月に泣く

宝楓カチカ🌹

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前篇

  交わる(7)*

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「う、ん……ぁ……ぁあ、」

 ずちゅっと引き抜かれ、角度を変えながら、またじっくりと入れられる。腹の裏を沿うように突き上げられるごとに首の裏がぐうっとのけ反り、肺が押し広げられ、頭が沈む。

「は……、ァ、ぁ、ァあ、あ」

 ぐちゅん、じゅぷ、とひっきりなしに響く水音。まだ始まったばかりだというのに、既に頭の中がぼーっとしている。心地よささえ感じるそれに目を閉じれば、小船に乗せられて、穏やかな波の上を漂っている気分になった。
 ゆらゆら、ゆさゆさと揺さぶられて、体のどこもかしもが熱を持っていてくらくらする。冷たいと思っていたアレクシスの体温も、次第にリョウヤの体に馴染み、火照っていった。
 それは、苦痛とはまた異なる熱だった。
 繋がったところから、どろどろと淡く溶けていきそうなくらいの。
 なんだろうかこれは。
 たん、たんと腰を打ち付けられるたび、小刻みに視界が揺れるたび、あったかい何かに攻められてるみたいで。
 上半身をぐっと寄せられて、繋がりが深くなった。アレクシスの下腹部が、陰紋に重なる。あまりにも密着しすぎたせいで、アレクシスの肩から両足がずり落ちてしまった。
 しかし再び抱え上げられることはなく、そっと腿裏に手を添えられた。
 掴んで固定するのではなく、ゆるく支えるように。じんわりとした手汗が染みてくる。
 アレクシスの手はかなり大きいし、指も一本一本が長い。リョウヤの手は指も短くお子様のような手のひらなので、素直にいいな、と思う。
 傷1つなくて、しっとりとしていて美しくて、女の人の手みたいだ。
 けれども思っていたよりも、指の関節は節くれ立っていてでこぼこしていた。端正で、目鼻立ちのはっきりした美しい顔をしてはいるけれども、その広い肩幅やしっかりと割れた腹筋も、意外とがっちりとしていて逞しい首も、ぼこっと硬そうに凹んだ鎖骨も……全て均整の取れた体躯を持った、青年だ。
 不思議な気分だった。
 普段であれば、いや、つい数分前までは自分を乱暴に扱ってくるだけだったこの手が、今はふんわりと頬を包み込んでくるのだから。
 添えられた手は、やっぱり妙にたどたどしい。
 今のアレクシスからは、ルディアナを情熱的に抱き寄せて見せたスマートさなんて、これっぽっちも見受けられない。これまでいろんな女性を関係を持ってきたと豪語していたくせに、こうして誰かの頬に触れることには微塵も慣れていないように見える。
 意外と不器用なところがあったことも、初めて知った。
 やけに真剣な面持ちのアレクシスが、近づいてきた。唇にぬるい呼気がぶつかり、呼吸1つぶんの距離で止まる。この光景も、もう何度目だろう。
 アレクシスは数秒リョウヤの唇に視線を落としていたが、結局視線は下に流され、首に顔がずれた。
 鎖骨のくぼみを唇で軽く啄まれ、柔い肌をちゅう、と吸われる。

「ん……ぁ」

 ちくりとした痛みを分散させるかのように、ぺろりと舐められた。首の筋を辿るように這いあがってきた唇が顎の横に押し付けられ、頬をゆっくりと辿り、眦に一瞬だけ吸い付き、最後は耳たぶに到達した。

「ひ、ぁ」

 ぴちゃりと、耳朶に這わされた舌にびくんと頭が浮く。
 落ち着けとばかりにやんわりと押し戻されて、また舐められた。

「ぁ……あ、や、ぁ……」

 唾液で、耳の奥を濡らされる感覚に打ち震える。アレクシスはリョウヤの敏感な反応に何を思ったのか、耳たぶの形に沿うように、執拗にねぶってきた。
 くちゅんと浅く差し込まれて、もぞもぞと首が縮こまる。
 
「……め、て、よ」
「なにをだ」
「そ、れっ、ん……耳、舐める、のぉ」
「何が嫌だ……ん?」
「……って、お、音……がぁ、ん……く」

 水音や、アレクシスの少し早い息使いやらが耳の奥に直に響いてくるのだ。それに、ぱちゅぱちゅと打ち付けられながら耳を弄られると目の奥がむずむずする。
 視界が、律動ではない刺激で震える。
 心臓が、破裂しそうだ。
 もう一度、お願いだから止めてと懇願すれば、耳を解放してもらえた。
 代わりに、顔の両横に肘を突かれて逞しい腕に囲われる。アレクシスは何も言わず、顔に穴が開いてしまうのではないかと思うほどに視線を注いできた。
 柔らかくて湿った髪が、律動に合わせてゆらゆら揺れたり、頬に張りついてきたりする。くすぐったい。
 輪郭が捉えられないほど近くにアレクシスの顔がきたものだから、その二つの目だけがよりはっきり、鮮明になった。
 これまでとは色が変わって見えていたその奥に、また見慣れない何かが見える。怒りではない。侮蔑でも、嫌悪でもない。判別しがたい不思議な熱の色だ。
 ぱちりぱちりと緩慢に目を瞬かせても、その色は変わらない。
 このまま見上げていたいような、逆に目を背けてしまいたいような、相反する気持ちを抱えたままぼうっとしていると、シーツに散らばった髪を、額の生え際からさらりと、梳かれた。
 その触り方が心地よくて、とろりと目を細める。
 本当に珍しいことだらけだ。唇に落ちてくる数滴の汗も、甘酸っぱいような気さえしてくる。
 ふいに、投げ出していた腕を掴まれた。
 大きな手に持ち上げられたほっそりとした腕の行方を、目だけで追えば。

「腕は、ここだ」

 さも当然のことのように、両腕をアレクシスの広い背に連れていかれて、戸惑った。



 
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