語り継ぐもの前後編

遊月海央

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後編

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儀式に参加する者は既に山頂に集まっていた。

祈りの山の入り口に見張り役が立っていた。リンたち三人は見つからないように山の裏の崖に周り、蔦や笹につかまってこっそり山頂まで登って茂みから様子を伺った。
真上には、三日月と星々が輝いていた。
ムラという言葉は『太陽の子孫』という意味だそうだが、自分のご先祖は 太陽ではなく月と思うほど、リンは月が大好きだった。

和野ムラでは、十二歳にならないと祈りの山に登れない。ナーギは一度登ったことがある。
「あの木を見ろ」
ナーギは小さな声で山頂の入り口脇に立つ、巨大な木を指差す。
「初めてここにきた時、おばばがあの木には決して登ってはならないと言った」
「なぜ?」
ハギはちょっとだけ声が響いてしまう。
上の二人は唇に人差し指を当て、ハギに静かにするように伝える。
「理由は知らん」
とナーギは囁く。
「たぶん、女神が降臨される、場所、かな」
代わりにリンが答えると
「俺もそう思う」
ナーギは腰に下げていた皮袋から、火おこし棒と火臼をチラリとリンとハギに見せ、
「リンにとって不利益な音波が降りた場合、騒ぎを起こすため、この火起こし棒と火臼で、祈りの儀式に関係あると思われる、あの木に火をつける」
と説明した。

腕の力の強いナーギは、火起こし棒を十も回転させずに発火させられるので、 ムラの火起こし役でもあった。

「そんなのダメだよ」と諌めるリンに、
「マアが巫女頭にふさわしいと告げるような女神ならいらん。あの木を燃やせば女神が降りて来れんようになる」
罰当たりなことをナーギがしないで済むようリンは祈った。

山頂に並ぶ大人の腰の高さはある環状石柱の内側に、大人たちは輪になって座っている。それぞれ隣の者と手を取り合い、祈りの 言葉を唱える。

中央では赤い巫女の衣装を着たテラが、松の枝を手に、天に向かって祈りを捧げ始める。
いよいよ儀式が始まった。

祈りの声が大きくなるにつれて、ハギが落ち着かなくなった。
「どうしたハギ」小声でナーギが聞いた。
「ナーギにはあの変な模様が見えないの?」
「模様?」
リンが尋ねると
「ほら、おばばの口から、四角や三角や丸でできた、見たこともない形の光がぽろぽろ零れている」
と指をさす。

ハギに言われてじっと見たが、リンもナーギも、丸や四角の光の零れる姿は見えなかった。そのかわりリンには、踊るように上下する人々の腕の動きに合わせ、白い霧状のものが湧き出て、螺旋を描いているのが見えてきた。

テラの足元からも螺旋は発生し、人々から湧き上がる外側の螺旋と、テラから湧き上がる内側の螺旋がひとつ になり、三日月に向かってどんどん上昇していった。

三日月からわずかに左にそれた場所に、ひときわ輝く大きな光を、リンははじめ星だと思った。
しかしその光は上昇する螺旋に導かれるようにゆっくり下降し、ご神木よりわずか上で停止した。
そこからご神木の上に、光の柱がすっと伸びた。

光の柱が消えた後、ご神木の上に光を放ちながら女性が立っているのを見てハギは叫んだ。
「うわああああ」

「ばかやろう、気付かれるぞ」と慌ててナーギは弟の口をふさいだが、リンは山頂を指差して言った。
「もう気付かれる心配はない」

そこに集まっていた人々は、それぞれが石に寄りかかり、腕をだらりと投げ出して眠っていた。
ただひとりテラだけが、木の上の女性をまっすぐ見上げていた。
よく見るとその女性の背中には、白い翼が大きく広がっていた。

「お呼びだてして誠に申し訳ありません。また、本来登ってはいけない 幼い者がこの場におりますことも深くお詫びいたします」
テラは茂みに背を向けていたが、リンたちがそこいることを知っているようだ。
『構いません』
光る女性は穏やかにそう答えると、リンが潜む茂みを見詰めて微笑んだ。
『出ていらっしゃい、リン。会いたかったわ』

恐る恐る茂みから出てきたリンとナーギは、光る女性の神々しさに、思わず跪いた。
ハギは、恐ろしさに足がすくんで茂みの中唐動けなかった。

『かしこまらなくていいのよ、リン。わたくしが誰だかわかるかしら』
光る女性は童女のようにふふふと笑った。
何故かわからないが、リンは光る女性を知っている気がした。
懐かしくていとおしく、ふたりを隔てるものは何もないような親しみさえ覚えた。

そう、隔てるものが全くない。
まるで、自分自身であるかのように。

『そうよリン。私はあなたです』
リンの心に答えるように女神が言う。
「女神様がリンだって? 一体どういうことだ?」
ナーギは目を剥く。
『我が名は女神ではなくイリア。太古の昔、この星の誕生に携わるため遠い星より旅してきたひとりです。そして、私にとってリンは』
そう言うとイリアは木の上からふわりと降りてきて、二人の前に立ち、リンの目をじっと見詰めた。

間近で見るとイリアに実体はなく、光が、意思を持って作り出している かのようにゆらめき、『イリアの形』を浮かび上がらせていた。

イリアの瞳からリンの頭に光が伸びた。その瞬間、リンの頭に様々な映像が一 気に押し寄せた。

もぎとられた翼、血飛沫をあげながら振りかざされた剣の冷たい輝き、 赤い星が落ち燃えさかる大地と断末魔の叫び、光の魂が飛び散り、そこかしこの獣の肉体に吸収されていく。
鹿や熊、兎、鳥、栗鼠、そして植物の中に閉じこめられた光り輝く御魂たち。

マグマを吹き上げながら大地が裂け、大津波によって島が沈んでいく姿を見たとき、あまりの恐怖にリンは叫び声をあげた。

「きゃあああぁぁ」
意識を失い後ろに倒れかけたリンの身体を両手で支えながら、ナーギはリンの名を呼んだ。
「しっかりしろ、リン、どうした」

『リンには見えているのです。かつて私たちが体験した、愚かで悲しい 時代の終焉を』
「なぜそのようなむごい世界をリンに見せる?」
こみ上げる怒りで声が震える。

『ナーギ、私はあなたも知っているはずです。あなたは忘れているでしょうが、 私たちはかつて遠い星から一緒に旅してきた仲間なのです。
多くの仲間がこの星で新しい命を生み出し、自らも参加して新たな輪廻のサイクルを作りました。しかし、ある愚かな策略によって、仲間たちの多くが、このように魂を閉じ込められてしまいました』

そう言うなりイリアは贄とされていた鹿のほうを向き、手をかざしてその屍に光を注いだ。
鹿の肉体から、白い光が溢れ出す。やがてそれは空中で一箇所に集まり、人間のような形に変化していった。人間と違うのは、イリアと同じく背中に大きな翼 があることだった。
鹿から湧き出てきた人間のような光は、そのまま山頂の真上に浮かぶ光の中に吸い込まれていった。

『ある策略で閉じこめられた魂は、輪廻のサイクルから外され、こうやって我々の使うある力を用いて、閉じ込められている別の生き物の肉体から光に転化しない限り、永久に閉じこめられたままなのです。
しかし私たちは、この星で生きる命を自分の都合で殺めることはゆるされていない。なので仲間を助けたくても行動を起こせないでいます。
その ためにこのような残虐とも思える贄を要求しているのです。
無慈悲に命を欲しているのではないことは覚えていて下さい』

鹿の肉体に隠れていた光の存在の帰還を呆然と見送ったあと、ナーギは、意識を失ったリンを地面に横たえ、立ち上がる。そして毅然とイリアを睨みつけた。

『かつて私の仲間だった御魂には、今リンが見た記憶があります。ナーギにも記憶はありますが、通常、必要がない限り思い出さないよう に自らの意思で封印しているのです。リンにあえてそれを見せるのは、彼女には語り継ぐ必要があるからです』

