DREAM EATER

大秦頼太

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DREAM EATER 19

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 ズカルは酔いが覚めた後、ソトミネから説明を受けて少し考えた様子を見せると、すぐにビアストリーノに連絡をした。ビアストリーノは案外あっさりとムグルの魔術師連合を大連合に加えることに賛成をした。
 これで3つの連合が賢者の塔を目指す事になった。
 各連合の主だったメンバーが作戦会議を開くことになった。
 賢者の塔にたどり着くためには山道を越えて深い霧の森を抜けねばならない。山道の問題点は侵入可能エリアが限られており、大群で動くには向かないどころか、詰まって動けなくなってしまう。
「昨日の時点でポーの連合が街を通りすぎており、山で罠を張っているという噂も出てます」
 ビアストリーノ連合のドイという戦士の報告を聞くと、ズカルは立ち上がった。
「連合が団子になったまま行けば、戦闘移動にも支障が出る。ここは仲良く順番を決めたほうが良いと思う。先に進む連合を後から行く2つの連合が守る。先に行った連合が通過後にふたつ目の連合が行く。その際、先に行った連合が前から来るかもしれない敵を警戒する。ちなみに山道で襲われたら、通過中の連合が敵に当たり援護はなるべく求めないっていうことかな。魔術師しかいないシーアンのところは不利になるかもしれないから、壁役の戦士を呼んでくれてもいい」
 シーアンは軽く笑って断る。
「大丈夫ですよ。皆さんは魔術師を過小評価しすぎですから」
「ビアストリーノは?」
「それでいい。ただ、順序は私が決めていいだろうか? 先頭は我々が行く。その後でズカルの連合が来て、最後にシーアンの連合だ」
「だが、魔術師しかいないシーアンの部隊を最後にするというのは」
「構いませんよ。我々は新参者ですから」
「わかった。よろしく頼む」
 ズカルはそれから終始機嫌が悪いように見えた。特定会話で尋ねてみても返事はなかった。

 やがて3つの連合は山道を進み始める。ビアストリーノの連合が先に行く。僕たちの連合とシーアン率いるムグルの魔術師連合は周囲を警戒する。左右の林からも中央の街道からも人気は感じられない。緊張を緩める僕らの側にシーアンがやって来て、
「いますね」
 とつぶやく。
「なんで分かる?」
「ただの勘ですよ」
 シーアンは笑う。その時だった。街道に人影がたった一人立っているのが見えた。魔法も弓も届かない距離にぽつんと立ち尽くしてこちらを見ている。
 ざわつくズカルの連合参加者たち。それに比べてムグルの魔術師たちは落ち着いていた。
「大した勘だな」
「おい、昨日の連中だと少し面倒くさいからな。全員で行くぞ!」
 ズカルは右手を振り上げて連合に命令を出し動かそうとしたが、シーアンがそれを止める。
「放っておくのが良いでしょう。下手に追うと罠にはめられますよ」
「僕もそう思う」
 ソトミネも連合を動かすことに反対した。ズカルは二人を交互に見て、所在無げに右手を下ろす。
「無しだ! そろそろ通過が終わる。シーアン、先に行け」
 怪しい奴の姿が見えた以上、攻撃に弱い魔術師を残していくことは出来ない。だが、シーアンはいたって落ち着いてズカルの申し出を断った。
「我々は大丈夫です」
「いいのか?」
「魔術師の恐ろしさを広めるいい機会です。この世界は戦士ばかりが目立ちすぎる」
 そう言うと、シーアンはムグルの魔術師たちに命令を出した。全員がズカルの連合を山へ追うように後方の道を塞ぐ。
「どうぞ」
 ビアストリーノたちからも通過の報告を受けると、僕らは山道へ入っていく。気になったので僕は割と後方へ並ぶ。ソトミネも同じだった。ズカルは中ほどにいる。僕らが山道を登り始めると、それに合わせるかのように林の中を移動してくる人影が見下ろせた。
「来てるぞ!」
 そう叫んだがシーアンは気にする風でもなかった。右手の林から100人近い戦士たちが猛然とムグルの魔術師たちに襲いかかっていくのが見えた。
「魔法の詠唱は少し時間がかかるから、あの距離はヤバイかも」
 ソトミネが言った。
 手前に第一の魔術師PTの傭兵の魔術師120人が並び、次の列も第二の魔術師PTの魔術師の傭兵が120人。その後ろにムグルの魔術師18人が横に並び、その後ろを第三の魔術師PTの傭兵魔術師が120人並ぶ。
 第一PTのムグルの魔術師たちは右の敵に向かって魔術を使いはじめる。その種類を見てソトミネが気がつく。
「あれは範囲魔法! ダメだ! やってくる敵全体にダメージを与えようって思ったって範囲魔法じゃ領域防御があるキャラクターにはまるで効かないんだ!」
「じゃあ」
「シーアンは対人なんかしたことがないのかも知れない。あれじゃあ、全滅しちゃうよ!」
「すぐに助けに行かないと!」
 しかし、戻ろうにも自らの傭兵を止めても後ろからやってくる他人の傭兵たちが邪魔になって動けない。
「くそ! せめて、特定会話で」
 慌てる僕の肩を、ソトミネが掴んだ。
「待って、何だあれ」
 ソトミネの驚く顔。その視線の先では、光と嵐が巻き起こっていた。第一列の魔術師たちが唱える光の範囲魔法が止むことのない光と轟音を巻き起こし右の林から飛び出した敵を飲み込んでいた。それが収まる頃にはて右の林側で動いているものはいなかった。
「どういうことなんだ? レベルがカンストしてれば、魔法なんてほとんど効かないはずなのに」
 そう言っているうちに今度は左の林から敵が飛び出してくる。さっきよりも距離が近い。第一列の反転が間に合わず、第二列との間に敵が入り込んでしまう。魔術師の傭兵たちはただ防御の姿勢になるばかりだった。
「ああ、今度こそダメだ。くっつかれたら魔術師は何もできなくなる」
 ソトミネが口に手を当てる。攻撃を受ける第一列と第二列の魔術師の傭兵たち。ここぞとばかりに暴れまわる敵の戦士たち。その時、第三列から赤黒い霧のようなものが大量にこれも一斉に放たれる。
 第一列と二列が霧に包まれ見えなくなった。徐々に静かになっていく。やがて霧が晴れると魔術師たちは何事もなかったように綺麗に整列をしていた。誰一人倒れていない。そこにあるのは敵の死体だけだった。
 また左の林から飛び出してきた者がいたが、集団で街道を遠ざかっていくだけだった。
「おい! 何やってんだ!」
 ズカルから叱られ、僕らの意識は山越えに戻る。ソトミネは不思議そうにずっと考え事をしていて、何を聞いても「あー」とか「うん」などとしか言わなかった。

 山を超えた後、街道は森の中に入っていく。霧の深い森だという話だったが、至って普通だ。街道は曲がりくねり木々の根が飛び出ていたりするので歩きづらさはあったが、僕らは長い列になりながら、時々現れるモンスターを排除しながらどんどん遠くへと進んで行った。
 休憩の時にソトミネにムグルの魔術師たちの戦闘について教えてもらったのだが、領域防御は連続でその領域に攻撃を受けると徐々に崩壊をしていくのだという。通常の場合であれば、次の魔法まで時間がある。その空いた時間で領域防御についた傷は修復されるので魔法は極めて効きにくいものだと思われていた。特にレベルが上がりきった現在は、魔術師は生命力を回復させたり補助の魔法をかけるだけと思われるようになっていた。そのせいで雇っていた魔術師の傭兵をわざと殺し、戦士の傭兵に乗り換えるなんていうプレイヤーも少なからずいた。
 シーアンたちは領域防御の崩壊に気が付き魔術師の地位を回復させた。あの戦いで連続で126回もの同領域攻撃を受けた右手の敵は、領域防御の傷が治ることなく一気に崩壊まで持って行かれ、更に押し寄せる光にその生命を焼きつくされたのだ。
 さらには左からの敵は第一列と第二列の間に入るまでは成功だったのではなく、シーアンによって呼び込まれていたのだ。魔術師たちは敵と接戦になった際、すぐに防御に入った。ダメージを減らすために。そして、第三列目の赤黒い霧である。この霧の正体は魔法「ライフスティール」で、敵の生命力を吸い取り、味方側の一番弱っているものに奪った生命力を与えるという魔法だった。
 このライフスティール自体はレベルの高い魔法ではない。ただ、魔法の熟練度と連続魔法での領域防御の低下によって敵にとって恐ろしい死の霧となったのだ。攻撃を受けた魔術師も奪い取った生命力を与えられ傷を回復させていた。そして、魔法が効果を終えた時に生きていられるのは味方だけだったのだ。
 ソトミネは楽しそうに語った。
「こんな風になってたとは思わなかった! いやあ、シーアンさんに素直に聞いてみて良かった」
 苦手だとか言っていたような気がしたが、ソトミネはもうそんなことなど覚えている様子はなかった。それどころか特定会話で、「どうしたら勝てるかな?」などと聞いてくるのだった。

 前が詰まり始める。各連合で固まるように通達が来る。西からシーアン、中央にビアストリーノ、東にズカルの連合が陣を構えた。南には僕らが来た街道があり、北には薄い灰色をした霧に覆われた森が侵入者を拒むような重苦しさを見せつけていた。
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