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限界
01.
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「橘、おまえなぁ! 来栖めちゃ可愛いじゃん! この前お膳立てしてやったっつーのにヘタレやがって! 男なら二つ返事でOKだろーがっ、がばっといけ、ちんちん動かせぇえ!!」
「いててて! なに言ってんだよ、下品だぞ!」
急にキレた瀬戸に頬を抓られ、変な顔になったところを綾瀬に激写された。無表情で肩がガクガクいってるので、死ぬほど面白い顔になっていることは明白だ。
女子は、瀬戸の言い放った「ちんちん」できゃっきゃと盛り上がり始めた。
「その無駄にイイ顔はなんのためについてんだ、おまえそれで童貞とか人生終わったも同然だぞっ、なんでそんなに枯れてんだよ!?」
「おまえな」
「なぁ姫宮! おまえもそう思うよな?」
「──え、僕?」
瀬戸の突然の流れ弾に盛大に咽る。零れたウーロン茶は風間がささっと拭いてくれた。
「ちょっとこのヘタレ野郎に助言してやってくれよ、こいつ……っ、うぅ、こいつこのままじゃ、一生童貞だぁ! 未使用のまま死んじまうよぉ~!」
「ちょっ、おいバカ、変に絡むなって!」
「だまらっしゃい! 大きさも普通だったじゃんっ、なんでだよ、実はインポなんか!?」
「おまえな……」
誰かこのちんこ脳を殴ってくれ。いつもの100倍はウザい。「どうせ俺はモテませんよ」といじけモードになるまであと1.5杯ぐらいだろうか。
「ほら、おまえら仲良くしろっ、ごめんなぁ姫宮、うちのアホ橘がさぁ」
姫宮の肩にぐいっと腕を回して、瀬戸がおいおい泣く。
言っていることが支離滅裂だ。
「あ、私も姫宮くんの恋愛観ききたーい。経験豊富そう」
結局、全員の視線が姫宮に集中してしまった。
最近流行りのアニメソングが流れ始めた店内で、姫宮が困ったように眉を下げた。
瀬戸が空気も読めず、「俺この曲好き!」と騒いだ。マジでうるせえ。
「ええっと、僕、別に経験豊富ってわけじゃないんだけど……」
「でも、好きな人はいたことあるでしょ?」
「……うん。いま、好きな人はいるよ」
全員の視線が集中する中、流れ弾を見事に受け止め微笑んで見せた姫宮に、おおっとどよめきが上がる。俺は俯いて、残り少ないウーロン茶をちびちび啜った。
できれば聞きたくない話題だった。
「どんな子なの?」
「そうだな、強いて言えば地雷……みたいな人かな?」
「え、なに。歌舞伎町でスト缶の地雷系?」
「いがーい、そういうのがタイプなの?」
確かにあの美月という子は、それ系に近いかもしれない。少なくとも俺にとっては。
「あはは、それとはちょっと違うけど。うーん、強いていうなら──」
姫宮がすっと、息を吸い込んで。
「愚かな人、かな」
我関せずみたいな顔でスマホを弄っていた綾瀬までもが、顔を上げて姫宮を見た。
全員が数秒、押し黙る。
「人の地雷を踏み抜くのが上手な人なんだよ。あと図々しくて無神経で頭も悪い。考え足らずで最悪レベルの人たらしなんだよ、本当に。誰に対しても平等でずかずかと人の懐に入り込んできて勝手に溶かして勝手に笑う、身勝手極まりない人間だ。それにバカだしね。とんでもないよね……ねぇ、みんなはどう思う?」
にこりと笑みを深めた姫宮に、周囲がそろそろと顔を見合わせた。
BGMで流れていたテンポの速いアニメソングが、サビに入った。
「え、と……い、いいんじゃない、かな?」
「う、うん。どんな子でも好きになるのは自由だよ……ね」
一気に酔いが覚めたとばかりに、女子たちが焦った様子でフォローし始めた。
突然、本当に突然、姫宮はがらりと雰囲気を変えた。
「正直、好きっていうのもちょっと怪しいんだ。好きって相手の気持ちを慮れる優しい気持ちを指すだろう? でも僕はそれじゃあ生ぬるいというか。相手の気持ちなんて割とどうでもよくて……というか邪魔だね、全てが」
「あのっ……姫宮くん、酔ってる?」
なんとか軌道修正を計ろうとする周囲に気付いていないはずはないだろうに、姫宮の口は止まらない。しかも、テーブルの下から足を伸ばしてきた。
もぞりと足元で何かが蠢く気配に、びくりと体が跳ねる。
「できることなら近づく奴ら全員、嬲り殺しにしてやりたいよ」
靴下越しに、指で足の甲をするすると撫でられた。
テーブルの下が狭くて下手に動けないのをいいことに、足の動きはどんどん大胆になっていく。趾間に親指をぐいっとはめ込まれて、付け根の部分をくりくりと弄られた。
触れられている部分が、異様に熱い。靴下の中が蒸れる。
ゆっくりと、周囲に怪しまれないように膝を折り曲げれば、何事もなかったかのように足は離れていった。ドクドクと、動悸が止まない。
テーブル下で行われた密やかな交わりが、尾を引いて指先に残る。
「そうしたらスッキリするのかな。友人も、知り合いも、家族も、全部……」
姫宮はここにいる全員をゆったりと見渡した。そして静かに顔を真正面に戻し、俺にぴたりと焦点を当てた。
「その目に映る僕以外の生き物ぜんぶ、今、目の前でブチ壊してやったら」
明るい自分の前髪の隙間から、黒い瞳と目があった。
あって、しまった。
「そろそろね、限界なんだよ。ねぇ、橘くんはどう思う?」
──ぞくりと、背筋が震える。
姫宮、おまえもしかして。
あの廃神社での続きを、ここでするつもりか?
