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想紙
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彼女は字が凄く綺麗だった。達筆と言うべきだろうか?文字が生きている錯覚をさせられる。
携帯電話をお互い持ち、連絡先を交換し合ってからありふれたフォントでのやり取りが主流になった。生きていない文字を絵文字や顔文字で、感情表現する。最初の頃、慣れていないせいか。僕はそれに凄く違和感を感じていた。
ある日、彼女から着信が来た。ただいつも通りの日常を過ごしてる日。なんの変化も感じさせない日。よく通る下校道。彼女の声を聞く。
「もしもし」
「もしもし、どうした?そう言えば今日、学校休んでたね。風邪?」
「風邪…だったら良かったんだけどね」
「……っ。大丈夫なのか?」
僕の知っている彼女は、感情が豊かで分かりやすい。そんなところも僕は惹かれている。声色の様子がおかしい。もしかしたら、初めて聞く声かも知れない。
「私…ね。何か…ね」
「ゆっくりで良いよ。ゆっくり話そう」
歩みが自然と早くなる。彼女は今、どこにいるんだろう。すぐにでも、今彼女に会わないと行けない気がする。
「入院…することになっちゃった」
「…っ!」
から笑い。震える声。涙を流してるのを感じる。僕は彼女の涙に責任を持ちたい。彼女がどこに居るのか聞いてもいないのに走っている。
「今、どこに居る?」
こんな機械から出る声で、彼女の何を救えるだろうか。彼女の涙を聞いてあげることしか出来ないポンコツの機械だ。
彼女の口からは、僕も知っている病院だった。
_____________
______
_
病室に入る前に廊下のベンチで、ご両親に会った。明るくて気さくな夫婦だ。お互いに肩を抱き寄せていた。声をかけるには難しい状態で、僕は目をやることしか出来ない。
病室の扉は、なぜかひどく重く感じる。中へ一歩踏み出し、第一声は何も考えていない。
彼女はもうベットで横になっていた。力無い笑顔の彼女と目線が合う。
そんな彼女に何を言えば正解なのか、分からない。
「…あはは。来てくれて、ありがとね」
「病気…そんなに悪いのか?」
「朝にね。急に体調悪くなって病院に行ったの。そしたら、入院になっちゃった」
「……病名は?」
彼女には指定難病が診断された。老衰が早く、先は短い。根本的な治療方法は見つかっていない。何年生きられるのかは、僕からは聞けなかった。目線を逸らして、困った顔で言う彼女に僕が出来ることを探す。
彼女は内定先も決まって、後は学校を卒業する未来があった。
「あのさ。文通して欲しいの。…ダメかな?」
「文通…?」
「これからあんまり…動けなくなるらしいんだよね。だから、形に残ることをしたいの」
それはあまりにも悲しいお願いだった。もう彼女は、これから自分に降り注ぐ悲劇を見ている。僕が彼女に出来ることは、こんなにも悲しい事しかないみたいだ。
_____________
______
_
数年間。彼女と手紙でやり取りをした。月日を重ねる毎に文字は乱れていくのが分かった。
筆圧もまばらで、文字数も徐々に減っている。最初の1通目とは…もう比べモノにならない。
感情が乱れて、彼女の大切な手紙にシワを作って、涙で文字の滲ませてしまう。
それでも僕は、この手紙に返事を書く義務がある。
そろそろ、てがみをかくのもたいへんになってきました。これをさいごにします。
ながいあいだ。ありがとね。大好きです。
漢字を書くのも難しく平仮名になっている。最後の文字は大きく読みやすいように漢字で書かれていた。
手紙は、インクと彼女の想いを強く吸って綴られていた。
僕は手紙に一言だけ、大きく書いて病院へ向かう。
大事な言葉だから。伝えないといけない感情だから。この一言だけは君に。
_____________
______
_
「これをもちまして、死亡確認とさせていただきます。死亡時刻は」
病室に着いた時、最悪の運命に立ち会った。これは何の因果か。
彼女と僕は何か悪いことでもしたのだろうか?
神様ってヤツに迷惑をかけただろうか?
