あやかし奇談花恋

青桜さら

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嘆き

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 何のことを言っているのか、那月には分からない。でも……。
(助かった……)
 柊の助けを待つのは、男として多少の抵抗はあった。けれど那月だけではどうにもならなかった。
 本当に時間稼ぎ程度しか、出来なかったことが情けない。

 柊は対峙したモノを見て、何の感慨もなく呟く。
「お前は……猫か。哀れだな」
 その瞬間にソレは逆上して叫ぶ。
「お前ぇぇぇっ、またそれを言うのかぁっ」
 紫に濁った目を見開いて、柊に飛びかかった。
(また? どういうこと?)
 柊を探していたと言っていた。そこで那月は気づいた。
(元々の原因は柊ってことだな。理不尽だ)
 つまり柊に仕返しをしようとして、まず憑いていた人間をどうにかしようと考えたのだろう。那月がいなくなったとしても、柊に影響があるとは思えない。
 こうして駆けつけてくれたのも、那月にしてみれば幸運でしかなかった。
(いや柊のせいで襲われたんだから、不幸でしかないか)
 あとで柊に問いただそうと、那月は心に決めた。
 震える膝に耐えて体を保ちながら、そんなことを考える。
 その間にも猫は、鋭く長い爪を柊を狙い幾度も飛びかかっていた。
 難なく攻撃を躱していく柊に、猫は悔しそうに歯ぎしりをして……しかし体力をかなり消費し荒い息をしている。
「お前のせいでっ、お前のせいでっ」
「柊だ。仮の名前だけどな」
「柊、お前だけは」
 許さない。そう猫は言う。
 そこまでの憎悪を抱いたまま、名前も知らない柊を探し続けていたらしい。
 力の差は圧倒的に柊が上だった。息を乱すことなく、那月を守りながら涼しい顔をして攻撃を躱していく。

 そのうちに疲れて声も出せなくなった猫は、一度立ち止まり肩で息をする。
「猫、気が済んだか?」
「…………っ」
「さて、俺に攻撃したということは……反撃される覚悟はできているんだろうな?」
 猫は力尽き、その場に崩れ落ちる。
 勝ち目がない。そもそも力の差が大きすぎて、猫は絶望的な表情担った。
「最初から勝てるなんて思ってないさ……だから那月を狙ったのに。それも叶わなくて、柊に傷一つもつけられないなんて……」
 このまま柊にやられてしまったら、魂ごと消滅してしまうだろうと猫は気づいていた。
 何もかも無意味に終わり、何のために生まれてきたのか。
 息を引き取る間際に『憐れ』なんて言われなければ、そんなことに気づかないままでいられたのに。と猫は柊を憎んだ。
「悔しい……悔しい……」
 涙ひとつも出ない。泣くことは遠い昔に忘れてしまった。ただ悔しい感情が心で渦巻く。
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