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続、青春×グラフィティ

2ー裏

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教室をあとにすると、すぐに百合が追いかけてきた。

「冴子っ!」

呼び掛けに立ち止まったウチが、二人に先に行っててもらうように言うと、「早くしなよ、石神」と言って二人は昇降口へと向かった。
振りかえると、百合は笑顔の中に、どこか不安を抱えたような目でウチのことを見ていた。
たまらず、「なに?」と語気を強めて言うと、百合は慌てたように言葉を発した。
「ねえ冴子。ああいうの駄目だよ。友達だから止めづらいのはわかるけどさ、あんなの、間久辺君傷つくよ」
「別に、百合に言われなくたって止めるつもりだったんだけど」
「本当? だったらごめんね。余計なことしちゃったね」

………嘘だ。ウチは、止めることができなかった。

二人が間久辺の悪口を言っているのを聞いて、頭にきたし、可哀想だとも思った。だけど、あそこでウチが止めに入ったら明らかに空気を悪くしてしまう。それは嫌だった。友達に「つまんねぇヤツ」と思われるのは、耐えられなかった。
だから、百合が止めに入ったとき、安心したのと同時に悔しくも思った。
間久辺への悪口は止まったけれど、同時に、あいつが百合に向ける特別な視線を再び目の当たりにさせられることになった。
最近、無意識に百合と距離をあけるようになってしまったのはそのためだ。
間久辺の瞳が誰を追いかけているのか知りたくなくて、百合から離れるように行動している。
今日もそうだ。他のクラスの安住桐枝あずみきりえ坂崎有香さかざきゆかが、前々から一緒に出掛けようと声をかけてきていたから、この機会に二人に関わってみることにした。服の趣味なんかもたぶん一緒だから、出掛けてもストレスなく動けるだろう。そう思った。

「ウチ、二人を待たせてるし、もう行くわ」

そう言って背中を向けると、慌てた様子で百合が呼び止めてくる。

「ねえ、どうして避けるの? 私、なにか悪いことしたかな。だったら謝るから、だからーーー」
「別に百合は悪くないよ。だから、謝る必要なんてない」
本当に、悪いのはウチの方だ。
勝手にいじけて、八つ当たりして、最低だってことくらいわかってる。それでも、百合の優しさが眩しすぎて、見ていると辛く感じてしまう。
「だったらこっちを向いてよ。さっきから冴子、ぜんぜん私の目を見ようとしないじゃない」

「だから、急いでるんだってば!」

ヒステリックな声が放課後の廊下に響き渡る。
歩いていた生徒数人がギョッとしてウチらを見たけど、すぐに視線を外して、何事もなかっかのように歩き去る。
すると、ウチと百合の間だけ、時間が止まったみたいに静まり返った。
また、やってしまった。なにも悪くない百合を怒鳴り付けるなんて、いまのウチはホントどうかしてる。
これ以上話していると、きっとまた当たり散らしてしまう。
そう思ったから、「もう行くわ」と言って、彼女から遠ざかるように歩き出す。
百合はそれきり、追いかけてはこなかった。

安住と坂崎に合流して、隣街にあるアーケードにやってきた。
そこには多くの服飾店が並んでいて、ウチが好んで着用するブランドのショップもある。
二人に今冬の流行りについてあれこれ聞かれ、それに答えていくのは意外と楽しかった。服とか小物のアドバイスするの、実は嫌いじゃなかったりするのよね。

