王族に転生した俺は堕落する

カグヤ

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第38話 金貨の重み

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「あなた達だけなの?森で迷ったの?」

 女性は俺達に近づきながら、質問をしている。手には剣を持ち、その顔には火傷の傷跡が大きく残っているのでものものしい雰囲気を醸し出していた。

「いや、ちょっと虫を捕まえていたので………」

 エドガエル君は多分あんまり理解していないので、俺が女性の質問に答えた。

「虫? こんな森の中で? ここは魔物が出るから危ないのよ?」

 俺はエドガエル君に耳元で「ここって危ない魔物が出るの?」とエルフの言葉で聞いた。すると、同じく耳元に手を当てて、「弱い魔物しか出ないから大丈夫」と返してくる。

「近くに誰か大人の人がいるの?」

「いや、いませんけど………」

 弱い魔物くらいなら大丈夫ではある。

「子供2人でこんなところに来ちゃったの? この辺に村があるって聞いたことないけど………どこから来たの?」

「ハイゼンベルクの王都から来ました」

「えっ!! 子供2人で?! 門番に止められなかったの? もしかして、商隊からはぐれたのかしら?」

 そういえば、門番に止められるから子供2人でこんなところにうろついているのを見られるのはあまりよろしくなかったかもしれない。

「まぁ、そんな感じです」
 咄嗟に話を合わせてしまった。俺の悪い癖だ。

「だから空腹を紛らわすためにセミを捕まえてたのね。大丈夫よ。私の持ってきた食べ物を分けてあげるわ」

 セミは食べるためにあるのは、この世界では常識なんだろうか。ただ、反応的には最終手段という感じがするが。女性は、袋から直方体の形をした乾パンを取り出して、俺とエドガエル君に渡してくれる。
 俺とエドガエル君は乾パンを手に持ったまま目を見合わせた。

「遠慮せずに食べていいのよ。お腹減ってるんでしょう?」

 【ブラックホール】の中に食料が入っているから、大丈夫ではあるのだけれど、せっかくの好意を無下にすることはできない。
「ありがとうございます」

 お辞儀をして、乾パンを口に運ぶ。エドガエル君も真似をしてお辞儀をして、同じく乾パンを食べる。結構固くてなかなかかみ砕くことができない。かなり唾液がもっていかれてしまう。
 俺達が食べ終わるのを待って女性は口を開いた。

「私の後について来なさい。そうすれば森を抜けることができるわ」

 俺はエドガエル君に「送ってくれるって言ってるけど、どうする? 今日はもう帰る?」と耳打ちすると、こくりと頷いた。
 ひとまず標本は出来上がったし、エドガエル君もここに無断で来ていることがばれるのはやばいと思ったのだろう。一緒に帰ることに同意した。

「ありがとうございます。助かります」

「用心してね。魔物が襲ってくることがあるから」

 行きの道中では全然魔物に会わなかったのだが、運が良かったのかもしれない。俺達は素直に女性の後に従った

「お姉さんは何で、こんな森に一人でいたんですか?」
 俺は気になったことを尋ねた。

「この辺りで採れるリルナの葉というものを集めに来たんだ。怪我なんかに効くから、いい値段で買い取って貰えるんだ」

「冒険者ギルドに出ている採集依頼ってやつですか?」

「冒険者ギルドを知っているのか? そうだな、このリルナの葉は常時依頼に出ている依頼だな。傷薬として使えるから、大量にあっても買い取ってくれるんだ」
 冒険者ギルドに行ったことはないけど、イメージ通りのところのようだな。

「お姉さんは冒険者なんですね。凄いです。女性の冒険者の人って多いんですか?」
 俺が依頼するときは風の旅団とやらではなく女性冒険者に頼むとしよう。むさくるしくないしな。

「あんまり多くはないな。魔法使いやヒーラーなんかは女性がいるけれど、冒険者じゃなくて国とかに仕えることが多いからね」

「お姉さんは魔法使いじゃあないんですか?」

「そうだな。私には魔法の才能がなかったからな。これで戦っているんだ」
 腰にさしてある剣を俺達に見せてくれる。

「女性なのに凄いですね」

「凄いっていうか………冒険者しか選択肢がなかったんだ。これ」お姉さんは俺達の方に顔を向ける「顔に火傷の傷があるからね。普通の女としての人生は捨てたってだけさ」
 なかなかヘビィな話である。さらっと何でもない顔で話している辺り、何度も人に話している内容なんだろう

「お姉さんの顔の傷はさっき言ってたリルナの葉からできる薬では治らないんですか?」

「これは昔子供のころに負った火傷なんだ。火の通った油をかぶってしまってな。傷薬くらいではこの火傷跡は治らないんだ」

「そうなんですか……」リルナの葉も万全というわけではないのか。「魔法の【聖なる癒しホーリー・ヒール】でも治らないんですか?」

「【聖なる癒しホーリー・ヒール】をかけて貰うには金貨が1枚は必要だからな。当時、そんなお金はなかったからね。治すことができなかったんだ」

 金貨1枚は冒険者にとっては大金なのか。服とかに金貨を何十枚もかける冒険者もいれば、金貨1枚でも大変な冒険者もいるってのは悲しい現実である。
 俺が考えていることを読み取ったのかお姉さんは続けた。
「今も治さないのは金貨1枚がないからってわけではないんだ」

「そうなんですか? では何で?」

「私も親が金貨1枚と旅費を貯めてくれて、治してもらおうと思って、司祭のところに行ったことがあったんだ。でも私の傷は【聖なる癒しホーリー・ヒール】では治らないって言われたんだ。時間が立つと、それが正常の状態だと認識されるらしくて【聖なる癒しホーリー・ヒール】では治らなくなるらしい。時間が立った火傷の傷を完治させるには最高司祭が使う【高位の癒しハイ・ヒール】なんかじゃなきゃ駄目みたいでね。金貨が20枚くらいかかるらしいんだ。でもそれが今の私の目標さ。聖都までの旅費も稼がないと駄目だけど、いつかはってね」

 うっ、金貨20枚か。奇しくも俺がこの前無駄に使った金額と一緒である。なんかよくわからない罪悪感があるな。しかし、そこは王族だからね。気にしたら負けである。
「しっ!! 動かないで!!」
 突然お姉さんは叫んだ。
 叢が動いたと思えば、中から前に爆散させた種類のオオカミが1匹現れた。お姉さんは腰の剣を抜いて、オオカミと対峙した。エドガエル君も剣の柄に手をかけようとするが、俺が首を振って止めておいた。ピンチになったら、俺の魔法で爆散させればいし、念のためにちょっとした手助けとして闇魔法で相手の視界を塞いでおいた。
 視界が暗くなったオオカミは暴れ始めて、お姉さんを噛みつこうと口を開いて飛びついた。その単調な動きを捉えて下から切り上げて難なく葬り去った。

「大丈夫だったか? グレーターウルフとは君達だけだったら危ないところだったな」
 オオカミじゃなくてグレーターウルフという魔物だったみたいである。

「集まってくる前にさっさと帰ろう」

「素材とか持ち帰らないんですか?」
 魔物だと魔石が取れるはずである。さっきの話を聞いてしまったので、少しでも足しにしてもらいたいところではある。

「今はそんなことよりも君達の安全の方が優先だからね。ついておいで」
 なんて男らしいお姉さんなんだ。
 その後グレーターウルフがまた現れたが、俺は陰ながら手伝って、お姉さんが同じように斬って捨てた。

「ここまで来ればもう安全だ。あそこに王都の門が見えているだろう」

「本当ですね。ありがとうございます」
 どうやらここでお別れをするようである。もしかすると、さっきの魔石を回収しに行くのかもしれないし、依頼のリルナの葉を取りに行くのかもしれない。俺達にとってもそれは都合がいいので、異論はない。
「少ないですが、これ……」
 俺は腰に下げた袋から銀貨を取り出そうとする。

「気にしなくてもいい。そんなに大したことはしていない」
 それではお姉さんにオオカミを狩ってもらった意味がなくなる。お礼としてお金を渡すつもりだったのだが。どうしようか。

「お姉さん、ちょっと座ってくれる」

「どうしたんだ? こうか?」
 俺はお姉さんの顔に右手を触れて、心の中で【高位の癒しハイ・ヒール】と唱えてお姉さんの顔が治るのをイメージする。できるかどうか分からないので何も説明せずにやってみる。できる雰囲気を醸し出してできなかったらショックが大きいしね。
「ひどい火傷だろう。君たちは私のことを最初から怖がらなかったな。あんな森の中にいたのに、焦った様子もないし、案外将来は大物になるかもしれないな」
 お姉さんは大きく笑った。

 そして、その顔の火傷の傷がみるみる治って、本来の素顔を取り戻して、素敵な笑顔になる。
 エドガエル君はそれを見て、両手をぶんぶんと上下に振って俺の方に顔を向ける。
「ああ、それじゃあな」

 エドガエル君の行動が、早く帰りたがっていると思ったのかお姉さんは立ち上がって手を振った。
 リンネの光魔法が最高司祭の回復魔法に匹敵することを知れたし、エドガエル君の驚きも見れたのでこれで良しとしよう。顔が治ったことを伝えるのは野暮ってものである。

「お姉さんに素敵な出会いがあるように願ってます」

「ありがとう。あればいいけどな」
 俺は手を振り返して、俺達は門の方へと歩き出した。エドガエル君はエルフの言葉で『すごい、すごい』という言葉を連呼している。
 振り返ると、俺達を見送ってまだ手を振っているお姉さんの姿があった。あの顔であるなら存外早くいい出会いが見つかる気がするなと思った。


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