ラジオの恋路-こいじ-

祝木田 吉可

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第16話:イヤミ部長①

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7月1日月曜日、14時。FMいずもの社内にイベントの打ち合わせが行われた。

会議室には、男の会社から、男と大田サチの二人。女の会社から女と青山部長の二人が、集まった。

開始早々に勝部ディレクターから案内があった。

「今日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます。主となるTAMAKIですが、今日急遽お昼の番組のピンチヒッターとしてラジオに出ていますので、終わり次第こちらに合流しますので、今しばらくお待ち下さい。」

そう言い残し、勝部ディレクターは一旦、その場から離れた。すると、女から話しかけた。

「健吾くん?久しぶり、だね。」

なんだか、意味深な感じで接してくる女の表情を見て男は、意図を汲み取り、同じように接した。

「ミカ、ちゃん?久しぶり、だね。」

二人の様子を見て、青山部長が女に尋ねる。

「二人は、知り合いかい?」

「えぇ。幼なじみです。」

「平野くん、幼なじみなんていたの?いないと思ってた。」

「いますよ。幼なじみくらい。失礼な。」

女の反応に、青山部長は嬉しそう。

「はぁ~。私ちょっと抜けますね。」

そう言って、女は会議室を出た。するとサチが男の太ももを叩いて追いかけるよう女の方へ指さした。

男は、その合図で女を追いかけた。

女は、トイレ前の自販機で止まった。それを見た男は女に話しかける。

「ミカちゃん、何か飲む?」

「健吾くん、何でここに?」

「ん~、たまたま喉が渇いて追いかけるように出てきた感じかな。」

男は、「大丈夫?」「心配で追いかけてきた」が言えない自分を悔いた。

それでも女は、心配して自分を追いかけてきてくれたんだろうとホッと安堵した。

「ごめんね、急に出ていったりして。」

「大丈夫?落ち着いた?」

男はそう言って、女に、缶コーヒーを手渡す。

「ありがとう、戻ろうか。」

そう言って、会議室に戻ろうとしたとき、TAMAKIが2人の前に現れた。

「今日はお忙しい中、ありがとうございます。TAMAKIです。」


TAMAKIは、2人の名札を見て、打ち合わせに来たのだと理解した。が、なぜ2人がここにいるのか分からなかった。

「それにしてもお二人、とうされました?」

「実は、カクカクシカジカ、、、。」

女は、溜まった鬱憤を、晴らすようにTAMAKIにこれまでのことを話した。

「なるほど。その青山部長とかいうのがイヤミ部長なんですね。」

「そうなんですよ。私だけじゃないんです。」

「TAMAKIさん、ミカちゃん、、、じゃなくて平野さん。これ以上長いと怪しまれちゃうので戻りましょう。」

「そうですね。平野さん、ですか。これ、私の名刺です。良かったら、また連絡下さい。」

「ありがとうございます。」

3人は、会議室に戻った。

「遅れて申し訳ありません。ラジオパーソナリティのTAMAKIと申します。今日はよろしくお願いします。」

「これは、これは。TAMAKIさん。ほ、本日は、ご多忙の中、ありがとうございます。私、エス・ジー・シー出雲の青山と言います。以後、お見知りおきを。」

青山部長は、調子よくゴマをする感じで挨拶をした。

「なんか、調子のいい挨拶ですね。まだ、皆さんに名前を聞いていないのに、何先走っているのですか。まあ、別に良いですけど。」

「あっ、、、。」

青山部長は、その場で固まった。

TAMAKIは気にせず、話を続ける。

「そちら。えっと、「ご縁情報」の方のお名前は?」

「私は、大田と申します。よろしくお願いします。」

サチは、緊張しながらTAMAKIに挨拶した。

「大田さん、緊張されてます?」

「は、はい!私、ラジオが好きで、いつかはラジオに関わる何か仕事が出来ないかと思い、日々精進していたところです。聞けば、リスナーオフ会というじゃないてすか。そういう場に入れるって貴重な体験、とても有り難いです。ただ、、、」

「ただ?」

「ただ、申し訳ないですが、私はFMを聴かないもので、TAMAKIさんのこと、存じ上げないです。」

サチの話を聞いて、TAMAKIは笑った。

「良いんですよ。私のこと知らなくても。私のリスナーではなくても、リスナーさんと作れるのを私も楽しみにしています。よろしくお願いします。」

それぞれが席に戻ると、会議が始まった。

ラジオに全く興味のない、青山部長は、自分を除く3人とTAMAKIで繰り広げられる内容が分からないでいた。聞こうにも、自分のプライドが邪魔して、何も聞けず、黙って聞くことしか出来なかった。

「な、なー、平野くん」

「何ですか?」

「り、り、リスナーってなんだ?」

そんな青山部長の質問をTAMAKIは聞き逃さなかった。

「リスナーは、ラジオ視聴者のことです。」

「視聴者って、テレビだけじゃないの?」

「視聴者は視聴きする人のことを指すので、テレビだけでなく、ラジオも当てはまりますよ。」

「ハハハ、、、。すみません。変なこと聞きました。」

「いえいえ。分からないことは聞いてくださいね。」

「ハハハ、、、。」

TAMAKIは、青山部長に配慮したつもりだったが、青山部長はプライドが邪魔して、それすらも邪険な感じがしてしまい、そこから、地蔵と化してしまった。

2時間の話し合いはあっという間に終わった。

「みなさん、今日はありがとうございました。この後、私は夕方のラジオがありその準備に参りますので、今日はこれで終わりにしたいと思います。お疲れ様でした。」

次の日、青山部長は社長の馬渕塔子に呼ばれた。

「馬渕社長、お呼びでしょうか。」

社長室に入ると、社長と女がいた。

「平野くん、何で君もいるんだ。」

「何でじゃないですよね。TAMAKIさんからのメール、見ましたか?」

「TAMAKI?あぁ、昨日のラジオパーソナリティとかいう人。」

「そんなふうに言わないでください。メールで次からのミーティングに青山部長は外れてくださいってありましたよ。」

「青山部長、これはどういうことですか。」

「それは、その、、、。」

青山部長は、口ごもる。馬渕が続ける。

「メールには、会議で情報交換したかったのに、一人黙って座ってるだけだったってあるけど、どうなの?「私に、任せてください。」って啖呵切ってたわよね。」

青山部長は、馬渕の言葉に開き直った。

「しょうがないじゃないですか。私はラジオなんか聴かずに、ずっとテレビだったんですから。何も分からないのは、当然でしょう。」

女が言う。

「だったら、分からないなりにその都度質問してくれたら良いじゃないですか。昨日の部長は、分かろうとしなかったですよね。」

「だって、ラジオなんて、私からしたら、テレビより下等にしか過ぎん。そのパーソナリティなんて得体のしれないもの、どうかしてるって思ったんだよ。」

「さつきから部長、ラジオなんてとか、テレビより下等だとか、得体のしれないものだとか、言っていることが失礼ですよ。偏見で物言うのやめてもらっても良いですか。ラジオも大事な情報媒体だし、貴重なコミュニケーションツールだし、テレビもラジオも大事なコミュニティなんです。パーソナリティは、ラジオとリスナーを結ぶ素晴らしい職業なんですから。何の変なプライドがあるか知りませんが、そんなどうしようもないプライドや偏見は捨ててもらって良いですか。そういうのは、正直、邪魔なだけです。」

「平野~、部長の私に向かってなんてことを、、、。」

「平野さんの言う通りよ。肩書きとか関係ない。偏見やマウントなんてせずに、お互いをリスペクトしないと良いものは生まれないの。青山部長、あなたには担当を降りてもらいます。それと、良い機会だから、あなたの事を調べさせてもらいます。それまで自宅待機してください。処分は追って伝えます。」

「そんなぁ~。」

青山部長は、肩を落として、抜け殻のように社長室を出ていった。

「馬渕社長、これで良かったんですか。」

「うん、大丈夫よ、平野さん。実は、前々から青山部長には勤務態度や素行に問題があるって話があったから、調べていたの。来週には調査結果が出るわ。」

「そうなんですね。」

「だから、平野さんは、今のイベントのことを考えてくれたら良いの。青山部長のことは、私に任せてくれたら良いから。」

「分かりました。それでは失礼します。」

女は、そう言って社長室を出た。

-続く-

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