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DREAM EATER 20
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「この霧の森を抜ければ賢者の塔だ」
誰かがつぶやく。
僕らは灰色に煙る霧の前に立っていた。霧は流れ出てこない。ずっと森の中に漂っている。
「霧の中は傭兵の展開ができない」
シーアンが連合会話で言った。
そこで1PTずつ霧の中に入っていくことになった。ビアストリーノ連合のPT、ズカルの連合のPT、シーアンの連合PTと続いて入っていく。ネット接続スキルを持つ者はそれぞれの連合の真ん中に配置された。
霧の中を進む。景色はほとんど変わらない。灰色の霧。近くの木は黒く空に向かって伸び、遠くに行くに連れ灰色の霧に溶けている。
戦闘は少なからず発生していたが、そのすべてがモンスターとの戦闘だった。
「道から離れるなよ。わからなくなるからな」
誰かが言った。小規模な戦闘が起こるたびに連合から迷子者が出る。会話は出来るのでロストではなかったが、一人きりになったところをモンスターに襲われ、命を落とすものもいた。
長い。とにかく長かった。塔までの直線距離は大したことがなかったはずなので、この霧が何か特殊な効果を持っているのだろう。
「ダメだ! 霧の中から出るな!」
ビアストリーノの連合の先頭を行くPTからだった。
「待ち伏せだ!」
3つの連合はほとんどが霧の中だ。突如起こった戦闘に大混乱を極める。道を戻ろうとして後続の者達とぶつかりどちらにも進めなくなる。
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
「どけ! 逃げろ! 攻めてくるぞ!」
「戻って態勢を立てなおそう!」
「ダメだ! 防御姿勢のまま出るんだ!」
様々な声が飛び交い連合のリーダーたちの声がかき消される。
道を外れ、霧の中から森の外に飛び出ようとするPTもいたが、彼らはすぐに森の中で遭難者となった。
ビアストリーノの連合が特に酷かった。60人いたプレイヤーはもう30人以下になっている。
僕らがいるズカルの連合でも、8人は行方不明になりその後会話も聞こえてこない。4PT15人になってしまった。
その中でも一人も失うことなく後ろを守り続けるムグルの魔術師たちは頼もしいというより、どこか恐ろしい印象を他の連合に与えていた。
恐怖は判断を鈍らせる。ビアストリーノの連合の誰かが言った。
「魔術師たちが裏切ったんだ! 後ろから攻撃してくるぞ!」
最悪だった。ビアストリーノ連合が霧の外に出ることを止め、連合の仲間に武器を向けようとしているのだ。
「連合を切れ! 解除しろ! 殺られる前に殺るぞ!」
もはや混乱の極みだ。
真ん中にいるズカルの連合にも同様の混乱が訪れようとしていた。
だが、ズカルは自らの連合会話で命令を下した。
「前方に壁を! プレイヤーで防御壁を作れ! 攻撃はするな。とにかく耐えろ。誰も通すな!」
バラバラと僕らは15人で道を塞ぐ。背中はがら空きだ。チラと後ろを見ると、シーアンたちは回復魔法を僕らにかけてくれている。
「どういうつもりだ! 裏切ったのか!」
もはや、ビアストリーノ自身も恐怖の虜だった。
「落ち着けバカ野郎! 待ち伏せ食らったからってパニくってんじゃねぇぞ!」
ズカルが言った。
「下がれ! とにかく下がれ!」
ビアストリーノ連合の背中の先、森の出口から黒い影が突っ込んできた。
「挟み撃ちされるぞ! 霧の中に逃げろ!」
ヒアストリーノの連合は壊滅状態だった。
黒い影は抗争屋連合アビスのPTだった。たった6人に、ビアストリーノ連合は崩壊させられたのだ。
「防御から攻撃態勢に!」
ズカルの命令で僕らが動くよりも先に、アビスたちは森の出口に消えた。攻撃目標を失い戦闘が終了したところにアビスたちはまた現れて単発的な速攻を繰り返してくる。
「なんで! 同じ条件のはずだ! どうして向こうの攻撃のほうが早いんだよ!」
誰かの声。それにソトミネが答える。
「どうやら森の向こうからはこっちが見えるみたいだ」
「そんなの不利じゃないか」
「それだから仕掛けてくるんでしょ」
とソトミネが言った。
「ズカル! どうする?」
「俺に聞くな! とにかく固まって防御だ! 畜生、このまま進むしかないか?」
「ズカル殿、我々に一つ策があるが、どうしますか?」
シーアンがゆっくりと近づいてくる。
「どうする気だ? 町まで戻るのか? それとも逆の入り口まで引くのか?」
「いいえ、このまま進むんですよ」
「なに? どうやって」
「我々と戦ってもらいます」
そう言って、シーアンの連合は僕らとの大連合を一方的に破棄した。
誰かがつぶやく。
僕らは灰色に煙る霧の前に立っていた。霧は流れ出てこない。ずっと森の中に漂っている。
「霧の中は傭兵の展開ができない」
シーアンが連合会話で言った。
そこで1PTずつ霧の中に入っていくことになった。ビアストリーノ連合のPT、ズカルの連合のPT、シーアンの連合PTと続いて入っていく。ネット接続スキルを持つ者はそれぞれの連合の真ん中に配置された。
霧の中を進む。景色はほとんど変わらない。灰色の霧。近くの木は黒く空に向かって伸び、遠くに行くに連れ灰色の霧に溶けている。
戦闘は少なからず発生していたが、そのすべてがモンスターとの戦闘だった。
「道から離れるなよ。わからなくなるからな」
誰かが言った。小規模な戦闘が起こるたびに連合から迷子者が出る。会話は出来るのでロストではなかったが、一人きりになったところをモンスターに襲われ、命を落とすものもいた。
長い。とにかく長かった。塔までの直線距離は大したことがなかったはずなので、この霧が何か特殊な効果を持っているのだろう。
「ダメだ! 霧の中から出るな!」
ビアストリーノの連合の先頭を行くPTからだった。
「待ち伏せだ!」
3つの連合はほとんどが霧の中だ。突如起こった戦闘に大混乱を極める。道を戻ろうとして後続の者達とぶつかりどちらにも進めなくなる。
「落ち着け! 落ち着くんだ!」
「どけ! 逃げろ! 攻めてくるぞ!」
「戻って態勢を立てなおそう!」
「ダメだ! 防御姿勢のまま出るんだ!」
様々な声が飛び交い連合のリーダーたちの声がかき消される。
道を外れ、霧の中から森の外に飛び出ようとするPTもいたが、彼らはすぐに森の中で遭難者となった。
ビアストリーノの連合が特に酷かった。60人いたプレイヤーはもう30人以下になっている。
僕らがいるズカルの連合でも、8人は行方不明になりその後会話も聞こえてこない。4PT15人になってしまった。
その中でも一人も失うことなく後ろを守り続けるムグルの魔術師たちは頼もしいというより、どこか恐ろしい印象を他の連合に与えていた。
恐怖は判断を鈍らせる。ビアストリーノの連合の誰かが言った。
「魔術師たちが裏切ったんだ! 後ろから攻撃してくるぞ!」
最悪だった。ビアストリーノ連合が霧の外に出ることを止め、連合の仲間に武器を向けようとしているのだ。
「連合を切れ! 解除しろ! 殺られる前に殺るぞ!」
もはや混乱の極みだ。
真ん中にいるズカルの連合にも同様の混乱が訪れようとしていた。
だが、ズカルは自らの連合会話で命令を下した。
「前方に壁を! プレイヤーで防御壁を作れ! 攻撃はするな。とにかく耐えろ。誰も通すな!」
バラバラと僕らは15人で道を塞ぐ。背中はがら空きだ。チラと後ろを見ると、シーアンたちは回復魔法を僕らにかけてくれている。
「どういうつもりだ! 裏切ったのか!」
もはや、ビアストリーノ自身も恐怖の虜だった。
「落ち着けバカ野郎! 待ち伏せ食らったからってパニくってんじゃねぇぞ!」
ズカルが言った。
「下がれ! とにかく下がれ!」
ビアストリーノ連合の背中の先、森の出口から黒い影が突っ込んできた。
「挟み撃ちされるぞ! 霧の中に逃げろ!」
ヒアストリーノの連合は壊滅状態だった。
黒い影は抗争屋連合アビスのPTだった。たった6人に、ビアストリーノ連合は崩壊させられたのだ。
「防御から攻撃態勢に!」
ズカルの命令で僕らが動くよりも先に、アビスたちは森の出口に消えた。攻撃目標を失い戦闘が終了したところにアビスたちはまた現れて単発的な速攻を繰り返してくる。
「なんで! 同じ条件のはずだ! どうして向こうの攻撃のほうが早いんだよ!」
誰かの声。それにソトミネが答える。
「どうやら森の向こうからはこっちが見えるみたいだ」
「そんなの不利じゃないか」
「それだから仕掛けてくるんでしょ」
とソトミネが言った。
「ズカル! どうする?」
「俺に聞くな! とにかく固まって防御だ! 畜生、このまま進むしかないか?」
「ズカル殿、我々に一つ策があるが、どうしますか?」
シーアンがゆっくりと近づいてくる。
「どうする気だ? 町まで戻るのか? それとも逆の入り口まで引くのか?」
「いいえ、このまま進むんですよ」
「なに? どうやって」
「我々と戦ってもらいます」
そう言って、シーアンの連合は僕らとの大連合を一方的に破棄した。
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