転生、からの下剋上。誰も知らない無能スキルは、実は誰もが知っている伝説スキルだった……? わかんないので、とりあえず取扱説明書くださいっ!!

間瀬

文字の大きさ
3 / 6

2

しおりを挟む
 空雅は、強制的に夢の世界から引きずり戻された。

「坊主、さっさと起きろっ!」

 威勢のよい怒鳴り声とともに、彼の耳元でやかましい音が響く。
 何事かと目を開けてみれば――

「おはようございます……なにトンチキカンチキやってるんですか?」

 ――大鍋を片手に、ドラのように鳴らすガタイの良い強面のヒゲモジャ男が立っていた。

「どう考えても、そんな軽い音じゃないだろ……」
「そうでしょうか?」

 元芸術家と言うだけあって(?)空雅の感性は少々狂っ……ズレているようである。
 これで世界の求めているものを提供し続けてきたのであるから、正に摩訶不思議というものである。

「坊主、耳おかしいな」
「それは僕の台詞です」
「なかなか言うようになったじゃねぇか」

 ヒゲモジャ男は、鉄さびのついた拳――先程の大鍋の轟音は殴って出していたらしい――で空雅の頭をぐりぐりと押す。
 空雅は思いっきり顔をしかめた。

「痛いですっ!」
「悪い悪い」

 謝りつつ、ヒゲモジャ男はハハハッ――いや、ガハハッというような笑い声を上げた。
(笑いながらとか、謝罪の態度が間違っています。もっと誠意を見せなさい、誠意をっ)
 まさにそのとおりである。
(さあ、這いつくばるのです!)
 ……そのとおり、なの、か……?
 憮然としている空雅を横目に、ヒゲモジャ男は居住まいを正した。

「にしても、坊主ともこれで別れかぁ……」

 妙に感傷的な表情でなにを言い出すかと思えば、これである。
 空雅が唖然としたのも、仕方のないことであろう。

「なんだ、もしかして聞いてないのか?」

 もちろん何も聞いてない。
 何の話だ、さあ来いっ、とばかりに空雅は万全を期して身構えた。

「坊主は、今日売られるんだとさ」
「……はい?」

 万全は期していなかったらしい。
 すん、と無表情になった空雅を、ヒゲモジャ男は神妙な顔つきで見つめた。
 人間、場違いな表情を凝視されるのは居心地が悪くなる。
 それが元来の性というものである。
 常識人であるかどうかは、この際横に置いておく。

「どうした……?」

 キリッとした面持ちで姿勢を正した空雅に、ヒゲモジャ男は訝しげな声を上げた。
(姿勢を正しただけで特に何も考えていませんでしたが、期待させておいて何も言わないのはカッコ悪いですよね)
 やはり、思考回路がズレている。

「覚悟しておいてください。僕は今日、脱走します」

 堂々と宣戦布告!
 ……自分からハードルを上げて、どうするというのだろう……。
 どこまでも、不思議な少年である。

「そうかそうか、坊主は朝から絶好調だな」

 幸いにも、冗談と受け取ってくれたようだ。
 空雅は、前世の不摂生さが霞むほどに筋肉がなく、異様に重く感じられる体を起こす。

「朝ご飯ください」
「ほい」

 ずい、と差し伸べた手に載せられたのは――。
 ……予想通りというべきか、日が経ってカチカチに乾燥しきった黒パンの欠片……ですらなく、一番硬い皮部分である。
 これは、予想の範疇外だった。
(流石に……いつもはもう少し多くて、食べやすかったような……)
 一晩で完全に同化した「記憶」調べである。
 水準量ですら、毎日食べていてこの不健康すぎる体つきである。
 その少なさたるや、言うまでもない。

「旦那がな……どうせ売り払うんだから、食費を余計に使うな、とさ」
「……なるほど」

 なかなか柔らかくならないパン皮と格闘しつつ、空雅は唇を尖らせた。
 器用なものである。
(いくら資金繰りが苦しくても、倹約しすぎです!)
 ヒゲモジャ男の主は倹約家ではない。
 ただただケチなだけで、資金繰りは苦しいどころか順風満帆である。
 成長期の少年の生育状態など、我が子でもない限りどうでも良いという人種なだけで。
 いや、我が子ですら怪しいかもしれない。

「ごちそうさまでした」
「んじゃ、行くぞ」

 空雅が黒パン本体の残骸をもぐもぐと食べ終えるやいなや、ヒゲモジャ男は空雅を急かした。

「遅いぞ、ちんたらするな」

 結局、すでに蜘蛛の巣と化した部屋のような箱から追い出された。
 家畜さながらに廊下を追い立てられ、昨日と同じ部屋に押し込まれる。

「あぁ、来たか。買い手が到着するまでしばらくあるから、そこら辺の床にでも座って待ってろ」

(体力使い果たして契約成立前に買い手奴隷商の前で倒れました、では価値が下がるから……ですね)
 大正解である。
 やがてやってきた買い手は――狡猾さを隠そうともしない商人であった。
(こんな人間を取引相手に選ぶだなんて、見る目がないですね!)
 商品は自分の身であるというのに、ずいぶんと呑気なものである。

「――では、その条件で」

 取引は早々に決着がついたようで、がっちりと握手を交わしている。
(ちょっと痛そうです)
 人の身より先に、己の身を心配するべきではなかろうか。
 奴隷商人に引っ立てられて明るい光の降り注ぐ外に出ると――厳重な作りの檻があった。
 馬に引かれているから、馬檻だろうか……?
 ともかく、そこに押し込まれるより前に逃げなければ、助かる見込みはなくなるだろう。
(まずいですね……)
 空雅も、ようやく危機感を感じ始めたらしい。
 悠長なハイエルフである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

見捨てられた(無自覚な)王女は、溺愛には気付かない

みん
恋愛
精霊に護られた国ルテリアル。精霊の加護のお陰で豊かで平和な国ではあったが、近年ではその精霊の加護も薄れていき、他国から侵略されそうになる。戦いを知らない国王は、スネフリング帝国に助けを求めるが、その見返りに要求されたのは──。 精霊に護られた国の王女として生まれたにも関わらず、魔力を持って生まれなかった事で、母である王妃以外から冷遇されているカミリア第二王女。このカミリアが、人質同然にスネフリング帝国に行く事になり─。 ❋独自設定有り。 ❋誤字脱字には気を付けていますが、あると思います。すみません。気付き次第修正していきます。

異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

はぁ?どうしろと?

Lam
ファンタジー
ある意味とばっちりな事故で死んでしまったアラサー女性の明日はどっちだ?

ガチャで大当たりしたのに、チートなしで異世界転生?

浅野明
ファンタジー
ある日突然天使に拉致された篠宮蓮、38歳。ラノベは好きだが、異世界を夢見るお年頃でもない。だというのに、「勇者召喚」とやらで天使(自称)に拉致られた。周りは中学生ばっかりで、おばちゃん泣いちゃうよ? しかもチートがもらえるかどうかはガチャの結果次第らしい。しかし、なんとも幸運なことに何万年に一度の大当たり!なのにチートがない?もらえたのは「幸運のアイテム袋」というアイテム一つだけ。 これは、理不尽に異世界転生させられた女性が好き勝手に生きる物語。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...