約束のパンドラ

ハコニワ

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Ⅱ 地球とエデンの革命 

第11話 船

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 良太を仲間につけた僕らは、船が捨てられてある地区に向かった。まだロボットがいるかもしれないから慎重に。
「ぜっったいエデンに知られたよね? 私たち」
 せいらはさっきよりテンションをさげて、しょんぼり。
「まぁ、カメラあったし撮られたね」
 僕ははっきり言った。
「一番やばいのは嵐だろ。先ずアレぶっ壊したし」
「あれを忍び寄せてきたのは一体何処のバカだったけ?」
 良太がさも当たり前のように公言。それを聞いたせいらはぎろりと睨む。船が捨てられてえる地区にもうドローンはいなくなっていた。このあと、エデンから圧政がくると誰もが勘付いている。ドローンを破壊したこと、明保野さんが確かに地球にいることにより、エデンの民がさらに地球の民を苦しませ、明保野さんを無理矢理にでも連れ戻すんだ。

 船が捨てられてある地区は、僕らが住んでいる地区よりずさんなところだ。汚い、臭い、暗い。浮かんでくる言葉はどれもネガティブもの。エデンから度々ゴミが降ってきて、地球に住んでいるだいだいのゴミ置き場みたいなもところだ。
 鼻をつんとさせる異臭。砂利がいつしかヘドロみたいな泥となりぬかるんで、ベチャベチャする。油がギタギタに流水されてるので、割と滑る。

 昼間だっていうのに、ほんのり薄暗くて懐中電灯を持っていなければ足元が竦む。ここは夜になれば懐中電灯一個だけじゃ周りは全然見えないほど闇が濃ゆい。

 家電製品と一緒に船が捨てられてあった。ぺちゃんこになっているものばかり。ようやく嵐を見つけた。
「嵐っ!」
 呼びかけると、くるりと振り向いて良太の姿を見た。
「へぇ、来やがったか裏切り者めが」
 嵐はクスクス笑った。丸まった背中をゲシと蹴った。せいらのときより音が鈍い。せいらのほうが強烈だったため、一歩よろけただけで態勢を保った。
「この船が一番破損少ない」
 嵐は目の前の船を指差した。
 戦艦はススで黒く、赤いラインが入った模様も腐敗して苔が埋め尽くしている。倒れかけていて、人一人入ればそのはずみで倒れそう。嵐は一回中に入ったらしい。

 中の様子はゴミだめで、臭く、でもコンピューターが未だに使えることが救いだ。
「エンジンがまだ一個半あった。年代が三年前で、そんな古くない」
 懐中電灯で数字を照らした。戦艦の隅くらいに大きく数字がデザインされていた。およそ三年前の戦艦だ。ここに置いてあるのは五年前や百ねん前まである。古いのはだんだん苔に侵食され、雨が降ると腐敗して、崩れていきだんだん形が留まらなくなる。
「まだエンジンもあって、コンピューターが使える⁉ どうして捨ててあったんだろ……ま、そんなのはいいか!」
 僕は臆することなく船内に入った。人一人入れば倒れる船。せいらが呼び止めるが、僕の次に良太と嵐も続々と入っていきせいらも仕方ないと妥協してしぶしぶ中に入った。

 流石に四人も一気に入れば船はガタンと揺れ、天井からパラパラと板が降ってくる。
「キャパオーバーじゃね?」
 嵐はせいら指差して笑った。
 せいらはカチンときて、ガミ、とその指を食いちぎる。嵐はギャアと叫び「この、痕ついてんじゃねぇか!」とブチギレ。後方でジタバタ暴れてる最中に僕らは先に進む。
「床がだいぶ抜けている」
「気をつけろ。殆ど腐ってる」
 床がギシキシいって、音が反響している。抜けている所が多すぎて渡れない場所もある。穴から大量のネズミやムカデがうじゃうじゃ出てくる。
「ぎゃあああああ! ネズミっ!」
 ネズミがトコトコ渡っているのを見て、せいらは嵐に飛び乗った。とても女とは思えない声だった。嵐はせいらの胸が顔に当たってゆでダコみたいに顔を真っ赤に呆然と立ち竦んでいた。

 せいらの声は船中に響き渡り、船がそれだけで揺れていた。天井からパラパラと降ってくるほこりも多くなる。
「早くしないと放射性物質もつきそう」
 僕らは速く前に進んだ。コンピューター室にたどり着いた。扉を開けるとムワッと異臭がした。さっと鼻を抑えても鼻の奥まで入ってきて頭がガンガンする。この異臭は、ネズミが腐敗物を持ってきてそれが何年も蓄積されてきたから。

 床や台のところにネズミの死体や糞がベチャベチャに乗っていて触れたくない。ちょうど良太が作業用手袋を持っているおかげで良太が機械を探ることに。良太は色んなバイトをしていて、経験が豊富なだけに知っているように探っていく。
「エンジンがあるからって、宇宙にいくまでに尽きるぞ、これ」
「そんなっ」
 コンピューターは一応使えるが鈍い。エデンと繋がるコードがもう失っているから、機械を弄っても大丈夫。
「ちょっとぉ! 置いてかないでよ!」
 あとからせいらたちがバタバタと入ってきた。赤面してフラフラになった嵐は情けない。そんな嵐を引っ張ってやってきた。
「おめぇらが遅いからだろ」
 良太が正論を言った。
 機械を弄りながら。せいらは糞まみれの場所をみて再びぎゃあ、と叫んだ。ほんと忙しいな。良太が機械を弄ってる間に、僕らが出来ることといえばこの船を掃除することだ。

 病に侵された明保野さんも乗るし、異臭や汚物がある場所に寝かさない。エデンに着くまでゆっくりしたいし、僕らはくまなく掃除した。
 天井の埃を払うと、虫の死骸がパラパラと降ってくる。これには発狂。うねうね動いている幼虫もいて気持ち悪い。
 僕らが船の中で暴れ回っていると船がガタンと大きく揺れ、一気に崩れ落ちた。一瞬体が宙に浮いて船が地面に着陸すると同時に自分たちも強く床に叩きつけられた。
「痛ったた」
 それぞれ打ったところを抑えてヨロヨロ立ち上がる。
「船……どうなってんの?」
 せいらが窓から顔を覗かせた。
 傾いていた船はちゃんと地面に底をついていて、周囲に土煙が発生していて、余計に空気が汚くなった。でもこれで、足元が安定してる。
 天井の埃を払い終わると次に各ロビーにある家具類を外に出すこと。エデンの民が捨てていったものがそのままこちらの生活源となっている。エデンの民からしてみれば、使えないものでも、こちらにとってはどんなボロボロでも使えるもの。時々、生活に困った連中がここを掘り起こして、持ち去っていく。だいだいの人がそうしているから、ここにいる誰もがここを漁るのは得意だ。

 脚立がない椅子や穴が空いて中身が出ているソファー、埃が乗った書物など。漁れば漁るほど使えるものが出てくる。

 せいらは大きな鏡を発見してこれを持ち帰るとはしゃいでたり、嵐は棚の奥やベットの下に顔を覗かせてエロ本探しに夢中。

 なんやかんやで家具類を外に放り出すと廊下を水に浸してモップでこする。ススになっているところが多く、いくら擦っても取れない。
「おい、見ろよこれ……」
 嵐が掃除中に指差した。黒く大きなススだ。でもススとちょっと違う。成人した人が胎児のように丸まった形のススだ。
「これまさか、血?」
 せいらが青ざめた。
「この船、コンピューターも使えるのに捨てられてあるのは、かなり訳ありらしい。しかも結構厄介な」
 想像しているのは考えたくないこと。でも考えざるをえない。これまで拭いてきたものはただのススだと思っていたが、まさか、血なのでは。そう考えると急に背筋が凍った。
 でも今更、この船やめよう、なんて誰一人言わなかった。ようやく見つけたチャンスの船をみすみす逃すわけない。

 機械のメンテナンスはまだまだかかる一方、こちらもまだまだ掃除にかかる。なんといってもススがうまく取れないのだ。
「はぁ~もう腕パンパン!」
 せいらがモップを捨てた。それが僕の頭に直撃。
「いてっ! こら、真面目にやれ」
「真面目子ちゃんか。あんたらと違って体力ないの。女子よ。気を遣ってよね」
 せいらは壁に体を預けてふんぞり返った。ネズミが出てきたときの女じゃない声を聞いて、いまさら女かよ、と主張されても困る。
「自分が可愛いと思ってんのか?」
 嵐が真面目な顔で直球に言った。
「はぁん⁉ 私の胸触っといてよく言えんな。顔真っ赤だったくせに! 女らしいところはちゃんとありますぅ!」
 せいらはぎゃんぎゃん騒いだ。嵐はあのときのことを思い出して再び顔を真っ赤に。そんな反応したら反論できない。僕はモップの棒で二人の間を引き裂いた。 
「二人とも、真面目に、速く、掃除を、しよう!」
「は~い」
 二人とも怪訝な表情でしぶしぶ自分の持ち場に戻った。せいらは肩を回し、モップを手に取る。中々取れないススに悪戦苦闘。

 抜いていた床も代わりの板で補強。これで足元は安全。ギシキシいうのは仕方ないけどまぁ、大丈夫だろ。
 良太の仕事と僕らの仕事が終わったのは夕暮れ時。空がいつも真っ暗なせいでなおかつ、元々暗いせいで夜みたいに判別つかない。夕暮れ時だって分かったのは、遠くの方からサイレンの音が聞こえたから。この音は夕暮れ時にしか鳴らない。
 こんな遠く離れた場所からでも聞こえるんだ。   
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