王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第30話 闇魔法の可能性

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 闇魔法が使えるようになったわけだが、収納魔法以外に闇魔法っていったい何ができるのかという疑問が湧いた。
 光魔法は想像しやすい。光に伴う現象である反射や屈折を操ったり、光から生み出される熱を利用した魔法がすぐに想像できる。風魔法は風という空気の流れを操る魔法である。空気の流れを圧縮することにより、物体をおしのけたり、切断したりすることもできる。
 それに対して闇とはいったい。収納魔法もどのようにして闇に関連しているのか、よくよく考えれば不思議である。闇魔法に関する書物も持っていないので、ラズエルデ先生に聞いてみることにした。

「先生、闇魔法に興味があるのですが、どのようなことができるのですか?」
 俺は授業の合間の休憩時間に尋ねた。
「闇魔法だと? そんな魔法に興味を持つとは変わっておるのぅ」
「そうなんですか? 収納魔法とか凄く便利じゃないですか?」
「便利だが、人間には使うことができない魔法じゃからのぅ。使えるのは、魔界に住むと言われている悪魔か、ダークエルフぐらいじゃろ」
「えっ? 自分、使えちゃったりするんですが………」
「な、なんじゃと?!」
 俺は収納闇魔法【ブラックホール】を右手で発動して、中からショートケーキを取り出す。
「こんな感じで」
「ど、どういう事じゃ? しかも無詠唱じゃと? どどどど、どうなっておる? お前の親はダークエルフなのか?」
 かなりパニックになって、矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
「僕は詠唱はしなくても魔法は使えるんですよね。それと、親は人間ですね」
「スーハー、スーハー………いったん、このショートケーキを食べて落ち着かねば。パク、パク、うままーーい。………うむ、うむ、ヨハンの強さも驚くべきものがあったが、お主の魔法の才能も恐るべきものがあるな。これが王族の血というものか。はっ!! いや、いや、まさかの………お主もなのか」
 何かに気付いて考えこんでいる。
「何か気になることでも?」
「もしかして、お主、その、あれじゃ、いや、何でもない」
「いや、そこまで言われたら逆に気になるっていうか。言ってくださいよ」
 その後同じようなやりとりを何度も繰り返して、ようやくラズエルデ先生は重い口をひらいた。
「………実はお主、王との子ではなく、ダークエルフとの子供なんじゃないのか?」
「ふぁっ??」
 俺の開いた口は塞がらなかった。
「つまり、お前の母親がダークエルフと浮気してできた子供という事じゃ!!」
「いや、いや、それはありえませんって。飛躍しすぎですよ、先生」
 俺が闇魔法を使えるのはサタンの力を借りているからである。しかし、俺が精霊や妖精達に力を借りている事はお兄様から口外することを止められているのだ。お兄様のいう事は絶対だからな。うむ。それにしても、斜め上の結論を出すとは先生も案外当てにならないな。
「これならお主がヨハンと似ていない事も闇魔法が使えることも全てのことに説明ができるのじゃ。つらい事実かもしれないが、受け入れるしかないんじゃ。間違っても引きこもったりするんじゃないぞ」
「いや、しませんから」
 そもそも俺はそんな重い出生の秘密を抱えてはいない。
「そうは言うが、そういう事を気にして引き籠ってしまったやつもいるんじゃ。そういうのはデリケートな問題じゃからな」
 確かに本当の親ではないと知ってしまえば、親にも不信感を抱いて引き籠ってしまうこともあるかもしれない。
「僕は大丈夫なんで。そんなことより、闇魔法について教えてもらえますか?」
「そ、そんなことじゃと? なんという精神力じゃ。その恐ろしい精神力が魔法の才の源なのかもしれんのぅ。お主が気にしないのであれば、それは置いておこう。それで闇魔法についてじゃが………私が使う事ができないので詳細は知らないが、基本となる部分は教えることができるぞ」
 何やら変な勘違いをしているようだが、もういいだろう。そんなことより闇魔法だ。
「是非知ってることを教えてください」
「闇魔法とは一言で言えば、暗黒物質ダークマターの生成と操作じゃ」
暗黒物質ダークマター?」
「うむ。この世界にある目に見える物質はほんの数%しかないんじゃ。その5倍もの目に見えない物質というものが存在していると言われておる。その目に見えない物質こそが暗黒物質ダークマターということなのじゃ」
「目に見えない物質? 光を反射させていないということですか?」
「いや、そういうものではない。たしかにこの世界に存在するが、その存在を感じることができない物質、それこそが暗黒物質ダークマターというものじゃ」
「なぞなぞですか?」
「違うわい!! たしかにその存在があることは間違いないのじゃ。しかし、それを知覚することができないのじゃ。説明が難しいのだが、そういうものなんじゃ。この世界とは別の理にある物質というべきか」
 収納魔法が別の空間と考えるなら、SFでは有名な高次元の存在が思い浮かぶ。
「……つまり3次元ではなく、4次元の世界にあるということですか?」
「3次元?4次元? なんじゃ、その考え方は?」
「例えば、この紙の世界が2次元とすると、これに高さを加えたこの世界が3次元ということになります。例えば、この紙に人を書きます」
 俺は紙を取り出して、そこに棒人間を書いて、その横を指で押さえた。
「この人からすれば、僕の指はどのように見えているでしょうか? この棒人間にとっては紙の世界で生きているので、紙の部分しか見えません。高さの概念がないですからね」
「抑えた部分が黒い点に見えているのか?」
「そうですね。抑えた部分が黒く見えているでしょう。そして、こうすれば」
 俺は紙を抑えていた指を離す。
「黒い点は見えなくなります」
 俺はさっきとは違う部分を指で押さえる。
「こうすると、棒人間にはまた違う場所に黒い点が現れたように見えるでしょう」
「なるほど」
「僕達が生きている世界は3次元です。だから、この2次元の世界に生きる棒人間は紙以外の部分である3次元世界のことは知覚することができません。同様に3次元世界の住人である僕たちは4次元世界の物質を捉えることはできないということなんじゃないですかね」
「むむむむ。面白い発想じゃ。そうかもしれんし。そうじゃないかもしれん。闇の魔法はまだまだ謎の多い魔法じゃからのう。私が使えるなら研究したいところじゃが……もしよければその考えを闇魔法を使えるやつに教えてもいいかのぅ。闇魔法の可能性が広がるやもしれん」
「別にいいですよ。闇魔法を使える人を知っているんですか?」
「まぁな。実は私の妹が闇魔法を使えるんじゃ」
「えっ? エルフは使えないとさっき言ってませんでしたか? 悪魔とダークエルフしか使えないって………」
「そうじゃ。エルフには使えないんじゃが、私の妹は少々複雑でのぅ。ダークエルフなんじゃ」
「ん?? えっと……先生の親はダークエルフなんですか?」
「いや、両親ともにエルフじゃ。だから複雑なんじゃ。お主と違って繊細だから、引き籠ってしまっておってのぅ」
 つまりさっきの浮気云々で引き籠っている知り合いというのは妹のことか。だから、俺の事を浮気相手の子供だという突飛な考えがうかんだのか。先生にとっては突飛ではなく身近な考えということか。
「いやいや、僕も繊細ですよ。僕は正真正銘両親との子供ですからね。それで、なんでまた引き籠りになってしまっているんです」
「考えてもみろ、エルフの親からダークエルフが生まれたのじゃ。お主ほど楽観的になることはできんじゃろう。父は母の浮気を疑い、母はそれを否定したのじゃ。それにより終わることのない夫婦喧嘩が勃発したのじゃ。その喧嘩の原因を妹は自分にあると思ってしまい、一人で別の場所に引き籠ってしまっておるんじゃ。幸か不幸か収納の闇魔法が使えるので、引き籠っていても衣食住はなんとかなっているようなのじゃ」
 なかなかヘビィな話だな。聞きたくなかったぜ。なんて返せばいいか分からない。
「……それはなんというか……でも、先生のお母さんは浮気ではないと言ってるんですよね」
「そうじゃな。しかし、実際ダークエルフが現に生まれておるのじゃ。言い訳ができないではないか。お主のように事実から目を逸らすことはできん」
「事実から目を逸らしてはいませんけど………エルフ同士の親からダークエルフが生まれることってないんですか?」
「ありえんじゃろう。肌の色も違うんじゃからな。大昔なら、忌み子として殺されておったとも言われておるが、それも今では浮気が原因と言われておるな」
 これはあれかな。遺伝の法則をご存じないパターンかな。遺伝の法則がどれくらい当てはまるのか分からないが、エルフが顕性遺伝でダークエルフが潜性遺伝ならありえない話ではないような気がするが、どうなんだろうか。
「先生は遺伝の法則って知っていますか?」
「遺伝? それは何じゃ?」
 どうやら知らないようである。俺は遺伝の知識を先生に簡単に説明する。
「つまり、こういう事か。エルフ同士であっても両方にダークエルフという潜性遺伝があれば、ダークエルフが生まれる可能性があると………」
 わなわなと先生の体が震えている。
「ダークエルフの特徴を伝える遺伝子が潜性かどうかは分かりませんが、確率から考えればそうなる可能性は高いですね。それ以外も成り立つかどうかはデータが少ないので何とも言えないですけど」
「何てことだ。母は嘘をついていなかったという事かもしれないということか。それに、それが本当なら妹は引き籠る必要もなかったじゃないか」
「いや、可能性の話であって、実際浮気していたという可能性もありますし………先ほど説明した遺伝の話が成り立ってるかどうかはわかりません」
 なんたってここはファンタジー世界だからな、遺伝の法則が成立しない可能性がある。さらには、普通に浮気してたって事もありえるのだ。変に期待させて、絶望してほしくない。
「いや、それでも、母の証言に嘘がなかった可能性がでてきたのじゃ。こうしてはおれん。私は妹のところにこのことを伝えに行かねば。今日の授業はここまでじゃ」
 ラズエルデは颯爽と部屋から出て行って、いなくなってしまった。テーブルの上に残された皿の上にはショートケーキは一欠けらも残ってはいなかった。
 そういえば闇魔法についてあんまり聞けてないことに、ラズエルデがいなくなってから気付いたのだった。

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