短き者達

雨彩 色時

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終わりを望む者

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 幼い頃に僕は大人が羨ましいと思った。働く事が出来て、僕では手に入らないくらいの財力がある。味や良さなんて分からないがお酒や煙草を嗜める。僕は父親にお酒や煙草をどうしてするのか聞いた。

「頑張った大人のご褒美だな。俺はこの二つが無ければ頑張れない」


 お酒は呑んだ翌日には気持ち悪いと呟き、煙草なんて臭いのに父親は毎日のようにそれをする。基本的に嫌なことがあったり、嬉しいことがあったりするとするらしい。

「いつかはお前と一緒に呑みたいな」


 父親の願いは叶わず、僕が成人する前に亡くなった。後数ヶ月もすれば僕は父親の願いを叶えられた。成人して初めてお酒を呑むが美味しいとは思わない。父親はなぜこんなモノを何杯も呑んでいたのか不思議である。
 僕が社会人になるとお酒の付き合いが多くなった。煙草は職場の先輩に誘われて、最初は咽せる。しかし、次第にそれは無くなりストレスが無くなる気がした。

 僕は順調に仕事をこなして出世もした。大変な時期や偉い人から小言を言われたら、家に帰って忘れることを試みる。
 お酒と煙草である。嫌なことがあると落ち着こうと煙草を吸った。嫌なことがあると忘れようとお酒を呑んだ。最初は意識的な行動だったが、いつしかそれは無意識に意味も無く煙草とお酒が増える。

「ヘビースモーカーっすね」
「そうか? みんなこんなもんだろ」


 言われるまで気付かなかった。思い返すと日に日に煙草の本数が増えている。しかし、落ち着き冷静になる為と自分に言い訳した。

「ねぇ、それ何本目? 明日も仕事なんだからもう呑んだらダメだよ」
「これくらいどーってことないよ」


 同棲している彼女からお酒の本数を気にされてストップが入る。たったこれだけじゃ明日がダメになる。今日の嫌なことを忘れなくちゃいけない。


 煙草とお酒を周りから心配されて、それが面倒だと感じる。それから仕事帰りは一人お店に行き、吸って呑むを繰り返していた。
 吸った本数だけ僕は頭が冴える。正しい方向へ進んでいるはすだ。呑んだ本数だけ俺は自分の弱さとこの世の理不尽を呑み込んで這い上がっているはずだ。そのはずだった。

「最近、君の良い話をあまり聞かなくてね。分かるよね」

 僕は話が終わると煙草を吸った。


「ごめんなさい。もう…あなたとは」


 引き止める言葉が見つからず、僕は彼女の姿が消えるのを立ち尽くして見届けるとお酒を呑む。

 冷蔵庫に入れているお酒が無くなった。開封したばかりの煙草は空になっている。買いに行かなくちゃいけない。
 買わなければ、この先頑張れない。乗り越える為には買わなくちゃいけない。僕はお酒の種類なんか気にせずにカゴにぶち込んで、いつも吸ってる銘柄を店員に言って買い物を済ませる。


 喉が痛むのを感じる。しかし、僕は吸って、呑む。何本吸おうが呑もうが冷静になれず、忘れられない。今日は特に忘れたい日なのに冷静に判断したいのにそれが出来ない。
 煙草のニコチンが血液を通って、全身に巡るのが分かる。アルコールが脳に刺激してるのが分かる。なのに冷静にも忘れることも出来ない。いつもなら当たり前に出来ていたのにそれが出来ない。

「う"っ…」


 呑みすぎたのか気持ち悪さが一気に込み上げてきた。小走りでトイレに向かい済ませると今までの悪いモノが全部出たのかスッキリした。これは夢なのだろう。明日になれば出勤して、帰ったら彼女がいる。このまま目を閉じて明日が来ればいつも通りのはずだ。
 嫌な事は全部、全部呑み込んだ。そして、一気に吐いて流した。煙草で不安を全部吸って、煙として吐き出して消えた。大丈夫。僕は大丈夫のはずだ。

 目を開けると綺麗な景色が目の前を埋め尽くす。どこかの屋上だろうか。身体は勝手に動き出す。生きることを脳と身体が拒絶している。僕はそれに従って、無い足場を踏み締めて一本前に出た。
 吸っても呑んでもダメだった。でも、今度こそ大丈夫だと信じたい。これで僕はやっと綺麗になれる。
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