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本編5

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 何日も単調な作業の繰り返し。

 ソーマが嫌なのはそこだった。

 ひたすら同じことを繰り返すだけで、すぐには成長しない野菜たちを見守るだけの日々は若いソーマにはつまらないことこの上ない。放っておいたってそのうち大きくなるだろうと思うが、そうしようとすると父に怒られる。

「ソーマには必要なことだから、ちゃんと覚えるんだ」

 果たしていつ必要になるんだろうと思いながらも、約束を違えるのは男らしくないと言われれば黙るしかなかった。

 早く終えれば遊びに行けると発破をかけられ、必死で鍬を振り上げる。

「そんなんじゃすぐバテるぞ」

「ゲオルク……でもこうしないと上がらないよ」

 畑の柵の向こうから声をかけてくる幼馴染にソーマは泣きそうな顔になる。

「だって、こうしないと全然土に入らないんだもん」

「そもそも持ち方が違うんだって。ほら、貸してみろ」

 柵をヒョイっと飛び越えてやってきたゲオルクは、渡された鍬を手にすると、握る場所を違え、慣れた仕草でひょいひょい土を掻き出していく。しかも大きく振りかぶらず、腰から下に軽く入れるといった形だ。ゆっくりと後ろに下がりながら畝を作り上げていく。

 父が教えてくれたやり方とは全く違った。

「あんなに大きく振ったら怪我をするぞ」

「そうだったんだ……父さんの嘘つき」

「ソーマのオヤジさん、確かに変な鍬の使い方をしてるよな。あれでよく腰も傷めないでできるよな」

「感心しないでよ。もう……ゲオルクがやると簡単そうに見える」

「そりゃ簡単だから。ソーマもやってみろよ」

 ゲオルクに見てもらいながら鍬を振ってみる。少し膝を落とすように言われ、彼がしたように少しずつ後ろに下がりながら土を掘り起こしていく。

「本当だ、簡単だ。これなら僕だってできそう!」

「早く終わらせてまた森に行こう」

「うん! だからゲオルクも手伝って」

 体よく幼馴染を巻き込み、畑の手伝いを早々と終わらせたソーマはまたあの森へと二人で出かけた。

 ゲオルクが一緒でなければ村の子供たちは森には近づかない。彼が誰にも言わずにソーマだけを誘えば、すなわち二人だけの空間となる。木の上で唇を合わせる『約束の証』を交わしてから、こうして二人になるとゲオルクはソーマを抱きしめてくるようになった。抱きしめて、そして唇を合わせる。それは木の枝の上だったり、木陰だったり。人に見られない場所で内緒の儀式として繰り広げられた。

 二人だけの内緒の行為に、ソーマはドキドキしていた。日々逞しくなっていくゲオルクに抱きしめられるのは嫌いじゃない。初めは子供扱いと抵抗したけれど、その逆だと言われ、大人だからこういうことをするんだと口づけとセットで教えられると、一歩上の段に上ったような気持ちになる。

 正面から抱きしめられ、目が合うと瞼を閉じ口づける。それから村を出る話をする。

 王都を夢見るソーマに具体的な話をするゲオルク。でも最後にはいつも、資金面でくじけてしまう。

 産業のない小さな村でお金を稼ぐことはできない。自給自足がせいぜいで、だから村から離れる人は少ない。そこをなんとかしないといけないとなると話は止まってしまうのだった。

 旅をするにも金がかかると知らないソーマには難しい話だ。だって、お金自体見たことがないのだから。畑で作ったものを食べ、狩りで獲ってきた肉を喜び、着るものは冬の間に機を織って作る、そんな完全自給自足の村で銀貨は流通しない。金を使うのは時折姿を見せる油売りから買う時だけだ。時には物々交換の時だってある。

 だから金の大切さが未だにピンとこない。

 自分よりもずっと世間慣れしているゲオルクが難しい顔をしていくのを不思議に思うばかりだ。

 案外村を出たらどうにかなるんじゃないかと思ってしまうのだ。

 お腹が空けば狩りをすればいいし、疲れたら草のベッドで眠ればいい。なにも困らないだろうに。

「そういうわけにはいかないだろう。お金はあって困るものじゃないよ。それに、いつも狩りが成功するとは限らないからな」

 親と一緒に狩猟に出ているゲオルクの話になるほどと耳を傾けるしかなかった。

「どうしたらいいんだろう、お金があればいいのかな」

 でも金を稼ぐ手段などこの村にはない。

 困った二人は悩む日々を続けるしかなかった。
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