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18『メガトン級』
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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
18『メガトン級』
ロシアが戦争を始めた時と近所の幼なじみが宝くじの一等を当てた時はメガトン級にぶったまげた。
でも、それは、あくまでも俺の外側で起きたメガトン級で、俺の生活が脅かされるようなことではない。
ま、世界はワンダーランドなんだと、池上彰さんの特番やら近所の噂で面白がっていればいい。
しかし、とうとう俺の平穏な日常を根底から覆すメガトン級が起こってしまったんだ!
話は昨日のことだ。
「あ、お弁当忘れてる!」
朝の食卓でお袋が叫んだ。
「学食とか開いてないのかぁ?」
新聞から目も離さないで、親父が呑気に言う。
「入試の日に食堂なんか開いてないわよ。お父さん、出勤の途中で届けてやってくれない?」
「だめだよ、仕事に遅れる」
お袋は無意識に松ネエの席に目をやった。松ネエは、大学入学のなんやかやのために昨日から静岡に帰っている。
小菊の入試なんてどうでもいいんだけど、こういう時の雑用がストレートに回ってこないことが、少しだけいぶかしかった。
ガキの頃から、こういうお使いめいたことは俺の仕事だからな。でも、お鉢が回ってこないのはありがたいことだ。
「ごっそさまー」
今日は観るぞと決心した映画を観るために二階へ上がろうとした。
「雄一ぃ、行ってやってくれないかぁ」
祖父ちゃんがサラリと言った。
心なし空気が固まった。
「俺? ま、いいけど」
こういうところ、俺は素直だ。
俺はもめ事とか気まずくなるのが苦手だ。
だから、頼まれればよほど理不尽なことでない限り引き受けてしまう。余計なことには関わらないことと合わせて、俺の処世訓だ。
しかし、引き受けることと関りにならないことは相反していて、その兼ね合いが難しく、往々にして後悔や騒動の種になる。
ほら、シグマを堂本の理不尽から救ってやったこととか、予約してたエロゲを取りに行ってやったりとかな。
でも、入試に弁当無しは可哀そうだ。届けてやらずばなるまい。
間違ってないよな?
「わかった、文京? 牛込?」
俺は、小菊の成績と家からの距離から二つの都立高校の名前を上げた。
「都立神楽坂だよ」
「え?」
俺は固まってしまった。
だって、都立神楽坂は俺が通っている学校だぞ。
「小菊のやつ、俺の学校受けてんの?」
「そーだよ、勝手知ったる自分の学校だから頼んだよ」
お袋はピンク色の弁当袋をズイっと俺の方に押して台所に消えた。親父も新聞を畳んでネクタイを締める。
「じゃ、行ってくるよ」
バイデンの当確を知ったトランプは、その時の俺と同じくらいのショックだっただろう。
小菊とは、この三年まともに口をきいていない。
兄の俺がすることは箸の上げ下ろしどころか息の吸い方まで気に入らない小菊だ。
ま、思春期には、どこにでもある話なんで、無理くりな関係改善なんか考えてもいないし望んでもいない。
松ネエが来ることになった夜に、小菊はスネマクリの発作を起こした。
家の中でツンツンしてる分には何も言わない。
だが、人さまを理不尽に不快にさせることは許せない。二階の部屋まで追いかけた……けど、そこで俺は引き返した。結果オーライで、祖父ちゃんが丸く収めてくれたからな。
そうなんだよ、感情に走っちゃいけないんだ♪
坂の向こうに校舎の先っぽが見えるころにはアニソンの鼻歌気分だった。
学校の正門は閉められていた。ま、入試当日なんだから当たり前。
で、守衛室に声を掛けた。
「すみませーん、妹が弁当忘れたもんで届けに来ました」
「うーーい」
声を聞いてマズイと思った。声の主は、あの堂本だ。
私服で来たことを咎められたが、入試に関わることなので、それ以上言われることも無く弁当を預けられた。
任務完了。
難儀なことが一つ済めば、とりあえず安心してしまうのが俺の性だ。
その帰り、角を曲がったら自分の家というところでシグマに出くわした。
最初は分からなかった。
シグマは制服でもなく、アキバで見かけたオタフアァッションでもなく、フリフリのサロペットにボーダーのニーソという女の子っぽい出で立ち、それもルンルンでスキップなんかしていたからだ。
「お、お、お、やっぱシグマじゃんか!」
最初こそ気恥ずかしそうに、一見不機嫌に見えるΣ口を尖らせたが、たった今クリアしたエロゲを届けたという話になると、キラキラと目を輝かせた。
たぶん、気を使わないでエロゲの話をできるのは俺くらいのものなんだろ。
ま、それもΣの誤解……ひょんなことでアキバで出くわし、祖母ちゃんの危篤という緊急事態で、予約していたエロゲを受け取りに行ってやるというお人よしをやったので、俺のことを同じカテゴリーの人間だと思い込んでいる。
「ネタバレになることは言いませんけど、アズサは最後に攻略してくださいね。きっと感動の暴風雨です! こんな感動したのは生まれて初めてでした! クリアしたら知らせてください、あ、クリアしなくても分からないこととかあったら連絡してください、今年度の萌えゲアワード大賞間違いなしなんですから!」
「そっか、それは楽しみだな(ほんとは戸惑いまくってるんだけど)、じゃ、預かろうか」
「あ、いま、先輩んちのポストに入れてきたところです」
「な、なんだって……」
「あ、大丈夫です、他の人には分からないようにアニメのパッケージで、袋も学校の茶封筒にしときましたから(^^♪」
「そ、そっか」
話もそこそこに、俺は家に駆け戻った。
で、郵便受けにはブツは無かった……。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
ノリスケ 高校二年 雄一の数少ない友だち
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
18『メガトン級』
ロシアが戦争を始めた時と近所の幼なじみが宝くじの一等を当てた時はメガトン級にぶったまげた。
でも、それは、あくまでも俺の外側で起きたメガトン級で、俺の生活が脅かされるようなことではない。
ま、世界はワンダーランドなんだと、池上彰さんの特番やら近所の噂で面白がっていればいい。
しかし、とうとう俺の平穏な日常を根底から覆すメガトン級が起こってしまったんだ!
