ここは世田谷豪徳寺

武者走走九郎or大橋むつお

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116≪最後の七不思議・2≫

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新・ここは世田谷豪徳寺・18(さくら編)

116≪最後の七不思議・2≫




 控室は12畳ほどの和室だった。

 正面の幅広の床の間みたいなところで、佐伯君は首までお布団掛けられれて、胸のあたりが盛り上がっている。胸のところで手を組ませてあるんだろう。

 マクサが無言のままお焼香。手を合わせお香を一つまみくべて、もう一度手を合わす。みんなもそれに倣った。最後にあたしがお焼香し終えたとき、由美は初めて口を開いた。

「もう、月の初めにはダメだって言われてたの。でも七不思議の話をしたら「オレもいっしょにやる」そう言って痛み止めの注射だけしてもらって帝都に通ってくれた。聖火ドロボーの話、一番気に入ってた。最後は、これを超えるやつがトドメにあればな……」

 由美が語る佐伯君の言葉は由美の口を借りた間接的なものだけど、声の響きは兄貴としてのそれだった。あたしに彼はいないけど、惣一って兄貴が一匹いる。兄貴の言葉遣いだと感じた。

「夕べは七不思議のことで話が盛り上がってね、つい病室に泊まり込んだの……今朝方様態が急に変わって。最後に酸素マスクしながら言ったの……そうだ、オレと由美のことをトドメの七不思議にしようって……ふとしたことで知り合って、いい感じで付き合い始めたら、双子の兄妹ってことが分かってさ、そしてまた兄妹に戻れた。七不思議のお蔭で……オレたち二人でトドメの七不思議になろう。そう言ってあたしの手をとったのが最後だった」

「……そうなんだ」


 やっぱ、東京の女子高生として精一杯寄り添った気持ちで言うと、この言葉になる。

 本通夜は焼香だけで失礼した。親族の人や乃木坂学院の制服がいっぱいきていた。あたしたちは昨日の由美の言葉で十分だった。由美も落ち着いたいつもの顔にもどっていた。この夏休みまでだったら「冷たい」と思うほどの落ち着きだったけど、今は分かる。由美が表面張力いっぱいで心が溢れるのを耐えていると、ああいう顔になるんだ。

「さくら、いつの間にか『米井さん』と違うて『由美』て呼ぶようになったんやね」

 恵里奈に言われて、初めて気がついた。

 今日のお葬式では引き留められた。

「マイクロバスに乗って斎場まで付いてきて。お兄ちゃんの遺言だから」

 あたしたち8人はマイクロバスの後ろに固まった。故人の遺言とは言え、周りは親族の人ばかりだからね。

 火葬炉の前で最後のお別れをした。棺の小窓が開けられ、花に埋もれた佐伯君の顔が見えた。まるで眠っているような表情が不条理だ。泣いている子もいたけど、あたしの中では佐伯君が死んだことが、まだ腑に落ちない。由美は優しく微笑みかけていた。万感の思いが籠った微笑みだった。

 ガチャン

 炉の三重になった最後の扉が閉じられた。瞬間みんなの嗚咽が漏れた。でも由美は泣いていなかった。兄の佐伯君と語るように少し唇が動いたような気がした。

 三時間後の骨あげにも加わった、炉から出された台車の上には、かろうじてそれが人の骨と分かる程度に焼きつくされた佐伯君が載っていた。去年お婆ちゃんがが亡くなった時と同じだった。あんなにボロボロになるのは年寄りだからだと思っていた。若くてもいっしょだ、不条理で不思議だ。
 由美は、まだ語り合っているような顔をしながらカラカラになった骨を拾っていた。

 これで七不思議の全てが揃った。

 斎場の上の空は雲一つなく、むやみに青空だった……。

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