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089『西ノ島は順調』
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銀河太平記
089『西ノ島は順調』 加藤 恵
それからの西ノ島は順調だ。
A鉱区は落盤事故の後、ナバホ村とフートンの協力もあって、順調に開発が進んだ。
単に採掘量が増えただけではなく、純度の高いパルスガ鉱がまとまって出てくるようになって、島の収入は目に見えて増えてきた。
「これはいただけないよ」
「うちも受け取れねえ」
「受け取ってもらえなきゃ困るんです」
押し問答が続いている。
昼ご飯の終わった食堂に、島の三人の代表と、手すきの社員や村民、同志たちが集まって議論している。
ヒムロ社長は、A鉱区で採れたパルスガ鉱石の売り上げを三つの集団で分けようというのだ。
「カンパニーで採れたものだから、売り上げは、当然カンパニーのものだぜ」
「そうだ、フートン、村、手伝った。その分、先月もらった。今月分、売り上げ、カンパニーのもの」
「はい、その気持ちはありがたいんだけども、西ノ島は、みんな相見たがいだと思うんです。A鉱区のパルスガ鉱も、堀進んで行けば、村やフートンの鉱区にも繋がっているかもしれない。お互い持ちつ持たれつの島でもあるし。ここは、均等に分けるということで」
「いや、権利関係ははっきりしておいた方がいい。かつて、漢明も満州も、そういうところを中国的あいまいさでやってきて自滅してきた経緯がある。大陸の同胞たちはともかく、西ノ島の中華民族は明朗潔白を旨としてやっていきたいんだ」
「インディアン、同じ」
いやはや、どうにもまとまらない。
わたしが所属していた……なんで過去形? エホン、今でも所属してるんだけど、天狗党はヒエラルキーがはっきりしていて、決断が早かった。
島に来た当初はまどろっこしく思うこともあったけど、落盤事故からこっち、このあいまいさもいいと思うようになってきた。
「ちょっといいですか」
わたしと並ぶ新参者が手を挙げた。
「なんだい、兵二君?」
社長は、新参者にも丁寧だ。
「僕のいた火星には『講』というものがありました。火星は、まだまだ発展途上で、政府も企業も町も村も先行きが分かりません。そこで、仲間たちがお金を出し合って、プールしておくんです。そして、不時の出費に備えたり、講の親睦に使ったり、方向がはっきりした時の資金にしたりしています。火星は独立はしましたが、まだまだフロンティアなので、いまの西之島に通じるところがあると思います。どうでしょう」
「でも、兵二」
「なんでしょシゲさん?」
「そんなフアジーにしておいて、横領とか使い込みとかの心配はねえのか?」
シゲさんの質問に、みんなの注目が集まる。
「僕は、火星でも扶桑しか知りませんが、どこも似たり寄ったりだと思います。貧しい星なので、みんな信用を大事にしているところがあります」
「簡単なようで難しい問題だな」
「それ乗る、いい!」
村長が立ち上がった。
「我々も、そんな感じ。インディアンの先祖、そんな感じ。ヘイジ、いい。ちがうか?」
「フートンも賛成だ」
「そうですか……それならば兵二君提案の方向で……ここにいるみんなもいいだろうか」
「おれたちは野次馬だ、決定は、代表できめればいいさ。なあ、みんな」
シゲさんが一瞬でまとめてしまう。
「資金管理を決めなければなりませんが、少し時間を置いて決めましょう。それまではカンパニーで預かるということで」
「「異議なし」」
「では、解散にしましょうか」
社長が、そう告げて、みんなの腰が上がった時に、三度、兵二が発言した。
「すみません、僕も慣れて来たんで、あれこれ調べたんですが、島の北部の権利関係がよくわかりません。だれかご存知でしたら教えてください」
「あそこは国有地です」
社長が答える。
「島の開拓を条件に、フートンが買おうとされたんだが、あそこだけは島全体が国有だった名残で、国が手放さないんです」
「なにか、心配事でも?」
「いえ、国有地ならいいんです」
「それじゃ、今日はここまでにします。あと、連絡事項ないですか?」
「あ、そだ、いいですか」
自分の役割を思い出した。
「なんだい、メグミ?」
「明日から、順繰りにパチパチのメンテに入ります。ほとんどオーバーホール的なものになりますんで、まる一日は作業体は使えません。ご了承ください」
「最近は、オートマ体の方が馴染んできたぜ。ま、黙ってりゃだけど」
「ボイスは、まんまだもんな」
アハハハ
シゲさんが言ってサブがまぜっかえす、暖かい笑い声が上がる。
パチパチは、自分が手掛けたので、ちょっと嬉しい。
それから、みんな、引き取り手のない落盤犠牲者に手を合わせて食堂を後にした。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