──────────
するつもりです。
「いててて! なに言ってんだよ、下品だぞ!」
急にキレた瀬戸に頬を抓られ、変な顔になったところを綾瀬に激写された。無表情で肩がガクガクいってるので、死ぬほど面白い顔になっていることは明白だ。
女子は、瀬戸の言い放った「ちんちん」できゃっきゃと盛り上がり始めた。
「その無駄にイイ顔はなんのためについてんだ、おまえそれで童貞とか人生終わったも同然だぞっ、なんでそんなに枯れてんだよ!?」
「おまえな」
「なぁ姫宮! おまえもそう思うよな?」
「──え、僕?」
瀬戸の突然の流れ弾に盛大に咽る。零れたウーロン茶は風間がささっと拭いてくれた。
「ちょっとこのヘタレ野郎に助言してやってくれよ、こいつ……っ、うぅ、こいつこのままじゃ、一生童貞だぁ! 未使用のまま死んじまうよぉ~!」
「ちょっ、おいバカ、変に絡むなって!」
「だまらっしゃい! 大きさも普通だったじゃんっ、なんでだよ、実はインポなんか!?」
「おまえな……」
誰かこのちんこ脳を殴ってくれ。いつもの100倍はウザい。「どうせ俺はモテませんよ」といじけモードになるまであと1.5杯ぐらいだろうか。
「ほら、おまえら仲良くしろっ、ごめんなぁ姫宮、うちのアホ橘がさぁ」
姫宮の肩にぐいっと腕を回して、瀬戸がおいおい泣く。
言っていることが支離滅裂だ。
「あ、私も姫宮くんの恋愛観ききたーい。経験豊富そう」
結局、全員の視線が姫宮に集中してしまった。
最近流行りのアニメソングが流れ始めた店内で、姫宮が困ったように眉を下げた。
瀬戸が空気も読めず、「俺この曲好き!」と騒いだ。マジでうるせえ。
「ええっと、僕、別に経験豊富ってわけじゃないんだけど……」
「でも、好きな人はいたことあるでしょ?」
「……うん。いま、好きな人はいるよ」
全員の視線が集中する中、流れ弾を見事に受け止め微笑んで見せた姫宮に、おおっとどよめきが上がる。俺は俯いて、残り少ないウーロン茶をちびちび啜った。
できれば聞きたくない話題だった。
「どんな子なの?」
「そうだな、強いて言えば地雷……みたいな人かな?」
「え、なに。歌舞伎町でスト缶の地雷系?」
「いがーい、そういうのがタイプなの?」
確かにあの美月という子は、それ系に近いかもしれない。少なくとも俺にとっては。
「あはは、それとはちょっと違うけど。うーん、強いていうなら──」
姫宮がすっと、息を吸い込んで。
「愚かな人、かな」
我関せずみたいな顔でスマホを弄っていた綾瀬までもが、顔を上げて姫宮を見た。
全員が数秒、押し黙る。
「人の地雷を踏み抜くのが上手な人なんだよ。あと図々しくて無神経で頭も悪い。考え足らずで最悪レベルの人たらしなんだよ、本当に。誰に対しても平等でずかずかと人の懐に入り込んできて勝手に溶かして勝手に笑う、身勝手極まりない人間だ。それにバカだしね。とんでもないよね……ねぇ、みんなはどう思う?」
にこりと笑みを深めた姫宮に、周囲がそろそろと顔を見合わせた。
BGMで流れていたテンポの速いアニメソングが、サビに入った。
「え、と……い、いいんじゃない、かな?」
「う、うん。どんな子でも好きになるのは自由だよ……ね」
一気に酔いが覚めたとばかりに、女子たちが焦った様子でフォローし始めた。
突然、本当に突然、姫宮はがらりと雰囲気を変えた。
「正直、好きっていうのもちょっと怪しいんだ。好きって相手の気持ちを慮れる優しい気持ちを指すだろう? でも僕はそれじゃあ生ぬるいというか。相手の気持ちなんて割とどうでもよくて……というか邪魔だね、全てが」
「あのっ……姫宮くん、酔ってる?」
なんとか軌道修正を計ろうとする周囲に気付いていないはずはないだろうに、姫宮の口は止まらない。しかも、テーブルの下から足を伸ばしてきた。
もぞりと足元で何かが蠢く気配に、びくりと体が跳ねる。
「できることなら近づく奴ら全員、嬲り殺しにしてやりたいよ」
靴下越しに、指で足の甲をするすると撫でられた。
テーブルの下が狭くて下手に動けないのをいいことに、足の動きはどんどん大胆になっていく。趾間に親指をぐいっとはめ込まれて、付け根の部分をくりくりと弄られた。
触れられている部分が、異様に熱い。靴下の中が蒸れる。
ゆっくりと、周囲に怪しまれないように膝を折り曲げれば、何事もなかったかのように足は離れていった。ドクドクと、動悸が止まない。
テーブル下で行われた密やかな交わりが、尾を引いて指先に残る。
「そうしたらスッキリするのかな。友人も、知り合いも、家族も、全部……」
姫宮はここにいる全員をゆったりと見渡した。そして静かに顔を真正面に戻し、俺にぴたりと焦点を当てた。
「その目に映る僕以外の生き物ぜんぶ、今、目の前でブチ壊してやったら」
明るい自分の前髪の隙間から、黒い瞳と目があった。
あって、しまった。
「そろそろね、限界なんだよ。ねぇ、橘くんはどう思う?」
──ぞくりと、背筋が震える。
姫宮、おまえもしかして。
あの廃神社での続きを、ここでするつもりか?
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するつもりです。
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