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第62話 人狼兄弟喧嘩、再び
しおりを挟む「シュト君、この辺流してよ」
篠宮がシュトルムに声をかけると、勢いよくホースの水がかけられた。
「変な呼び方をするな」
「……君のお兄さん、真面目だね」
「だろう? 堅物でさぁ、参るよ」
軽口を叩くウォルフ目掛けて、再び水が飛んで来た。
二人ともずぶ濡れだ。
「うるさい、早くやれ」
「……てめ、この、クソ兄貴ッ!」
グルルル……と喉を鳴らすような音と共にウォルフが巨軀の黒い人狼に変化した。
「ええーッ!?」
驚いている篠宮を挟むように、同じく白い人狼になったシュトルムがズシャリ、とプールに降り立つ。
「ちょ、待っ——」
ヤバイ。
素人でもわかる、近寄ってはならない雰囲気だ。
オロオロする篠宮の服をカグラが引っ張ってプールサイドに避難させる。
「ボヤボヤしてると巻き添えを食うぞ、篠宮よ」
「あ、ありがとう」
篠宮とカグラがプールサイドに上がるやいなや、黒と白の人狼がガツンと組み合った。衝撃で生まれた風が避難した二人の髪を巻き上げる。
「……いつも、こんななの?」
「いつも、こんなものじゃ」
二体の人狼は組み合ったまま鋭い牙の見える口から唸りを漏らす。そのまま水の無いプールがリングになり、お互いを掴んだままゴロゴロと転がって行く。
「うわわわ!」
「おお、これは見応えがあるのう」
水しぶきをあげながらの戦い——いや、兄弟喧嘩だ。
「これ、掃除になってるな」
ラッキー♪
そう思っていると、組み合っていた二人が離れた。お互いの右腕が上がる。殴る気だ。
本格的にヤバイ!
篠宮が反射的に飛び出そうとしたその時、
「やめろ!」
鬼丸の怒号が轟いた。
「全く、いつも良いところで鬼丸の仲裁が入るのじゃ」
カグラは残念そうだが、篠宮はホッとしている。自分では間に合いそうになかったから、鬼丸に感謝だ。
そんな篠宮の顔を見て、カグラがささやく。
「篠宮とやらも鬼丸と同じか? 諍いは好まぬのかの?」
「あまり好きでは無いね……鬼丸君もそうなの?」
見た目とは裏腹にそういうタイプなんだろうか。
カグラは何処からか出した扇子で自らを仰ぎながら、
「じゃれあいは見逃すが、一線を超えそうになれば止めに入る。彼奴はいつもそうじゃ」
と言った。
結局、ウォルフとシュトルムは毛皮が汚れたから宿舎(旧校舎)に帰され、残る三人で掃除する羽目になった。
「俺は水栓を開けてくる。二人で仕上げしとけよ」
鬼丸はそう言ってプールを出る。カグラはさっきから不服そうだ。
「なんで我が掃除など……」
「君、ずっとサボってたろ」
「なんと! 気付いておったのか!」
「バレるでしょ、五人しかいなかったんだから」
この子結構天然だな。
綺麗になったプールに新鮮な水が注がれる。それを見た篠宮は満足げな声を上げた。
「いやぁ、プール、楽しみだなぁ」
女子の水着姿が、だろ。
鬼丸とカグラの心のツッコミがシンクロした。
つづく
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