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彼女と出会った話をする前に、少し俺の話をしようと思う。俺の名前は、神宮司黎。かつての公家五摂家が一であり、現在は公爵家に名を連ねる神宮司家の後継だ。これだけ聞くと、純和風な家系に血統で生まれたのだろうと思うだろう。しかし、実際はそうではない。
時代背景的には、国が開国し、武家中心の政治から帝を頂点とした朝廷政治へと遷移して暫く経った頃。このころには、国の中心部でも洋風化が進んでおり、婚姻もまた他国の血を入れる事が増えてきていた。それに公家筆頭でありながら颯爽と便乗したのが、我が神宮司だったという訳だ。
母は蝶よ花よと育てられた、神宮司の一の姫。父は、この国から教師として乞われて来国した外国人で、神宮司の熱心な勧誘に折れて婿入りした。お陰様で、俺の顔立ちは彫りが深く、ブロンドの髪に碧眼である。父の影響で外国語が流暢に話せたり、一時期留学していた事はあるが、生国たるこの地ではよくよく外国人と勘違いされる。訂正する事は途中で諦めた。別に愛国心に満ちている訳ではないしな。
「革新的過ぎる事には、物申したくなる気がするが」
俺はそう呟いて、視線を馬車の外へと向けた。仕事の関係で、少し離れた都市まで足を延ばしていたその帰りだった。激しい雨が壁を天井を叩いている。先程から急に振り出したのだ。馬車用の道とは言え、山の中である。上下左右に揺れるだけでも鬱陶しいのに、更に喧しいとは、と俺は顔をしかめた。
「若様?なにか仰いましたか?」
「何でもない」
御者を務める従者が、大雨にもかかわらず小さな声を拾い上げて問うてきた。優秀だな、と内心苦笑しつつ、すこし声の大きさを上げて返答する。大事な令息に問題ない事を確かめた従者が、安堵したように御者の仕事に戻る。俺は片肘をついて再び窓の外に目を向けた。雨のせいで煙っており、はっきりとしたものが見えないが、なんとなく傍を川が流れているのが分かった。
まだまだ道の補整は行き届いていないが、揺れも酷いしさっさと綺麗にしてくれないか、と何を見る訳でもなくぼんやりと見つめる。
「ま、留学した身としてはこういう所からもこの国が遅れている事も良く分かるしな。時代の流れ的には間違っていないというか、家の判断としては正解だと認めるところだろうがな」
今度は従者に聞こえないように、口の中で言葉を溶かしながら呟く。
もう少ししたら、宿場につくだろう。行程も半分を過ぎただろうし、後数日で。そんな事をぼんやりと考えていたその時だった。
「っ?!」
突如として、天上を雷鳴が鳴り響き、すぐ近くに轟音を立てて落ちた。激しい衝撃が地面を揺らし、馬車にまで及んだ。とっさに馬車にしがみ付いたが、不安定な揺れが長く続く。雷に驚いた馬が、恐怖に暴れ我を忘れて御者の指示を無視して走っているのだ。
「ドウドウ!落ち着け!とまれ!」
御者が必死に声を張り上げているが、俺は唯々歯を食いしばってしがみついている事しか出来なかった。下手をしたら舌を噛む事を直感したのだ。その内馬も落ち着くだろう、そんな風に軽く考えていたのが悪かったのだろう。
「っ?!」
「!若様!」
横の大きく振れ、馬車が横転する。車輪が壊れたか、と何処か冷静に考えつつ体を強く打ち付けられる。それだけだったらまだよかった。横転し俺が叩きつけられた衝撃故だろうか、馬車が大破し俺の体は宙に投げ出されたのだ。近くの地面に振り落とされた従者が悲鳴のような声で俺を呼ぶのを聞きながら、俺は斜面を転がり落ち川へと転落した。
それを最後に、俺の意識は暗転した。
そして次に目を覚ました時、聞こえてきたのはサラサラと囁く草木の声と、凛としていながらも静謐な空気を乱さない涼やかな声。
「お目覚めですか?」