話は昨日のことだ。
「あ、お弁当忘れてる!」
朝の食卓でお袋が叫んだ。
「学食とか開いてないのかぁ?」
新聞から目も離さないで、親父が呑気に言う。
「入試の日に食堂なんか開いてないわよ。お父さん、出勤の途中で届けてやってくれない?」
「だめだよ、仕事に遅れる」
お袋は無意識に松ネエの席に目をやった。松ネエは、大学入学のなんやかやのために昨日から静岡に帰っている。
小菊の入試なんてどうでもいいんだけど、こういう時の雑用がストレートに回ってこないことが、少しだけいぶかしかった。
ガキの頃から、こういうお使いめいたことは俺の仕事だからな。でも、お鉢が回ってこないのはありがたいことだ。
「ごっそさまー」
今日は観るぞと決心した映画を観るために二階へ上がろうとした。
「雄一ぃ、行ってやってくれないかぁ」
祖父ちゃんがサラリと言った。
心なし空気が固まった。
「俺? ま、いいけど」
こういうところ、俺は素直だ。
俺はもめ事とか気まずくなるのが苦手だ。
だから、頼まれればよほど理不尽なことでない限り引き受けてしまう。余計なことには関わらないことと合わせて、俺の処世訓だ。
しかし、引き受けることと関りにならないことは相反していて、その兼ね合いが難しく、往々にして後悔や騒動の種になる。
ほら、シグマを堂本の理不尽から救ってやったこととか、予約してたエロゲを取りに行ってやったりとかな。
でも、入試に弁当無しは可哀そうだ。届けてやらずばなるまい。
間違ってないよな?
「わかった、文京? 牛込?」
俺は、小菊の成績と家からの距離から二つの都立高校の名前を上げた。
「都立神楽坂だよ」
「え?」
俺は固まってしまった。
だって、都立神楽坂は俺が通っている学校だぞ。
「小菊のやつ、俺の学校受けてんの?」
「そーだよ、勝手知ったる自分の学校だから頼んだよ」
お袋はピンク色の弁当袋をズイっと俺の方に押して台所に消えた。親父も新聞を畳んでネクタイを締める。
「じゃ、行ってくるよ」
バイデンの当確を知ったトランプは、その時の俺と同じくらいのショックだっただろう。
小菊とは、この三年まともに口をきいていない。
兄の俺がすることは箸の上げ下ろしどころか息の吸い方まで気に入らない小菊だ。
ま、思春期には、どこにでもある話なんで、無理くりな関係改善なんか考えてもいないし望んでもいない。
松ネエが来ることになった夜に、小菊はスネマクリの発作を起こした。
家の中でツンツンしてる分には何も言わない。
だが、人さまを理不尽に不快にさせることは許せない。二階の部屋まで追いかけた……けど、そこで俺は引き返した。結果オーライで、祖父ちゃんが丸く収めてくれたからな。
そうなんだよ、感情に走っちゃいけないんだ♪
坂の向こうに校舎の先っぽが見えるころにはアニソンの鼻歌気分だった。
学校の正門は閉められていた。ま、入試当日なんだから当たり前。
で、守衛室に声を掛けた。
「すみませーん、妹が弁当忘れたもんで届けに来ました」
「うーーい」
声を聞いてマズイと思った。声の主は、あの堂本だ。
私服で来たことを咎められたが、入試に関わることなので、それ以上言われることも無く弁当を預けられた。
任務完了。
難儀なことが一つ済めば、とりあえず安心してしまうのが俺の性だ。
その帰り、角を曲がったら自分の家というところでシグマに出くわした。
最初は分からなかった。
シグマは制服でもなく、アキバで見かけたオタフアァッションでもなく、フリフリのサロペットにボーダーのニーソという女の子っぽい出で立ち、それもルンルンでスキップなんかしていたからだ。
「お、お、お、やっぱシグマじゃんか!」
最初こそ気恥ずかしそうに、一見不機嫌に見えるΣ口を尖らせたが、たった今クリアしたエロゲを届けたという話になると、キラキラと目を輝かせた。
たぶん、気を使わないでエロゲの話をできるのは俺くらいのものなんだろ。
ま、それもΣの誤解……ひょんなことでアキバで出くわし、祖母ちゃんの危篤という緊急事態で、予約していたエロゲを受け取りに行ってやるというお人よしをやったので、俺のことを同じカテゴリーの人間だと思い込んでいる。
「ネタバレになることは言いませんけど、アズサは最後に攻略してくださいね。きっと感動の暴風雨です! こんな感動したのは生まれて初めてでした! クリアしたら知らせてください、あ、クリアしなくても分からないこととかあったら連絡してください、今年度の萌えゲアワード大賞間違いなしなんですから!」
「そっか、それは楽しみだな(ほんとは戸惑いまくってるんだけど)、じゃ、預かろうか」
「あ、いま、先輩んちのポストに入れてきたところです」
「な、なんだって……」
「あ、大丈夫です、他の人には分からないようにアニメのパッケージで、袋も学校の茶封筒にしときましたから(^^♪」
「そ、そっか」
話もそこそこに、俺は家に駆け戻った。
で、郵便受けにはブツは無かった……。
☆彡 主な登場人物
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百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
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