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031『勅使三方・2』
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やくもあやかし物語 2
031『勅使三方・2』
『ヤマセンの山にも湖もいまだ冬景色の中とは申せ、森の下草にはフキノトウが芽吹き始め、人知れず春の訪れを感じさせる早春の良き日に勅使さまの訪ないをいただき、このティターニア喜びに耐えません。ヤマセンの森王の妃として、謹んでご挨拶申し上げます』
皇居を訪れた外国の王族が天皇陛下にするように、片膝ついて挨拶した。
「三方さんて、あんなに偉いの!?」
『勅使だからね、天皇と同じ礼式でなきゃダメなのよ。それに、今上さまのではなく、仁徳天皇の御勅使だからね、気合いも入るわよ』
「御息所、あなた、元々は東宮妃だったんだから、勅使とかやったことあるんじゃないの?」
『ないわよ。娘は伊勢の斎宮とかやりに行って付いて行ったことはあるけど。勅使やる人って、位はそんなに高くないのよ。三方さんだって、ただのメイド長だし』
「でも、雛壇の中ではいちばん偉いとか言ってなかった?」
『それは内々でのこと、公の位は高くないのよ』
「そうなんだ」
そのあと、オーベロンが葉っぱの渦のままご挨拶。いつもは葉っぱをベロンベロンと渦巻かせて、それこそ枯れ葉が燃えるみたいにワシャワシャと喋るんだけど、時どき葉っぱを戦がせるくらいに大人しくしゃべっている。
それでは後ほどという感じで、三方さんはこっちに戻ってきた。
ティターニアさんの後だから、ちょっと緊張したけど、ちょっと会釈しただけで、車いすの詩(ことは)さんの方へ進んで行ったよ。
『お久しぶりです詩さん』
「え?」
どうやら、詩さんには初めて見えたみたいで、ちょっとビックリしている。
『わたくし、詩さんのお雛様の一段下で三人官女を務めておりました三方でございます。真ん中で、三方を捧げ持っておりました』
三方さんは、三方を捧げ持つ仕草をして、ひょいと顔を上げると、いっしゅん眉無しの鉄漿の顔になった。
「え、あ、ああ……思い出したぁ。歌叔母さんのには三方居なかったから、かけもちしてもらってたのよねぇ」
『はい、いかにも。去年のひな祭りが終わってからは、ごりょうさんの大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)、すなわち仁徳天皇の女官を拝命いたしております』
「そうだったの、よかったわぁ。わたしはこっちに来ちゃったし、さくらも留美ちゃんも、声優とか役者の仕事で、お雛様どころか学校も欠席がちだって言ってたから……」
『はい、しかし、魚心あれば水心。それに、歌さんの三方さんも、わたしより先にお仕えして活躍されています。大鷦鷯天皇が勅使をお遣しになるのは、昭和天皇が、まだ東宮の時代、英国をご訪問されて以来。この道をつけて下さったのは、いつにかかって、詩さん。あなたと、こなたの小泉やくもさんのおかげなんですよ』
え、そうなの!?
『あ、あれはリップサービスよ、調子に乗らないでね』
「う、うん。でも、なんか嬉しい(^_^;) あ、なにか渡してる……」
『ただのお土産よ、下されものって有難そうだけど、実際は専売公社のタバコだったり、木村屋のアンパンだったり、大したものじゃないわよ』
「あ、でも……」
それは、仄かに光る石のようなもので、詩さんが「まあぁ」と胸に抱くと、不思議なことに消えてしまった。
そのあと、森の入り口に行った三方さんは、再び姿を現したティターニアさんにエスコートされて森の中に姿を消した。
この修学旅行では、もっといろんなことがあったんだけど。ぜんぶ書くとすごい量に成っちゃうんで、折に触れて少しずつお話できたらと思う。
でもね、もういっこだけ。
昼食会も終わって、わたしたちのB班は船に乗って、ヤマセン湖の周遊。
船が桟橋を離れて、森に向かうA班や王宮に向かうC班に手を振っていると、桟橋の近くのベンチに腰掛けてる三方さんに気付く。
三方さんの横にはデラシネが座っていて、なにか二人で話している。
100メートル競走のゴールとスタート地点ぐらいの距離があったけど、様子は分かった。
なんだか、運動会の日に怪我とか病気で参加できない子に付き添ってる先生みたいだったよ。
☆彡主な登場人物
やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
メグ・キャリバーン 教頭先生
カーナボン卿 校長先生
酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
031『勅使三方・2』
『ヤマセンの山にも湖もいまだ冬景色の中とは申せ、森の下草にはフキノトウが芽吹き始め、人知れず春の訪れを感じさせる早春の良き日に勅使さまの訪ないをいただき、このティターニア喜びに耐えません。ヤマセンの森王の妃として、謹んでご挨拶申し上げます』
皇居を訪れた外国の王族が天皇陛下にするように、片膝ついて挨拶した。
「三方さんて、あんなに偉いの!?」
『勅使だからね、天皇と同じ礼式でなきゃダメなのよ。それに、今上さまのではなく、仁徳天皇の御勅使だからね、気合いも入るわよ』
「御息所、あなた、元々は東宮妃だったんだから、勅使とかやったことあるんじゃないの?」
『ないわよ。娘は伊勢の斎宮とかやりに行って付いて行ったことはあるけど。勅使やる人って、位はそんなに高くないのよ。三方さんだって、ただのメイド長だし』
「でも、雛壇の中ではいちばん偉いとか言ってなかった?」
『それは内々でのこと、公の位は高くないのよ』
「そうなんだ」
そのあと、オーベロンが葉っぱの渦のままご挨拶。いつもは葉っぱをベロンベロンと渦巻かせて、それこそ枯れ葉が燃えるみたいにワシャワシャと喋るんだけど、時どき葉っぱを戦がせるくらいに大人しくしゃべっている。
それでは後ほどという感じで、三方さんはこっちに戻ってきた。
ティターニアさんの後だから、ちょっと緊張したけど、ちょっと会釈しただけで、車いすの詩(ことは)さんの方へ進んで行ったよ。
『お久しぶりです詩さん』
「え?」
どうやら、詩さんには初めて見えたみたいで、ちょっとビックリしている。
『わたくし、詩さんのお雛様の一段下で三人官女を務めておりました三方でございます。真ん中で、三方を捧げ持っておりました』
三方さんは、三方を捧げ持つ仕草をして、ひょいと顔を上げると、いっしゅん眉無しの鉄漿の顔になった。
「え、あ、ああ……思い出したぁ。歌叔母さんのには三方居なかったから、かけもちしてもらってたのよねぇ」
『はい、いかにも。去年のひな祭りが終わってからは、ごりょうさんの大鷦鷯天皇(おほさざきのすめらみこと)、すなわち仁徳天皇の女官を拝命いたしております』
「そうだったの、よかったわぁ。わたしはこっちに来ちゃったし、さくらも留美ちゃんも、声優とか役者の仕事で、お雛様どころか学校も欠席がちだって言ってたから……」
『はい、しかし、魚心あれば水心。それに、歌さんの三方さんも、わたしより先にお仕えして活躍されています。大鷦鷯天皇が勅使をお遣しになるのは、昭和天皇が、まだ東宮の時代、英国をご訪問されて以来。この道をつけて下さったのは、いつにかかって、詩さん。あなたと、こなたの小泉やくもさんのおかげなんですよ』
え、そうなの!?
『あ、あれはリップサービスよ、調子に乗らないでね』
「う、うん。でも、なんか嬉しい(^_^;) あ、なにか渡してる……」
『ただのお土産よ、下されものって有難そうだけど、実際は専売公社のタバコだったり、木村屋のアンパンだったり、大したものじゃないわよ』
「あ、でも……」
それは、仄かに光る石のようなもので、詩さんが「まあぁ」と胸に抱くと、不思議なことに消えてしまった。
そのあと、森の入り口に行った三方さんは、再び姿を現したティターニアさんにエスコートされて森の中に姿を消した。
この修学旅行では、もっといろんなことがあったんだけど。ぜんぶ書くとすごい量に成っちゃうんで、折に触れて少しずつお話できたらと思う。
でもね、もういっこだけ。
昼食会も終わって、わたしたちのB班は船に乗って、ヤマセン湖の周遊。
船が桟橋を離れて、森に向かうA班や王宮に向かうC班に手を振っていると、桟橋の近くのベンチに腰掛けてる三方さんに気付く。
三方さんの横にはデラシネが座っていて、なにか二人で話している。
100メートル競走のゴールとスタート地点ぐらいの距離があったけど、様子は分かった。
なんだか、運動会の日に怪我とか病気で参加できない子に付き添ってる先生みたいだったよ。
☆彡主な登場人物
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酒井 詩 コトハ 聴講生
同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
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あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
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