【書籍化進行中】不遇オメガと傲慢アルファの強引な結婚

椎名サクラ

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本編1

12.想いを重ねて05*

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12話はRシーンがあります、読む際にはご注意ください!
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 口づけを解いた耀一郞は上体を起き上がらせると、放心した樟と、力を失った分身を見つめ、嬉しそうに口角を上げた。

「達ったんだな、樟。いい子だ」

 汗に濡れた額にチュッと音を立てたキスをして、痛いくらいに抱き締めた。
 勝手に涙を浮かべる眦に、紅潮した頬にキスを落として、耳殻をカリッと噛んだ。

「すまない、もう少し付き合ってくれ」

 そう言うと、皺ができたシャツを脱ぎ捨てベッドを降りた。
 ずるりと中から逞しいものが抜けていき、淋しさに蕾が太腿の痙攣と同じリズムで収斂を繰り返す。衣服のすべてを脱ぎ捨てるのをぼんやりと見つめる。
 もう一度ベッドへと乗り上げた耀一郞は樟が纏っていた唯一の衣服を奪うと痩身を抱き上げ、枕を抱き締めるように樟を俯せにした。再び足を開かせ腰を持ち上げ、硬いままの欲望を蕾へと宛がった。

「あーーっ!」

 悲鳴にも近い啼き声に樟自身も驚き、きつく枕を抱き締めた。

「声を殺すな、私に聞かせろ」
「だめっ……そこばっかは……おかしくなるっ!」
「おかしくなれ……これが私に愛されると言うことだ」

 入り口から奥までを激しく抽挿する耀一郞の声が切羽詰まったものだった。同じ男だからわかる、その瞬間が近いことを。だが耀一郞は自分の解放を追いかけるのではなく、その間も樟に愉悦を与えようとしてくる。太い部分でその一点を突くように動くので、遂情したばかりの樟は今までにないほどの強烈な快楽の波へと突き落とされる。

 一度白濁を吐き出せば、しばらくは頭の芯が冷えなにもできないはずなのに、今はまた熱に浮かされたように熱い吐息を甘い啼き声と共に吐き出さなければおかしくなってしまいそうだ。
 これが耀一郞に愛されることなのか。
 そして、ずっと要らないものとして扱われ続けてきた自分は、彼に愛されているのか。

(耀一郞さんが僕を欲しがってる……嬉しい……)

 熱に浮かされたまま、樟は与えられるすべてが愛おしくなった。荒波に飲み込まれるような痺れも、音が出るくらいに打ち付けられる欲望も。
 気持ちのまま、もっとそれを確かめたくて、欲望が挿っている場所を窄めれば「ぐっ……!」とくぐもった声が濡れた音の合間に樟の耳に滑り込んできた。

「バカッ……優しくできなくなるだろっ」

 ああ、優しくされているんだ。当然だ、痛みを一瞬も感じないままこんなにも深い愛情の海へと沈められているのだから。

「ああっ……よ……ちろ……さっ!」

 言葉すらも溺れた人のように彼の名を紡ぐことしかできない。シーツだけが荒波に飲み込まれている樟の様を表すように形を変えては同じ波紋は二度と生み出されはしない。

「樟……樟、すまない」

 腰が打ち付けられるたびに名を呼ばれるのが嬉しくて擽ったくて、彼への慕情がゆっくりと嵩を増していく。愛情の海に沈む分だけ。
 浮上できないまま浅い呼吸を繰り返し、ただひたすら初めて味わう愉悦と愛情を貪った。何度も穿たれると、感じる場所を突かれるたびに蕾の中を窄め、それが一層その場所を抉る結果となり、樟を海底へと引きずり込む。
 すでに二度も白濁を飛ばしているのに、また分身は力を取り戻し揺れと共にシーツに擦られる。
 腹の奥で膨れ上がった熱がもうはち切れそうになった。

「んっんっ……またっ! でちゃっ!! 耀一郞さん……耀一郞さん助けてっ!」
「達け……私ももう……うっ」

 その瞬間、樟は仰け反り、一度も触れられることのないまま三度目の白濁を放った。
 身体の強ばりに抗って二度三度と腰を打ち付けた耀一郞もまた、深い場所で動きを止めきつく樟を抱き締めた。熱いものが迸るのを腹の奥で感じる。
 ひくりひくりと痙攣する身体でそれを受け止め、樟は痩身をマットレスに投げ出した。肩で荒い呼吸を繰り返す。

 それでも耀一郞の欲望が抜けないのは、アルファだけが持ちうる亀頭球のせいだ。欲望の根元が膨らみ、確実に受精させるため白濁が流れ落ちないよう蕾に蓋をするのだ。
 知識だけで知っているそれが、入り口のすぐ傍を押し広げ、樟の腰を動けなくさせる。
 耀一郞も樟の身体に重なってきた。露わになったうなじに口づけを落とすと、きつく吸い上げ花弁の跡を残す。いくつもくっきりと。

「お前が発情したらここを噛む……いいか、樟?」

 その時のことを想像させるように軽く歯を当ててくる。

「んっ……」

 発情なんてしない。だって出来損ないのオメガだから。けれど、耀一郞に愛された後に彼だけの自分になるための儀式を想像しただけで、胸がギュッと締め付けられた。耀一郞にだけ抱かれ、耀一郞にしか感じられない淫らな香りを放つ、彼だけのオメガになれるのだ。
 それはどんなに幸せなことだろう。
 樟は小さく頷きながら「はい……」と掠れる声で伝える。

「ありがとう、樟……この傷痕もすべて、私のものだ」
「あっ……見ないで……」

 煌々と灯る蛍光灯がしっかりと樟の醜い背中を映し出していることにやっと意識がいき、隠そうと身体を持ち上げようとするが、どこにも力が入らない。言葉だけの抵抗は弱々しく、身体を捩ろうとすれば中にある欲望が動き、またあられもない声を上げてしまう。
 チュッと背中にキスを移しうなじと同じように花弁を散らしていく。亀頭球が収まるまで耀一郞は樟の背中にキスを落とした。

 本当に醜い傷痕ごと、彼に慈しまれている。
 ずっと傷つけられ、虐げられてばかりだったのに、こんなに愛されていいのだろうか。
 喜びに泣き出しそうになった。
 耀一郞と出会えて良かった。この人と結婚して良かった。

 始めは愛情など存在しない生活だったけれど、順番がメチャクチャだったけれど、彼と家族になれる今が何よりも幸せだ。
 樟は涙を枕に染み込ませ、泣き声を堪えた。

「嫌だったか?」

 けれどすぐに耀一郞に気付かれてしまった。

「ちが……嬉しくて……」

 あなたに愛されている今が、と続けたいのに、込み上げる嗚咽を抑えては言葉を続けられない。ずるりと亀頭球が収まった欲望が抜けていく。寂しくて自然と引き留めるように力を入れてしまう。
 だがたっぷりと粘液を塗された中ではそれも叶わない。
 耀一郞の手によって仰向けにされ、また唇を塞がれた。下唇を啄んでくる。

「感じているお前を見るのは私も嬉しい」

 僅かに離れた隙間から滑り込んでくる囁きは甘くて、また胸がギュッと締め付けられ、温かいものが溢れ出る。

「すまない、お前を休ませてやりたいが……もう少し付き合ってくれないか」

 亀頭球が収まったばかりだというのに、重なった肌に押しつけられる欲望は力を漲らせている。
 また愛されることをこの身で味わえるのか。
 樟は耀一郞の首に腕を回し抱き締めると、その耳元にそっと囁いた。

「はい、耀一郞さん」

 もっと愛してくださいと、心の中で呟きながら。
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