13 / 14
第十話
しおりを挟む
主な登場人物
梶間一郎:17歳。虚羽化人間カオス。
倉持エイコ:71歳。製薬会社グラックスの筆頭株主。
落合:28歳。元研究員。米軍に虚羽化人間の技術を売ろうとしている。
鈴峰カオル:製薬会社グラックス社員。女性。29歳。カマキリと人の虚羽化人間キュラマンティス。
米山:製薬会社グラックスの営業マン。26歳。
鈴木:製薬会社グラックス社員。25歳。
向井:製薬会社グラックス社員。28歳。虚羽化人間ホーネット。
荒幡トオル:製薬会社グラックス専務。27歳。火蟻と人の虚羽化人間。
橋立:36歳。刑事。
松下:死亡。享年28歳。刑事。
進藤:製薬会社グラックス社員。25歳。サソリと人の虚羽化人間。
田村彦二:42歳。喫茶タームのマスター。
田村珠恵:13歳。彦二の娘。
梶間恵理子:死亡。梶間一郎の妹。蛾と人の虚羽化人間になるがカオスに捕食される。
梶間陽子:一郎と恵理子の母。大作とは離婚している。行方不明。
梶間大作:製薬会社グラックス社長。一郎の父。
安村:36歳。週刊誌のライター。
●米軍基地 夜
銃声とサイレンが闇の中に響く。時折、悲鳴が上がる。やまない銃声。
サーチライトが何者かを追うが、その速さについていけずに影を捉えることも出来ない。
以下字幕。
米兵A「何がいるんだ!」
米兵B「エイリアンだ!」
司令官「ヘリを飛ばせ! それと明かりをつけろ! マスコミなんかほうっておけ! 後でなんとでもなる!」
基地内が明るく照らし出される。同士討ちをしている一方で、空に何か飛んでいるのが見える。
米兵を片手につかみながら、飛んでいる虚羽化人間向井だった。
ホーネット「カカカカカカッ!」
ホーネットは、基地内を照らすライトに向かって米兵を投げつける。ぐしゃりと弾ける米兵の体。ライトの上で煙を上げる米兵。
ライトが壊れなかったことに苛立ちをあらわにするホーネット。
銃声。一斉に空に向かって射撃を開始する米兵。
ホーネットの硬い外殻を、徐々に削っていく。
ホーネット「クソが!」
ホーネットはジグザグに飛び、群れを離れた米兵を一撃でほふるとその死体を盾に空へ舞い上がる。
バロロロロロロロロロロォッ!
ホーネットの前に現れる戦闘ヘリ。
ホーネット「こいつがボスか?」
ホーネットは戦闘ヘリに突撃をする。
ヘリから放たれる対空ミサイル。
ホーネットは、ミサイルに死体を投げつける。
空に火球が広がる。
パイロット「やったか?」
ホーネット「残念賞!」
脇の窓を突き破ってホーネットの腕がパイロットの頭を粉砕する。
戦闘ヘリは、制御を失って墜落する。
司令官「どうなってるんだ! 何をしている!」
落合があわてた様子で司令官の側にやってくる。
司令官「オチアイか? 今は忙しい後にしろ」
落合「敵は虚羽化人間だ」
司令官「何?」
落合「虚羽化人間なんだよ!」
司令官「あれが虚羽化人間」
悲鳴と銃声はやまない。
司令官「すばらしい」
落合「だが、所詮は昆虫さ。冷凍ガスを使え」
司令官「なぜ?」
落合「動きが鈍くなる。動きを止めて捕獲しよう」
司令官「すばらしい作戦だ!」
ホーネット「俺もそう思う」
司令官の頭上に現れるホーネット。蹴りで司令官の体は粉々になる。
落合「向井か?」
ホーネット「その通り」
落合、背中を向けて逃げ出すも、その背中にホーネットの毒針が突き刺さる。
落合「うぐぁ」
ホーネット「殺しはしないさ。お前は楽に殺さねぇ!」
落合は口から泡を吹いて床に倒れこむ。
ホーネット「しばらくそこで待ってな。また後でな」
ホーネットは、人間狩りを再開する。
●一郎の夢
暗闇の中に小さな男の子(子供の頃の一郎)が立っている。
梶間大作が現れる。
梶間「恵理子が病気になってしまった」
一郎「治るの?」
梶間陽子が現れる。
陽子「あなたのせいよ」
梶間「恵理子は人類の希望なんだ」
一郎「恵理子は元気になるの?」
陽子「何が希望よ。あなたは自分の実験を認めてくれない大学や社会に見栄を張りたいだけなのよ!」
梶間「いいか? 恵理子がカオスセルを生むことが出来れば、人類はあらゆる病から解放されるんだ!」
陽子「自分の子供を人体実験に使うなんて、あなたおかしいわよ! あなたこそ病気じゃないの!」
恵理子が現れる。
梶間「恵理子。大丈夫だ。お前はきっと治るよ」
陽子「私、出て行きます。一郎と恵理子を連れて行きますから」
梶間「田村か? やめておけあんな才能のない男」
陽子「才能なんて! 才能なんて必要ないわ。人間らしく生きたいの」
恵理子「私行かない。お父さんと一緒にいる。病気を治さなきゃ」
梶間「偉いぞ恵理子」
陽子「恵理子。お願いだから一緒に行きましょう?」
恵理子「お母さんはあのおじさんと一緒にいたいだけでしょ? 一人で行けばいいのよ」
梶間「ダメだ。陽子、お前もここに残れ」
陽子「一郎、あなたは一緒に来るわよね?」
一郎「僕は」
梶間「陽子は恵理子を治すために必要なんだ」
一郎「僕は」
陽子「行きましょう一郎」
