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19『神楽坂高校の茶封筒』
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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
19『神楽坂高校の茶封筒』
今の俺は二つ問題を抱えている。
一つは、妹の小菊がこともあろうに、俺の高校を受験したこと。
当たり前の兄妹なら妹が同じ学校に進学したって、たいした問題じゃない。
―― え、おまえと同じ苗字の子、おまえの妹か? ――
学年はじめに、ちょっと噂になってお終いだろう。
俺んちの妻鹿という苗字はめったにない。苗字が同じなら兄妹と思われるのが自然だろうからな。
ちょっとハズイけど、血を分けた妹の為なら、そのくらいのことは辛抱してやる。
普通人間を目指す俺は、世間一般の兄貴がしてやることや我慢することについてはノープロブレムだ。
小菊は、俺に対して口を利かない限り、ミテクレは可愛いし素行も悪くない。いや、同世代の女の子としては様子のいい方だ。
俺んちは、ひい祖父ちゃんの代までは、江戸時代から続く芸者の置屋だった。
いわゆる粋筋家業で、立ち居振る舞いにうるさい。祖父ちゃんの代でパブになり、当代の親父はサラリーマンの中間管理職。伝統は薄まったとはいえ、そこは環境、俺も小菊も人さまへの挨拶や対応はきちんとしている。
ただ、兄妹仲という点だけは最悪だ。
小菊が俺を呼ぶときの枕詞が「腐れ童貞」という一言でも分かってもらえると思う。
それが同じ学校に来れば、狭い校内だ、どこかで小菊と衝突することは目に見えている。
衝突すれば「腐れ童貞」から始まって、雨あられのごとき罵詈雑言を浴びせられる。
俺はいいんだ、家で言われ慣れているし、ま、いいんだ。
問題は、家でそうであるように、罵詈雑言に手足が出るようになると、薄皮のような化けの皮が剥がれてしまって、小菊が落ち込んでしまうことだ。
自覚は無いかもしれないが、小菊は逆境に弱い。
小菊については、できるだけ関わらないというのが俺のコンセプトだ。
小菊が『身から出た錆』的逆境に耐えられなくなったとき、ま、不登校とか引きこもりとか、ね。
あっては欲しくないけど、プッツンして暴れまくったりしたら(小中で二度ばかりプッツンしている)兄妹思いの心情だけではいかんともしがたい事態になることが予想される。
もう一つの問題が……。
「どっこいしょ!」
小菊が、我が家の多目的スペースである店のフロアーに山ほどの荷物を持って現れた。
「ちょ、じゃま」
俺が昼寝を決め込んでいたボックス席に、ドサッと荷物を置いた。
チ
もめ事は御免なので、大人しく舌打ち一つだけで隣りの二人席に移動する。
どうやら入試は楽勝の手応えであったらしく、四月からの新生活のために身の回りを片付け始めたようだ。
外面だけがいい小菊は身の回りの整理が出来ない。
従って自分の部屋はゴミ屋敷ジュニアという感じで、本気で整理しようと思ったら、広い場所に一切合切をぶちまけるしかない。
「あーー小学校の標準服なんていらないなあ……てかカビ生えてるじゃん!」
しわくちゃの標準服をゴミ袋に突っ込む。
「中学の教科書とかも廃棄廃棄っと」
教科書を突っ込む。
「ヤダー、これって写真が入ってる~!」
写真の箱を開けて捨てるかと思いきや、シートにひっくり返り、写真の箱を腹の上に載せて鑑賞し始めた。
「キャー、うっそ、信じらんない!」「ヤダー、なにこれ!」「オ、チョーウケる!」「イッヤー、めちゃカワユイじゃん、このころのあたしって!」
などと言いながら足をバタバタ、こういうところは保育所のころから変わっていない。
変わっていないから困るんだ、春の盛りを先取りしたような短パンの裾から中身が見えてしまう。
むろん注意はしない、腐れ童貞の上に変態が付くのがオチだからだ。
読みかけのマンガを持ってカウンター席に移動することにする。
ボックス席の横を通るとハッとした。
乱雑に積まれた荷物の上に中学やらの学校関係のプリントが積まれていた。
その中程から覗いている茶封筒に神楽坂高校の文字が見えた。
ピンときた、シグマが俺んちの郵便受けに入れた例のブツだ!
シグマと別れ、家の郵便受けを覗いて焦った。
例のブツが入ってないからだ。
その後、お隣りさんが回覧板を郵便受けに入れたことが分かり、お袋が取り込んだときにポスティングされたチラシなどに紛れて学校の茶封筒が入っているのに気付き、茶の間のテーブルの上に置いて忘れてしまったらしい。
回覧板を回しに行って話し込んでいるうちに飛んでしまったらしい。なんせ、その日の郵便受けには近所に建ったマンションの案内やらの封筒が三つも入っていたらしいからな。
物が物だけに、問いただすわけにもいかず悶々としていたのだ。
小菊がトイレに立つのを見計らって、茶封筒をゲットする。
ところが、茶封筒の下には、全く同じ学校の茶封筒が二つもあった。
あれ?
疑問に思いつつも、俺は合計三つの茶封筒を綿入れ半纏の中に隠して自分の部屋に戻ったのだった。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
ノリスケ 高校二年 雄一の数少ない友だち
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
19『神楽坂高校の茶封筒』
今の俺は二つ問題を抱えている。
一つは、妹の小菊がこともあろうに、俺の高校を受験したこと。
当たり前の兄妹なら妹が同じ学校に進学したって、たいした問題じゃない。
―― え、おまえと同じ苗字の子、おまえの妹か? ――
学年はじめに、ちょっと噂になってお終いだろう。
俺んちの妻鹿という苗字はめったにない。苗字が同じなら兄妹と思われるのが自然だろうからな。
ちょっとハズイけど、血を分けた妹の為なら、そのくらいのことは辛抱してやる。
普通人間を目指す俺は、世間一般の兄貴がしてやることや我慢することについてはノープロブレムだ。
小菊は、俺に対して口を利かない限り、ミテクレは可愛いし素行も悪くない。いや、同世代の女の子としては様子のいい方だ。
俺んちは、ひい祖父ちゃんの代までは、江戸時代から続く芸者の置屋だった。
いわゆる粋筋家業で、立ち居振る舞いにうるさい。祖父ちゃんの代でパブになり、当代の親父はサラリーマンの中間管理職。伝統は薄まったとはいえ、そこは環境、俺も小菊も人さまへの挨拶や対応はきちんとしている。
ただ、兄妹仲という点だけは最悪だ。
小菊が俺を呼ぶときの枕詞が「腐れ童貞」という一言でも分かってもらえると思う。
それが同じ学校に来れば、狭い校内だ、どこかで小菊と衝突することは目に見えている。
衝突すれば「腐れ童貞」から始まって、雨あられのごとき罵詈雑言を浴びせられる。
俺はいいんだ、家で言われ慣れているし、ま、いいんだ。
問題は、家でそうであるように、罵詈雑言に手足が出るようになると、薄皮のような化けの皮が剥がれてしまって、小菊が落ち込んでしまうことだ。
自覚は無いかもしれないが、小菊は逆境に弱い。
小菊については、できるだけ関わらないというのが俺のコンセプトだ。
小菊が『身から出た錆』的逆境に耐えられなくなったとき、ま、不登校とか引きこもりとか、ね。
あっては欲しくないけど、プッツンして暴れまくったりしたら(小中で二度ばかりプッツンしている)兄妹思いの心情だけではいかんともしがたい事態になることが予想される。
もう一つの問題が……。
「どっこいしょ!」
小菊が、我が家の多目的スペースである店のフロアーに山ほどの荷物を持って現れた。
「ちょ、じゃま」
俺が昼寝を決め込んでいたボックス席に、ドサッと荷物を置いた。
チ
もめ事は御免なので、大人しく舌打ち一つだけで隣りの二人席に移動する。
どうやら入試は楽勝の手応えであったらしく、四月からの新生活のために身の回りを片付け始めたようだ。
外面だけがいい小菊は身の回りの整理が出来ない。
従って自分の部屋はゴミ屋敷ジュニアという感じで、本気で整理しようと思ったら、広い場所に一切合切をぶちまけるしかない。
「あーー小学校の標準服なんていらないなあ……てかカビ生えてるじゃん!」
しわくちゃの標準服をゴミ袋に突っ込む。
「中学の教科書とかも廃棄廃棄っと」
教科書を突っ込む。
「ヤダー、これって写真が入ってる~!」
写真の箱を開けて捨てるかと思いきや、シートにひっくり返り、写真の箱を腹の上に載せて鑑賞し始めた。
「キャー、うっそ、信じらんない!」「ヤダー、なにこれ!」「オ、チョーウケる!」「イッヤー、めちゃカワユイじゃん、このころのあたしって!」
などと言いながら足をバタバタ、こういうところは保育所のころから変わっていない。
変わっていないから困るんだ、春の盛りを先取りしたような短パンの裾から中身が見えてしまう。
むろん注意はしない、腐れ童貞の上に変態が付くのがオチだからだ。
読みかけのマンガを持ってカウンター席に移動することにする。
ボックス席の横を通るとハッとした。
乱雑に積まれた荷物の上に中学やらの学校関係のプリントが積まれていた。
その中程から覗いている茶封筒に神楽坂高校の文字が見えた。
ピンときた、シグマが俺んちの郵便受けに入れた例のブツだ!
シグマと別れ、家の郵便受けを覗いて焦った。
例のブツが入ってないからだ。
その後、お隣りさんが回覧板を郵便受けに入れたことが分かり、お袋が取り込んだときにポスティングされたチラシなどに紛れて学校の茶封筒が入っているのに気付き、茶の間のテーブルの上に置いて忘れてしまったらしい。
回覧板を回しに行って話し込んでいるうちに飛んでしまったらしい。なんせ、その日の郵便受けには近所に建ったマンションの案内やらの封筒が三つも入っていたらしいからな。
物が物だけに、問いただすわけにもいかず悶々としていたのだ。
小菊がトイレに立つのを見計らって、茶封筒をゲットする。
ところが、茶封筒の下には、全く同じ学校の茶封筒が二つもあった。
あれ?
疑問に思いつつも、俺は合計三つの茶封筒を綿入れ半纏の中に隠して自分の部屋に戻ったのだった。
☆彡 主な登場人物
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