ナーギの怒りに動じることなく、やわらかい口調でそう続けた。

「語り継ぐ? 誰にだ」
『新しく生まれてきた魂たちです 』
「新しく生まれてきた魂」
意味がわからず困惑するナーギに、

『そうです。
この世界の魂のほとんどは、かつて別の星から来た者と、この星が生まれたときに誕生した古い魂ばかりでした。
ですが、別の星から来た魂がこの星を去ることになりました。魂の数の均衡が崩れることを恐れた者たにが、新たに命を作り出しました。
しかし短期間で作り上げたため、練り上げが足りず不完全な魂となりました。
人の命を自分のものと同等に捉えられない欠点を持つのです。
そのため簡単に人を殺めてしまいます。その新しい魂が、もうすぐ この国に渡ってくることになったのです』

「それでどうしろと言うのだ」
『その新しい魂には、あの忌わしい記憶がありません。かつて我々が嵌められた策略の真相も知らない』

「それでいいだろう。忌わしい記憶などないほうがよい」
「ナーギ」
女神とナーギのやり取りを黙って見ていたテラが諌めるがイリアはそれには答えない。
『経験のない者に経験した者が語り継ぐのは、命の連鎖中の義務です。でなければ、同じことを繰り返してしまう。
悲しいかな翼のない肉体を持つ多くの者は、戦いや殺戮を通して歴史を作り上げる習性があるのです。それではまた時代が終焉してしまうことになるでしょう』

「かつて女神達の世界も滅んだというのか」
その問いに女神は答えず続ける。

『あなたも同じあやまちを繰り返すことをいいとは思わないでしょう。知ることでそれが防げるのなら、一縷の望みを繋いでおきたいのです。語り継ぐ者の記憶の扉を開いて,人々に伝え歩くのです』
「だからって、なぜそれがリンなのだ?
リンは気持ちが弱いんだ。むごい記憶を持ったまま生きる過酷さをなぜリンに強いるのだ」

イリアにつかみかかろうとしたが、光の中に手を差し入れても、 何も掴むことはできなかった。
『私とあなたは次元の違う存在なので、あなたは私を掴むことはできま せん』
残念そうにそう言い、
『大人になった者が私を見るのは稀です。十二歳を過ぎても私を見ることができるあなたはよほど波動が高いのでしょうね。
ナーギ、あなたのリンを思う気持ちはわかります。
ですが、これはもう決まったことなのです。なぜリンでなければならな いのか、それは時間がたてば自然にわかることでしょう。リンの記憶がいつか、輪廻の輪を開く鍵となる日が来ることも。

今の私にいえるのは、あなたはリンを守るために、今そこに生まれたことだけです』とイリアは微笑んだ。

リンを守るために。その言葉にナーギは少し鎮静された。

『目に見える力に惑わされてはいけません。
人々は目に見えるもの、多くの人々がいいと思うものがすばらしいと思いがちですが、真実は目に見えるとは限らないし、多数が価値を見出し てもそれが真実だとは限りません。
目に見える力に惑わされないよう、しっかりとリンを守ってください』

意識を失っていたリンが起き上がった。ナーギとテラが見守る中、環状石の中央まで歩くとそこで立 ち止まった。
『リン、私が誰かわかりますか?』
そう尋ねられ、リンはイリアのほうを向き
「あなたは私の未来」としっかりした口調で答えた。
「おまえにはそれがわかるのか?」
ナーギの声に答えずリンは続 けた。

「あなたは私の未来。あなたは私に会うために今ここに来てくれた」
『そうです、リン。あなたは私だから私の言葉はあなたに自然に受け入れられるはずです』
イリアが微笑むと、泣いたことのないリンの頬を涙が伝った。
「あなたは私だから、あなたは私の気持ちを誰よりよく知っている』

『そうです、リン。私はあなたの気持ちがよくわかる。そしてあなたの未来も知っている。あなたは、あなたが望むような人生を歩むでしょう。もし今この私を、つまり未来のあなたを信じられるなら、今のあなたも 信じられるはずです』

「あなたは私を誰よりも知っている。そして私はそんなあなたを信じられる。
だから私はあなたでもある私を信じる。私は私の霊力も信じる。なぜなら私はムラの人たちを心から癒したいから」
やわらかい笑顔でリンはイリアを見た。イリアも嬉しそうだった。

何が起きたかわからないが、リンが納得しているならそれでいいとナー ギは思った。

『やがてすべてがわかるでしょう。それまで、リンをしっかり頼みますよ』
ナーギにそう告げると、イリアは来た時と同じように光の輪に包まれながらゆっくり上昇し、やがて光ごと消えてしまった。

イリアが去ると、意識を失っていた大人たちが目覚めはじめた。
彼らは何が起きたかわからなまま、恍惚(トランス)状態で環状石の中央に立つリンに驚いていた。

その時光の輪がリンを包んだが、それに気付いたのはナーギとテラだけだった。
光が消えると、リンはすっかり意識を取り戻し、今見た世界の意味をかみしめるようにじっと目を閉じたあと、ゆっくり瞳を開いてリンは人々に告げた。

「海の向こうの大陸から新しい民がこの地に渡って来ます。彼らは殺戮 を好む種族で、神より与えられしこの大地に線を引き、都合よく作り変えた植物を育てては、神の意志を無視し、自らの名前を大地に刻むで しょう。やがてそれは差別を生み、この地は平和でいられなくなるでしょう」

人々がその言葉をにわかに信じられずにいると、ムラ長に連れられマアが山頂に現れた。
「リンが音波を降ろしたのね」
女神のように微笑みながら
「でも、人の心を惑わす音波が果たして本当のものかどうか」
とマアは言った。
「おまえはリンの降ろした音波が嘘だと言うのか?」
とナーギがマアに詰め寄る。
「私はただ、人々に不安を与える音波が本物の神が告げたものか問うただけです」
とマアは返した。

いつもならマアの前で萎縮し何も言えなくなるリンだが、初めてしっかりマアの方をみて答える。
「それが本当に神の音波かどうかを私はわからない。ただ、私にははっきりそれが見えていた」

「あなたは女神の言葉かどうかわからないお告げを人々に言うのね」
間違った子どもをあやすかのようにリンに微笑むと、
「テラさまへの音波はいかに」と問う。
黙って様子を見ていたテラだったが、マアの言葉に重い口を開いた。
「女神は、巫女の変更について何も告げずに帰られた」
「それは、どういうことですの?」
「それは、かつてのご音波はまだ生きているということじゃ」

その言葉にムラ長とマアは明らかに不服そうな顔を見せた。不服なのはマアだけではなかった。その場にいた人々もまた、マアこそ巫女頭であると信じて疑わなかったのだ。
「ではここでわたくしとリンの霊力を試してみてはいかが?」
「マア、いい加減にしないか」
マアに向かって歩き出すナーギの腹をムラ長は右手で止めて
「ナーギ。巫女であるためには霊力がなければだめだ。どのみちリンはどこかで霊力を試さなければならないのだ。よい機会だから、今ここで、 マアとリンの霊力がいかほどかじっくり見させてもらおうじゃないか。よいだろ、テラ」
父であるムラ長が割って入ってきたため、ナーギは仕方なく黙る。
「それもまた女神の御意志じゃろう。よいかリン」
テラはリンを見据えると、リンは頷いた。

や私は贄とされたこのユクを生き返らせられる。リンはできるかしら」
マアは横たわった贄のユクをいとおしそうに撫でた。その優雅な手つきは本当に見るものを魅了した。
先ほどユクの中にいた光の魂が自分の世界に帰っていったことなどマアは知らない。

「私はそんなことはできない」
そう言い切るリンに人々はざわめいた。

「それではもう決まりだな。古い音波など、本人に霊力がなければ無効」
ムラ長がそういいかけたとき、リンが強い口調で言った。
「一度光の国に帰った御魂をふたたび肉体に戻すことは癒しではない。だからそのような行為を私はしない」

いつになくきっぱりそう言うと人々の方に向き直り、
「明日の朝、赤い見晴らし岩脇に海神さまの化身がいらっしゃる。鯨のように大きく、闇と光を表す白と黒で構成されている。その化身の導き に従いこの地を去りて新天地を目指すよう、今音波があった」

その内容に人々は一瞬あっけにとられ、
「何を言い出すのだ」と長は笑った。
テラは黙っていた。ナーギもまた黙っていた。
「これで決まりだ。もしリンを巫女と認めるものあらば、明日の朝その神の化身とやらに従ってこの地を去るといい」
ムラ長は半笑いでリンにそう言う。
「ナーギ、もしおまえがリンと共にこの地を去ったならニ度とここへ戻ることは許さない。その時点で長はハギということにしようぞ」

ナーギは、無言で頷く。肝心のハギは、途中から茂みの中で眠りこけていた。

翌朝、赤い見晴らし岩脇に、朝日に光り輝く白と黒の身体を海面に浮かせて、鯱が一頭佇んでいた。
いつしかムラ人はそこに集まっていた。マアもムラ長もそこにいた。

巫女の庵から出てきたリンは人々に向かい、
「私を信じてくれた人は、このあとに従ってください」
動きだした神の化身の後を追い、リンは、横に立つナーギとともに海岸線を歩き出した。

リンは一度立ち止まり、マアのところまで歩いてきた。
「あなたにムラの巫女頭をまかせるよう、新たに音波が降りました」と告げると、マアはうやうや しく礼をした。
テラは、リンに旅のお守りとなる烏の羽と、ある音波を授けてくれた。

お守りは、闇夜のように黒く、光にかざすと7色に輝く鳥の羽だった。
「この星が出来たばかりの頃から世界を見ていた烏様の羽じゃ。海から離れる時には、この羽をもつ鳥が海の神に代わって道案内をするだろう」
そして音波として
「今朝、リンとナーギの子どもたちは、のちに平和の民と呼ばれるようになる」と告げた。

ハギは二人と一緒に行かないと言った。イリアの姿や、テラの口から溢れていた不思議な光の模様を岩に彫るためであり、兄に変わっていつかムラ長となるためだと。

「女神が愛という言葉を口にしたときに、女神の口から零れた形」
と、山をふたつ上下互い違いに描いた模様を彫りこんだ、掌ほどの小さい岩をリンに手渡した。
「いつか僕の子どもが生まれたら、これと同じ形を彫った岩を持たせて旅立たせる。
だからいつかどこかで、この形と同じ岩を見たら、僕のことを思い出して」

若いというよりまだ幼さの残るリンとナーギは、別れの悲しみに無言のままムラ外れ の山頂まで一気に歩いた。
そこでしばしの休憩とるため振り返ると、わずかだがムラ人たちが二人のあとを追ってくるのが見えた。
旅立って初めて二人は、顔を見合わせ微笑んだ。

「マアはやはりムラの巫女頭になるために生まれたのかもしれない」とリンは言った。
リンへの音波は
「長じて巫女頭となり人々を導くであろう」であり、 このムラの巫女頭ではなかったのかもしれないと。

「マアのことなんだけど」
一休みするために丸太に並んで腰掛けているナーギの顔を横目で見る。
「今朝目覚めたとき、マアがこのムラに生まれる前の人生が見えた。マアは海の向こうの大陸で新しく生まれた御魂のひとりで、やがて和野ムラに辿り着く殺戮を好む民とかつて深い縁で結ばれていた」
と俯く。
「そうか。それが事実だとすると、マアが和野ムラの新しい巫女頭となることもまた必然」
ふたりは改めてムラの景色を名残惜しそうに眺めた。

「なあリン、何故十二歳以下の子どもと、おばばだけがあの女神を見られたのだと思う」
ナーギが尋ねた。
「わからない」
「俺はたぶん波動のちがいだと思う。おばばも巫女頭なだけあって、波動が高くて美しい。そして俺の見た限り、どんな子どもも波動はとてもきれいだ」
「うん、そうかもしれない」

「波動の真相はよくわからんが、あの女神の言うことも謎だらけだったぞ』
「仕方ないよ、誰だってすべてを知って生きているわけじゃない。でも新しい世界まで道のりは遠いから、私たちに時間はたっぷりあるよ」
「そうだな。よし先を急ごう。
 新しい世界で早くわしらの子孫を増やそう」
そう言うとナーギは、丸太から勢いよく立ち上がった。
「ナーギは子をなすことばかり考えている」笑いながらリンも立ち上 がった。
「ばかやろう、もっとちがうことも考えているぞ」
「どんな子をなすとか?」
「リン!」

ふたりは顔を見合わせて笑った。

「おまえと未来の子どもたちを守るため、俺はもっと強くなる。未来のリンと約束したからな」
「また子供のはなし!」

そう言うと、二人はげらげら笑いながら山道を歩いた。道は、海のはるか彼方まで、 どこまでも続いていた。

                   2003.5.23




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