ヲタクでも、恋して良いですか?

祝木田 吉可

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出立-たびだち-

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翌朝8時。
寿郎は美味しそうな匂いに誘われるように目が覚めた。台所では玲子が朝食の準備をしている。準備を終えた玲子が寿郎の元へやって来た。

「おはよ。朝ごはん出来たから一緒に食べよ。」
「うん。」
寿郎はムクっと起き上がり、洗面台で顔を洗い戻ってきた。テーブルにはビジネスホテルに良く出る和朝食が並ぶ。
「美味しそうだねー。頂きます。」
一人だとこういうちゃんとした朝食を食べることは滅多に無いから新鮮味を感じた。
「やっぱり朝はお味噌汁だねー。」
寿郎は豆腐の味噌汁を一口啜ると安堵した。

「ご馳走様でした。」
「お粗末さまでした。美味しかった?」
「うん。美味しかった。普段、あまり食べないからこういうご飯も久しぶりだったよ。ありがとう。」
「普段、どんなもの食べてるの?」
「菓子パンだったりカップ麺だったり、かな。」
「ダメだよ。もう少しちゃんとしたもの食べなくちゃ。」
「そうだね(笑)」
「時々でも作りに行っても良いかな?」
「うん。」
玲子は頬を紅潮させて喜んだ。

週明けの月曜日の朝7時半、寿郎の携帯に着信が鳴った。寝ぼけ眼の状態で電話に出た。
「はい。大門です。」
「大門くん、おはよう。玉串です。」
その声を聞いた寿郎は焦るように飛び起きて声を整えた。
「玉串さん、おはようございます。」
「急に電話して申し訳ない。今、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。」
「大門くんに連絡があるんだが。」

玉串の用件で内容を理解した寿郎が続ける。
「9時半からの職員研修、なんですよね?」
「そのことなんだが…。」
玉串の焦らしに寿郎は少し違和感を覚えた。
「今日の職員研修、大門くんは別のスケジュールで動いてほしい。」
「というと?」
「急で申し訳ないが、名古屋事業所のメンバーで会議をすることが決まったので、そっちに出てほしい。大丈夫か?」
「分かりました。」
「場所は事業所の第2会議室だから、宜しく頼むよ。」
そう言うと玉串は電話を切った。

朝9時。
朝礼時に玉串から振り分けがあった。
「今日、午前中のスタッフミーティングは二手に分かれて行います。今から呼ぶ人は第2会議室に行ってください。大門、社、柳楽。以上です。他の人は第1会議室にお願いします。」
振り分けられたのは寿郎を含めて3人だった。3人とも独身で移動が可能というのが共通点で、職員の若手衆が集まった。

3人は用意された会議室に入ると既に田所が座っているのを確認した。田所の左隣のテーブルに寿郎と同世代と思われる若い女性が2人座っているのも確認できる。

「みんなお疲れ様。ここに座って。」
「はい。」
寿郎たちは田所に促されるまま右隣のテーブルに座った。
「これで全員揃ったので初回のミーティングを始める。今日は初回なので顔合わせも兼ねている。先ずはそれぞれ自己紹介をお願いしよう。じゃあ大門くんから。」
田所はテーブルの奥に座っていた寿郎を指名した。寿郎から順番に自己紹介が始まる。

「大門寿郎。歳は28の介護スタッフです。宜しくお願いします。」
「社美姫、30歳の看護スタッフです。宜しくお願いします。」
「柳楽涼介、30歳の介護スタッフです。宜しくお願いします。」

3人の自己紹介が終わると田所が一度口を挟み左隣にいる2人の女性に説明をした。
「この3人が前に話していた後から合流するメンバーなので、2人ともよろしくね。」
「宜しくお願いします。」
2人は声を揃えて言った。

「じゃあ、続けようか。佐埜さんから。」
「佐埜麗奈、32歳のサービス管理責任者です。宜しくお願いします。」
「山碕早百合、30歳の事務員です。宜しくお願いします。」
これで一通りの自己紹介が終わった。

「これでみんなの自己紹介は終わったね。このメンバーで名古屋の事業所を盛り上げて行けたらと思うので宜しく。」
5人は声を揃えて「宜しくお願いします。」と言うと田所が寿郎を指名して続けて言った。
「大門くんは佐埜さんの補佐という形で勉強していってもらうから。とりあえず今は4月までに実務経験証明書だけを揃えてくれれば良いから。揃えたら山碕さんに渡してね。」
「分かりました。」
「それと佐埜さんには管理者兼務でサービス管理責任者の業務をお願いするね。」
「分かりました。」
「社さんと柳楽くんは現場スタッフね。」
「はい。分かりました。」

田所からそれぞれに役割を振った所で続けて言った。
「名古屋での事業所は入所型の地域活動支援センターで就労継続支援B型を併設して日中活動支援を行う形となる。入所は重度身体障害を主としているが、3障害全てが対象となる。物件は昨年の8月に決定し、現在、工期中。」

田所がここまで話した段階で職員から質問が飛び交う。

「工期の進捗状況はどんな感じですか。」
「今は内装工事の段階で2月中には完成する予定となってるよ。」
「定員は何名ですか。」
「部屋数は12で入所定員は10、残り2は体験だったりショートステイに使用する。B型の定員は20を予定している。」
「利用者はいるんですか?」
「それもこれからかな。だから皆には広報活動を暫くは重点的にやって欲しい。」
「私たち合流するメンバーはいつ頃名古屋に移るんですか。」
「合流するメンバーには15日まで出雲で活動してもらって20日までに名古屋に移ってもらおうと思うが、それも急なことなので3月中に名古屋に来てもらえれば大丈夫だよ。」

田所から今後のスケジュールが言われた。職場の締め日が15日ということもあり15日まで出雲にいて3月中に名古屋に移ることになった。
「今日は初回なのでスケジュールを共有して終わりにしよう。合流するメンバーは、これから準備が忙しくなるけどよろしく頼むよ。」
そう言うと田所は会議室から出ていった。部屋に残った5人は話し合いを続けた。

11時になり会議室を出た5人は事務室にいる田所の所へ向かった。
「ミーティング終わりました。」
「お疲れ様。大門くん、社さん、柳楽くんの3人はそれぞれ持ち場に戻ってください。」
「分かりました。失礼します。」
3人は事務室を出てそれぞれの持ち場に戻った。
「佐埜さんと山碕さんの2人は午後から2週間、ここで研修の名目で手伝ってもらうね。出雲市駅のからくり時計の近くに研修職員宿泊施設があるからそこを使ってね。はい、これ。」
そう言って田所は佐埜に住所の書いたメモを渡した。
「分かりました。」
業務が終わり佐埜と山碕は宿泊施設に移動した。部屋に到着すると荷物を置き、代官町に繰り出していった。

代官町は出雲市駅の駅前にある歓楽街で様々な飲食店が点在している。佐埜と山碕の二人はその中で地物を提供している個人居酒屋に入った。赤提灯を提げてるそのお店は大将と女将の夫婦が営む仕事終わりのサラリーマンが集う小さい店舗だった。

カウンター8席と4人掛けのテーブル席が1つある客席には既に半分が埋まっていた。
「いらっしゃいませ。カウンター席どうぞ。」
大将に勧められるまま二人はカウンター席に座った。一先ずの飲み物でビールを注文し、乾杯を済ませた。お通しで出されたのはシジミの佃煮とベコ貝の炒め物、あごの焼きだった。
二人は見たことのない代物だったこともあり大将に訊ねた。
「大将、これはなんて言うものですか。」
「シジミの佃煮とベコ貝の炒め物、あごの焼きになります。」
「ベコ貝?あごの焼き?」
「ベコ貝は海のテトラポットとかにくっ付いている小さな貝で、出雲の北部の方で良く食べられてるものです。普段は炊き込みご飯とかにして食べるんですが、今日はバター醤油で炒め物にしてみました。あごの焼きのあごは、出雲の言葉でトビウオのことです。トビウオの蒲鉾だと思っていただければ。そのままでも、わさび醤油でも色々と楽しみ方の出来る一品です。是非ともご賞味ください。」

二人はあごの焼きから口にした。いつも食べ慣れている蒲鉾のイメージとは違っていた。見た目も茶色く、味も濃いしっかりとした魚の旨味が口の中を刺激した。続けてベコ貝の炒め物を口にする。貝としてはとても小さいが身がぷっくりと膨れていて濃厚なエキスが口一杯に広がった。

「どれも普段食べないものなのですが、とても美味しいですね。」
「ありがとうございます。」
山碕が大将に訊ねた。
「特にこの、あごの焼きが好きですね。地元の人はどんな風に食べてるんですか?」
「お茶受け、おやつ、おつまみ、おかずとレパートリー多く当たり前のように食べてますよ。」
大将の答えに二人は驚いた。佐埜が嫉妬じみたように続ける。
「出雲の子供たちは普段からこれを食べれるのは羨ましいです。私、蒲鉾って苦手なんですけど、これは別物ですね。そのくらい美味しいんですから。」
「ありがとうございます。」
二人はその後、無花果の甘露煮、ノドグロの煮付けなどを食べて釜揚げ蕎麦で締めた。
「美味しかったです。ありがとうございました。」
会計を済ませると大将からお土産を貰った。
「これ、良かったら食べて下さい。」
そう言って大将が二人に差し出したのはあごの焼きの2本入りだった。
「ありがとうございます!」
二人は満面の笑みで大将に礼を言って店を出た。

店を出て時計を見ると22時を過ぎていた。
「早百合ちゃん、この後どうする?」
「明日もあるので早めに部屋に戻りましょう。」
「そうだね。」
二人は翌日を考えて宿舎に戻っていった。

19時半。仕事を終えた寿郎は農道沿いのカフェで一休みしていた。カウンター席に座り珈琲を注文し待っていると玲子が遅れて入ってきた。玲子は寿郎の隣に座った。
「寿郎さん、お疲れ様。」
「お疲れ様。」
「寿郎さん、今日は早いんですね。」
「今日は定時上がりの日だからね。玲子さんは、今日仕事?」
「今日は休みだったの。」
玲子も寿郎と同じ珈琲を注文した。
暫くして玲子の珈琲が運ばれる。
「お待たせしました。本日の珈琲です。今日はキリマンジャロになります。」
「ありがとう。」
玲子は珈琲を一口飲み「ふーっ」と息を漏らした。
寿郎は吸いかけのタバコを吸って火を消すとトイレに立った。
「玲子さん、あれからどうなりました?ラジオでのメッセージ、聞かせていただきましたよ。」
店員が玲子に訊ねた。
「おかげさまで。付き合うことが出来たの。」
「お相手はやっぱり大門さんですか?」
「えぇ。」
玲子は頬を紅潮させて頷く。
店員も玲子の赤らんだ表情に安堵した。

暫くして寿郎がトイレから戻ってきた。
「これ、店からのサービスです。」
そう言うと店員は二人にアフォガードを差し出すと玲子に笑みを返した。玲子も「ありがとう。」と返すも寿郎は何のことだか理解が出来ずにいた。

「サービス?」
寿郎は首を傾げる。
「お店からの気持ちだから貰っとこうよ。」
「えぇ。サービスですのでどうぞ。」
寿郎は玲子と店員に促されるままにサービスのアフォガードをもらった。

あとで寿郎が確認したところ、バレンタインということでのサービスだった。

珈琲を飲み終え一休みも終わった頃、二人はそれぞれの車に乗ってアパートに帰った。
21時。寿郎が部屋で寛いでいると玲子からの着信があった。
「寿郎さん。今から部屋に行っても良い?」
「うん。大丈夫だよ。」
しばらくして玲子が部屋にやって来た。
「いらっしゃい。」
「ごめんね、急に。上がって良い?」
「うん。どうぞ。」
玲子は部屋に上がりリビングで一息ついた。
「玲子さん、何か飲む?」
「じゃあ梅酒ソーダが良いな。」
「分かった。」
寿郎は玲子に梅酒ソーダを差し出すと自分の夕食の準備をするためにキッチンに入った。
パスタを二人前作るとリビングに戻った。
「ご飯、未だだったら食べる?」
「ありがとう。いただきます。」
玲子は出されたパスタを頬張り食べ終わると持っているプレゼントを寿郎に渡す。プレゼントは紙袋の中にチョコレートと一緒に包装されたものがあった。
「寿郎さん、これ。私からだよ。」
「ありがとう。開けていいかい?」
「もちろん。開けてみてよ。」
包装されたものを開けてみると手袋とマフラーが入っていた。
「ありがとう。大事に使うよ。」
「寿郎さん、大好き!」
玲子はそう言って寿郎に抱きついた。
寿郎は優しく玲子を抱き返した。

翌日。寿郎、社、柳楽の3人は田所に呼ばれ会議室に集まった。田所は3人が集まったのを確認すると口を開いた。
「お疲れ様。明日から3月度になるから皆には今後の予定を伝えることにするよ。色々と手続きはあるだろうから。」
「はい。」
田所は3人に必要な情報を伝えた。いつまでに名古屋への引越しを終えなければいけないとか。名古屋での仕事始めはいつからなのかとか。その他、諸々と。
「とりあえず、今のところ伝えれる情報はこの位かな。住む所は職員用住居はあるらしいが、先ずは自分たちで探してみて難しそうだったら言ってくれ。3月度も宜しくね。」
そう言って田所は会議室を出ていった。

その日の夜。仕事が終わった3人は農道沿いのカフェで集まりお互いのシフトや予定を確認し合うことにした。

3人とも最終日が3月15日。社と柳楽はそれまでにアパートを探して空いているところがあれば契約をするという。寿郎もとりあえず最終日までにアパートを探してみることにした。珈琲を飲み終えた3人は店を出て解散することとなった。

翌日。朝、寿郎と社の2人は出勤し勤務に入る前、田所を訪ねて勤務先となる場所の情報を聞き出した。
「理事長、名古屋の施設情報が分かるのがあれば頂けますか。」
「おー、そうだったね。これを皆にあげるよ。」
そう言って田所は2人に施設情報が書かれた一枚の紙を差し出した。
勤務先となる場所は名古屋大須の大須商店街の外れに位置している。職員用住居はその場所から歩いて5分程の大須商店街の中にあるという。
昼休み。2人は早速賃貸情報のアプリをダウンロードし名古屋大須エリアの家賃相場を検索してみることにした。ワンルームで平均が5.5~6.5万が相場らしい。寿郎はこの平均相場を見て、名古屋で最初の部屋としては高いと思ったが、他のエリアは分からないのでこのエリアで安い物件を探してみることにした。
その夜。20時にアパートに帰ってきた寿郎は大家の新宮に電話をかけた。
「はい、新宮です。」
「夜分すみません。ハイツ若葉101の大門です。今、お時間大丈夫ですか?」
「寿郎くんか。大丈夫だよ。」
「実は仕事の異動で名古屋に移ることになって。急なんですが。来月、3月の下旬には名古屋に引っ越さなきゃいけなくなっちゃいまして。」
「おぉ、そうか。」
「はい。それで、折り入って相談なんですが、物件探しに一つ新宮さんの知恵を借りたいんですが。可能でしょうか。」
「あぁ、良いよ。名古屋は私も住んだことあるし、不動産屋さんや大家さんの知り合いも何人かいるから聞いといてあげるよ。」
「ありがとうございます」
新宮は寿郎の頼みを快諾した。

新宮は名古屋でのOL時代に不動産会社に勤務していたこともあり物件情報に関する知識と人脈は多かった。
「情報として寿郎くんの希望を聞いても良いかい?」
「はい。3月下旬入居予定で、1DK~2Kタイプ。家賃は5万円台。とりあえず、バストイレ別な感じで。」
「分かった。それで探してみるね。」
「ありがとうございます。」
寿郎が電話を切ると家のチャイムがなった。ドアホンで確認をすると玲子の姿がそこにはあった。
「お疲れ様。」
「お疲れ様。電話したんだけど、話し中だったみたいで。誰と話してたの?」
「ゴメンね。大家さんに用事があって電話をしてたんだ。入って。」
「うん。お邪魔します。」
玲子はそう言うと部屋に上がり台所に向かった。
「寿郎さん。夕飯食べた?」
「いや、まだだけど。」
「良かった。今日寒いから鍋したいなって思って材料買ってきたの。一緒に食べよ。」
「いいね。じゃあ、お願いしようかな。」
「うん。準備するから待ってて。」
玲子は材料を切り準備を始める。笑顔で準備する玲子の姿はどこか初々しい。寿郎もこの空気感に未だどうも慣れない。
「もうすぐ準備できるからお皿とか準備してもらえる?」
「う、うん。分かった。」
寿郎はぎこちない感じで返事をして準備わをした。玲子はどこか嬉しそうに指示をしている様子だ。
「準備出来たよ。」
「こっちも出来たよ。」
玲子は屈託のない笑を浮かべて出来上がった鍋を持ってきた。
「今日はキムチ鍋にしたよ。辛いのが温まるかなと思って。」
「美味しそう!」
「でしょ!食べて食べて。」
「いただきます。」
玲子のキムチ鍋の中には、白菜、豚肉、しらたき、エノキ、エリンギ、豆腐、椎茸、あごの焼き、人参、キムチが入っていた。
「美味しいね。の焼きの入った鍋って初めて食べたかも。味が染み込んで美味いわ。だんだん。」
「気に入ってくれて良かった。オカワリもあるからたくさん食べてね。」
寿郎は食べるのに夢中になり頷きだけを返した。玲子は夢中に頬張る寿郎の姿をにこやかに優しく見つめていた。
「ご馳走様。ほんに美味かった。だんだん。」
「いえいえ。片付けてくるから待ってて。」
「片付けるくらい、僕がやるよ。」
「大丈夫だよ。」
「でも、全く動かないのも悪いし。」
「じゃあ、珈琲準備してもらえる?食後のデザートも買ってきてるの。」
「分かった。」
玲子が夕飯の片付けをしている横で寿郎は珈琲の準備を始める。お湯を沸かしてポットに移し、ゆっくりとお湯を注ぎ珈琲を入れる。
「玲子さん、買ってきたデザートってどこにあるの?」
「冷蔵庫の2段目の棚だよ。」
「分かった。」
寿郎は言われた通りに冷蔵庫の2段目の棚にあるビニール袋を手に取る。袋には寿郎が使い慣れたメープルのマークが記されていた。
「ポプリのケーキじゃん!モンブラン、チーズケーキ、シュークリーム、エクレア。どれも僕の好きなやつだけん、迷うわぃね。」
「えかった。気泡のあるスポンジのケーキが苦手なのだけ覚えとったけど、好きなものは分からんかったけん、ちょんぼなかぃ不安だったんょ。」
「そげんこと覚えてくれとったんだね。だんだん。どぉがいぃだかぁ。じゃあ、これとこれにするわ。」
そう言って寿郎はモンブランとエクレアを選んだ。正直、自分の苦手なものを覚えてもらえることが少し嬉しかった。珈琲をカップに注ぎ再びリビングに戻る。
「寿郎さんの淹れる珈琲美味しいよね。私も珈琲好きだけど普段、自分で珈琲入れないから上手く淹れられなくて。」
「そんなことないよ。難しいことなんてしてないし。珈琲、自分で淹れるのも好きだけん感覚で染み付いちゃったのかもしれん。」
「そげかぁ。ねぇ、日曜日、御朱印巡りでもしん?お互い、御朱印帳買ってから未だ一緒に巡ったこと無いでしょ。」
「そげだねぇ。えぇよ。日曜日は予定無いし行けるよ。」
「じゃあ、決まりね。行きたい神社は私の方でリストアップしとくから。」
「うん。宜しく。珈琲、オカワリあるよ。いる?」
「うん。ちょうだい。」
2杯目の珈琲を注ぐ。手帳を広げ明日の確認をする。
「明日、何時に仕事終わりそう?」
「どうだろ。送迎次第だね。定時通りに19時迄に帰ってこれて残務も残ってなかったら早いし、そうでなかったら遅くなっちゃうしって感じだね。」
「仕事の後は予定ある?」
「夜は特に予定ないよ。」
「じゃあ、ご飯食べに行こうよ。私、定時が20時だから終わったら連絡するね。」
「分かった。」
「じゃあ私、行くね。おやすみ。」
「うん。おやすみ。」
玲子が帰ったのを確認した寿郎はパソコンを立ち上げ、課題資料の作成を始める。田所から貰った課題資料作成リスト一覧を見て作成のスケジュールを作成した。気がつくと時計は日付を超えていた。睡魔に襲われた寿郎はそのまま寝落ちをした。
翌朝7時。寿郎は携帯のアラームの音に導かれるように目が覚めた。洗面台の鏡に映る自分の姿を見て肩を落とした。額にパソコンのキーボード痕がくっきりと浮かび上がっていた。
「マジかぁ。」
溜め息一つ漏らすと寿郎はシャワー浴びてリセットしようと考えた。ふとシャワー中に玲子の事が頭を過っていく。何故、頭を過ったのかは分からない。とりあえず考えないことにして浴室から出た。

翌朝7時。玲子は洗濯物を干しにベランダにいた。順調に洗濯物を干していると瞬間的に風が強くなった。その瞬間、バランスを崩した玲子は風に体を持っていかれて2階のベランダから転落した。

「何だったんだ?今のは。」
気になった寿郎は玲子に電話をかけた。(プルルルル…)呼び出し音がするだけで玲子が出る気配がない。心配になった寿郎は部屋を出て玲子の部屋に上がった。
「玲子さん、玲子さーん!」
部屋を見回してみても玲子の姿は無かった。窓が空いていてベランダにスリッパだけがあるのを確認した。ベランダに出て下を見るとそこに玲子の姿があった。その姿を見た寿郎は急いで玲子のもとへと走った。

「玲子さん、大丈夫!?」
寿郎は玲子のもとに駆け寄り、大丈夫か否か声をかける。しかし、玲子からは寝息が漏れる。寿郎はそれを聞き安心し、玲子を起こすことにした。
「こんなとこで寝てたら風邪ひくよ。起きて~。」
玲子はゆっくりと起き上がる。
「どこか痛む?」
「うーん…。少し頭がズキズキと重いかも。」
「これから病院行こうか。僕も一緒に行くから。」
「…分かった…。」
寿郎は玲子を連れて近くの病院に行った。受付で手続きをして待合室で順番を待った。しばらくして呼び出しボードに玲子の番号が表示され診察室に入った。診察室に入ると年増の女医がそこにいた。
「今日はどうされました?」
「アパートの2階のベランダから誤って落ちてしまって少し頭がズキズキとするんですけど。」
「頭部に亀裂が入ってますね。すぐ処置をしますね。」
そう言うとその女医はステープラー(医療用のホチキス)を取り出し処置を始める。
「はい。終わりましたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
思っていたよりも痛みが無かったことに反応が遅れた。
「あの、これは?」
「一先ずの応急処置です。一週間後、また来てください。その間のシャンプーは出来るだけ避けて下さい。」
「流石にシャンプー制限されるのは辛いですよ。」
玲子は女医に疑問を投げかけた。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

加藤薫
2017.07.06 加藤薫

分けた2つ目です。引き続きネタバレを含む可能性があるので、読者の方は読まないことをお勧めします。

②について
 メールの返信の文章が被っていたりする部分があります。送信者と受信者で二度、同じ文章が出ていますよね。どちらか一方のみで文章を出したり、あえてその場では出さずに、先にキャラクターの行動を書くと言う手もあります。その方が冗長になりにくいですし、物語に動きが出ます。
 また、エピソードについてもそう。どこがどうとは言いませんが、「ここいる?」 と言う部分がしばしば。名産? 料理? の紹介のような事がしたいなら、主人公のエピソードを絡めてみると冗長になりにくいです。
 
③について
 ヒロインと出会った時、ゲーセンの際、などなど、動揺がまるで見えない。不意に手が触れ合った時などは、オドオドしちゃって「す、すみません(モゴモゴ)」 「ど、どぞう」みたいな。で、ヒロインに御朱印とかについて聞かれて……みたいなつながりが多少なりあった方が、その後偶然に会った時とかの展開が自然に見えます。
ポップンやってる時はイェーイってテンション高いけど、不意にヒロインが現れて「あ、アス、アース……」 とかオドオドしちゃうとコミュ障オタクっぽくてよろしいかと思います。

解除
加藤薫
2017.07.06 加藤薫

 この感想は作者向けであり、若干のネタバレを含みます。読者の方はこの感想を読み進めないことをお勧めします。
 
 確認の感想が掲載されましたので、許可されたものと判断します。この感想を掲載するかはおまかせします。
気になる部分は3点
①盛り上がりがない。(現行は起承転結の承? 起?)
②同じ文、必要ない(なさそうな)部分が重なっていて冗長に感じる。
③この主人公、本当にオタクか? コミュ障か? ブサメン感も本文からは分からない。
 
①について
 例えば、出会いの部分が“起”であった場合、もっと劇的なものにしてもいいかもしれません。交差点でぶつかった子と印象最悪で始まるモノや、いわゆる「落ちモノ」 などはここでインパクトを与えます。また、ここで主人公がコミュ障であったり女性が苦手であったり、強気、自己中など性格を付与することもできます。
 物語の始まりの場合、何の前置きも脈絡もなく「まるでドラマのようだった」 とか始めてみたり、特徴的なセリフから始めてみたりすると、読者に「なんぞやねん」 と思わせて引きずり込めます。
 もし転勤の話が“起”である場合、そこで物語を始めて出会いの話を回想っぽくしても面白いかもしれませんね。

解除
加藤薫
2017.06.24 加藤薫

現行まで読了いたしました。感想を書きたいのですが、その前に。
①長くなるでしょう。
②そこそこ、辛辣になるでしょう。
③私の面の皮は厚い。
以上の難点があります。それでも書いてよろしければ、ぜひとも書かせていただきます。

解除

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