160 / 227
キレイな人
01.
しおりを挟む「ここに座れ」
『え……ここどこ? 暗』
「廃神社だ」
『は、はいじんじゃぁ? ヤべえじゃん幽霊でるって』
「君、今年でいくつ?」
『なんだよ、18歳は幽霊を信じちゃいけねぇってのか』
「そうは言っていないけど、幼いね」
『言ってんじゃねーか……なぁ、ダメだろ不法侵入だって。かえろ?』
「問題ない。ここの神主と家は知り合いだ。もしも見つかったとしても何も言われないよ」
18歳にもなって幽霊が出る、だとか。
かえろ? なんて上目遣いで袖をきゅっと引かれて、可愛かったのに。
*
『なんだよ。じゃあもっと早く言えよ。知ってたら今日みたいなお節介しなかったのにさ』
ぴたりと、橘の足に包帯を巻いていた手が止まる。
「お節介ってなに?」
『え? いや、由奈に言われて』
「なんて」
『えっと、捺実がおまえに気があるから、2人きりにさせてあげようって……』
「へえ、で? 君は、どう思ったの」
──お節介、だって?
僕の知らない間に、まさかそんなことになっていたとは。
『どうって、だから俺も気ィ使って離れたんだよ。だっておまえら、すっげーお似合いだったし』
「ふうん、そう。応援してくれてたんだね僕のことを」
で、君は僕が君以外の誰かを見ることを望んでいたというわけか。
『そ、そりゃまぁ……──痛ッ』
掴んだ足にぎりっと強く親指の爪を立てれば、橘が悲鳴を上げた。
「ああごめん、つい力が入ってしまったね」
『おまえなっ』
「君に応援されたって嬉しくない」
本当に橘は、僕の地雷を軽率に踏みつけてくる天才だ。無邪気に、純粋に、ほとんど何も考えず、僕が下で君をじっと見上げていることにも気づかず、ダカダカと大股で走り去っていく。
──いや、むしろ僕が君の下から抜け出せないでいるのか。
7年前は、君が階段の下から僕を見上げていたはずなのに。
「不愉快だ。二度とするな」
僕の声はずいぶんと冷ややかだった。自分でも氷のようだと思ったぐらいなのだから、それを面と向かってぶつけられた橘の肩も、しおしおと萎んでいった。
『わ、悪かったよ……』
会話がまた途絶えてしまった。
舞い戻ってきたいつもと変わらぬ気まずい雰囲気の中、黙々と、手当を終わらせるだけの時間を過ごす。
「終わったよ」
『あっ……うん、ありがとな。すげぇ、ぜんぜん痛くねぇや……』
それでも橘は、僕との会話の糸口を探そうと懸命に視線を泳がせ始めた。僕だって、君のそんな顔が見たいわけじゃないのに。
自然と、僕の視線も彼の足元に落ち続ける。
『あの、さ。さっきは助けてくれて、あんがとな。おまえ来てくれなかったら、マジでヤバかった。それなのに俺おまえに八つ当たりしちまって、ホントに悪かったって思って……って、おいこら!』
突然手首を掴まれて、引っ張り上げられた。
『なにやってんだよバカ! 噛むなよ、爪ひび割れちまうだろ?』
彼の手に捕らわれていたのは、自分の右手首。なんだ? と一瞬なぜこうなっているのかがわからなかった。
ただ、すぐにああそうかと理解する。濡れた親指の爪。無意識のうちに噛んでしまっていて、慌てて止められたのか。
『あーあ、ちょっと傷付いちまったじゃん……せっかくキレイな爪してんのに』
顔を、ひとたび上げる。
今、彼はなんて。
『姫宮? ど、どうした……?』
どこかぼうっとした思考のまま、首を傾ける橘を見つめ続ける。
「きれい」
『え?』
「僕の爪は、キレイ?」
『……そりゃあ、うん、キレイな方なんじゃねーの。つ、つるつるで?』
──キレイ。彼にそれを言われたのは実に7年ぶりだった。
46
あなたにおすすめの小説
幼馴染みが屈折している
サトー
BL
「どの女もみんな最低だったよ。俺がちょっと優しくしただけで、全員簡単に俺なんかと寝てさ」
大学生の早川 ルイは、幼馴染みのヒカルに何をやっても勝てないといつも劣等感を感じていた。
勉強やスポーツはもちろんヒカルの方ができる、合コンはヒカルのオマケで呼ばれるし、好みの女子がいても皆ヒカルの方にとられてしまう。
コンプレックスを拗らせる日々だったが、ある日ヒカルの恋愛事情に口を挟んだことから急速に二人の関係は変化していく。
※レオとルイが結ばれるIFエピソードについては「IF ROOT」という作品で独立させました。今後レオとのエピソードはそちらに投稿します。
※この作品はムーンライトノベルズにも投稿しています。
双獄譚 (烏間冥×櫻井乃、伊織×櫻井乃)
朝比奈*文字書き
BL
【あらすじ】
「逃げたって無駄だよ。僕の“人”になるって、そういうことなんだから」
ヤクザの養子として育てられた少年・櫻井乃は、
組織の若頭・烏間冥からの異常な執着と所有欲に日々縛られていた。
しかし、ある日彼は組を飛び出し、人外専門の裏組織《紅蓮の檻》の地へと逃げ込む。
そこで出会ったのは、冷静で強面な頭領・伊織。
己の正義と“獣の理”の狭間で生きる伊織は、乃をかくまうことに決める。
だが、その選択は、冥の狂気を呼び起こすものだった。
「壊れてても、血まみれでも……僕は欲しいって思ったら手に入れる」
血と執着のぶつかり合い。
牙を剥く二つの“檻”と、ただ一人、その狭間に立たされる少年。
心を奪うのは、守る者か、囚える者か――。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる