サクラブレンド

祝木田 吉可

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第16話:同棲記念日

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引っ越しの手続きが終わり、新居での暮らしに慣れ、日常が再び戻りだした。

長島は、今まで一人だった生活からパートナーとして絵里を迎えての生活に。絵里は、今まで実家で家族との生活から家族以外のパートナーとなる長島との生活に。二人それぞれ新たなスタートとなった。勤務時間的に絵里が長島を見送って、長島の帰りを待つ生活スタイルに変化していた。

9月7日。引っ越しから半年を迎えるこの日、朝出かける時に長島が絵里に言った。

「今日、帰ったら代官町で食べたりしない?」

「良いね。帰り、何時くらいになりそう?」

「定時が18時30分だから、19時から19時30分位には帰れると思うよ。」

「分かった。お店は私の方で探しておくね。」

「うん。宜しくね。行ってきます。」

そう言って長島は家を出た。

絵里は、見送った後、自分の支度をしていた。支度をしながら、顔はニヤニヤが止まらなかった。

「今日は可愛くしなきゃ。デートなんだもん♡」

気持ちを抑えようとするも嬉しさには勝てなかった。

絵里は、顔のニヤニヤが止まらないまま出勤した。

「おはようございます。」

その場にいた凛香が声掛けた。

「おはよう、絵里。顔ニヤけてるけど、大丈夫?」

「おはよう、凛香。ウソ!?顔ニヤけてる?」

「うん。鏡見てみな?」

凛香に言われて鏡を見ると確かに顔がニヤけてるのに気がついた。そして辺りを見渡した。

「恵子、いないよね?」

「うん。今日は休みだからね。」

「よかった~。」

絵里は、ホッと胸を撫で下ろした。

いつものように店のエプロンに袖を通すと鏡の前でパンパンと顔を軽く叩いた。

「よしっ!今日も頑張ろう。」

ちょうど、この日は在庫整理と配達·発送担当だった。絵里は、バックヤードにある在庫を整理し、発送と配達に分けた。仕分けが終わると発送するものを荷造りして、車に乗せ、発送に出かけた。

「凛香。じゃあ、発送行ってくるね。」

「うん。行ってらっしゃい。気をつけてね。」

「ありがとう。行ってきます。」

絵里は、指定の業者に発送しに出かけた。

18時30分、業務を終えた絵里は、事務所の更衣室で着替えていた。着替えながら自然と笑みが出てニヤけてしまう。そんな中、凛香が入ってきた。

「絵里、お疲れ。」

「凛香、お疲れ。」

「絵里、ニヤけてるけど、今日何かあるの?」

「うそ!?ニヤけてる?」

「うん。顔に出てる。」

「今日この後、伸幸さんとデートなんだ。」

「それは、楽しみだね。」

「うん。行ってくるね。」

「気をつけてね。」

絵里は、店を出て待ち合わせ場所に向かった。

同じ18時30分、長島は商店街にあるアクセサリー店を訪れていた。

「どれが良いかな。」

「何かお探しですか。」

「えぇ。パートナーに選んであげたくて。でも、こういうお店、初めてで。」

「大丈夫ですよ。お誕生日か何かですか?」

店員の質問に長島は恥ずかしそうに答える。

「えっと、、。同棲を始めたので、何かペアなものが良いかなと思って。」

店員はニコやかに答える。

「それでしたら、ネックレスなんか、いかがでしょう。さりげなくて、いいと思いますよ。」

そう言って、店員が出してきたのは、金属製のペアネックレスだったが、、、。

「ごめんなさい。パートナーも私も金属製に弱くて。金属製以外のものって、ありますか。」

「今、お持ちしますね。」

そう言って、店員が持ってきたのが、ヒスイ、ガーネット、サンゴ、サファイアなどの鉱石の標本だった。

「これは?」

「これは、誕生石です。1月から12月それぞれにまつわる、パワーをくれる鉱石になります。こちらからもお選びいただけますよ。」

長島は、少し考えて首を縦に振った。

「では、この誕生石でお願いします。」

「分かりました。ペアということなので、お客様とパートナー様の誕生石をお選びください。」

「えっと、、、。私が1月で、パートナーが3月ですね。」

「そうすると、お客様がガーネット、パートナーの方が、サンゴですね。デザインは、重ねてハートになるようなデザインでよろしいですか。」

「それで、お願いします。」

「かしこまりました。少々お待ち下さい。」

そう言って、店員は店の奥に入って作業を開始した。

15分後、加工を終えた店員が戻ってきた。

「お待たせしました。ガーネットとサンゴのペアネックレスということで、合わせた時にハートになるようにデザインしました。いかがでしょうか。」

「ありがとうございます。良い感じです。」

「紐などは、どちらにされますか。」

「こっちの革でお願いします。」

「かしこまりました。」

店員は、加工したものに付けた金具に革ひもを通して再び長島の前に置いた。

「こちらで完成になります。」

「ありがとうございます。」

長島は、その仕上がりに納得していた。

「お幾らですか。」

「2つで15000円になります。」

「分かりました。」

長島は、会計を済ませた。

「ありがとうございました。幸せな時間になりますように」

そう店員さんに見送られた長島は、店を出て頬を軽く叩くと「ヨシッ」と行って、駐車場に戻った。

アパートの駐車場に車を停めると、待ち合わせ場所に向かった。

19時。先に待ち合わせのからくり時計に到着したのは絵里だった。

「ちょっと早かったかな。」

そう呟くと、19時のタイミングで、からくり時計が動き出した。絵里は、その様子を見届ける。

「このからくり時計が動いてるの見たの、いつぶりだろう。」

絵里がそんな思いにふけっていると、後ろから絵里を呼ぶ声がした。

「絵里ちゃん、遅くなってごめんね。アパートに車停めてきたから、ちょっと遅くなっちゃった。」

「ううん。私も今、着いたところだよ。」

絵里は、長島が持っている荷物も気になりつつ、笑顔で迎えた。

絵里が振り返った瞬間、不意にフレグランスの香りが漂った。

「絵里ちゃん、香水つけた?」

「うん。折角のデートだからね。伸幸さんの苦手な柑橘系の匂いじゃなくて、今日はバニラの香りだけど、どうかな?」

「うん。似合ってる。それに、僕の苦手な柑橘系を選択肢から外してくれてありがとう。」

長島に褒められて絵里の頬は少し紅潮した。

「あれ?絵里ちゃん、顔赤い?」

「言わないで、恥ずかしい。早く行こっ。」

「うん。そうだね。」

二人は代官町の中に入り、海鮮居酒屋のお店に入った。

「いらっしゃいませ。」

「予約していた、長島です。」

「長島様、お待ちしていました。ご案内しますので、こちらへとうぞ。」

案内で通されたのは、個室タイプの席だった。

「なんか、完全個室って初めてじゃない?」

「そうだね。今まで、半個室はあったけどね。こっちの方が、ゆっくり話できるから、たまにはこういうのも良いかなって。」

「そうだね。半個室でも、周りがうるさいと聴き取りにくくなったりするから、たまには、こういうのも良いかもね。」

とりあえずで、二人は、乾杯のビールとおつまみとなる商品を数品頼んで、待った。しばらくして、商品が届いた。

「じゃあ、乾杯しようか。」

「うん。」

「「カンパ~イ♪」」

長島は、一気に半分以上を飲んだ。

「あぁー!やっぱり仕事終わりのビールは美味しいね。」

「だね。それにしても、相変わらず、美味しいそうに飲むね。」

「ビールののどごしは、やっぱり別物だからね。」

「だよね。わかる~。」

そんなことを共感しながら、二人は、それぞれの今日の出来事についてを話し合い、酒も進み、料理のメインも食べ進め、一段落した頃、長島が口火を切った。

「そうだ。今日、仕事終わりにプレゼントを探しに行ってたんだよ。」

「プレゼント?別に私、誕生日でもないよ。」

「そうなんだけど、その、なんだ、、、。」

長島は、緊張で言葉が詰まる。

「どうしたの?ゆっくりで、良いよ。」

絵里は、長島の話の続きをゆっくり、待っていた。

「その、ね、、、、。せ、折角、こうして、同棲を始めたから、その記念で、ぺ、ペアなものでも、ど、どうかなって、ぺ、ペアネックレスを、か、買ってきたんだ。き、今日を、ふ、2人の、き、記念日として。」

長島の話を聞いた絵里は、嬉しくて目を潤ませて喜んだ。

「ありがとう。こちらこそ、宜しくね。」

「開けてみて。」

絵里が箱を開けると、ハートのペアネックレスが入っていた。

「ペアネックレスだ。かわいい。」

「二人の誕生石で作ってもらったの。絵里ちゃんが3月で、サンゴ、僕が1月でガーネットだって。」

「きれいだね。ありがとう。」

絵里は、そういうと、長島の頬にキスをした。

不意なことに長島の顔は恥ずかしさと照れもあり、紅潮した。

「伸幸さん、顔赤くなってる。かわいい。」

「恥ずかしいよ。」

「フフッ。二人で仲良く、やっていこうね。」

「そうだね。よろしく。」

「うん。よろしく。」

それからも二人の話は、尽きることが無かった。

21時30分、お店での時間が終わり、外へ出た。

「伸幸さん、私、もう一件行きたい。」

「もう一件って、どこ行くの?」

「んー、カラオケが良いな。カラオケ!」

絵里の指さす方にはカラオケもあるネットカフェがあった。

(家の手前じゃん、って思ったけど、行きたいって言ってるなら、仕方ないか。)

「良いよ。」

長島は、少し千鳥足になっている絵里を支えながらカラオケのあるネットカフェに入っていった。

「いらっしゃいませ」

「カラオケ利用、二人でお願いします。」

「かしこまりました。こちら、3階のお部屋です。」

「ありがとうございます。」

なんとかエレベーターに乗り、部屋に入った。

絵里をソファに座らせると絵里が長島の服を引っ張った。

「どこ行くの?置いてかないで。」

思わず受けた上目遣いのシチュエーションに、油断していた長島は、キュンとなった。

「水と飲み物持ってくるから待ってて。」

「ほんと?戻ってくる?」

上目遣いの時間が続き、長島は、理性でグッと堪える。

「大丈夫、ちゃんと戻ってくるよ。」

長島は、そういって、絵里の唇にキスした。

「えへへ。じゃあ、良いよ。」

長島は、ドリンクバーに向かい、ドリンクバーで、フーっと一呼吸入れた。部屋に戻ると、絵里が両手広げて迎えてくれていた。

「おかえり!」

「どうしたの?両手広げて。」

「良いから、おいで。」

長島は、部屋に入り、テーブルに飲み物を置くと、両手を広げた絵里の元へ、ハグをした。ハグをすると、絵里は、ギュッと強く抱きしめて言った。

「ずっと、一緒にいたいな。離れたくない。」

「大丈夫。僕も同じ気持ちだから、離れないよ。」

「ホント?気持ち変わらない?」

「うん。一度パートナーになった人を裏切りたくないからね。」

「事あるたびに確認しちゃうけど、嫌いになったりしない?」

「ならないよ。だってそれで、2人の絆を高めれば、2人ともハッピーじゃない?」

「重たくないの?」

「重い?そんなことないよ。逆に僕の方が、伝えるのが下手で素直になれないかもだけど、ごめんね。」

「気にしないよ。だって、優しく心地良い伸幸さんと一緒にいられるだけで、伝わるから。」

そう言うと、絵里は軽くキスを交わすと再び強く抱きしめた。長島もそっと腕を回し頭をポンと叩いた。そして、しばらく抱き合って2人は離した。

「歌おう、ね。」

「そうだね。」

「私から歌ってもいい?」

「良いよ。」

絵里は、余韻が大きく、恋愛ソングばかりを選んで、その都度、長島に向けてアピールするように歌い続けた。長島は、初めてのことで、恥ずかしさのあまり地蔵と化した。

「どうだった?」

「やっぱり上手だね。僕に向かって歌ってくれるの、とても嬉しかったけど、ごめんね。恥ずかしくて何も反応出来なかった。」

「恥ずかしそうにしている伸幸さん、とても可愛かったよ。次、伸幸さん歌って。」

マイクが自分に回った長島は、デンモクを手に取り選曲に悩みだした。

「どんなのが、良いかな。」

「伸幸さんが、歌いやすい曲を歌ったら良いよ。」

「分かった。」

長島は、ポップンの曲で歌える曲を続けた。

「伸幸さんの歌声、相変わらず、高くて綺麗だね。」

「そう、かな?」

「私は好きだな、伸幸さんの歌声。」

「あ、ありがとう。」

お互い、何曲か歌い終わって、カラオケを終えて店を出た。

「後は、家でゆっくりしようか。」

「うん!」

歌い終わって、少し酔いが覚めた絵里は、軽やかな足取りで長島の手を引っ張り歩いていった。

-続く-

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