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088『シゲさんと朝ごはん』
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銀河太平記
088『シゲさんと朝ごはん』 加藤恵
声とか喋り方も変えた方がいい!
そんな声が多かったけど、ロボットたちから反対の声が上がる。
「そういうことは、パチパチたち本人の意思に任せるべきだ!」
いや、でもね……
『ぼくはどっちでもいいよ』
『音声は、ただの伝達手段に過ぎないでござる。でござろう、イッパチどのも?』
『そうある、伝達手段は、明確に早く伝わるのがキモあるね』
パチパチたちにパルス鉱センサーを取り付けると、胸に二つの膨らみが出来てしまうので、違和感のないように女性型のボディーにしてやったのだ。
いずれも、小学四年生の女の子風になってしまうのだけど、胸の大きさに不自然でないようにしたので、ちょっとアニメ風の少女で。めちゃくちゃ可愛い。
それが、声は以前のままの男風。
ニッパチは高校の男子生徒風。
イッパチは侍風。
サンパチは、古典的中国風。
これが、新しい外観に合わない。
可変作業体としての本体は、それこそ可変で、自動車になったりブルドーザーになったりクレーンになったり、蛇型や亀形、必要に応じて姿を変えるが。変わらないのは『機械』というイメージだった。
だから、声は使用者の趣味でいかようにも変えられたが、それはそれで、もう定着している。
ロボットたちは「パチパチたちは、もう、ロボットと変わらない。ロボットとしての人権を守るべきだ」と主張する。
パチパチ達は、状況に応じた反応をプログラムされているだけで、有機的に反応できるロボットとは根本のところが違う。
しかし、そのプログラムは、世の中にコンピューターが現れてからこれまでの300年分のデータが入っているので、戦闘の指揮をとらせるような、超高度な任務を与えない限りロボットや人間と変わりがない。
まあ、これが法律が支配する本土なら、法改正を伴う大きな問題になる。たぶん、歴史の授業で習った『令和の憲法改正』以上の痛みと混乱を招くだろうね。
「じゃあ、とりあえず今のままということにしておこうか(^_^;)」
ヒムロ社長が、ちょっと困った感じで言うと、みんな納得した。
「いや、島のみんながね、楽しく仕事ができたら。それが第一だよね」
氷室社長の人徳。
「社長が決めたんだから、まあ、おめえらもがんばれ」
『ラジャー』
『承知でござる』
『了解ある』
「アハハ、慣れるには、ちょっと時間がかかりそうだ。飯は大盛りで頼むよ」
『ラジャー』
パチパチたちにエールを送って、シゲさんは朝食のトレーを持って、わたしの横に席を取った。
「でも、シゲさん、嬉しそうですね」
「あ、まあな。社長が、みんなのこと考えて、決断してくれるのが嬉しくってよ」
「みんな、社長には、そんな感じですね」
「ああ、今の島があるのは社長のお蔭だしな。うちのカンパニーだけじゃねえ、フートンやナバホとも仲良くやれてるのは、社長が陰日向になって、うまくやってくれてるからさ」
それは同感。
主席も村長も個性がきついし、その下で働いてる者も、一癖二癖という者ばかり。それをリーダーぐるみ仲良くさせているのは、すごいことだ。
「人徳の力ってすごいね」
「人徳ばかりじゃねえ」
「え?」
「血だよ」
「チ?」
いっしゅん、知識の『知』だか知恵の方の『知』だか、血統の『血』だか分からない。
「ブラッドの『血』さ。例えばな、この食堂じゃレプリケーターてなインスタントは使ってねえ」
「うん、この味噌汁だって、タキさん、お味噌から仕込んでる」
「だろ、社長もおんなじさ」
「社長がお味噌?」
「例えだよ、例え。社長はな、皇室の流れをくむお方なんだ」
「え、そうなの!?」
「でけえのは、ケツとオッパイだけにしとけ」
「あ、セクハラあ」
「そういう息の詰まるようなことは言わねえでくれ」
「ま、いいわ、それで?」
「まだ、女系も女性天皇も無かったころによ、結婚して国を出た内親王様がいらっしゃった」
「ああ……」
返事をしながら分かっていない、明治からこっち、知ってるだけで数件の例があるからね。
「その内親王様の何代目かの裔が社長だ」
「そうだったの」
「あんまり、人には言うなよ」
「なんだ、ガセ?」
「ちげえよ、こういう話は、社長嫌がるからよ。おめえが、知らねえようだから話してやったまでさ」
これだけ喋っていたというのに、トレーの食器は空になっている。
お茶を飲んで、口をブクブクさせると、カウンターの方に目を向ける。
「クソ、パチパチどもに先を越された!」
いつの間にか、パチパチたちはカウンターの端っこで突っ伏している。
オートマ体から作業体にシフトチェンジして、今ごろは坑内で掘削ドリルになっている。
シゲさんが、ねじり鉢巻きで飛び出していき、わたしはシゲさんの分のトレーも持ってカウンターへ。
カウンターのパチパチたちは、給食を食べ終えた小学生が爆睡してるみたいに休止している。
自分で作ったオートマ体だけど、ほんとうに可愛くできた。
いっそ、ボイスチェンジしてやろうかと思ったけど。社長の仰せでもある。
そっと頬っぺたをつついただけで、わたしも作業現場に向かった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、おタキさん)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
088『シゲさんと朝ごはん』 加藤恵
声とか喋り方も変えた方がいい!