ただ手紙を届けに来ただけじゃないか。最後くらい会わせてくれても良かったじゃないか。僕は彼女の手を取って、返事の手紙を掴ませた。
「愛してる」
僕に沢山のモノを残してくれた。
どんなに文字が変わっても、君の文字は美しく生きていた。
携帯電話をお互い持ち、連絡先を交換し合ってからありふれたフォントでのやり取りが主流になった。生きていない文字を絵文字や顔文字で、感情表現する。最初の頃、慣れていないせいか。僕はそれに凄く違和感を感じていた。
ある日、彼女から着信が来た。ただいつも通りの日常を過ごしてる日。なんの変化も感じさせない日。よく通る下校道。彼女の声を聞く。
「もしもし」
「もしもし、どうした?そう言えば今日、学校休んでたね。風邪?」
「風邪…だったら良かったんだけどね」
「……っ。大丈夫なのか?」
僕の知っている彼女は、感情が豊かで分かりやすい。そんなところも僕は惹かれている。声色の様子がおかしい。もしかしたら、初めて聞く声かも知れない。
「私…ね。何か…ね」
「ゆっくりで良いよ。ゆっくり話そう」
歩みが自然と早くなる。彼女は今、どこにいるんだろう。すぐにでも、今彼女に会わないと行けない気がする。
「入院…することになっちゃった」
「…っ!」
から笑い。震える声。涙を流してるのを感じる。僕は彼女の涙に責任を持ちたい。彼女がどこに居るのか聞いてもいないのに走っている。
「今、どこに居る?」
こんな機械から出る声で、彼女の何を救えるだろうか。彼女の涙を聞いてあげることしか出来ないポンコツの機械だ。
彼女の口からは、僕も知っている病院だった。
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病室に入る前に廊下のベンチで、ご両親に会った。明るくて気さくな夫婦だ。お互いに肩を抱き寄せていた。声をかけるには難しい状態で、僕は目をやることしか出来ない。
病室の扉は、なぜかひどく重く感じる。中へ一歩踏み出し、第一声は何も考えていない。
彼女はもうベットで横になっていた。力無い笑顔の彼女と目線が合う。
そんな彼女に何を言えば正解なのか、分からない。
「…あはは。来てくれて、ありがとね」
「病気…そんなに悪いのか?」
「朝にね。急に体調悪くなって病院に行ったの。そしたら、入院になっちゃった」
「……病名は?」
彼女には指定難病が診断された。老衰が早く、先は短い。根本的な治療方法は見つかっていない。何年生きられるのかは、僕からは聞けなかった。目線を逸らして、困った顔で言う彼女に僕が出来ることを探す。
彼女は内定先も決まって、後は学校を卒業する未来があった。
「あのさ。文通して欲しいの。…ダメかな?」
「文通…?」
「これからあんまり…動けなくなるらしいんだよね。だから、形に残ることをしたいの」
それはあまりにも悲しいお願いだった。もう彼女は、これから自分に降り注ぐ悲劇を見ている。僕が彼女に出来ることは、こんなにも悲しい事しかないみたいだ。
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数年間。彼女と手紙でやり取りをした。月日を重ねる毎に文字は乱れていくのが分かった。
筆圧もまばらで、文字数も徐々に減っている。最初の1通目とは…もう比べモノにならない。
感情が乱れて、彼女の大切な手紙にシワを作って、涙で文字の滲ませてしまう。
それでも僕は、この手紙に返事を書く義務がある。
そろそろ、てがみをかくのもたいへんになってきました。これをさいごにします。
ながいあいだ。ありがとね。大好きです。
漢字を書くのも難しく平仮名になっている。最後の文字は大きく読みやすいように漢字で書かれていた。
手紙は、インクと彼女の想いを強く吸って綴られていた。
僕は手紙に一言だけ、大きく書いて病院へ向かう。
大事な言葉だから。伝えないといけない感情だから。この一言だけは君に。
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「これをもちまして、死亡確認とさせていただきます。死亡時刻は」
病室に着いた時、最悪の運命に立ち会った。これは何の因果か。
彼女と僕は何か悪いことでもしたのだろうか?
神様ってヤツに迷惑をかけただろうか?
ただ手紙を届けに来ただけじゃないか。最後くらい会わせてくれても良かったじゃないか。僕は彼女の手を取って、返事の手紙を掴ませた。
「愛してる」
僕に沢山のモノを残してくれた。
どんなに文字が変わっても、君の文字は美しく生きていた。
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