クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦

文字の大きさ
38 / 131
続、青春×グラフィティ

3裏ー2

しおりを挟む
走ることには慣れている。
日課にしていた走り込みは、始めてから四年以上が経つ。野球部の練習でヘトヘトになって帰ったあとも欠かさずやってきた。
俺は今まで、なんて無意味な時間を過ごしてきたんだろうと思う。
学生時代なんて、それこそあっという間だっていうのに、あんな辛いだけの練習に耐えて、得たものは何もない。

練習に参加するなだって?

たった一度の過ちで、俺のしてきた努力を奪う権利があのヘボ監督にあるっていうのかよ。
だったらもういい。全部壊してやる。

ーーーーーーーーーー

放課後、俺は逃げ出すように学校をあとにすると、街中を意味もなくさまよい歩いた。今まで放課後は部活で野球の練習をするか、帰ってトレーニングに当てていた。急に自由を与えられた人間っていうのは、その時間が手に余るみたいだ。

「こんなことなら、能田と木下と一緒にファミレスに行った方がマシだったな」
そんなことを口にしながら、頭の中は悔しさと怒りが渦巻いていた。
だから、いきなり背後から「江津か?」と呼び掛けられ、俺は不遜な態度で振り返った。
しかし、そこに立つ人達を見て、すぐに態度をあらためる。
「……先輩」
俺を呼び止めた三人組は、俺が一年の頃に三年だった、同じ野球部の先輩たちだ。
とは言っても、所属していただけの補欠で、度々問題行動を起こしては顧問の頭を悩ませ、部内でも邪魔者扱いされていた三人だ。
俺はもともと性格が合ったからか、後輩の中では三人から可愛がられていた方だった。
しかし、三人が問題行動を起こした挙げ句に退学になってからは、先輩たちとも関わりがなくなっていた。

「うっわ、江津とかなつかしっ! いま何年だっけ?」
「いや、俺ら退学してから一年も経ってねえから」
「なに、まだ野球とかやってるわけ?」

三人一斉に喋り出すものだから、俺は「はあ」とため息にも似た言葉しか返せなかった。

「なあ江津、あのクソ監督も相変わらずかよ?」

先輩の一人がそう言うと、三人全員の表情が険しくなった。この人たちもまた、学生時代はあの監督から切り捨てられた者たちだ。今の俺と同じ。
そんな境遇の一致からか、共感してもらいたくて、今俺が置かれている状況について話してみることにした。
すると、先輩たちは俺に同情し、優しい言葉をいくつもかけてくれた。仲間だ、と言ってくれた。
話している内に先輩たちに対してもだんだんと遠慮がなくなってくる。
「ーーーそうだ。先輩たち、今なにやってるんですか?」
普通だったら、学校を退学した先輩にこんな質問はできないが、俺たちは仲間だと言われて心が大きくなっていたためか、なんの気なしに聞くことができた。
すると先輩は、ニヤッと笑うと、「聞いて驚くなよ。チームに所属しているんだ」と答えた。詳しく聞いてみると、それは所謂、ストリートギャングのことらしい。
「そうだ、江津。お前も入らねぇか? うちらのチームはすげぇぞ。隣街全体を仕切ってる超ビッグネームだ」

ーーー黒煙団ブラックスモーカー

先輩たちが所属するチームはそういう名前らしい。
不良と言えば、嫌でもあの日のことを思い出す。
石神が変な黒ずくめの連中に誘拐されたときのことが、コマ送りみたいに頭を過る。
俺はあの時、なにもできなかった。
やったことと言えば、チームマサムネの御堂さんに助けを乞うことだけ。
もし俺に勇気と、助けに行くだけの力があったなら、今みたいに石神を避けて過ごすようなこともなかったはずだ。
それに………間久辺。
あの野郎に、こんな敗北感を抱くこともなかっただろう。
「どうするんだ、江津。お前にその気があるなら、上に話を通しておいてやるけど」
俺は一瞬、野球部のことが脳裏をかすめたが、すぐに泡沫のように弾けて消えた。
切り捨てたのは、向こうの方じゃないか。今さらどうして俺に迷う必要がある。
そう思うと、すぐに返事の言葉が出た。
「お願いします」と。

「オーケーわかった、任せておけ。ただ、一つだけ条件がある」

ーーーーーーーーーー

はぁ、はぁ。
先輩たちに指定された東口側にある空き地に走って到着した俺は、息を整えながら、持ってきたでかい布を足元に放った。

「うっわ、こいつ本当に持ってきやがったよ」
そう言いながらゲラゲラ笑う先輩たちの足元には、『一球入魂』と書かれた大きな布が広げられている。
うちの高校の野球部のスローガンとして、練習場に掲げられている旗だ。
「言われた通り、持ってきましたよ、旗を」
野球部の練習はこの時期夏場ほど長引かないため、誰にも見つからずに持ち出すことができた。
先輩たちは旗を見下ろしながら、「ああ、これ見てると思い出すわ」と、感慨深げに息を吐き出した。
しかし、その目は過去を懐かしむような類のものではなく、どこか、猟奇的な色を奥に潜ませているようにも思えた。
「本当、胸くそ悪い学校生活の中でも、特に部活が最悪だった。この旗を見るだけで吐きそうになるぜ」
そう言いながら、唾を旗に向かって吐き出し、勢いよく地面を蹴って踏みつけにする先輩たち。

彼らから出された条件。それが、『野球部の旗を持って来い』というものだった。

「先輩。これで、俺もチームに入れてくれるんですか?」

俺は、そのためにこの旗を盗んできたんだ。
あの時、もっと俺に力があれば、石神をこの手で救うことができた。間久辺なんかに、劣等感を抱くようなこともなかった。だから、手に入れるんだ、力を。

先輩は胸のポケットからジッポライターを取り出すと、しゃがみ込み、火をつけた。そして旗の端を持ち上げると、火の先をゆっくり近づけていき、小さかった火が、乾燥した大気も助け、布を媒介として大きな炎に変わる。
ごうっと一気に大きくなった炎が、たちまち旗を包みこんで燃え上がる。

「燃えろ燃えろ」とはしゃぐ先輩たちの横で、俺はただジッとその赤い炎を眺めていた。
すべてを燃やし尽くし、灰と化すその光景は、まさに俺の青春と同じ。こんなに簡単に、大切なものは塵に消える。そして、失われたものは元には戻らない。

「歓迎するぜ江津。お前も今日から俺らの同類、仲間ダチだ」

その言葉の通り、俺はこの人たちと同様にどこまでも深みに落ちていくのだろう。積み上げてきた足場の高さだけ、崩れ去ったときの落ちるスピードは加速度的に速くなる。
野球部の連中が俺を不要だと言うのなら、こっちから見限るまでだ。
燃えカスとなった旗を踏みしめると、俺は、覚悟を決めた。もう後戻りできないし、するつもりもないのだと。





しおりを挟む
感想 210

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。