君に咲くはずだった春

夕暮れ狼

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第6章:忘れられた記憶

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第6章:忘れられた記憶
澪と再会した日のことは、今でも鮮明に覚えている。
彼女は確かに僕を覚えていなかったけれど、僕の心の中にはあの日々が残り続けていた。
「あなた、どうして私のことを覚えているんですか?」
澪が少し不安そうに聞いてきた。
その問いに、僕は少しだけ躊躇った。
「いや、なんでもないんだ。ただ……すごく懐かしいなって思っただけで」
正直に言うのが怖かった。
澪にあの頃のことを話して、彼女が何も覚えていなかったことを知るのが怖かったから。
その後、少しの間、僕たちは静かに座っていた。
病院の待合室の空気は、どこか緊張していて、でもどこか温かかった。
「その後、元気だった?」
僕はふと口を開いた。
澪は少し考えるようにしてから、笑顔を見せた。
「うん、まあ、なんとか。でも、あの頃のことはあまり覚えていないんだ。入院してから、いろんなことが曖昧で」
「そうか……」
澪の目が少し遠くを見つめる。
その表情が、どこか切ないように感じられた。
「でも、今はこうしてまた会えて嬉しいよ。ありがとう」
その言葉が、胸の奥で温かく広がった。
「こちらこそ、ありがとう」
彼女の記憶には僕がいないけれど、僕の中には澪が今も鮮明に存在している。
そして、もう一度彼女を守りたいと思う自分がいることに気づいた。
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