてくれるだろうか」

「…まあ、その、内容によりますね」


「そうだな、何も言わずに了承を得ようとするなんて私が卑怯だった」

二十四にもなる男が、四つも下の少女に淡い恋心をさらけ出すのは目眩がしそうなくらい恥ずかしかったのだ。

それも、相手は彼女の妹。


「私は…その、なんだ…つまり…」


もごもごと言い淀む私は、この上なく情けない姿を晒してしまっているだろう。


彼女はそんな私をじっと見つめ、言葉が固まるまで辛抱強く待ってくれていた。

…優しい人だと思う。


そんな彼女に少しだけ勇気がわき、私はようやく重たい口を開いたのだった。


「私はふわふわして可愛らしいものが大好きなんだ!!!」


悪魔と称される様な恐ろしい外見でこんなことを言う私を彼女はどう思っているのだろうか。

気持ち悪いと引かれてしまったかもしれない。

自分と似た境遇の彼女とは自分でも驚くほどうまく話せていると思ったが、やはり生まれ持った口下手はそう簡単には変わらない。

もっとうまい言葉選びがあっただろうに。


「それはつまり、公爵様のお眼鏡に適ったのがうちの妹だったということでよろしいでしょうか…?」

一人落ち込んでいた私に、彼女は平然とそんなことを口にした。

いや内心驚いてはいたかもしれないが、私の言葉を理解し要約してくれた彼女に頭が下がる。

「ああ、そうだ。一目惚れだ」

話の続きを促す彼女にそう答えた。


「でしたら、婚約を申し込んだらよろしいのでは?」

「それだと本当の意味で彼女を手に入れることなんて到底叶わないだろ」


「ホーリィと心を通わせたいと?」

私は黙ってこくりと頷く。

確かに伯爵家であるホーリィ嬢の家に公爵である私がそんな申し込みをすれば、普通の親だったら喜んで受け入れてくれるはずだ。

しかしそうなれば、ホーリィ嬢はよく知らない人間と無理やり結婚させられることになる。

それも相手は社交界の悪魔と呼ばれる男。


そんな状況で常人が心を開き、婚約者に想いを寄せることなんて到底不可能だ。



「そうですね、懸命な判断だと思います」

彼女は私と同じことを想像したのか、苦笑を浮かべて同意を示してくれた。


しかし、一番簡単な手が使えない以上、いったいどうすれば良いのだろうか。


「ホーリィの好きなタイプは優しくて面白い人です。ですが、大前提として公爵様はもう少しコミュニケーション能力を上げた方が良いのでは?」

考え込む私に、彼女はそんなことを言う。

まさかこんなにも早く好みのタイプを聞けるとは思わなかった。


だがしかし、彼女の言葉に少しひっかかる。

「コミュニケーション、能力?」


「公爵様が悪魔なんて呼ばれてしまう原因はその容姿だけのせいではありません」

「っ、そうなのか!?」

私が不本意な呼び方をされてしまっているのは一重にこの忌々しい容姿のせいだとばかり思っていたのだが…


「容姿から連想される人柄を否定できない対人能力の無さです」

「…君は随分はっきりとものを言うのだな」


すごくメンタルに来るものを感じたが、これ程堂々と言われてしまえば嫌でも自覚する。

確かに、私がもっとうまく人に自分をさらけ出せていたら…今頃悪魔なんて蔑称もつかず、友人なんかと楽しく社交を行っていたかもしれない。

…自分が不甲斐ない。


「どうしてこの場ではそこそこ会話も成り立つのに、社交界に出ると途端に無口になってしまうのですか?」

「…緊張するだろ」


「そんなものは初めだけです。慣れる努力をしないからそうなるんですよ?」


努力不足を誰かに指摘されたのは初めてだった。

叱ってくれる友人なんかもちろんいない。

元公爵夫妻だった両親も、私が社交界デビューする直前に事故で亡くなっしまったため対人関係に何か苦言を呈される機会もなかったのだ。


「いくら人は見た目じゃないと言ってもやはり容姿が与える影響は大きいんです。それは私やあなたが一番理解しているはずでしょう?」

「ああ、そうだな」


思い当たる節がありすぎて胸が痛い。

それに、自分は男だからまだ良いが、私よりも歳若い彼女はきっと私以上に苦しんでいるはずだ。

今更ながら、お世辞にも良いとは言えない環境の中で、こうも凛として強くいられる彼女に感心してしまう。


「だから、まずはたくさん話をして本当の公爵様を知ってもらいましょう。そうしたらきっとみんな本当の公爵様がどんな人か気づいてくれますから」

にっこりと笑ってハンナ嬢は言葉を続ける。


「私はこんなに短い時間で、公爵様が本当は優しくて素敵な心を持った人だとちゃんと理解することができました。同じことです。本当の公爵様を曝け出すことができたら、きっとホーリィだって貴方の魅力に気づいてくれますよ」

誰かにこんなことを言われるのは初めてだ。

ハンナ嬢はたくさんの初めてを私に与えてくれる。


真正面から照れくさいことを言われて自分の頬が熱を持っていくのがわかる。


「…っ、そうか」

なんだか歳下の女性の手のひらの上で転がされているような感覚に陥り私は些細な反抗のように口を開いた。


「私も、ちゃんと気づいたぞ。毒華と呼ばれる君がこんな悪魔の話を真剣に聞いて、考えを巡らしてくれるようなお人好しだって」


そう言うと彼女は小さく目を瞬かせる。


「公爵様からの相談を無下にできる程私は肝が据わっていませんから」

淡々とした口調の中、彼女の顔が少しだけ赤くなっているのに気づき、自分の口元に浮かぶ笑みを隠すことが出来ない。


「憎まれ口は癖なのか?君は私にコミュニケーション能力がどうこうなんて言えないんじゃないか?」

そんなところも彼女が毒華なんて称されてしまう理由なのかもしれないと思うと、不憫なのだがどうしようもなく可愛らしい。


「どうして私の前ではそんなにペラペラと口が回るのに、一度社交界に出ると驚くほど口下手になってしまうのですか」

「さあな、私にもわからん。ただ、ハンナ嬢は言葉に嘘がないから、ズバズバとものを言う君にはこちらも遠慮なく話が出来る」


「つくづくこの世界に向いていない人ですねあなたは」

確かに、欺瞞や猜疑心に満ちた貴族社会では私の様なものは真っ先に淘汰されてしまうような存在だろう。

しかし、


「失礼だな」


思っていても、そんなことをズバッと口にしてしまう彼女だってこの世界には向いていないのではないか。

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