爽やかな畳の匂いと雨に濡れた新緑の匂いに満ちた、その広すぎる屋敷の一角で。暖かな布団に寝かされた俺の傍らで、淑やかに座した彼女はそういって微笑んだ。
それが、彼女との出会いだった。
時代背景的には、国が開国し、武家中心の政治から帝を頂点とした朝廷政治へと遷移して暫く経った頃。このころには、国の中心部でも洋風化が進んでおり、婚姻もまた他国の血を入れる事が増えてきていた。それに公家筆頭でありながら颯爽と便乗したのが、我が神宮司だったという訳だ。
母は蝶よ花よと育てられた、神宮司の一の姫。父は、この国から教師として乞われて来国した外国人で、神宮司の熱心な勧誘に折れて婿入りした。お陰様で、俺の顔立ちは彫りが深く、ブロンドの髪に碧眼である。父の影響で外国語が流暢に話せたり、一時期留学していた事はあるが、生国たるこの地ではよくよく外国人と勘違いされる。訂正する事は途中で諦めた。別に愛国心に満ちている訳ではないしな。
「革新的過ぎる事には、物申したくなる気がするが」
俺はそう呟いて、視線を馬車の外へと向けた。仕事の関係で、少し離れた都市まで足を延ばしていたその帰りだった。激しい雨が壁を天井を叩いている。先程から急に振り出したのだ。馬車用の道とは言え、山の中である。上下左右に揺れるだけでも鬱陶しいのに、更に喧しいとは、と俺は顔をしかめた。
「若様?なにか仰いましたか?」
「何でもない」
御者を務める従者が、大雨にもかかわらず小さな声を拾い上げて問うてきた。優秀だな、と内心苦笑しつつ、すこし声の大きさを上げて返答する。大事な令息に問題ない事を確かめた従者が、安堵したように御者の仕事に戻る。俺は片肘をついて再び窓の外に目を向けた。雨のせいで煙っており、はっきりとしたものが見えないが、なんとなく傍を川が流れているのが分かった。
まだまだ道の補整は行き届いていないが、揺れも酷いしさっさと綺麗にしてくれないか、と何を見る訳でもなくぼんやりと見つめる。
「ま、留学した身としてはこういう所からもこの国が遅れている事も良く分かるしな。時代の流れ的には間違っていないというか、家の判断としては正解だと認めるところだろうがな」
今度は従者に聞こえないように、口の中で言葉を溶かしながら呟く。
もう少ししたら、宿場につくだろう。行程も半分を過ぎただろうし、後数日で。そんな事をぼんやりと考えていたその時だった。
「っ?!」
突如として、天上を雷鳴が鳴り響き、すぐ近くに轟音を立てて落ちた。激しい衝撃が地面を揺らし、馬車にまで及んだ。とっさに馬車にしがみ付いたが、不安定な揺れが長く続く。雷に驚いた馬が、恐怖に暴れ我を忘れて御者の指示を無視して走っているのだ。
「ドウドウ!落ち着け!とまれ!」
御者が必死に声を張り上げているが、俺は唯々歯を食いしばってしがみついている事しか出来なかった。下手をしたら舌を噛む事を直感したのだ。その内馬も落ち着くだろう、そんな風に軽く考えていたのが悪かったのだろう。
「っ?!」
「!若様!」
横の大きく振れ、馬車が横転する。車輪が壊れたか、と何処か冷静に考えつつ体を強く打ち付けられる。それだけだったらまだよかった。横転し俺が叩きつけられた衝撃故だろうか、馬車が大破し俺の体は宙に投げ出されたのだ。近くの地面に振り落とされた従者が悲鳴のような声で俺を呼ぶのを聞きながら、俺は斜面を転がり落ち川へと転落した。
それを最後に、俺の意識は暗転した。
そして次に目を覚ました時、聞こえてきたのはサラサラと囁く草木の声と、凛としていながらも静謐な空気を乱さない涼やかな声。
「お目覚めですか?」
爽やかな畳の匂いと雨に濡れた新緑の匂いに満ちた、その広すぎる屋敷の一角で。暖かな布団に寝かされた俺の傍らで、淑やかに座した彼女はそういって微笑んだ。
それが、彼女との出会いだった。
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