「永遠の雪原 ―遭難が紡いだ恋―」

夕暮れ狼

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第3章:凍った足音

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第3章:凍った足音
夜が明けた。
外の吹雪は少しだけ収まり、灰色の空の下に薄日が差し込んでいた。
「…今日、下山できそうかな」
亮介がぽつりとつぶやくと、美月は窓の外をじっと見つめたまま首を横に振った。
「まだ無理。雪が深すぎる。無理に動くと逆に危ないよ」
「……そうか」
足元には、濡れた靴と靴下が並んで乾かされていた。
昨夜、気付けば亮介の足の指はうっすら紫色に変色していた。
「少し、凍傷になってるかも。感覚ある?」
「……あんまり、ない」
美月はためらいなく亮介の足を取ると、ポケットから小さな保温パックを取り出して優しく当てた。
「がまんして。これ以上進行すると、ヤバいから」
冷たくなった足を、美月の温もりが包み込んでいく。
亮介は、心のどこかがじんわりと溶けていくのを感じた。
「どうしてそんなに慣れてるんだよ……まるで救助隊みたいだ」
「……昔ね、私も遭難したことがあるの。一人じゃなかった。けど……その人は帰ってこなかった」
言葉の温度が、一瞬だけ変わった。
亮介は、それ以上聞けなかった。
ただ、彼女の指が震えていたことだけは、しっかりと覚えている。
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