陽子の姿が消える。
一郎「お母さんは?」
梶間「陽子は一人で行ったよ。これで、もう恵理子を助けることは出来なくなった」
恵理子「助けてお兄ちゃん。助けて……」
一郎「僕がいるよ。僕が恵理子を助ける」
梶間「お前じゃ無理だ」
一郎「僕、頑張るよ」
梶間「お前じゃダメなんだ」
一郎「僕なら平気だよ。耐えてみせるよ」
梶間「そうか」
暗転。
梶間「失敗だ」
梶間の声とともに明転。
頭を抱えてうずくまっている梶間大作。
一郎「父さん」
梶間「やはり一郎ではダメだ。陽子の細胞が培養できればいいが」
恵理子「お兄ちゃん。苦しい。助けて……」
一郎「もう一度、もう一度、僕を使って……」
梶間「お前では無理だと言ってるだろうが! この役立たずが!」
●山小屋 朝
布団の中で目を開く一郎。汗だく。
ゆっくりと起き上がる。
倉持「大丈夫?」
一郎「はい」
倉持「それで、これからどうする気?」
一郎「これから……」
倉持「向こうは、待ってはくれないわよ」
一郎「でも、父さんが」
倉持「本当に生きてると思ってるの?」
一郎「え?」
倉持「この間、荒幡に会ったでしょ? あの時になぜ梶間が出てこなかったか。分かる?」
一郎「出てくる必要がなかった。とか」
倉持「そう。梶間の姿を借りなくても、意思を伝えることが出来るからね」
一郎「?」
倉持「すでに梶間は死んでいる。これは間違いないわ」
一郎「そんな」
倉持「梶間を利用して資金集めでもしていたのかもしれないわね」
一郎「生きてると思ったのに」
倉持「お気の毒だったわね」
一郎「……違うんです」
倉持「え?」
一郎「……本当は、僕の今の姿を見せてやろうと思ったんです。そうしたら、僕のことを少しは認めてくれるんじゃないかって」
倉持「一郎」
一郎「研究所で父の死を確認したとき、これが夢だったらって思っていました。そうだ。あの時、僕も死んだんです。奴らを殺せって言葉だけで僕は動いていた」
倉持「……」
一郎「でも、それは僕の勘違いで安部先生たちのことを言っていたって。あ、でもそれは偽者の父さんか……」
倉持「確かめてみる?」
一郎「どうやって?」
倉持「もう一度、乗り込むのよ」
一郎「それは……」
倉持「怖い?」
一郎は答えず、唇をかみ締める。
●グラックス 廊下
橋立、清掃員の作業服を着ている。作業カートを押しながら、キョロキョロと社内を見回している。
前を歩く若い作業員が声をかけてくる。
作業員A「おいおっさん! よそ見してるなよ」
橋立「はーい」
作業員A「おっさんさぁ、歳はそっちが上だけど、この仕事は俺のほうが先輩なわけ。わかる?」
橋立「偉ぶる奴に大した奴はいないぞ」
作業員A「あ?」
橋立の胸倉をつかみ、イライラをぶつけに来る作業員A。
作業員A「おっさん仕事なくしたいわけ?」
橋立「できれば、今は自由行動がしたいかな」
作業員Aの腕を軽くひねり上げて、体を背中側に入れ替えると、作業員Aの首筋に一撃を入れて気絶させる。
橋立「せんぱーい。こんなところで寝たらクビになりますよぉ?」
トイレの中に押し込むと橋立は清々した顔で廊下を歩いていく。
●会議室内
荒幡が顔の前で腕を組み席についている。向井が落ち着かない様子で側に立っている。
向井「わざとじゃないんだ」
荒幡「落合は生け捕りだったはずだ。廃人にしろとは言っていなかったはずだがな」
向井「悪い」
荒幡「お前のせいで計画が遅れるのは、これで何度目だと思う?」
●廊下
橋立が歩いている。会議室の前を通り過ぎる。
向井の声「警官殺しはバレてないぜ」
橋立の足が止まる。
●会議室内
向井「ニュースだって流れてないだろ?」
荒幡「もう少しスマートにやって欲しかったな。あれではバケモノが暴れただけに過ぎない」
向井「ライフルの弾って意外に痛いんだな」
荒幡「貫通はしなかっただろ?」
向井「まあね」
荒幡がドアを見る。
荒幡「銃弾程度では、即致命傷にはならないさ」
あごで向井に指示を出す。向井はゆっくりとドアを開きに行く。
ドアが開かれる。
●廊下
向井が会議室から顔を出す。廊下には誰もいない。
曲がり角で橋立が隠れている。
首をかしげる向井。
●会議室内
ドアを閉めて戻ってくる向井。荒幡の表情は厳しい。
荒幡「これからのことについてだが……」
向井「チャンスをくれよ」
荒幡「今までどれだけのチャンスを与えたか覚えているか?」
向井「頼むよ」
ため息をつく荒幡。
荒幡「わかった。目くらましのために別の基地も襲ってくれ。今度は出来るだけ静かにな」
向井「おう。出来るだけ静かにだな」
荒幡の携帯電話が鳴る。携帯電話を取り出す。
荒幡「どうした? 何? 一人か? そうか。……地下研究場に通しなさい。鈴峰に処理させろ」
向井「なんだ?」
荒幡「父親に合わせろとさ」
手を叩く荒幡。
荒幡「そうだ。もう一つやってもらおう」
向井「ん?」
荒幡「口がうまいから気をつけろよ」
●地下研究場
体育館のような広さの地下研究場。白い壁で覆われている。
中央に大きなコンピューターが置かれている。
一郎が入ってくる。
一郎「父さん!」
モニターがつく。梶間大作の顔が映る。
●グラックス 廊下
米山が歩いている鈴木の肩をつかむ。
鈴木「どうしたんですか? そんなおっかない顔をして」
米山「知っていたんだな?」
目を背ける鈴木。
鈴木「何をです?」
米山「薬のことも、社長のことも全部」
米山の手を振り払って走り去ろうとする。
鈴木「言えません」
米山、鈴木の手をつかみ廊下の壁にぶつける。
米山「俺たちは、荒幡さんの駒じゃない! 人間に戻れないなら、従う理由はないはずだ」
鈴木「ここを出て生きていられるわけがない」
米山「社長は、どこにいる」
黙り込む鈴木。
米山「言え! 荒幡さんは俺たちを使って自分の欲望を満たす気なんだ。目を覚ませ!」
鈴木「教授は死んでるよ」
米山「じゃあ、あれは誰なんだ」
鈴木「俺が作ったデジタルデータだ」
米山「デジタルデータ?」
鈴木「教授を運んできたときには、もう復旧は不可能だった。でも、この計画には教授の力が必要だって……」
米山「荒幡さんがそう言ったんだな?」
目をそらしながら鈴木はうなづく。
米山「社長が生きていると思った人間は、集まるしかなかったわけだ」
米山は拳を握る。
米山「何で言わなかった」
鈴木は何も言わない。下を見つめ、唇を震わせている。
米山「戻れる可能性がないとなんで言わなかった!」
鈴木はかすれた声を出す。
鈴木「言ってもどうにもならないだろう」
●地下研究所
画面に映し出される梶間大作。それを見つめる一郎。
梶間「研究所で妹を食ったらしいな」
一郎、目を見開く。
梶間「うまかったか?」
一郎「誰だ」
梶間「梶間大作だ。お前の父だ」
一郎「父さんは死んでいた。あの時、確かめたはずだ」
梶間「一郎、君は、羽化する前に何かされていたのか?」
一郎「やめろ! 荒幡トオル!」
梶間「おっと失礼。私は役者には向いていないらしい」
梶間大作の顔が荒幡に変わる。
荒幡「サンプルとしては、殺すのは惜しいかな?」
一郎「僕はお前を許さない!」
荒幡「と言うことだ。カオル頼んだぞ」
鈴峰「はぁい」
振り返る一郎。笑顔で立っている鈴峰。
鈴峰は、一郎の足元から頭の先までなめるように見る。
鈴峰「あなたからは特別な雰囲気はしないけどね」
一郎「どいてくれ。僕が用があるのは荒幡だけだ」
鈴峰「あなたわかってないわね」
一郎「何?」
鈴峰「彼は、世界を変える力を持っているのよ。あなたには何もないわ」
一郎「世界を変える?」
鈴峰「父親の言うことにいちいち振り回されてるような人間が、何を変えることができるの?」
一郎「お前たちに何がわかる!」
鈴峰「わかるわよ。あなたみたいにただなんとなく生きて、運命に流されるだけの凡人には、導くものが必要なのよ」
一郎「それが荒幡だって言うのか!」
鈴峰「そうよ。彼は完璧だわ」
一郎「完璧?」
鈴峰「彼が人類を飼うのよ。エサとしてね」
一郎「そんなの間違ってる!」
鈴峰「そうかしら? 知ってる? 解けた氷の下で、眠っている資源を貪っている国がある事を。そして、その国から、恥も外聞もなくそれを買い取っている国があることを。この星は病んでいるのよ。環境問題ひとつにしてもまとまらない人類に、支配者の資格なんてないわ」
一郎「お前たちだって元は人間じゃないか!」
鈴峰「元ね。今は違うわ。今は、この星を蝕むバイ菌を殺す免疫なのよ。あなたもね」
一郎「僕は違う!」
鈴峰「どうかしら」
鈴峰がキュラマンティスへと変貌していく。
●地下駐車場
地下駐車場に入ってくる向井。そのまま地下駐車場内を歩き続ける。
ドアを開けて橋立が向井を追ってくる。その手には拳銃が握られている。
橋立「松下、待ってろよ」
地下駐車場の柱に身を隠しつつ、向井を追っていく。
距離をつめ、再び柱に隠れる。
顔を出した橋立の前から向井の姿が消える。
橋立「?」
橋立の後ろに向井が立っている。
向井「てめぇ、何者だ?」
振り返る橋立。その首をつかみ上げ、柱に押し付ける向井。
橋立はもがき続けるが、足は宙に浮きどうにもならない。
橋立「くっ」
向井「コソコソついてきやがって」
橋立、ゆっくりと銃を向井の腹に向ける。
パン!
銃声。
時間が止まったように動かない二人。
向井「……お前、容赦無いな。だがよぉ、残念だったな」
橋立を放り投げる向井。ボールのようにコンクリートの床に転がる橋立。
銃弾がホーネットの外殻とともに床に転がり落ちる。
橋立の腹部がホーネットに変わっている。徐々に向井も変化していく。
ホーネット「反射って言うのかね。本能って言うのか」
倒れている橋立にゆっくりとホーネットが近づいていく。
橋立「松下を殺したのはお前だな?」
ホーネット「誰だそれ?」
上半身を起こして銃を構える橋立。
橋立「お前が殺した刑事だよ!」
ホーネット「お前も刑事か?」
橋立「ただの清掃作業員さ」
ホーネット「わりぃな。覚えてねぇや」
橋立「この野郎!」
パンパンパン!
連続で発射される弾丸。だが、どれもホーネットを傷つけることは出来ない。
ホーネット「もういいだろ? 人間の生き死になんて、ゴミみたいなもんなんだから」
ホーネットの足が止まる。
橋立と向井の間に割ってはいる黒い影。
●地下研究所
キュラマンティスの鎌を避けるカオス。
キュラマンティス「逃げるだけじゃ、先に進めないわよ」
カオス「荒幡に聞きたいことがあるだけだ!」
キュラマンティス「なら、私を倒してから行くことね」
カオスの胸にキュラマンティスの鎌が一閃。血が吹き出る。
カオスは距離をとりヒザを突く。左手で傷を押さえる。
キュラマンティス「あなたはどんな味なのかしらね」
鎌から滴る血の滴をキュラマンティスの小さな舌がすすり上げる。
が、すぐに吐き出す。
キュラマンティス「美味しくない」
カオスは両首筋の突起物を引き抜く。血が吹き出る。
両手にカオスブレイドが握られる。フラフラと立ち上がり、カオスブレイドを構える。
キュラマンティス「あなたは異質ね。梶間大作って男も身内びいきってことかしら」
カオス「僕は失敗作だ」
切り結ぶ虚羽化人間たち。
鎌を受け止めるカオスブレイド。
キュラマンティス「ひょっとして父親が憎いの?」
カオスの腹にキュラマンティスの蹴りが入る。吹き飛ばされるカオス。
キュラマンティス「だったら、あなたもこっちに来なさいよ。世界を支配して見返してやりましょう」
起き上がるカオス。
カオス「みんなが」
キュラマンティス「?」
カオス「どれだけ生きたいって思っていたか、知らないくせに!」
カオスブレイドを構え、キュラマンティスに飛び掛る。
しかし、その攻撃はことごとくキュラマンティスにいなされてしまう。
キュラマンティス「でも、その生きたがっていた人たちをあなたは食べちゃったんでしょ?」
カオスの動きが止まる。
キュラマンティスの鎌がカオスの右肩に突き刺さる。
キュラマンティス「あんたは中途半端な生き物ね。人間でも虚羽化人間でもない! 虫唾が走るわ!」
振り上げられるキュラマンティスの右鎌。首をかばうカオスの左腕。振り下ろされる鎌。動きが止まる二人。
キュラマンティス「本当にいやな奴ね」
キュラマンティスが後ずさる。その腹部にカオスブレイドが突き刺さっている。
キュラマンティス「だけどこれからのことを考えたら、少しは同情するかもね」
人間に戻っていく鈴峰。
残されたもう一方のカオスブレイドを手に近づいていくカオス。
警報が鳴り出す。
警備員たちが一斉に研究所の中になだれ込んでくる。取り囲まれるカオス。
警備員A「武器を捨てろ!」
遠巻きにカオスを見ている警備員たち。
倒れている鈴峰を確保する警備員。
警備員B「どうだ?」
警備員C「ダメです。もう息がありません」
警備員A「おとなしく投降しなければ、武力制圧するぞ!」
カオスは警備員たちを見回す。
カオス「邪魔をしないでくれ! あんたたちと戦う気はない!」
警備員A「黙れバケモノ!」
●地下駐車場
橋立とホーネットの間に立っている米山。
ホーネット「どういうつもりだ」
米山「行ってください」
立ち上がりホーネットに銃を向ける橋立。
米山「死にたくなかったら、さっさと行くんだ!」
橋立、米山を見つめる。米山は、じっとホーネットを見ている。
ゆっくりとその場を離れていく橋立。
ホーネット「お前、自分が何してるのかわかってるのか?」
米山「わかってます。向井さんこそ、これは命令違反ですよ」
ホーネット「死にてぇのか?」
米山「向井さんの針は僕には通用しませんよ?」
ホーネット「それで、脅してるつもりか?」
米山「とんでもない」
人間に戻る向井。
米山「ありがとうございます」
向井「次に邪魔したら殺すからな」
バイクにまたがり走り去っていく向井。
それを見送る米山。
●オフィス街
警備員らしき人間が走り回って誰かを探している。
橋立は、彼らから逃れるように薄暗い路地に滑り込む。
橋立「くそぅ」
携帯電話を取り出し、安村にかける。
呼び出し音が鳴り続ける。
橋立「はやく、早く出ろ」
呼び出し音は続く。
電話を切る。
橋立「何やってんだ」
視線を感じ、路地の奥を見る。
薄暗い路地の視界は悪い。
つばを飲み込む。
橋立「誰かいるのか?」
拳銃を構え、奥に向かっていく。
座り込んでいる人影が、奥に見える。
橋立「お前……、梶間か?」
一郎、身動き一つしない。側にカオスブレイドが落ちている。
橋立、カオスブレイドを拾う。瞬間、カオスブレイドが粉々に崩れ去る。粉々になった結晶に触ってみる橋立。
橋立「悪い。壊しちまった。まいったな」
橋立は、上着を脱いで結晶を集める。
●喫茶ターム 夕方
彦二、心ここにあらずと言った感じで、ティーカップを拭いている。
そこに珠恵が走りこんでくる。
珠恵「大変よ!」
彦二「ん?」
珠恵「テレビテレビ!」
彦二「何? 誰か結婚でもしたのか?」
珠恵「バカなこと言ってないで、早く」
テレビをつける彦二。
アナウンサー「…この言葉を話す猫、なんですが…」
彦二「おお、そりゃ大変だ」
珠恵「バカ」
チャンネルを切り替える珠恵。
アナウンサー「グラックスの前身である倉持製薬の創業者一族で、元会長職にもあった倉持エイコさんが、本日殺害されると言う事件が起こりました。そして、グラックス本社でも鈴峰カオルさんが殺害されたとのことです。グラックス現社長梶間大作氏とその息子一郎さんが行方不明ということで、詳細はわかっておりませんが、一部情報では一郎容疑者が鈴峰さんを殺害後逃走という情報も入っております。さらに捜査関係者によると梶間一郎容疑者は倉持エイコさんの殺害にも関わっているとの話です」
彦二「え?」
珠恵「さっきビデオが流れてたところがあったんだけど」
彦二「ビデオ?」
アナウンサー「引き続きグラックス襲撃事件についてお伝えいたします。本日15時頃グラックス本社に男が侵入。女性社員を一人殺害後、社長を誘拐し逃走とのことです。また、これよりしばらく後にグラックスの創業者一族の倉持エイコさんが殺害される事件も発生しており、警察では関連を含め調査を行っております」
彦二「まさか…」
梶間一郎:17歳。虚羽化人間カオス。
倉持エイコ:71歳。製薬会社グラックスの筆頭株主。
落合:28歳。元研究員。米軍に虚羽化人間の技術を売ろうとしている。
鈴峰カオル:製薬会社グラックス社員。女性。29歳。カマキリと人の虚羽化人間キュラマンティス。
米山:製薬会社グラックスの営業マン。26歳。
鈴木:製薬会社グラックス社員。25歳。
向井:製薬会社グラックス社員。28歳。虚羽化人間ホーネット。
荒幡トオル:製薬会社グラックス専務。27歳。火蟻と人の虚羽化人間。
橋立:36歳。刑事。
松下:死亡。享年28歳。刑事。
進藤:製薬会社グラックス社員。25歳。サソリと人の虚羽化人間。
田村彦二:42歳。喫茶タームのマスター。
田村珠恵:13歳。彦二の娘。
梶間恵理子:死亡。梶間一郎の妹。蛾と人の虚羽化人間になるがカオスに捕食される。
梶間陽子:一郎と恵理子の母。大作とは離婚している。行方不明。
梶間大作:製薬会社グラックス社長。一郎の父。
安村:36歳。週刊誌のライター。
●米軍基地 夜
銃声とサイレンが闇の中に響く。時折、悲鳴が上がる。やまない銃声。
サーチライトが何者かを追うが、その速さについていけずに影を捉えることも出来ない。
以下字幕。
米兵A「何がいるんだ!」
米兵B「エイリアンだ!」
司令官「ヘリを飛ばせ! それと明かりをつけろ! マスコミなんかほうっておけ! 後でなんとでもなる!」
基地内が明るく照らし出される。同士討ちをしている一方で、空に何か飛んでいるのが見える。
米兵を片手につかみながら、飛んでいる虚羽化人間向井だった。
ホーネット「カカカカカカッ!」
ホーネットは、基地内を照らすライトに向かって米兵を投げつける。ぐしゃりと弾ける米兵の体。ライトの上で煙を上げる米兵。
ライトが壊れなかったことに苛立ちをあらわにするホーネット。
銃声。一斉に空に向かって射撃を開始する米兵。
ホーネットの硬い外殻を、徐々に削っていく。
ホーネット「クソが!」
ホーネットはジグザグに飛び、群れを離れた米兵を一撃でほふるとその死体を盾に空へ舞い上がる。
バロロロロロロロロロロォッ!
ホーネットの前に現れる戦闘ヘリ。
ホーネット「こいつがボスか?」
ホーネットは戦闘ヘリに突撃をする。
ヘリから放たれる対空ミサイル。
ホーネットは、ミサイルに死体を投げつける。
空に火球が広がる。
パイロット「やったか?」
ホーネット「残念賞!」
脇の窓を突き破ってホーネットの腕がパイロットの頭を粉砕する。
戦闘ヘリは、制御を失って墜落する。
司令官「どうなってるんだ! 何をしている!」
落合があわてた様子で司令官の側にやってくる。
司令官「オチアイか? 今は忙しい後にしろ」
落合「敵は虚羽化人間だ」
司令官「何?」
落合「虚羽化人間なんだよ!」
司令官「あれが虚羽化人間」
悲鳴と銃声はやまない。
司令官「すばらしい」
落合「だが、所詮は昆虫さ。冷凍ガスを使え」
司令官「なぜ?」
落合「動きが鈍くなる。動きを止めて捕獲しよう」
司令官「すばらしい作戦だ!」
ホーネット「俺もそう思う」
司令官の頭上に現れるホーネット。蹴りで司令官の体は粉々になる。
落合「向井か?」
ホーネット「その通り」
落合、背中を向けて逃げ出すも、その背中にホーネットの毒針が突き刺さる。
落合「うぐぁ」
ホーネット「殺しはしないさ。お前は楽に殺さねぇ!」
落合は口から泡を吹いて床に倒れこむ。
ホーネット「しばらくそこで待ってな。また後でな」
ホーネットは、人間狩りを再開する。
●一郎の夢
暗闇の中に小さな男の子(子供の頃の一郎)が立っている。
梶間大作が現れる。
梶間「恵理子が病気になってしまった」
一郎「治るの?」
梶間陽子が現れる。
陽子「あなたのせいよ」
梶間「恵理子は人類の希望なんだ」
一郎「恵理子は元気になるの?」
陽子「何が希望よ。あなたは自分の実験を認めてくれない大学や社会に見栄を張りたいだけなのよ!」
梶間「いいか? 恵理子がカオスセルを生むことが出来れば、人類はあらゆる病から解放されるんだ!」
陽子「自分の子供を人体実験に使うなんて、あなたおかしいわよ! あなたこそ病気じゃないの!」
恵理子が現れる。
梶間「恵理子。大丈夫だ。お前はきっと治るよ」
陽子「私、出て行きます。一郎と恵理子を連れて行きますから」
梶間「田村か? やめておけあんな才能のない男」
陽子「才能なんて! 才能なんて必要ないわ。人間らしく生きたいの」
恵理子「私行かない。お父さんと一緒にいる。病気を治さなきゃ」
梶間「偉いぞ恵理子」
陽子「恵理子。お願いだから一緒に行きましょう?」
恵理子「お母さんはあのおじさんと一緒にいたいだけでしょ? 一人で行けばいいのよ」
梶間「ダメだ。陽子、お前もここに残れ」
陽子「一郎、あなたは一緒に来るわよね?」
一郎「僕は」
梶間「陽子は恵理子を治すために必要なんだ」
一郎「僕は」
陽子「行きましょう一郎」
陽子の姿が消える。
一郎「お母さんは?」
梶間「陽子は一人で行ったよ。これで、もう恵理子を助けることは出来なくなった」
恵理子「助けてお兄ちゃん。助けて……」
一郎「僕がいるよ。僕が恵理子を助ける」
梶間「お前じゃ無理だ」
一郎「僕、頑張るよ」
梶間「お前じゃダメなんだ」
一郎「僕なら平気だよ。耐えてみせるよ」
梶間「そうか」
暗転。
梶間「失敗だ」
梶間の声とともに明転。
頭を抱えてうずくまっている梶間大作。
一郎「父さん」
梶間「やはり一郎ではダメだ。陽子の細胞が培養できればいいが」
恵理子「お兄ちゃん。苦しい。助けて……」
一郎「もう一度、もう一度、僕を使って……」
梶間「お前では無理だと言ってるだろうが! この役立たずが!」
●山小屋 朝
布団の中で目を開く一郎。汗だく。
ゆっくりと起き上がる。
倉持「大丈夫?」
一郎「はい」
倉持「それで、これからどうする気?」
一郎「これから……」
倉持「向こうは、待ってはくれないわよ」
一郎「でも、父さんが」
倉持「本当に生きてると思ってるの?」
一郎「え?」
倉持「この間、荒幡に会ったでしょ? あの時になぜ梶間が出てこなかったか。分かる?」
一郎「出てくる必要がなかった。とか」
倉持「そう。梶間の姿を借りなくても、意思を伝えることが出来るからね」
一郎「?」
倉持「すでに梶間は死んでいる。これは間違いないわ」
一郎「そんな」
倉持「梶間を利用して資金集めでもしていたのかもしれないわね」
一郎「生きてると思ったのに」
倉持「お気の毒だったわね」
一郎「……違うんです」
倉持「え?」
一郎「……本当は、僕の今の姿を見せてやろうと思ったんです。そうしたら、僕のことを少しは認めてくれるんじゃないかって」
倉持「一郎」
一郎「研究所で父の死を確認したとき、これが夢だったらって思っていました。そうだ。あの時、僕も死んだんです。奴らを殺せって言葉だけで僕は動いていた」
倉持「……」
一郎「でも、それは僕の勘違いで安部先生たちのことを言っていたって。あ、でもそれは偽者の父さんか……」
倉持「確かめてみる?」
一郎「どうやって?」
倉持「もう一度、乗り込むのよ」
一郎「それは……」
倉持「怖い?」
一郎は答えず、唇をかみ締める。
●グラックス 廊下
橋立、清掃員の作業服を着ている。作業カートを押しながら、キョロキョロと社内を見回している。
前を歩く若い作業員が声をかけてくる。
作業員A「おいおっさん! よそ見してるなよ」
橋立「はーい」
作業員A「おっさんさぁ、歳はそっちが上だけど、この仕事は俺のほうが先輩なわけ。わかる?」
橋立「偉ぶる奴に大した奴はいないぞ」
作業員A「あ?」
橋立の胸倉をつかみ、イライラをぶつけに来る作業員A。
作業員A「おっさん仕事なくしたいわけ?」
橋立「できれば、今は自由行動がしたいかな」
作業員Aの腕を軽くひねり上げて、体を背中側に入れ替えると、作業員Aの首筋に一撃を入れて気絶させる。
橋立「せんぱーい。こんなところで寝たらクビになりますよぉ?」
トイレの中に押し込むと橋立は清々した顔で廊下を歩いていく。
●会議室内
荒幡が顔の前で腕を組み席についている。向井が落ち着かない様子で側に立っている。
向井「わざとじゃないんだ」
荒幡「落合は生け捕りだったはずだ。廃人にしろとは言っていなかったはずだがな」
向井「悪い」
荒幡「お前のせいで計画が遅れるのは、これで何度目だと思う?」
●廊下
橋立が歩いている。会議室の前を通り過ぎる。
向井の声「警官殺しはバレてないぜ」
橋立の足が止まる。
●会議室内
向井「ニュースだって流れてないだろ?」
荒幡「もう少しスマートにやって欲しかったな。あれではバケモノが暴れただけに過ぎない」
向井「ライフルの弾って意外に痛いんだな」
荒幡「貫通はしなかっただろ?」
向井「まあね」
荒幡がドアを見る。
荒幡「銃弾程度では、即致命傷にはならないさ」
あごで向井に指示を出す。向井はゆっくりとドアを開きに行く。
ドアが開かれる。
●廊下
向井が会議室から顔を出す。廊下には誰もいない。
曲がり角で橋立が隠れている。
首をかしげる向井。
●会議室内
ドアを閉めて戻ってくる向井。荒幡の表情は厳しい。
荒幡「これからのことについてだが……」
向井「チャンスをくれよ」
荒幡「今までどれだけのチャンスを与えたか覚えているか?」
向井「頼むよ」
ため息をつく荒幡。
荒幡「わかった。目くらましのために別の基地も襲ってくれ。今度は出来るだけ静かにな」
向井「おう。出来るだけ静かにだな」
荒幡の携帯電話が鳴る。携帯電話を取り出す。
荒幡「どうした? 何? 一人か? そうか。……地下研究場に通しなさい。鈴峰に処理させろ」
向井「なんだ?」
荒幡「父親に合わせろとさ」
手を叩く荒幡。
荒幡「そうだ。もう一つやってもらおう」
向井「ん?」
荒幡「口がうまいから気をつけろよ」
●地下研究場
体育館のような広さの地下研究場。白い壁で覆われている。
中央に大きなコンピューターが置かれている。
一郎が入ってくる。
一郎「父さん!」
モニターがつく。梶間大作の顔が映る。
●グラックス 廊下
米山が歩いている鈴木の肩をつかむ。
鈴木「どうしたんですか? そんなおっかない顔をして」
米山「知っていたんだな?」
目を背ける鈴木。
鈴木「何をです?」
米山「薬のことも、社長のことも全部」
米山の手を振り払って走り去ろうとする。
鈴木「言えません」
米山、鈴木の手をつかみ廊下の壁にぶつける。
米山「俺たちは、荒幡さんの駒じゃない! 人間に戻れないなら、従う理由はないはずだ」
鈴木「ここを出て生きていられるわけがない」
米山「社長は、どこにいる」
黙り込む鈴木。
米山「言え! 荒幡さんは俺たちを使って自分の欲望を満たす気なんだ。目を覚ませ!」
鈴木「教授は死んでるよ」
米山「じゃあ、あれは誰なんだ」
鈴木「俺が作ったデジタルデータだ」
米山「デジタルデータ?」
鈴木「教授を運んできたときには、もう復旧は不可能だった。でも、この計画には教授の力が必要だって……」
米山「荒幡さんがそう言ったんだな?」
目をそらしながら鈴木はうなづく。
米山「社長が生きていると思った人間は、集まるしかなかったわけだ」
米山は拳を握る。
米山「何で言わなかった」
鈴木は何も言わない。下を見つめ、唇を震わせている。
米山「戻れる可能性がないとなんで言わなかった!」
鈴木はかすれた声を出す。
鈴木「言ってもどうにもならないだろう」
●地下研究所
画面に映し出される梶間大作。それを見つめる一郎。
梶間「研究所で妹を食ったらしいな」
一郎、目を見開く。
梶間「うまかったか?」
一郎「誰だ」
梶間「梶間大作だ。お前の父だ」
一郎「父さんは死んでいた。あの時、確かめたはずだ」
梶間「一郎、君は、羽化する前に何かされていたのか?」
一郎「やめろ! 荒幡トオル!」
梶間「おっと失礼。私は役者には向いていないらしい」
梶間大作の顔が荒幡に変わる。
荒幡「サンプルとしては、殺すのは惜しいかな?」
一郎「僕はお前を許さない!」
荒幡「と言うことだ。カオル頼んだぞ」
鈴峰「はぁい」
振り返る一郎。笑顔で立っている鈴峰。
鈴峰は、一郎の足元から頭の先までなめるように見る。
鈴峰「あなたからは特別な雰囲気はしないけどね」
一郎「どいてくれ。僕が用があるのは荒幡だけだ」
鈴峰「あなたわかってないわね」
一郎「何?」
鈴峰「彼は、世界を変える力を持っているのよ。あなたには何もないわ」
一郎「世界を変える?」
鈴峰「父親の言うことにいちいち振り回されてるような人間が、何を変えることができるの?」
一郎「お前たちに何がわかる!」
鈴峰「わかるわよ。あなたみたいにただなんとなく生きて、運命に流されるだけの凡人には、導くものが必要なのよ」
一郎「それが荒幡だって言うのか!」
鈴峰「そうよ。彼は完璧だわ」
一郎「完璧?」
鈴峰「彼が人類を飼うのよ。エサとしてね」
一郎「そんなの間違ってる!」
鈴峰「そうかしら? 知ってる? 解けた氷の下で、眠っている資源を貪っている国がある事を。そして、その国から、恥も外聞もなくそれを買い取っている国があることを。この星は病んでいるのよ。環境問題ひとつにしてもまとまらない人類に、支配者の資格なんてないわ」
一郎「お前たちだって元は人間じゃないか!」
鈴峰「元ね。今は違うわ。今は、この星を蝕むバイ菌を殺す免疫なのよ。あなたもね」
一郎「僕は違う!」
鈴峰「どうかしら」
鈴峰がキュラマンティスへと変貌していく。
●地下駐車場
地下駐車場に入ってくる向井。そのまま地下駐車場内を歩き続ける。
ドアを開けて橋立が向井を追ってくる。その手には拳銃が握られている。
橋立「松下、待ってろよ」
地下駐車場の柱に身を隠しつつ、向井を追っていく。
距離をつめ、再び柱に隠れる。
顔を出した橋立の前から向井の姿が消える。
橋立「?」
橋立の後ろに向井が立っている。
向井「てめぇ、何者だ?」
振り返る橋立。その首をつかみ上げ、柱に押し付ける向井。
橋立はもがき続けるが、足は宙に浮きどうにもならない。
橋立「くっ」
向井「コソコソついてきやがって」
橋立、ゆっくりと銃を向井の腹に向ける。
パン!
銃声。
時間が止まったように動かない二人。
向井「……お前、容赦無いな。だがよぉ、残念だったな」
橋立を放り投げる向井。ボールのようにコンクリートの床に転がる橋立。
銃弾がホーネットの外殻とともに床に転がり落ちる。
橋立の腹部がホーネットに変わっている。徐々に向井も変化していく。
ホーネット「反射って言うのかね。本能って言うのか」
倒れている橋立にゆっくりとホーネットが近づいていく。
橋立「松下を殺したのはお前だな?」
ホーネット「誰だそれ?」
上半身を起こして銃を構える橋立。
橋立「お前が殺した刑事だよ!」
ホーネット「お前も刑事か?」
橋立「ただの清掃作業員さ」
ホーネット「わりぃな。覚えてねぇや」
橋立「この野郎!」
パンパンパン!
連続で発射される弾丸。だが、どれもホーネットを傷つけることは出来ない。
ホーネット「もういいだろ? 人間の生き死になんて、ゴミみたいなもんなんだから」
ホーネットの足が止まる。
橋立と向井の間に割ってはいる黒い影。
●地下研究所
キュラマンティスの鎌を避けるカオス。
キュラマンティス「逃げるだけじゃ、先に進めないわよ」
カオス「荒幡に聞きたいことがあるだけだ!」
キュラマンティス「なら、私を倒してから行くことね」
カオスの胸にキュラマンティスの鎌が一閃。血が吹き出る。
カオスは距離をとりヒザを突く。左手で傷を押さえる。
キュラマンティス「あなたはどんな味なのかしらね」
鎌から滴る血の滴をキュラマンティスの小さな舌がすすり上げる。
が、すぐに吐き出す。
キュラマンティス「美味しくない」
カオスは両首筋の突起物を引き抜く。血が吹き出る。
両手にカオスブレイドが握られる。フラフラと立ち上がり、カオスブレイドを構える。
キュラマンティス「あなたは異質ね。梶間大作って男も身内びいきってことかしら」
カオス「僕は失敗作だ」
切り結ぶ虚羽化人間たち。
鎌を受け止めるカオスブレイド。
キュラマンティス「ひょっとして父親が憎いの?」
カオスの腹にキュラマンティスの蹴りが入る。吹き飛ばされるカオス。
キュラマンティス「だったら、あなたもこっちに来なさいよ。世界を支配して見返してやりましょう」
起き上がるカオス。
カオス「みんなが」
キュラマンティス「?」
カオス「どれだけ生きたいって思っていたか、知らないくせに!」
カオスブレイドを構え、キュラマンティスに飛び掛る。
しかし、その攻撃はことごとくキュラマンティスにいなされてしまう。
キュラマンティス「でも、その生きたがっていた人たちをあなたは食べちゃったんでしょ?」
カオスの動きが止まる。
キュラマンティスの鎌がカオスの右肩に突き刺さる。
キュラマンティス「あんたは中途半端な生き物ね。人間でも虚羽化人間でもない! 虫唾が走るわ!」
振り上げられるキュラマンティスの右鎌。首をかばうカオスの左腕。振り下ろされる鎌。動きが止まる二人。
キュラマンティス「本当にいやな奴ね」
キュラマンティスが後ずさる。その腹部にカオスブレイドが突き刺さっている。
キュラマンティス「だけどこれからのことを考えたら、少しは同情するかもね」
人間に戻っていく鈴峰。
残されたもう一方のカオスブレイドを手に近づいていくカオス。
警報が鳴り出す。
警備員たちが一斉に研究所の中になだれ込んでくる。取り囲まれるカオス。
警備員A「武器を捨てろ!」
遠巻きにカオスを見ている警備員たち。
倒れている鈴峰を確保する警備員。
警備員B「どうだ?」
警備員C「ダメです。もう息がありません」
警備員A「おとなしく投降しなければ、武力制圧するぞ!」
カオスは警備員たちを見回す。
カオス「邪魔をしないでくれ! あんたたちと戦う気はない!」
警備員A「黙れバケモノ!」
●地下駐車場
橋立とホーネットの間に立っている米山。
ホーネット「どういうつもりだ」
米山「行ってください」
立ち上がりホーネットに銃を向ける橋立。
米山「死にたくなかったら、さっさと行くんだ!」
橋立、米山を見つめる。米山は、じっとホーネットを見ている。
ゆっくりとその場を離れていく橋立。
ホーネット「お前、自分が何してるのかわかってるのか?」
米山「わかってます。向井さんこそ、これは命令違反ですよ」
ホーネット「死にてぇのか?」
米山「向井さんの針は僕には通用しませんよ?」
ホーネット「それで、脅してるつもりか?」
米山「とんでもない」
人間に戻る向井。
米山「ありがとうございます」
向井「次に邪魔したら殺すからな」
バイクにまたがり走り去っていく向井。
それを見送る米山。
●オフィス街
警備員らしき人間が走り回って誰かを探している。
橋立は、彼らから逃れるように薄暗い路地に滑り込む。
橋立「くそぅ」
携帯電話を取り出し、安村にかける。
呼び出し音が鳴り続ける。
橋立「はやく、早く出ろ」
呼び出し音は続く。
電話を切る。
橋立「何やってんだ」
視線を感じ、路地の奥を見る。
薄暗い路地の視界は悪い。
つばを飲み込む。
橋立「誰かいるのか?」
拳銃を構え、奥に向かっていく。
座り込んでいる人影が、奥に見える。
橋立「お前……、梶間か?」
一郎、身動き一つしない。側にカオスブレイドが落ちている。
橋立、カオスブレイドを拾う。瞬間、カオスブレイドが粉々に崩れ去る。粉々になった結晶に触ってみる橋立。
橋立「悪い。壊しちまった。まいったな」
橋立は、上着を脱いで結晶を集める。
●喫茶ターム 夕方
彦二、心ここにあらずと言った感じで、ティーカップを拭いている。
そこに珠恵が走りこんでくる。
珠恵「大変よ!」
彦二「ん?」
珠恵「テレビテレビ!」
彦二「何? 誰か結婚でもしたのか?」
珠恵「バカなこと言ってないで、早く」
テレビをつける彦二。
アナウンサー「…この言葉を話す猫、なんですが…」
彦二「おお、そりゃ大変だ」
珠恵「バカ」
チャンネルを切り替える珠恵。
アナウンサー「グラックスの前身である倉持製薬の創業者一族で、元会長職にもあった倉持エイコさんが、本日殺害されると言う事件が起こりました。そして、グラックス本社でも鈴峰カオルさんが殺害されたとのことです。グラックス現社長梶間大作氏とその息子一郎さんが行方不明ということで、詳細はわかっておりませんが、一部情報では一郎容疑者が鈴峰さんを殺害後逃走という情報も入っております。さらに捜査関係者によると梶間一郎容疑者は倉持エイコさんの殺害にも関わっているとの話です」
彦二「え?」
珠恵「さっきビデオが流れてたところがあったんだけど」
彦二「ビデオ?」
アナウンサー「引き続きグラックス襲撃事件についてお伝えいたします。本日15時頃グラックス本社に男が侵入。女性社員を一人殺害後、社長を誘拐し逃走とのことです。また、これよりしばらく後にグラックスの創業者一族の倉持エイコさんが殺害される事件も発生しており、警察では関連を含め調査を行っております」
彦二「まさか…」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる