115 / 393
103『西之島チルル空港』
しおりを挟む
銀河太平記
103『西之島チルル空港』越萌マイ(児玉隆三)
朝霞駐屯地の前から飛び立って南南東に90分、!マークがバク転したような島が見えてくる。
西之島だ。
去年、小笠原村から独立して西之島市になった。
堂々の国際空港を持ち、人口も十万を超えては村でもあるまい。
かつて、会社、村、胡同と呼ばれた地域は、それぞれ『南区』『東区』『西区』と改編され、市庁舎は、かつて北としか呼称されていなかった『北区』に置かれている。
北区の西端からは橋がのびていて、埋め立てによって造成された『西之島国際空港』に繋がっている。
今日は、その国際空港ではなく、南区の南端のチルル空港に下りる。
空港は『氷室空港』と呼称されるはずだったが、社長の氷室が固辞し、落盤事故で最後まで遺骨の引き取り手が現れなかった犠牲者の名にちなんでいる。
プシューー
気蓄機から盛大な蒸気を吐き出して着地させる。
エプロンまで滑走させるのも待ちきれない様子で、空港ビルから数名の、おそらくは氷室カンパニーの人たちが駆けてくる。
ウィーン
ハッチが開くと、馴染みの加藤恵たち、カンパニーの主要メンバーが集まっている。
「出迎え有難う、恵。こちら妹の越萌メイ、越萌姉妹社の専務です」
「ようこそ、メイさんマイさん。こちらが氷室カンパニー社長の氷室睦仁です」
「氷室です。もっと早くお会いしたかったんですが、本決まりになるまでは会ってはいけないと社員に止められまして、失礼いたしました(^_^;)」
「いえ、こちらもメイから同じことを言われていましたので、お互いさまです」
「わたしの横に居ますのが、西之島銀行本店店長のニッパチです」
「ようこそ……あ、失礼、音声の切り替えを……ようこそいらっしゃいました。ごいっしょに開発計画を実施できることを楽しみにしております」
きれいな女性の声になったので、ちょっとビックリ。これまでの事前折衝の記録はでは、パチパチの声はデフォルトの男性音声だった。でも、指摘するのは失礼だ。ポーカーフェイスで通す。
「その隣が、技術部長のシゲ老人です。一徹ものですが、技術に関しては柔軟な考え方をしてくれます」
「ああ、そういうことで、よろしく。ところで、おたくのボートは、ちょっと変わってるねえ」
「ええ、むかし大阪で考案された軽コスモボートが原型になっているんです。うちのメカニックが資料を基に作ってくれまして、フチコマって言うんです」
「あとで見せてくれっかい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「止した方がいいですよ、ぜったい分解しますから」
「余計なこと言うな、メグミ!」
「アハハ、いいですよ。お互い刺激し合うのはいいことですから」
「いえ、島中のメカニック呼んできて見せびらかしますから、パーツは、あちこち回って、元に戻るのには一か月はかかりますから」
「そんなにはかからねえ、二週間であげてやらあ!」
「あはは、それは、ちょっとご勘弁を……」
アハハハ
みんなが笑う。いい出だしだ。
「市長や他の代表の者たちには、明日以降会っていただけるように調整しています。わざわざお越しいただいて、不手際なことで申し訳ありません」
「いいえ、それだけ可能性の高い土地、そして事業ということです。先が楽しみです」
「はい、そうです。それでは宿舎の方にご案内いたします、まずは、空港ビルの方へ」
フチコマを整備士に任せると、なんだか、昔からの知り合いのような気やすさで空港ビルに向かった。
管制塔の向こうには、西之島火山が暖機運転中のSLのように煙を吐いている。
その逞しさは、吉兆のようにも見え、天下大乱の凶兆のようにも見えた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
103『西之島チルル空港』越萌マイ(児玉隆三)
朝霞駐屯地の前から飛び立って南南東に90分、!マークがバク転したような島が見えてくる。
西之島だ。
去年、小笠原村から独立して西之島市になった。
堂々の国際空港を持ち、人口も十万を超えては村でもあるまい。
かつて、会社、村、胡同と呼ばれた地域は、それぞれ『南区』『東区』『西区』と改編され、市庁舎は、かつて北としか呼称されていなかった『北区』に置かれている。
北区の西端からは橋がのびていて、埋め立てによって造成された『西之島国際空港』に繋がっている。
今日は、その国際空港ではなく、南区の南端のチルル空港に下りる。
空港は『氷室空港』と呼称されるはずだったが、社長の氷室が固辞し、落盤事故で最後まで遺骨の引き取り手が現れなかった犠牲者の名にちなんでいる。
プシューー
気蓄機から盛大な蒸気を吐き出して着地させる。
エプロンまで滑走させるのも待ちきれない様子で、空港ビルから数名の、おそらくは氷室カンパニーの人たちが駆けてくる。
ウィーン
ハッチが開くと、馴染みの加藤恵たち、カンパニーの主要メンバーが集まっている。
「出迎え有難う、恵。こちら妹の越萌メイ、越萌姉妹社の専務です」
「ようこそ、メイさんマイさん。こちらが氷室カンパニー社長の氷室睦仁です」
「氷室です。もっと早くお会いしたかったんですが、本決まりになるまでは会ってはいけないと社員に止められまして、失礼いたしました(^_^;)」
「いえ、こちらもメイから同じことを言われていましたので、お互いさまです」
「わたしの横に居ますのが、西之島銀行本店店長のニッパチです」
「ようこそ……あ、失礼、音声の切り替えを……ようこそいらっしゃいました。ごいっしょに開発計画を実施できることを楽しみにしております」
きれいな女性の声になったので、ちょっとビックリ。これまでの事前折衝の記録はでは、パチパチの声はデフォルトの男性音声だった。でも、指摘するのは失礼だ。ポーカーフェイスで通す。
「その隣が、技術部長のシゲ老人です。一徹ものですが、技術に関しては柔軟な考え方をしてくれます」
「ああ、そういうことで、よろしく。ところで、おたくのボートは、ちょっと変わってるねえ」
「ええ、むかし大阪で考案された軽コスモボートが原型になっているんです。うちのメカニックが資料を基に作ってくれまして、フチコマって言うんです」
「あとで見せてくれっかい?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「止した方がいいですよ、ぜったい分解しますから」
「余計なこと言うな、メグミ!」
「アハハ、いいですよ。お互い刺激し合うのはいいことですから」
「いえ、島中のメカニック呼んできて見せびらかしますから、パーツは、あちこち回って、元に戻るのには一か月はかかりますから」
「そんなにはかからねえ、二週間であげてやらあ!」
「あはは、それは、ちょっとご勘弁を……」
アハハハ
みんなが笑う。いい出だしだ。
「市長や他の代表の者たちには、明日以降会っていただけるように調整しています。わざわざお越しいただいて、不手際なことで申し訳ありません」
「いいえ、それだけ可能性の高い土地、そして事業ということです。先が楽しみです」
「はい、そうです。それでは宿舎の方にご案内いたします、まずは、空港ビルの方へ」
フチコマを整備士に任せると、なんだか、昔からの知り合いのような気やすさで空港ビルに向かった。
管制塔の向こうには、西之島火山が暖機運転中のSLのように煙を吐いている。
その逞しさは、吉兆のようにも見え、天下大乱の凶兆のようにも見えた。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
森ノ宮親王
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる