5 / 23
DREAM EATER 4
しおりを挟む
訓練場は背の高い木柵で囲まれている。地面は砂地だが固く石ころばかりが目立つ荒れ地のようだった。この施設には訓練を延々と続けるNPCとそれを監督するNPCがいて、彼らは昼夜休むことなく武器を振り続けている。この辺りはリアリティに欠ける。
そう。夜が来る。時計がないので現実の時間はわからないのだが、本当の時間よりはかなり早いだろう。
訓練場では施設内の練習場を使えば負けても罰則を受けることもなくレベル5まで上がることがわかった。ズカルと模擬戦闘を何度かした。戦闘が始まると互いに9×9マスのフィールドが表示される。そのマス内であれば攻撃が可能だということだった。戦士だからといって接近戦しか出来ないわけではなく、地面に落ちている石を拾って投げることも可能だった。接近戦に飽きた後、何気なく始めた追いかけっこでわかったことは僕の81マスとズカルの81マスのどこかが触れていれば戦闘は継続される。
「スキルはまだ取らないのか?」
スキルを持たない僕は戦闘のたびにズカルに見下される。
「まだどうしようかわからないんだ。簡単にキャラを作り変えられないことがわかったからなおさら迷うよ」
「まだ初期なんだからあんまり考えすぎるな」
「そうだね」
と言いつつももうしばらく取らないでおくつもりだ。誰かが派生スキルを取り、その使用感が聞こえてきてからでも悪く無いと思う。報奨という響きは魅力だが、どうせならいろいろ有利な条件を見つけ出して正式スタート後にスタートダッシュを決めたい。
レベルも上がらなくなり、訓練にも飽きた頃、また入り口が騒がしくなった。
「またか」
SPが戻ってくるたびに不満の声を上げる者がいる。しかし、今度は違ったようだ。
「初心者同士が戦闘状態を続けることで町まで安全に行けるらしい」
そんな話が聞こえてきた。
「なんでだ?」
「嘘くさいな」
「なんでも初心者同士の1:1戦闘には誰も参加できないらしいんだ。SPもそれをしながら町まで行ってるらしい」
「俺達もそれをしながら行けばいいじゃねえか!」
「おお!」
湧き上がる歓喜の声。
「待てよ。戦闘が終わったらPVの場合罰則があるじゃないか。訓練所でも言ってただろ」
「まじか」
「SPはどうしてるんだ?」
「SPだったら勝っても負けてもペナルティがないんじゃないか?」
「ひどwww」
「ずるいなwwwww」
「罰則ってどんなん?」
「賠償金の請求だろ」
「何だそんなもんか」
「レベル1の方いませんかー? こっちも1です」
「俺、5だよwwwwww」
「SP待てwwwwww」
「決まりましたー。行ってきまーす!」
「誰か戦闘~。俺、負けるからー」
怒涛の勢いで会話が進み訓練場からどんどん人が外へと流れていく。
「どうする?」
ズカルがこっちを見る。僕たちは戦闘開始と終了の手順ならば飽きるほどこなしてきた。やってやれないことはないだろう。
「ズカルが勝つじゃん」
ニヤッと笑うズカル。
「まあな。アンヴィーはスキル覚えてないからな」
「何だよアンヴィーって」
「アンヴィドルフって言いにくいんだよ」
「他に手が無いもんか」
途方に暮れる僕を見てズカルがニヤニヤを繰り返す。
「なんだよ」
「ヘルプでPVPの項目にある賠償から放棄って言う項目があるだろ」
ヘルプは両の手のひらを合わせ本のように開くことで呼び出すことが出来る。その後はタブレットのような使い方になる。
ズカルの言っている賠償の放棄は、勝者が特定の敗者の賠償の放棄を選択することでその請求権を放棄し、特定敗者の倍賞をなくすことが出来る。というものだった。
「おお! これで解決じゃん」
「俺が、お前を騙してるとしたらどうする?」
「ズカルはそんな器用なこと出来ないはずだ」
「なに? お前、」
「本当にそうならわざわざ言わないだろ」
ズカルはその言葉を受けてきょとんとする。直後に大笑いだった。
「だっはっは。そうだな。よし、一応武器は外して素手の攻撃で行くぞ」
そう。夜が来る。時計がないので現実の時間はわからないのだが、本当の時間よりはかなり早いだろう。
訓練場では施設内の練習場を使えば負けても罰則を受けることもなくレベル5まで上がることがわかった。ズカルと模擬戦闘を何度かした。戦闘が始まると互いに9×9マスのフィールドが表示される。そのマス内であれば攻撃が可能だということだった。戦士だからといって接近戦しか出来ないわけではなく、地面に落ちている石を拾って投げることも可能だった。接近戦に飽きた後、何気なく始めた追いかけっこでわかったことは僕の81マスとズカルの81マスのどこかが触れていれば戦闘は継続される。
「スキルはまだ取らないのか?」
スキルを持たない僕は戦闘のたびにズカルに見下される。
「まだどうしようかわからないんだ。簡単にキャラを作り変えられないことがわかったからなおさら迷うよ」
「まだ初期なんだからあんまり考えすぎるな」
「そうだね」
と言いつつももうしばらく取らないでおくつもりだ。誰かが派生スキルを取り、その使用感が聞こえてきてからでも悪く無いと思う。報奨という響きは魅力だが、どうせならいろいろ有利な条件を見つけ出して正式スタート後にスタートダッシュを決めたい。
レベルも上がらなくなり、訓練にも飽きた頃、また入り口が騒がしくなった。
「またか」
SPが戻ってくるたびに不満の声を上げる者がいる。しかし、今度は違ったようだ。
「初心者同士が戦闘状態を続けることで町まで安全に行けるらしい」
そんな話が聞こえてきた。
「なんでだ?」
「嘘くさいな」
「なんでも初心者同士の1:1戦闘には誰も参加できないらしいんだ。SPもそれをしながら町まで行ってるらしい」
「俺達もそれをしながら行けばいいじゃねえか!」
「おお!」
湧き上がる歓喜の声。
「待てよ。戦闘が終わったらPVの場合罰則があるじゃないか。訓練所でも言ってただろ」
「まじか」
「SPはどうしてるんだ?」
「SPだったら勝っても負けてもペナルティがないんじゃないか?」
「ひどwww」
「ずるいなwwwww」
「罰則ってどんなん?」
「賠償金の請求だろ」
「何だそんなもんか」
「レベル1の方いませんかー? こっちも1です」
「俺、5だよwwwwww」
「SP待てwwwwww」
「決まりましたー。行ってきまーす!」
「誰か戦闘~。俺、負けるからー」
怒涛の勢いで会話が進み訓練場からどんどん人が外へと流れていく。
「どうする?」
ズカルがこっちを見る。僕たちは戦闘開始と終了の手順ならば飽きるほどこなしてきた。やってやれないことはないだろう。
「ズカルが勝つじゃん」
ニヤッと笑うズカル。
「まあな。アンヴィーはスキル覚えてないからな」
「何だよアンヴィーって」
「アンヴィドルフって言いにくいんだよ」
「他に手が無いもんか」
途方に暮れる僕を見てズカルがニヤニヤを繰り返す。
「なんだよ」
「ヘルプでPVPの項目にある賠償から放棄って言う項目があるだろ」
ヘルプは両の手のひらを合わせ本のように開くことで呼び出すことが出来る。その後はタブレットのような使い方になる。
ズカルの言っている賠償の放棄は、勝者が特定の敗者の賠償の放棄を選択することでその請求権を放棄し、特定敗者の倍賞をなくすことが出来る。というものだった。
「おお! これで解決じゃん」
「俺が、お前を騙してるとしたらどうする?」
「ズカルはそんな器用なこと出来ないはずだ」
「なに? お前、」
「本当にそうならわざわざ言わないだろ」
ズカルはその言葉を受けてきょとんとする。直後に大笑いだった。
「だっはっは。そうだな。よし、一応武器は外して素手の攻撃で行くぞ」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる