泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
21 / 100

21『あたし神楽坂ウカルかな?』

しおりを挟む
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

21『あたし神楽坂ウカルかな?』 




 賞金受け取りの締め切りは三月十七日だ。


 つまり明後日の午後五時までに申し出なければ、一等賞金の一億円はいただけないのだ。

 当選の宝くじは、ただの紙切れになってしまう。

 持ち主は、薄い壁一枚向こうでマンガでも読んでいるんだろう、ケタケタ笑いながらベッドの上でドタバタ身悶えている。


「一等の一億円が当たってんぞ!」


 隣りへ行って、そう言ってやれば、この悶々とした気持ちは解消される。

 あとは「落ち着け小菊! あとは兄ちゃんが全部やってやっから!」と宣言し、小菊の代わりに一億円を受け取ってやればいい。

 小菊は内弁慶なやつだから、一億円が当たったなんて知れたら間違いなく気絶する。なんとか覚醒させても、賞金の受け取りで、また気絶する。気絶しないまでも興奮のあまり失禁する。つまりオシッコをちびってしまう。

 小学校の入学式では粗相してたもんな。

 それ以来、ここ一番という時には朝から水分を摂らないようにしてやがる。入試は無事に終えたようだけど、一億円の受け取りってことになれば絶対ちびる。憎ったらしいツンデレのクソビッチだけど、血を分けた妹をそんな目に遭わせるわけにはいかない。

 で、代わりに受け取ってやれば、こうなる。

「ありがとうお兄ちゃん、忘れてた宝くじを思い出させてくれただけじゃなくって、代わりに賞金を受け取ってくれて、やっぱりあたしのお兄ちゃんだ!」

 そう言って、ここ何年かの無礼を泣きながら詫びて抱き付いてくるんだ。

「よせよ、姉弟の仲で水臭い。それより顔を拭きな、涙と涎で、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」

「グス、可愛いだなんて、お兄ちゃんに初めて言われた~嬉しいよ~、小菊、チョー嬉しいよ~(゚´Д`゚)」

「おまえが素直になれば、お兄ちゃんだって、素直に褒めてやるさ」

「お兄ちゃん、お礼に賞金の半分受け取って!」

 は、半分!?

 一億円の半分って……ご、五千万円だぜ!

「そんなの受け取れねえよ、小菊が掴んだ幸運だ、自分のいいように使えばいいさ」

「じゃ、せめて一割でも……」

 う~ん……それでも受け取れない。

 中坊のころ、酔っぱらった祖父ちゃん介抱したら「小遣いだ、とっとけ」と差し出したのが一万円。祖父ちゃんの懐具合から千円札と間違ったのは明らかで、それでも押し付けられた諭吉に足が震えた。

 俺は分というものをわきまえている。

 え、気が小さいだけだろ?

 いや、違う。説明できないけど違う。

 小菊が部屋から出る気配、俺は反射的に部屋を飛び出した。

「なんか用? キモイんですけど」

 階段の下まで行くと睨まれた。

「あ、えと……」

 宝くじのことは言えない、言えば、小菊の荷物から茶封筒を抜いたことがバレてしまう。むろん茶封筒は戻してあるけど宝くじは手許に置いてある。受け取りの締め切りを忘れたり捨てたりしちゃいけないからな!

 言葉に詰まったが、小菊のトレーナーが裏がえしなのに気づいた。

「トレーナー裏返しだぞ」

「え、あ、ほんとだ」

 こういう場合、小菊は悪態ついて部屋に戻って着替える……はずが、その場でトレーナーを脱いでしまった。

 で、あろうことかトレーナーの下は裸だ。パジャマを脱いだ後、そのまま着てしまったんだろう。

 こういう時の反応はむつかしい。

 でも、焦っているうちに小菊はトレーナーを正しく着直した。ほんの数秒間だったけど、汗をかいてしまった。

「ね、あたし神楽坂ウカルかな?」

 靴を履く手を停めて、小菊が呟く。たぶん呟きなんだろうけど、疑問形なので返事をしたものか戸惑ってしまう。

「あたし後期選抜じゃん、もう後が無いんだよね」

「あ、ああ……」

「ここ一番て時に力出ないからさ……入試の日も不安でさ、休み時間とかは、みんな賢く見えちゃって、カッコつけてさ、進学とか就職とかの色々集めたりしたんだけど、どっかいっちゃった。ちょっとは読んだり観たりしよーと思ったんだけどね……今日もマンガとかで気を紛らわせよって、笑ってみても……なんだかね……」

 小菊は顔でも洗うような仕草をして停まってしまった。

 ひょっとしたら泣いているのかも……こんな妹は何年かぶりだ。

「あ、なんか寒い……って、トレーナーの下着てないじゃん!」

 ドタドタと階段を上がると、部屋で着替えている様子だ。

 いつもがいつもだから、ちょっと不憫になる。


 これ以上関わっては逆効果と思い靴を履く。


 そこへ着替え終わった小菊が下りてきて、期せずしていっしょに外に出ることになる。

「散歩か?」
「うん……」

 後が続かない。

 宝くじを切りだそうとするんだけど、なぜ、俺が小菊の宝くじを持っているのかの説明ができないためのためらってしまう。

「大丈夫、小菊は受かってるさ。だって、この俺が受かって三年生になろうってんだから」

「うん……」

 返事が冴えない、子どものころやったみたいに小菊の髪をワシャワシャしてやりたくなったが手が出せない。

「最後のテスト、受験番号書き忘れたような気がするんだ……書いてなかったら零点だもんね」
「それは……」

 続けようとした言葉が出てこない。

「あたし、公園の方行くから」
「あ、ああ」

 駅の方に行こうかとしていたので、そこで別れた。

 やっぱ、小菊と接点を持つのはむつかしい(;´д`)。


 駅前まで来ると、信号の向こうにシグマがいた。


 シグマなりに邂逅を喜んでいるんだろうけど、パッと見不貞腐れているように見える。損な奴だ。

 信号が変わるとシグマの方から駆けてきた。

「先輩、ゲームどこまで進みましたか!?」

 う、思い出した。

 家に帰ってゲームをやろうと決心した。


☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
百地美子 (シグマ)     高校一年
妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

処理中です...