089『西ノ島は順調』 加藤 恵
それからの西ノ島は順調だ。
A鉱区は落盤事故の後、ナバホ村とフートンの協力もあって、順調に開発が進んだ。
単に採掘量が増えただけではなく、純度の高いパルスガ鉱がまとまって出てくるようになって、島の収入は目に見えて増えてきた。
「これはいただけないよ」
「うちも受け取れねえ」
「受け取ってもらえなきゃ困るんです」
押し問答が続いている。
昼ご飯の終わった食堂に、島の三人の代表と、手すきの社員や村民、同志たちが集まって議論している。
ヒムロ社長は、A鉱区で採れたパルスガ鉱石の売り上げを三つの集団で分けようというのだ。
「カンパニーで採れたものだから、売り上げは、当然カンパニーのものだぜ」
「そうだ、フートン、村、手伝った。その分、先月もらった。今月分、売り上げ、カンパニーのもの」
「はい、その気持ちはありがたいんだけども、西ノ島は、みんな相見たがいだと思うんです。A鉱区のパルスガ鉱も、堀進んで行けば、村やフートンの鉱区にも繋がっているかもしれない。お互い持ちつ持たれつの島でもあるし。ここは、均等に分けるということで」
「いや、権利関係ははっきりしておいた方がいい。かつて、漢明も満州も、そういうところを中国的あいまいさでやってきて自滅してきた経緯がある。大陸の同胞たちはともかく、西ノ島の中華民族は明朗潔白を旨としてやっていきたいんだ」
「インディアン、同じ」
いやはや、どうにもまとまらない。
わたしが所属していた……なんで過去形? エホン、今でも所属してるんだけど、天狗党はヒエラルキーがはっきりしていて、決断が早かった。
島に来た当初はまどろっこしく思うこともあったけど、落盤事故からこっち、このあいまいさもいいと思うようになってきた。
「ちょっといいですか」
わたしと並ぶ新参者が手を挙げた。
「なんだい、兵二君?」
社長は、新参者にも丁寧だ。
「僕のいた火星には『講』というものがありました。火星は、まだまだ発展途上で、政府も企業も町も村も先行きが分かりません。そこで、仲間たちがお金を出し合って、プールしておくんです。そして、不時の出費に備えたり、講の親睦に使ったり、方向がはっきりした時の資金にしたりしています。火星は独立はしましたが、まだまだフロンティアなので、いまの西之島に通じるところがあると思います。どうでしょう」
「でも、兵二」
「なんでしょシゲさん?」
「そんなフアジーにしておいて、横領とか使い込みとかの心配はねえのか?」
シゲさんの質問に、みんなの注目が集まる。
「僕は、火星でも扶桑しか知りませんが、どこも似たり寄ったりだと思います。貧しい星なので、みんな信用を大事にしているところがあります」
「簡単なようで難しい問題だな」
「それ乗る、いい!」
村長が立ち上がった。
「我々も、そんな感じ。インディアンの先祖、そんな感じ。ヘイジ、いい。ちがうか?」
「フートンも賛成だ」
「そうですか……それならば兵二君提案の方向で……ここにいるみんなもいいだろうか」
「おれたちは野次馬だ、決定は、代表できめればいいさ。なあ、みんな」
シゲさんが一瞬でまとめてしまう。
「資金管理を決めなければなりませんが、少し時間を置いて決めましょう。それまではカンパニーで預かるということで」
「「異議なし」」
「では、解散にしましょうか」
社長が、そう告げて、みんなの腰が上がった時に、三度、兵二が発言した。
「すみません、僕も慣れて来たんで、あれこれ調べたんですが、島の北部の権利関係がよくわかりません。だれかご存知でしたら教えてください」
「あそこは国有地です」
社長が答える。
「島の開拓を条件に、フートンが買おうとされたんだが、あそこだけは島全体が国有だった名残で、国が手放さないんです」
「なにか、心配事でも?」
「いえ、国有地ならいいんです」
「それじゃ、今日はここまでにします。あと、連絡事項ないですか?」
「あ、そだ、いいですか」
自分の役割を思い出した。
「なんだい、メグミ?」
「明日から、順繰りにパチパチのメンテに入ります。ほとんどオーバーホール的なものになりますんで、まる一日は作業体は使えません。ご了承ください」
「最近は、オートマ体の方が馴染んできたぜ。ま、黙ってりゃだけど」
「ボイスは、まんまだもんな」
アハハハ
シゲさんが言ってサブがまぜっかえす、暖かい笑い声が上がる。
パチパチは、自分が手掛けたので、ちょっと嬉しい。
それから、みんな、引き取り手のない落盤犠牲者に手を合わせて食堂を後にした。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
村長 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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