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本編8
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■□■□◆◇■□■□
冒険者が村にやってきたあの日からあっという間に一年と少しが過ぎた。
ソーマもやっと16歳になり、村では立派な大人とみなされる年だ。
なのに、16歳の誕生日を迎えたにもかかわらず、周りは相変わらず子供扱いをしてくる。
「ソーマは狩りに連れて行けないからな」
ゲオルクの父に狩りに連れていってもらいたいと頼んだが、いい返事は貰えていない。弓を引くことも棍棒をもって獣と対峙することもできないソーマは足手まといでしかなかった。
代わりに16歳になってから不思議なことが起き始めた。
近くにある湖に行くと、不思議と魚が寄ってくるようになったのだ。魚だけではない、鳥や兎といった小さな動物までも寄ってくるようになり、狩りに行かずとも食料に困らなくなった。
それを父に報告すると、嬉しそうに抱きしめてきた。
「そうか。じゃあ近いうちに良いところに連れていってあげるよ」
「え、どこ? もしかして王都?」
「王都じゃないけれど、父さんとソーマにとっては大切なところだな」
父と自分にとって大切な場所とはどんなところだろう。聞き出そうとしても、父は舞い上がり、こっちの話をちっとも聞いてくれない。
「ちょっと、父さん聞いてる?」
「聞いてるよ、聞いてる。そうか、ソーマもとうとう大人になったんだな。いやぁ父さんは嬉しいよ。ばんざーい」
16歳になったと分かっているはずなのに、どうしてかその時よりも喜んでいる。あまり喜びすぎて振り回した手をテーブルでぶつけてしまうほどに舞い上がっていた。
「どうしたんだよ、父さん」
「これほど嬉しいことはないよ。ソーマがとうとう一人前になったんだから」
「だからもう16歳になったんだから当たり前だろ」
「そうだけどね。そういう意味じゃないんだ。大切なのは年齢ではなくて……あぁその先は大切な場所に行ったときに教えてあげるよ。いよいよだ」
いつにない父の浮かれように、ソーマはもう何も言わなかった。こういう摩訶不思議な独り言が多いのはいつものことだ。父というよりも最近は友達に近い感覚だ。
畑仕事も最近ではソーマのほうがずっと上手だ。
「夏祭りが終わったら、大切な場所へ行こう。そうしよう。あぁその日が楽しみだ」
浮かれて踊る父を横目に「楽しみだぁ」と口調だけ合わせて呆れるのだった。
一体何に喜んでいるんだか。
だが、ソーマが16歳になって喜んでいる人間が別にもいた。ゲオルクだ。父よりも村の大人たちよりもずっと喜び、人前だというのにきつく抱きしめてくるのだ。以前よりもずっと逞しくなった腕で力いっぱい抱いてくるから痛くて仕方ない。
しかもまたぐっと背は伸び、剣を振り始めているせいで体格もずっと良くなっているだけに苦しくて仕方ない。
対して、ソーマは相変わらず細いままだ。背は伸びたし手足も大きくなった、気がする。それでも相変わらず色は白く、逞しいとは程遠い体型だ。父と全く同じ体系で、村のおばちゃん連盟からも女の子よりも綺麗などと評されている。そのせいで村の若い娘から目の敵にされている。
冒険者が村にやってきたあの日からあっという間に一年と少しが過ぎた。
ソーマもやっと16歳になり、村では立派な大人とみなされる年だ。
なのに、16歳の誕生日を迎えたにもかかわらず、周りは相変わらず子供扱いをしてくる。
「ソーマは狩りに連れて行けないからな」
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代わりに16歳になってから不思議なことが起き始めた。
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「だからもう16歳になったんだから当たり前だろ」
「そうだけどね。そういう意味じゃないんだ。大切なのは年齢ではなくて……あぁその先は大切な場所に行ったときに教えてあげるよ。いよいよだ」
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しかもまたぐっと背は伸び、剣を振り始めているせいで体格もずっと良くなっているだけに苦しくて仕方ない。
対して、ソーマは相変わらず細いままだ。背は伸びたし手足も大きくなった、気がする。それでも相変わらず色は白く、逞しいとは程遠い体型だ。父と全く同じ体系で、村のおばちゃん連盟からも女の子よりも綺麗などと評されている。そのせいで村の若い娘から目の敵にされている。
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