そんな声が多かったけど、ロボットたちから反対の声が上がる。
「そういうことは、パチパチたち本人の意思に任せるべきだ!」
いや、でもね……
『ぼくはどっちでもいいよ』
『音声は、ただの伝達手段に過ぎないでござる。でござろう、イッパチどのも?』
『そうある、伝達手段は、明確に早く伝わるのがキモあるね』
パチパチたちにパルス鉱センサーを取り付けると、胸に二つの膨らみが出来てしまうので、違和感のないように女性型のボディーにしてやったのだ。
いずれも、小学四年生の女の子風になってしまうのだけど、胸の大きさに不自然でないようにしたので、ちょっとアニメ風の少女で。めちゃくちゃ可愛い。
それが、声は以前のままの男風。
ニッパチは高校の男子生徒風。
イッパチは侍風。
サンパチは、古典的中国風。
これが、新しい外観に合わない。
可変作業体としての本体は、それこそ可変で、自動車になったりブルドーザーになったりクレーンになったり、蛇型や亀形、必要に応じて姿を変えるが。変わらないのは『機械』というイメージだった。
だから、声は使用者の趣味でいかようにも変えられたが、それはそれで、もう定着している。
ロボットたちは「パチパチたちは、もう、ロボットと変わらない。ロボットとしての人権を守るべきだ」と主張する。
パチパチ達は、状況に応じた反応をプログラムされているだけで、有機的に反応できるロボットとは根本のところが違う。
しかし、そのプログラムは、世の中にコンピューターが現れてからこれまでの300年分のデータが入っているので、戦闘の指揮をとらせるような、超高度な任務を与えない限りロボットや人間と変わりがない。
まあ、これが法律が支配する本土なら、法改正を伴う大きな問題になる。たぶん、歴史の授業で習った『令和の憲法改正』以上の痛みと混乱を招くだろうね。
「じゃあ、とりあえず今のままということにしておこうか(^_^;)」
ヒムロ社長が、ちょっと困った感じで言うと、みんな納得した。
「いや、島のみんながね、楽しく仕事ができたら。それが第一だよね」
氷室社長の人徳。
「社長が決めたんだから、まあ、おめえらもがんばれ」
『ラジャー』
『承知でござる』
『了解ある』
「アハハ、慣れるには、ちょっと時間がかかりそうだ。飯は大盛りで頼むよ」
『ラジャー』
パチパチたちにエールを送って、シゲさんは朝食のトレーを持って、わたしの横に席を取った。
「でも、シゲさん、嬉しそうですね」
「あ、まあな。社長が、みんなのこと考えて、決断してくれるのが嬉しくってよ」
「みんな、社長には、そんな感じですね」
「ああ、今の島があるのは社長のお蔭だしな。うちのカンパニーだけじゃねえ、フートンやナバホとも仲良くやれてるのは、社長が陰日向になって、うまくやってくれてるからさ」
それは同感。
主席も村長も個性がきついし、その下で働いてる者も、一癖二癖という者ばかり。それをリーダーぐるみ仲良くさせているのは、すごいことだ。
「人徳の力ってすごいね」
「人徳ばかりじゃねえ」
「え?」
「血だよ」
「チ?」
いっしゅん、知識の『知』だか知恵の方の『知』だか、血統の『血』だか分からない。
「ブラッドの『血』さ。例えばな、この食堂じゃレプリケーターてなインスタントは使ってねえ」
「うん、この味噌汁だって、タキさん、お味噌から仕込んでる」
「だろ、社長もおんなじさ」
「社長がお味噌?」
「例えだよ、例え。社長はな、皇室の流れをくむお方なんだ」
「え、そうなの!?」
「でけえのは、ケツとオッパイだけにしとけ」
「あ、セクハラあ」
「そういう息の詰まるようなことは言わねえでくれ」
「ま、いいわ、それで?」
「まだ、女系も女性天皇も無かったころによ、結婚して国を出た内親王様がいらっしゃった」
「ああ……」
返事をしながら分かっていない、明治からこっち、知ってるだけで数件の例があるからね。
「その内親王様の何代目かの裔が社長だ」
「そうだったの」
「あんまり、人には言うなよ」
「なんだ、ガセ?」
「ちげえよ、こういう話は、社長嫌がるからよ。おめえが、知らねえようだから話してやったまでさ」
これだけ喋っていたというのに、トレーの食器は空になっている。
お茶を飲んで、口をブクブクさせると、カウンターの方に目を向ける。
「クソ、パチパチどもに先を越された!」
いつの間にか、パチパチたちはカウンターの端っこで突っ伏している。
オートマ体から作業体にシフトチェンジして、今ごろは坑内で掘削ドリルになっている。
シゲさんが、ねじり鉢巻きで飛び出していき、わたしはシゲさんの分のトレーも持ってカウンターへ。
カウンターのパチパチたちは、給食を食べ終えた小学生が爆睡してるみたいに休止している。
自分で作ったオートマ体だけど、ほんとうに可愛くできた。
いっそ、ボイスチェンジしてやろうかと思ったけど。社長の仰せでもある。
そっと頬っぺたをつついただけで、わたしも作業現場に向かった。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
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緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、おタキさん)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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