4 / 98
第4話 二つの校舎
しおりを挟む「校舎は二つ。新校舎と旧校舎、こちらが新校舎だ」
新校舎と説明されたが、どう見ても二十年以上は経っている。白い壁はくすんでいて、所々にヒビを修繕した痕があった。
引き戸は木造だし、ドアノブも篠宮が映像でしか見た事のない丸ノブだ。窓にはクレセント錠。
旧校舎なんてどうなっているんだろう。
篠宮の表情を汲んだらしく、サクラは簡単に説明する。
「もともとここにあった廃校を利用している。旧校舎はもっとレトロな木造校舎だぞ」
「いやぁ、雰囲気あるなあ」
コイツ旅行気分ではあるまいな。それはそれで構わない。すぐに音を上げて実家に帰るだろう。
校舎の二階の廊下の窓から、大きな桜の樹が見えた。それを眺めながら、彼女は説明を続ける。
「新校舎はαクラスの生徒が六人。旧校舎にはβクラス十人、合わせて十六名だ。教員は校長と、私。二人で全教科を教えていた」
「少ないっすねー」
「見ての通りの田舎だからな」
本当は田舎だから、というのは理由ではない。目の前の篠宮がどこまで知っているか、カマをかけたのだ。だが反応は薄い。むしろ「なるほど」とうなずいている。
「敷地は正方形。北半分は森になっている。迂闊に入り込むなよ、迷うぞ」
篠宮は顔を上げて遠くを見たが、その森はここからは見えなかった。
「あちらに見えるのはプールだ。夏場に使う」
プール、という単語に篠宮はぱあっと顔を明るくしたが、「夏に」と言われて、
「え?」
と、返した。
彼が知っているプールは通年仕様の屋内のものだが、ここはそうではないらしい。今どき屋外プールなど珍しいのだ。
「後は購買があるくらいだな。校内ではなく、敷地内に独立して建っている」
サクラがそこまで話した時、彼女の肩にぴょんと飛び乗った物がある。手のひらサイズの仔猫型のぬいぐるみだった。中にはぬいぐるみを動かすための機械が入っているのだろう。小さく「ミャア」と、ひと鳴きした。
「これは?」
篠宮が不審げに指差すと、サクラはそれを手の上にのせて彼に見せた。
「今、生徒の間で流行っていてな。誰もがひとつ身の回りに置いている。簡単なAIで動いて、気ままに離れたり寄ってきたりする——ペットみたいな物だ」
薄い桃色の仔猫はその瞳で篠宮の顔を見つめている。瞳のカメラで顔を認識しているのだろう。
「スタッフィーと呼ばれている。個体名はプフ。生体認証端末カリギュラとリンクしていて、急用のメッセージ等を知らせてくれる」
「生体認証端末?」
「ああ——そうか、お前には付いてないのか」
付いてないと言われると妙な気がするが、篠宮はうなずいた。
「後で説明する。今の連絡メッセージだけ確認したいのでな」
そう言うとサクラは耳元を探った。篠宮には見えないが、彼女の目には何か画面が見えているらしく、瞳が細かく動いていた。
『サクラ君、どうやら彼は本物のようだよ。本社の方に照会して確認が取れた。彼は本物の篠宮ツカサだ。丁寧に扱ってくれたまえ』
画面の中の鴫原校長はにこやかに手を振ると、姿を消した。再び耳元を触ると、その端末画面を切る。
忌々しいが、校長の仕事の早さはありがたい。
軽くため息をつくと、サクラは篠宮の方へ向き直る。彼はワクワクした目でこちらを見ている。きっと生体認証端末が珍しいのだろう。
——その意味も知らないで。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる