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91『ワイキキビーチだ!』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

91『ワイキキビーチだ!』小松 




 同じ27度でも、こんなに違うんだ。


 ビーチまでの道を歩きながら思う。

 道と言っても芝生の緩い坂を、ほんの数十秒なんだけどね。

 ホノルルのワイキキビーチは、とても爽やか。

 ホテルのドアを出て直ぐにワイキキビーチ。

「ドアツードア!」

「ビーチにドアは無いわよ( ´∀` )」

「スープの冷めない距離!」

「結婚願望?」

「ちが~う。じゃあ、ドアツービーチ!」

「うわあ、気持ちいい~♪」

 チロルさんもなかさんとビーチの近さでじゃれてるうちに、波は足を洗った。

 昨日は、同じ27度のアキバを歩いていた。

 駅から@ホームの往復だけなんだけども、五分足らずの道行で汗みずくになった。

 それが、このワイキキビーチでは水着の上から厚めのTシャツを着ていても、お肌はサラサラだ。

 やっぱ湿度が違うんだろうか。



 ビーチはカラッとしているけど、わたしの心は、少し湿度が高い。


 水着は着たものの、Tシャツを脱ぐことにためらいがある。

 右のわき腹には、まだ初々しい傷跡があるんだ。

 ほら、連休の狭間、秋葉原駅でもなかさんがストーカーに襲われ、助けに入ったら刺されてしまった、あの傷。

 水着にならないのが順当なんだろうけど、それじゃもなかさんが気にするだろう。

 ワンピースにすれば、傷跡も隠れるし、ビーチにまで来ながら水に浸からないという不細工なことをしなくても済む。

「やっぱ、ワイキキビーチならビキニだよね!」

「うん、オソロにしよう!」

 そう誓い合ったのは、ミリーさんに招待されてハワイに訪れた先月のことだ。で、一応はオソロのビキニは持ってきたんだけどね、いざビキニを着たら抵抗ありまくり。

 パインさん

 躊躇していると、わたしを源氏名で呼ぶ声がした。

「あ、マッジさん」

 ミリーさんから、わたしたちの世話を頼まれているマッジ・ヘプバーンさんだ。

 ほら、ミリーさんの家でパーティーをやったとき、人数が13人になることを避けるために呼ばれた人。

 パーティーじゃ目立たない人で、今回お世話していただくことになって、到着した時に流ちょうな日本語で挨拶されたのでビックリした。

「パインさん、気にしてらっしゃるんじゃないですか?」

 そう言って、マッジさんは自分のわき腹をさすった。

「え、あ、えと……」

 ビックリした。なんでマッジさんが知っているんだ!?

「レンタルならワンピースのがあります」

「でも……」

「ジュースがこぼれて着替えるというアクシデントはどうでしょう?」

「あ……」

 うまいことを考えるもんだと思った。で、ビーチ突撃の寸前にレンタルの水着に着替えた。白地にパイナップルの柄を散らした、いかにも私向けのワンピース。

 二人ともー、早くおいでよ!

 チロルさんが手招きしている。

「うん、いま行く!」

 躊躇したら不自然。

 Tシャツを脱ぎながら二人のいる波打ち際へ。

 二人の目が、瞬間だけど傷跡のあるところに来る。その瞬間の半分くらいの間、もなかさんの表情が曇る。

―― ああ ――

 水着で隠れてるんだけど、傷のある所はパイナップルの柄から外れていて、気にしている二人には、水に濡れたら透けて見えるのかもしれない。

「さ、いっぱい泳ぐぞーーー!」

「「オーーー!」」

 三人の声が揃って、わたしたちのバケーションが始まった。

 最初はショックでも、わたしが元気にしていればいい話なんだもんね!
 

☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
百地美子 (シグマ)     高校二年
妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
妻鹿幸一           祖父
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ




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