くさくさした気分だったし、好きなファッションのことで思いっきり発散することにしよう。
ウインドウショッピングを続けていると、安住が、「今、読者モデルの間で流行ってるブランドとかってある?」と聞いてくる。
読モでもそれぞれ好みがあるし、体型とか雰囲気によっても似合う格好が変わってくるから一概には言えない。
ウチはそう答えようとして、一つだけ共通して話題にあがっているブランドがあるのを思い出した。
「やっぱりKTケイティかな?」
ウチがそう言うと、安住は首をひねりながら、
「坂崎知ってる?」
「名前だけは知ってるかも。確か、ストリートジャーナルでも特集組まれたことあったじゃん」
「ああ! なんかあったかも。シルバーアクセの店だっけ?」
どうやら二人とも名前だけは知っているらしい。
安住はウチを見るなり、「どんな店なの?」と聞いてくる。ウチだってあまり詳しいわけじゃないけど、読モの先輩たちが話していた内容は確か、
「客を選ぶブランドらしいよ」 
「なにそれ、どういう意味?」
「言葉のままよ。店員が店のブランドにそぐわないと判断した客に対しては、アクセサリーを販売しないらしいの」
「はあ!? 何様だし! お客様は神様じゃん!」
「それがブランドの特色なのよ。客からしたら、断られることが怖くてよっぽど自分に自信のある人しか買いに行かない。そうすると、来店する客は自然とハイレベルな客になるでしょう? 口コミで話題を呼んだ結果、モデルの間で、そのブランドに認められることがある種のステータスになったわけ。もちろんそれだけじゃなくて、デザインもカッコいいんだけどね」
「へー」と感嘆の声をあげた坂崎は、「サエはそのブランドのアクセサリー持ってるの?」と聞いてくる。
ウチは首を横に振った。
「ブランド品だからかなり高いのよ。それに、あんまりシルバーアクセって趣味じゃないのよね」
「石神ならともかく、坂崎じゃお断りされるわね」
「はあ? 安住だって人のこと言えないじゃん」
二人が笑い合うのを見ながら、普段あまりつるまないせいでノリなんかも合わなくて、ウチはどこか距離を感じていた。
ふとスマホを見ると、撮影でよく一緒になる先輩から連絡が入っていた。
「ごめん、ちょっと」
二人にそう言ってから、折り返し電話をかけた。

『あ、石神? おつー』
「はい、お疲れさまです。電話もらいましたよね?」
『うん。いま一人?』
「いえ、友達と一緒です」
『男だ?』
「女ですよ」
友達だっつぅのに、この人は、基本自分にとって優位に立てる相手、つまり男としか関わりを持とうとしない。だから、先輩のアドレスはほぼ男の名前で埋め尽くされていて、友達という括りも男に限られる。先輩はかわいいから、そりゃ男たちはちやほやするだろうけど、そんなんだから女子の友達がほとんどいないのよ。悪い人じゃないんどけど、自分の有効な武器を知りすぎていて、周りからは反感を買うことが多いのよね。

先輩は電話の向こうで鼻で笑うと、
『女友達ぃ? ま、それなら丁度良いか。これから合コンあるんだけど数が足りないの。石神どう?』
またか。この人から連絡があるといつもそうだ。
ウチはうんざりしながら、
「結構です」
『即答かよ。石神って彼氏何人いるんだっけ?』
「先輩、頭どうかしてるんじゃないですか? 前提からおかしいです、いませんよ一人も」
『えー、男いないとかマジ考えられない。だったらいいじゃん合コン来てよ。今日のはヤバいから、この機会に相手見つけなって。もうすぐクリスマスなのに、ひとり身とかありえなくない?』
「ご心配なく。間に合ってますんで別の人誘って下さい」
『無理。あたし女友達いないから石神しか誘う相手いないし』
「なんですかそれ。自覚してるなら態度あらためたらどうです? もう少し周囲に合わせるようになれば、先輩にも女友達できますよ」
『なにそれ意味わかんない。だって男子といる方が優しくしてくれるし、ごはんも奢ってもらえて楽なんだもん』
駄目だ、ちやほやされ過ぎて心が腐ってる、この先輩。
『ねぇねぇいいじゃん合コン行こうよ。さっきメンズから画像送られてきたんだけど、ぶはっ、なにこれ超うける。そっちにも転送するわ』
「いりませんってば。ウチ、合コンなんて興味ありませんから」

あ、ヤバッ。言ってから自分のミスに気づいた。

「「合コンっ!?」」

案の定、安住と坂崎は聞き逃さなかった。
前からなにかある度に合コンやりたいって言ってきてたから、二人は目を輝かせてこっちを見てくる。
安住は興奮を隠しきれない様子で、
「石神! それモデル仲間からの連絡っしょ? その合コン絶対やべーって、行くしかないっしょ!」
坂崎は、「合コンいつなのサエ! え、まさか今日なの? 困るぅ、準備しないといけないのにぃ」

こんな様子だ。

『ふふ、お友達は乗り気みたいだけど、どうする?』
電話の向こうの言葉に!
「「行きたいでーす!」」
と完全に行く気まんまんの二人。

「だから、ウチは行かないってば!」




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