百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

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第2章 確かなもの

第35話 お散歩のご褒美

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 ーさすがにやりすぎたかー
 お散歩の帰り道、泣きべそをかくだけでもはや一言も発しない葉月を見て、さすがの紗耶香もやりすぎたかと自省した。
 ーま、まあ、葉月。お前は今日マジでよくやったよ・・・帰ったらご褒美はやるから、ほら、機嫌直してー
 と、言おうとしてやめる。多分、今の葉月に何を言っても逆効果だろう。
 気まずい雰囲気のまま、お互い無言でのお散歩は続いた。
 ー葉月のやつ、マジでここまでべそをかくとは思ってもみなかったなー
 これは、さっさとお散歩を切り上げるべきかーそう思っていた矢先、紗耶香は何者かの気配を感じ、
「葉月、立て!お散歩は終わりだ!!」
「え!?」
 未だべそをかいている葉月を無理やり立たせ、周囲を見回す。さっきの感じでは、相手はこちらに気が付いていないようだったが、この近くに誰かがいるのは間違いないようだった。
「こちらに気が付いていないが・・・あの民家辺りに誰かいそうだな」
「え、え、せ、先輩、もしかしてあたしのおもらしが見れたりとか・・・」
 葉月がしどろもどろになりながら、自分の排泄行為を他の人にも見られたのではないかと問いかけてくる。
 ーやれやれ、ここにいるのは殺し合いの相手だろうに・・・おもらしなんて気にしてる場合かー
 と、言いたくなったが、まあ、葉月の心情もわからないわけではない。女子としては最も恥ずべき行為をした後のことだ。そこが一番気になるんだろう。
「しょうがない・・・」
 紗耶香は葉月の首輪を外す。突然、自分が解放されたことに戸惑いを覚える葉月に対し、
「お前、一足先に学校へ戻れ」
「え、え、先輩は・・・?」
「あたしは、この家のやつにしてくる・・・すぐに戻るさ」
「あ、あの・・・先輩!?」
 まだ戸惑いを隠せない葉月をその場に残し、紗耶香は気配の主がいるであろう家に向かったー。

 ごく一般的な2階建ての家ー普通の家庭を象徴するかのようなーしかし、大会運営側によって形だけは作られたーの前に立ち、確かにここに人がいることを確認した。
「・・・どうやら、やっこさんもあたしに気が付いたらしいな・・・」
 この家の2階ーそのカーテンが引かれて、中にいた人物が窓から顔を覗かせた。
「ほう・・・」
 顔を覗かせたのは、黒いセミロングが特徴的な美人ーしかし、かなり気が強そうな人物である。
「いい女には違いないが、プライドも高そうだな」
 やりがいがありそうだーと思わず舌なめずりする紗耶香。尤も、今は葉月のこともあるため、ここでやり合うつもりはないが、「ご予約」くらいは入れたいところだった。
「あんた、ここの家に間借りしているのか?」
 紗耶香が問いかける。相手の女が胡乱気な目で見つめ返してくる。
「あたしは一条紗耶香。あんたの名前は?」
「氷上亜美」
 セミロングの女は淡々と自分の名前を答えた。相変わらず、その視線はきつい。尤も、最終的には自分以外の相手は全て敵となるので、出会った相手を必要以上に警戒するのは当たり前と言えば当たり前のことである。
「氷上亜美さんね・・・まさか、うちらの寝床に近い場所にいたなんて」
「あなたもこの近辺に?」
 氷上が警戒心をむき出しにしながら、紗耶香に対して問いかける。
「まあね。近くの学校に間借りしてるよ」
 こちらが相手の潜伏先を知ってしまった以上、自分たちのことを知らせないというのもフェアじゃないだろう。氷上に自分の拠点を教える紗耶香だった。
「ああ、あそこね」
 氷上は窓から学校のある方角へと目を向ける。
「あそこにあなた一人だけ?」
 学校は、個人で暮らすには大きすぎる建物だ。当然、氷上もそこを疑問に思ったのだろう。
「いや、子分と一緒に暮らしてる」
 ー少なくとも、いまのところはー
 いずれ、葉月とも戦わなければならない日が来るだろう。それはかなり先のことになりそうだが、当面は二人だけの世界となりそうだった。
「子分ね・・・」
 氷上がかすかに笑った気がした。
「子分というのは、あそこにいるやたらスカートの中を気にしてる子のことかしら?」
「・・・!?」
 氷上の指摘に、紗耶香は思わず後方を振り返る。そこには、学校に帰したはずの葉月の姿があった。
「葉月、お前なんでここに・・・」
「先輩、あたしに隠し事は無しっすよ」
 先ほどまでの泣き顔とは打って変わって、挑戦的な笑みを浮かべた葉月の姿がそこにあったー。
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