90 / 142
前篇
37.シュウとマティアス(1)
しおりを挟む
主役CPから少し離れます。
───────────────
* * *
「うっわ、怖……すごいもの見ちゃったな、ブチ切れてますって感じ?」
ひゅうと口笛を吹く。笑い過ぎて頬が痛い。
「おまえは僕のものだ! だって……熱烈だな、あれでまだ自分の気持ちに気付いてないんだから面白いよねぇ」
始めて会った稀人と2人きりの部屋で、マティアスは組んでいた脚をほどいた。
「あの」
「ん?」
「──リョウヤさんは、いつもあのような感じなのですか?」
「あんなって?」
「何を言われても気丈に……振舞って、いらっしゃいましたよね」
「まあねぇ。坊やってばあの小さいナリでいっつも強気なんだよね、何をされても平然としてるっていうか。ああいうタイプだからアレクシスも随分と振り回されてるみたいだよ? 青い春だね」
そうですか、と稀人が俯いた。
「つまり無自覚、なんですね……」
「そうそう、無自覚なんですよあの男は」
口調を真似すると、稀人がこちらを見てにこりと微笑んできたので、微笑み返す。
『犯されて平気な人なんて、いないと思いますけどね』
「……なんて?」
「あっ、すみません。また日本語使っちゃってましたか?」
「いいよ、別に気にしてないから」
マティアスはソファから立ち上がると、長い髪をなびかせてゆったりと彼に近づいていった。
「でも、君も災難だったね、アレクシスに敵視されちゃって。また会いましょうだなんて、坊やに期待を持たせるようなこと言っちゃっていいの? あの剣幕じゃ、坊やしばらく屋敷に監禁されると思うよ」
「いいんです。あれは確信あっての言葉でしたから」
「確信?」
「はい。僕の身の安全を保障して下さっている方に、正式な書面を出して頂けるよう要請しますので」
「へえ、そんな人いるんだ」
「そこから直接郵送すれば、流石のチェンバレー家の御当主様であっても無視はできないでしょうね。なにしろ、ボルディアン家の紋章が押されていますから」
「ボルディアン家、って……」
それは、そこそこの貴族であるマティアスや、名高いチェンバレー家でも遠く及ばないほどの、由緒正しき家柄だ。
マティアスの視線に気付いた稀人が、困ったように笑った。
「実は、現当主のおじい様がご病気でして、僕が診ているんです。延命治療ってやつですね。ですから、僕のお願いはそれなりに聞いてくださいます。あと半年くらいは、ね」
お歳ですから、と稀人は続けた。
半年後にはどうなっているかわからないということは、つまりはそういうことである。ボルディアン家の現当主と言えば、未だに一線を退こうとしない頑固な老害だ。
命を握られているとは言え、一体どう手懐けたのやら。
「君ってもしかして……案外したたかなのかな?」
「シュウ、と呼んで下さい。お2人は行ってしまわれましたけど、貴方は帰らなくてもいいんですか?」
「……面会時間は、まだあるだろう?」
「それもそうですね。ではコーヒーをどうぞ、冷めないうちに」
稀人が、淹れたてのコーヒーを差し出してきた。その目の奥の黒は、ひたりとマティアスを捉えて離さない。
どうやら、見た目通りの物静かな稀人というだけではなさそうだ。
しかも、腰に手を当てて意外と豪快にコーヒーを飲む。ギャップが凄い。
受け取った熱くて苦味の強いコーヒーを啜りながら、タイミングを探る。しかし稀人はその場から一向に動こうとしないので、作戦を変えることにした。
カップをテーブルに置き、一気に距離を詰める。
どん、と両腕で稀人を囲えば、驚いた稀人がカップを落とした。
ゴトンと、茶黒い液体が少量、陶器の台に流れていく。
「あの、なんでしょうか。びっくりしました」
「ねえ、稀人ちゃん。君、33歳ってホント?」
「え? ええ、そうですが……」
「信じられないなぁ、こんなに肌も綺麗なのに、私よりも11歳も年上だなんて」
きめ細かな頬を指の背でするりと撫でると、稀人の肩がぴくんと震えた。
改めて、腕の中に囲いこんだ稀人を観察する。190cmのマティアスよりも6、7cmほど目線が低めだが、稀人にしては背も高い方だろう。
腰はほっそりとしているが、青年らしい骨格だ。少年体型のリョウヤとは真逆である。
どちらかといえばリョウヤのような華奢な子が好みなマティアスだったが、他の稀人はどこにいるかも知らないので、これで我慢するとしよう。
「ということは、貴方はまだ22歳なんですか。お若いんですね」
「そうそう、まだ若いから、いろんなものに興味があってさ」
それに、この頼りなさげに垂れた眦は支配欲と征服欲をそそられる。目鼻立ちは浅めで掘りの深い顔立ちではないが、それでもかなり整っている部類だろう。
内心で、舌なめずりをする。
「その中でも、私が一番興味があるもの、なんだか知ってる?」
「いえ、見当もつきません。僕は貴方ではありませんので……」
「稀人だよ」
「……そう、ですか」
「そ。実は、坊やとエッチした時すっごく気持ちよくてねぇ……あの味が忘れらないんだ。でも、アレクシスはあんな調子だろう? もう坊やのことは共有してくれないだろうし。だから、新しい方を試食してみたいなって」
「新しいというのは──……ん」
稀人の口が開いた隙を見計らい、顎を捕らえて素早く唇を奪う。
───────────────
* * *
「うっわ、怖……すごいもの見ちゃったな、ブチ切れてますって感じ?」
ひゅうと口笛を吹く。笑い過ぎて頬が痛い。
「おまえは僕のものだ! だって……熱烈だな、あれでまだ自分の気持ちに気付いてないんだから面白いよねぇ」
始めて会った稀人と2人きりの部屋で、マティアスは組んでいた脚をほどいた。
「あの」
「ん?」
「──リョウヤさんは、いつもあのような感じなのですか?」
「あんなって?」
「何を言われても気丈に……振舞って、いらっしゃいましたよね」
「まあねぇ。坊やってばあの小さいナリでいっつも強気なんだよね、何をされても平然としてるっていうか。ああいうタイプだからアレクシスも随分と振り回されてるみたいだよ? 青い春だね」
そうですか、と稀人が俯いた。
「つまり無自覚、なんですね……」
「そうそう、無自覚なんですよあの男は」
口調を真似すると、稀人がこちらを見てにこりと微笑んできたので、微笑み返す。
『犯されて平気な人なんて、いないと思いますけどね』
「……なんて?」
「あっ、すみません。また日本語使っちゃってましたか?」
「いいよ、別に気にしてないから」
マティアスはソファから立ち上がると、長い髪をなびかせてゆったりと彼に近づいていった。
「でも、君も災難だったね、アレクシスに敵視されちゃって。また会いましょうだなんて、坊やに期待を持たせるようなこと言っちゃっていいの? あの剣幕じゃ、坊やしばらく屋敷に監禁されると思うよ」
「いいんです。あれは確信あっての言葉でしたから」
「確信?」
「はい。僕の身の安全を保障して下さっている方に、正式な書面を出して頂けるよう要請しますので」
「へえ、そんな人いるんだ」
「そこから直接郵送すれば、流石のチェンバレー家の御当主様であっても無視はできないでしょうね。なにしろ、ボルディアン家の紋章が押されていますから」
「ボルディアン家、って……」
それは、そこそこの貴族であるマティアスや、名高いチェンバレー家でも遠く及ばないほどの、由緒正しき家柄だ。
マティアスの視線に気付いた稀人が、困ったように笑った。
「実は、現当主のおじい様がご病気でして、僕が診ているんです。延命治療ってやつですね。ですから、僕のお願いはそれなりに聞いてくださいます。あと半年くらいは、ね」
お歳ですから、と稀人は続けた。
半年後にはどうなっているかわからないということは、つまりはそういうことである。ボルディアン家の現当主と言えば、未だに一線を退こうとしない頑固な老害だ。
命を握られているとは言え、一体どう手懐けたのやら。
「君ってもしかして……案外したたかなのかな?」
「シュウ、と呼んで下さい。お2人は行ってしまわれましたけど、貴方は帰らなくてもいいんですか?」
「……面会時間は、まだあるだろう?」
「それもそうですね。ではコーヒーをどうぞ、冷めないうちに」
稀人が、淹れたてのコーヒーを差し出してきた。その目の奥の黒は、ひたりとマティアスを捉えて離さない。
どうやら、見た目通りの物静かな稀人というだけではなさそうだ。
しかも、腰に手を当てて意外と豪快にコーヒーを飲む。ギャップが凄い。
受け取った熱くて苦味の強いコーヒーを啜りながら、タイミングを探る。しかし稀人はその場から一向に動こうとしないので、作戦を変えることにした。
カップをテーブルに置き、一気に距離を詰める。
どん、と両腕で稀人を囲えば、驚いた稀人がカップを落とした。
ゴトンと、茶黒い液体が少量、陶器の台に流れていく。
「あの、なんでしょうか。びっくりしました」
「ねえ、稀人ちゃん。君、33歳ってホント?」
「え? ええ、そうですが……」
「信じられないなぁ、こんなに肌も綺麗なのに、私よりも11歳も年上だなんて」
きめ細かな頬を指の背でするりと撫でると、稀人の肩がぴくんと震えた。
改めて、腕の中に囲いこんだ稀人を観察する。190cmのマティアスよりも6、7cmほど目線が低めだが、稀人にしては背も高い方だろう。
腰はほっそりとしているが、青年らしい骨格だ。少年体型のリョウヤとは真逆である。
どちらかといえばリョウヤのような華奢な子が好みなマティアスだったが、他の稀人はどこにいるかも知らないので、これで我慢するとしよう。
「ということは、貴方はまだ22歳なんですか。お若いんですね」
「そうそう、まだ若いから、いろんなものに興味があってさ」
それに、この頼りなさげに垂れた眦は支配欲と征服欲をそそられる。目鼻立ちは浅めで掘りの深い顔立ちではないが、それでもかなり整っている部類だろう。
内心で、舌なめずりをする。
「その中でも、私が一番興味があるもの、なんだか知ってる?」
「いえ、見当もつきません。僕は貴方ではありませんので……」
「稀人だよ」
「……そう、ですか」
「そ。実は、坊やとエッチした時すっごく気持ちよくてねぇ……あの味が忘れらないんだ。でも、アレクシスはあんな調子だろう? もう坊やのことは共有してくれないだろうし。だから、新しい方を試食してみたいなって」
「新しいというのは──……ん」
稀人の口が開いた隙を見計らい、顎を捕らえて素早く唇を奪う。
2
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる