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本編96
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「ちゃんと寝てないの? 駄目じゃないか……」
「ソーマが隣にいなければ眠れない……もう私と離れないでくれ。お前が大切なのだ」
「ザームエル……でも王宮だったら悦んでザームエルと寝てくれる人いっぱいいるだろう」
「いたとしても、私にはもう関係ない。ソーマ、お前だけなのだ、私が欲しいのは……」
「ぇ……」
毎夜、女官たちの部屋を渡り歩いているザームエルが、王都に戻ればまた同じ生活をしていると思っていた。誰かの寝台に上がり、巧みな性技で欲望を満たし満足して眠りについていると。疑いもしなかった。でも目の前にいるザームエルは、今にも倒れそうで、ただひたすらソーマを求めていた。
「これほどまでに求めているのは、ソーマだけなのだ……私から離れないでくれ、頼む」
「ザームエル……」
その様は、飼い主に捨てられた大きな犬に似ている。愛情と安心を求めて実直なまでに縋りついてこられれば、ソーマはそれを拒めない。
「ソーマの婚約者である勇者とも話をした。幼いころから一緒なのだな……やはりあいつがいいのか? 私では駄目なのか?」
はっとした。
初めてザームエルの気持ちがわかったから。何に対して不安か、何に怯えているのか。そのせいでこんなになってしまったのだと思うと、ソーマは何も言えなかった。
いつものように思い付きでしゃべることも、場から逃げるために適当に謝罪を口にすることもできなかった。
ザームエルがこんなになったのは、自分のせいなんだ。
ザームエルだけじゃない、ゲオルクもだ。
昨日までのゲオルクはいつもの彼ではなかった。
(僕、凄く酷いことをしてたんだ……)
悲願を果たすと言いながら、本当に自分のことしか考えていなかった。前世の記憶を取り戻し、運命の女神によって得た力をもってしても、本質は変わっていなかった。
ずっと自分の事ばかり考えて、側にいる相手がなにを想い、何に苦しんでいるのかすら想い馳せられないまま、相手の時間だけを奪いつくしてしまっていたのか。
『たかだか高校受験で失敗したくらいで引き籠もるとか馬鹿じゃないのっ!』
前世で妹が投げかけてきた言葉が蘇る。あれもそうだ、自分が可哀想で自分ばかりが不幸だと思って、それ以外見えていなかった。同時に、こんな不幸な自分なのだから周囲は優しくしてくれて当たり前だと傲慢になっていた。
今もそうだ。
ソーマは自分の傲慢さを突き付けられている。
自分に想いを寄せてくれている相手に向き合おうとせず、自分がどうしたいのかも示さないまま、想いを受け止めることも突き返すことも差し出すこともないまま、ただそこから目を背けていた。
ごめんと言って、終わる話ではない。
自分がどうしたいのかも決められないままで、二人に言える言葉など存在しなかった。
自分を選んでくれと縋りつくザームエルをどうしていいのかわからないまま、ソーマはただされるがままになっていた。
抱きしめられて、胸が痛む。
心地よい腕の中で、自分の傲慢さに動けなくなった。
どうしたらいいのだろうか。
もうソーマの心の中に、あれほど固執していた童貞喪失が、いとも簡単にどうでもいい物へと変わろうとしていた。
(このまま、こうしていたいって思っちゃダメなのかな)
「ソーマが隣にいなければ眠れない……もう私と離れないでくれ。お前が大切なのだ」
「ザームエル……でも王宮だったら悦んでザームエルと寝てくれる人いっぱいいるだろう」
「いたとしても、私にはもう関係ない。ソーマ、お前だけなのだ、私が欲しいのは……」
「ぇ……」
毎夜、女官たちの部屋を渡り歩いているザームエルが、王都に戻ればまた同じ生活をしていると思っていた。誰かの寝台に上がり、巧みな性技で欲望を満たし満足して眠りについていると。疑いもしなかった。でも目の前にいるザームエルは、今にも倒れそうで、ただひたすらソーマを求めていた。
「これほどまでに求めているのは、ソーマだけなのだ……私から離れないでくれ、頼む」
「ザームエル……」
その様は、飼い主に捨てられた大きな犬に似ている。愛情と安心を求めて実直なまでに縋りついてこられれば、ソーマはそれを拒めない。
「ソーマの婚約者である勇者とも話をした。幼いころから一緒なのだな……やはりあいつがいいのか? 私では駄目なのか?」
はっとした。
初めてザームエルの気持ちがわかったから。何に対して不安か、何に怯えているのか。そのせいでこんなになってしまったのだと思うと、ソーマは何も言えなかった。
いつものように思い付きでしゃべることも、場から逃げるために適当に謝罪を口にすることもできなかった。
ザームエルがこんなになったのは、自分のせいなんだ。
ザームエルだけじゃない、ゲオルクもだ。
昨日までのゲオルクはいつもの彼ではなかった。
(僕、凄く酷いことをしてたんだ……)
悲願を果たすと言いながら、本当に自分のことしか考えていなかった。前世の記憶を取り戻し、運命の女神によって得た力をもってしても、本質は変わっていなかった。
ずっと自分の事ばかり考えて、側にいる相手がなにを想い、何に苦しんでいるのかすら想い馳せられないまま、相手の時間だけを奪いつくしてしまっていたのか。
『たかだか高校受験で失敗したくらいで引き籠もるとか馬鹿じゃないのっ!』
前世で妹が投げかけてきた言葉が蘇る。あれもそうだ、自分が可哀想で自分ばかりが不幸だと思って、それ以外見えていなかった。同時に、こんな不幸な自分なのだから周囲は優しくしてくれて当たり前だと傲慢になっていた。
今もそうだ。
ソーマは自分の傲慢さを突き付けられている。
自分に想いを寄せてくれている相手に向き合おうとせず、自分がどうしたいのかも示さないまま、想いを受け止めることも突き返すことも差し出すこともないまま、ただそこから目を背けていた。
ごめんと言って、終わる話ではない。
自分がどうしたいのかも決められないままで、二人に言える言葉など存在しなかった。
自分を選んでくれと縋りつくザームエルをどうしていいのかわからないまま、ソーマはただされるがままになっていた。
抱きしめられて、胸が痛む。
心地よい腕の中で、自分の傲慢さに動けなくなった。
どうしたらいいのだろうか。
もうソーマの心の中に、あれほど固執していた童貞喪失が、いとも簡単にどうでもいい物へと変わろうとしていた。
(このまま、こうしていたいって思っちゃダメなのかな)
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