【書籍化進行中】不遇オメガと傲慢アルファの強引な結婚

椎名サクラ

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本編1

12.想いを重ねて04*

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12話はRシーンがあります、読む際にはご注意ください!
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 相反する感情に翻弄され、樟は首を振ってどうにか現状を脱却しようとした。もうどこもかしこも言うことを聞いてくれないから。
 指が挿っている場所からは淫らな濡れた音が上がり、どれだけ激しく動かされても訪れるはずの痛みはなく、痺れとたまらない衝動ばかりがやってくる。
 樟は声と共に熱を吐き出しては、僅かに得られる開放感に安堵し、それを裏切るようにやってくる感覚にまた声を上げる。

(も……許して……出させてっ!)

 根元を押さえ込んでいる指が離れたら、すぐにでも白濁を飛ばすことができるのに。
 苦しくて辛くて、眦から涙を溢れさせながら身悶えるしかなかった。
 耀一郞が足の間から離れてくれたら、すぐにでもうつ伏せになってその手から逃げられるのに。
 助けてくれと掴んだ彼のシャツを引き寄せ、何度目かの遂情にも似た感覚に襲われ全身を震わせた。
 グチュグチュと抽挿を繰り返されている蕾は、指の形に合わせてギュッと窄まった。

「痛くはないか」

 冷静な声にブルリと震え、潤んだ視界で見上げる。
 ぼんやりとした世界では耀一郞がどんな表情をしているのかはっきりとわからない。

「た……すけ……あっ!」

 グリッと強くそこを擦られ、身体が跳ね上がる。

「悦さそうだな。中も随分と濡れてる……これなら……」

 不確かな視界の中、耀一郞の喉仏が上下するのが見えた。大きな手に両足を開かれた。

(ああ……あれをされるんだ……大丈夫、慣れているから……)

 何度も自分に言い聞かせて、痛みを和らげるためにゆっくりと息を吐き出す。こうすれば力が抜け、どんな酷いことをされても少しは楽になる。辛い時間の中で樟が見つけた方法だ。
 耀一郞の熱い欲望が宛がわれるのを感じて、きつく目を閉じた。

「えっ……なんで……いやーっ!」

 ずるりと挿ってきた瞬間、樟は今までにないほど戸惑い、暴れ出した。

「こらっ暴れるな……そんなに締め付けたら……」
「変……こんなっ……あーっ!」

 ずるりと抜けた欲望がまた、ずるりと奥へと押し込まれる。その瞬間、今までにないほどの痺れが駆け上がった。あまりの強烈さに頭が真っ白になる。それどころか、指の先まで走り抜けた強烈な感覚が恐ろしすぎて逃げ出したくなる。

(これはなに……こんなの今までなかったのに……)

 もう数えることもできない程の人たちにこの身を好きにさせてきたが、痛みだけだったはずだ、そこから湧きあがるのは。けれど耀一郞から与えられるのは未知の感覚で、樟はその名前がわからなかった。しかも痛みは全くない。
 暴れる樟を、耀一郞は身体を倒し抱き締めた。

「大丈夫だ、樟。怖がるな」
「でもっ! やだ、動かないでっ! 変、変なのが来るっ!」
「感じてるんだな。安心しろ、それは快楽だ。こうなるようにしている」

 樟は驚愕したまま耀一郞を見つめた。間近にある精悍な顔はなにかを堪えるように歪めている。
 ずっと耀一郞のシャツの肩を握り絞めていた手をゆっくりと放し、その頬を包んだ。しっとりと汗が滲んでいる額を指で拭う。

「大丈夫ですか? ……ない、てる?」
「バカ、泣いているのはお前だろう。無理をさせているな、すまない」

 違う、無理なんてなにもしていない。ただ知らない感覚が怖いだけだ。
 痛みがないからこそ、与えられるすべてが如実に感じられる。
 耀一郞が親指でそっと眦を拭った。そして唱歌しているのと同じように頬を包み込んできた。温もりがじんわりと身体の中へと染みていく。腹の奥で今にも爆発しそうなほどに膨らんだ熱が穏やかなものへと変わっていく。

(そうか……耀一郞さんにいたんだ)

 知らなかった。
 奪われるばかりしか経験してこなかったから、彼から与えられていることに気付く余裕がなかった。
 樟は乾いた唇を舐め、そっと身体の中の熱を吐き出すように言葉を差し出した。

「平気です……今までと違ってたから……」
「そうなのか。嫌じゃないか」
「怖いけど、嫌……じゃないです」

 耀一郞の欲望が挿り込んだ中は火傷するくらいに熱いと感じるけれど、ここには嘲りも辱めもない。落ち着いて感じれば、心が温かいままだ。

「そうか。キスをしてもいいか?」
「はい」

 少しだけ慣れた口づけのために、僅かに顔を上げて唇を差し出す。厚みのある唇がまた下唇を食んだ。啄まれる感覚が擽ったく、けれど安心する。
 もっと欲しくて、樟は耀一郞の首に恐る恐る両腕を回した。
 甘い口づけが始まり、先程と同じように互いの舌が絡まり合う。

 キスに夢中になっているとまた耀一郞の欲望が動き出す。先程とは違い、僅かに抽挿が繰り返される。ゆっくりと、樟を驚かせることなく。代わりに舌の動きは激しくなり、樟の舌を吸って彼の口内へと導くと、先端を歯列で挟み先を擽ってくる。じんわりと柔らかい痺れが湧きあがり、腹の奥にゆっくりと火を灯す。
 さっき耀一郞が言っていた、これが快楽なのだと。

(そうか、耀一郞さんは奪うんじゃなくて与えてくれているんだ)

 なにも知らない樟に、愛されるがゆえの感覚を教えようとしている。
 抱き締めてくるのに、ちっとも重みを感じないのは、体重が樟にかからないよう気遣ってくれているから。彼からの思いやりにすら気付くのに時間がかかる自分が情けない。こんなにも大事にして貰っているのに。

 そうだ、耀一郞はとは違う。こんな出来損ないでみっともないオメガを愛したいと言ってくれた優しい人だ。
 だから、大丈夫。
 樟は耀一郞から与えられる感覚すべてを受け入れるために、口づけから得る心地よさだけを追い続けた。
 少しずつ耀一郞の腰の動きが大きくなる。中にある欲望がゆっくりと、だが確実に樟を暴こうとしていた。

(平気……耀一郞さんだから。愛して欲しい人だから)

 不幸になろうとする心を宥め、湧きあがってくる熱を感じ続けた。
 抽挿を繰り返していた欲望がずるりと入り口まで引かれ、それから力を持って突き挿れてきた。

「っ!! んーーっ!」

 唇を合わせたまま、耀一郞は悲鳴を上げた理由を知り、その一点を大きな欲望の先端で擦り始めた。
 先程まで指でずっと弄られた場所。

(だめっ、出ちゃう!)

 言葉にしたくても喉の震えごと吸い取られ、樟はきつく耀一郞の首に抱きついたまま、その瞬間を迎えた。
 二度目の遂情は触れられることなく中の刺激だけで白濁を飛ばし、二人のシャツを汚した。

(なに……これ…………)

 耀一郞の身体を挟み込んだ内腿は、ヒクリヒクリと痙攣を繰り返すのに反して、それ以外の場所から力が抜けていく。あれほど強くしがみついていた手はマットレスの上に落ち、舌すらも奥に引っ込んで横たわるばかりだ。
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