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前篇
交わる(9)*
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繋がったままアレクシスが動いて、腹がぬめった。どうやら一度は吐き出したリョウヤも、中に射精された瞬間、じんわりと吐精していたらしい。
覆い被さってくる体から滅多に嗅がない汗の匂いがして、すんと鼻をすすった。
「お、も……ねえ、重い、よ……」
だが今はそれよりも、のしかかってくる図体が重い。
リョウヤをベッドか何かだと勘違いしているのではないだろうか。全体重を乗せてきている。
このままだとぺちゃんこに押し潰されてしまいそうだ。筋肉質な肩からもぞもぞと顔だけを出して、暫く待ってみる。しかしアレクシスはいつものように行為を再開するでもなく、リョウヤをガッチリと抱いたまま微動だにしない。
ズレてくれる気配すらないので、なんとか下腹部に力を入れて体勢だけを変えようとしたのだが。
繋がった部分の隙間からごぽっと漏れていく感覚がして、止めた。
何度経験しても、やっぱりこれは、慣れない。
「あれく、ねぇ……どいてよ、どけって……」
何回か声をかけて、脇腹を軽く突いたり厚めの肩を押したりぺちぺちぺちぺち叩いたりしてみたが、顔すら上げてくれない。
しょうがないので、抜け出すことは諦めて体の力を抜き、目を閉じる。
酷く、眠かった。ものすごい眠気だ。泥のように重たいまぶたを上げることさえ、億劫だった。
ぼーっとして、ふらふらして、ぐわんぐわんする。呼吸も苦しい。
体が熱くて、喉が渇く。そして寒くて、水に浸されているみたいに冷たくて、震える。
アレクシスの肩越しに見上げる天井の模様も、ぐにゃりと混ざり、あんまり綺麗ではないマーブル模様になる。急に目の前まで近づいてきたと思ったらまた遠くにいったりして、見ていて目が痛くなってくる。
よく動く天井だ、やっぱ高級ホテルは違うなぁ……なんて思っていると、ふっと落ちるように、ついに両目を開けていられなくなった。
指先から血の気が引くように力が抜けて、腕ごとぱたりとシーツに落ちる。
「……? おい、おまえ」
頑なに顔を埋めていたアレクシスが、顔を上げた気配。慌てるようにばっと体をどかされて、息をするのが少し楽になった。それでもリョウヤの体は、ずぶずぶと底なし沼に引きずり込まれていく。
ああそうか、ベッドの下は水だったのか。道理であんなに揺れていたはずだ。
「おい! おま……なん……ひど、熱、……」
切羽詰まったような声も、徐々に遠くなっていく。
急いた手に、乱暴に肩を揺さぶられた。これは一体誰の手だろう。一瞬ナギサかなと思ったけれども、ナギサの手よりも大きくて、少し硬めだ。
ばたばたと、足音が右に、左に動きまわる。
時々、「おい」とか、「起きてるか」とか、「なぜ黙っていた」とか声をかけられるけど、上唇と下唇がびったりひっついているものだから返事ができない。
というかおいおい言い過ぎだし、ガチャンとかバタンとかチリリンとか音がうるさすぎて頭に響いて、痛い。
何をそんなに焦っているんだろう。もう少し静かにできないのかな……落ち着きのない奴だ。
「やけに素直だと思ったら」
ただこれには本気で言い返したくなった。なんだそれは、俺はいつでも素直だぞと。
「お呼びでしょうか、どうかされました……」
「水を……今すぐ……」
「ああ、お連れの召使い……」
「早く……ろ、呼べ……」
「あ、あの、落ち着いてく……い」
後頭部に手を差し込まれて、顔を上げさせられた。
唇に押し付けられた固い何かが、かちかちと歯に当たる。これはたぶんガラスだろう。くいっと流し込まれた水をこく、こくと二口ほど飲む。それ以上は無理だった。けれどもひんやりしていて美味しい。
喉の奥がすうっと涼やかになる。しかし効果は持続せず、直ぐにまた熱くなる。
ぼーっとしていると、ばさりと被せられる大きな布らしきもの。柔らかくない上になんだかごわついている。素肌には痛いくらいだ。
チクチクとした感触が嫌でうーうー唸りながらもだもだしていると、「暴れるな、コートだ」と怒られた。
コート……おかしいな、コートなんて、俺もナギサも持ってなかったのに。
これは誰のコートなんだ。ぐるぐると硬いそれに包まれて、感覚の乏しい体で浮遊感を感じた。
「チェンバレー様……外まで私が、お運び……」
「いい、構うな……馬車に……玄関の辺りに、控え……」
頭上で飛び交う会話も、飛び飛びに聞こえる。
とん、とんと体が上下に揺れ、頭がぐわんぐわんぶれないように支えられた。膝裏と首裏に腕が差し込まれている感覚。
そうか、今自分は抱き上げられているのか。
いわゆる、お姫様抱っこというやつだろう。こんな風に抱っこされたのは初めてだ。ナギサはよく抱きしめてくれたし背負ってもくれたけど、体が細かったから抱っこは無理だった。
今日は本当に初めて尽くしだな……あれ、他にはどんな初めてが、あったんだっけ。
頭がぐるぐるして思い出せない。
けれども、自分を抱っこしてくれている存在のことは、かなり気になった。
覆い被さってくる体から滅多に嗅がない汗の匂いがして、すんと鼻をすすった。
「お、も……ねえ、重い、よ……」
だが今はそれよりも、のしかかってくる図体が重い。
リョウヤをベッドか何かだと勘違いしているのではないだろうか。全体重を乗せてきている。
このままだとぺちゃんこに押し潰されてしまいそうだ。筋肉質な肩からもぞもぞと顔だけを出して、暫く待ってみる。しかしアレクシスはいつものように行為を再開するでもなく、リョウヤをガッチリと抱いたまま微動だにしない。
ズレてくれる気配すらないので、なんとか下腹部に力を入れて体勢だけを変えようとしたのだが。
繋がった部分の隙間からごぽっと漏れていく感覚がして、止めた。
何度経験しても、やっぱりこれは、慣れない。
「あれく、ねぇ……どいてよ、どけって……」
何回か声をかけて、脇腹を軽く突いたり厚めの肩を押したりぺちぺちぺちぺち叩いたりしてみたが、顔すら上げてくれない。
しょうがないので、抜け出すことは諦めて体の力を抜き、目を閉じる。
酷く、眠かった。ものすごい眠気だ。泥のように重たいまぶたを上げることさえ、億劫だった。
ぼーっとして、ふらふらして、ぐわんぐわんする。呼吸も苦しい。
体が熱くて、喉が渇く。そして寒くて、水に浸されているみたいに冷たくて、震える。
アレクシスの肩越しに見上げる天井の模様も、ぐにゃりと混ざり、あんまり綺麗ではないマーブル模様になる。急に目の前まで近づいてきたと思ったらまた遠くにいったりして、見ていて目が痛くなってくる。
よく動く天井だ、やっぱ高級ホテルは違うなぁ……なんて思っていると、ふっと落ちるように、ついに両目を開けていられなくなった。
指先から血の気が引くように力が抜けて、腕ごとぱたりとシーツに落ちる。
「……? おい、おまえ」
頑なに顔を埋めていたアレクシスが、顔を上げた気配。慌てるようにばっと体をどかされて、息をするのが少し楽になった。それでもリョウヤの体は、ずぶずぶと底なし沼に引きずり込まれていく。
ああそうか、ベッドの下は水だったのか。道理であんなに揺れていたはずだ。
「おい! おま……なん……ひど、熱、……」
切羽詰まったような声も、徐々に遠くなっていく。
急いた手に、乱暴に肩を揺さぶられた。これは一体誰の手だろう。一瞬ナギサかなと思ったけれども、ナギサの手よりも大きくて、少し硬めだ。
ばたばたと、足音が右に、左に動きまわる。
時々、「おい」とか、「起きてるか」とか、「なぜ黙っていた」とか声をかけられるけど、上唇と下唇がびったりひっついているものだから返事ができない。
というかおいおい言い過ぎだし、ガチャンとかバタンとかチリリンとか音がうるさすぎて頭に響いて、痛い。
何をそんなに焦っているんだろう。もう少し静かにできないのかな……落ち着きのない奴だ。
「やけに素直だと思ったら」
ただこれには本気で言い返したくなった。なんだそれは、俺はいつでも素直だぞと。
「お呼びでしょうか、どうかされました……」
「水を……今すぐ……」
「ああ、お連れの召使い……」
「早く……ろ、呼べ……」
「あ、あの、落ち着いてく……い」
後頭部に手を差し込まれて、顔を上げさせられた。
唇に押し付けられた固い何かが、かちかちと歯に当たる。これはたぶんガラスだろう。くいっと流し込まれた水をこく、こくと二口ほど飲む。それ以上は無理だった。けれどもひんやりしていて美味しい。
喉の奥がすうっと涼やかになる。しかし効果は持続せず、直ぐにまた熱くなる。
ぼーっとしていると、ばさりと被せられる大きな布らしきもの。柔らかくない上になんだかごわついている。素肌には痛いくらいだ。
チクチクとした感触が嫌でうーうー唸りながらもだもだしていると、「暴れるな、コートだ」と怒られた。
コート……おかしいな、コートなんて、俺もナギサも持ってなかったのに。
これは誰のコートなんだ。ぐるぐると硬いそれに包まれて、感覚の乏しい体で浮遊感を感じた。
「チェンバレー様……外まで私が、お運び……」
「いい、構うな……馬車に……玄関の辺りに、控え……」
頭上で飛び交う会話も、飛び飛びに聞こえる。
とん、とんと体が上下に揺れ、頭がぐわんぐわんぶれないように支えられた。膝裏と首裏に腕が差し込まれている感覚。
そうか、今自分は抱き上げられているのか。
いわゆる、お姫様抱っこというやつだろう。こんな風に抱っこされたのは初めてだ。ナギサはよく抱きしめてくれたし背負ってもくれたけど、体が細かったから抱っこは無理だった。
今日は本当に初めて尽くしだな……あれ、他にはどんな初めてが、あったんだっけ。
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