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第二章
完全落着
しおりを挟む私が倒れてから四日が経った
今はもうすっかり元気になって、庭で走り回ってそのまま躓いて三回以上でんぐり返しになって大笑いできるレベルには回復していた
その後しっかりとクロスから一デコピンを貰いユーリからは身も凍るような視線を頂いた
丁重に目を逸らさせていただきました
ソフィの件に関してはあの後うやむやになって結局ユーリにもクロスにも話せていない
まあ、遅かれ早かれ知ることにはなるだろうからもう一時この平穏な日々を過ごそうじゃないか…知られたら騒ぎになるのは目に見えてるし
だって王子様だよ?あのおとぎの国の話じゃない本物の王子!!この話を聞いて驚かない人間は絶対どっかの神経壊死してると思う
そして今日
久しぶりにシェリーが我が家に訪れた
たかが四日、されど四日
しかも最近はずっと一緒にいたようなもんだったから余計に久々だと思えた
「シェリー!久しぶり!」
「セツィーリア様、お元気そうで何よりです。倒れたと聞いていたにも関わらずすぐにお見舞いに来れず申し訳ありません」
「なんだよシェリー硬ぇぞ!それに見ての通り私はピンピンしてる!それに、シェリーが忙しかったのは知ってるから全然気にしてないよ、今こうして来てくれただけでも嬉しいから」
ニコニコと笑う私に絆されたのかシェリーも硬い表情に幾分かの笑みが戻った、まあ少々苦笑いが混じっていたのは大目に見るとしよう
「キュアラちゃんは元気?」
「はい、懲りずにこの前も木に登っていましたよ」
「おぉう、それはそれは」
私に負けず劣らずヤンチャですな
ガーデンのいつもの場所でシェリーと世間話をする
なんかこのティータイムも懐かしいなぁ、最近バタバタしててこういう時間が一気に減ったからね~
香りの好い紅茶を口に運ぶと向かいに座っているシェリーが何か言いたそうな顔をしているのに気づいた
「シェリー?なんかあった?」
「……あの、っ、いえ、やっぱり」
「はいはーい、そこまで言っといて言わないってのはなしだからね~?今更何を隠すことがあるっての!…私じゃ頼りにならない?」
テーブルに手をついて身を乗り出す
間近でその揺らいでいる瞳を真っ直ぐ見つめてるとだんだんその揺らぎが落ち着いていくのが見て取れ
それに連れてシェリーの表情も和らいでいった
「…実は先日ルーク様にお願いしたんです、あいつの…あの男の聴取を自分にも聞かせて欲しいって」
「まあ、そうだよね。シェリーには知る権利があるもの」
「それで、さすがにその場に居るとあの男にどんな刺激を与えるか分からないから、その聴取の内容を録音したものを聞いたんです」
「うん」
「……セツィーリア様は疑問に思いましたか?なぜあの男が執拗に私を不幸にしようとしていたのか」
「それは、シェリー達のお母さんがあいつをフッたからその逆恨みで、二人の子どもでもあるシェリーにも理不尽な怒りを覚えたから…って思ってたけど」
そう聞いてくるって事はそういう事情だけじゃないってことだよね?
首を傾げる私を見てシェリーは一度深呼吸をしてからゆっくりと口を開いた
「私もそう思ってました。でも…それだけじゃなかった……思い出したんです」
あいつと会ったのはあの火事の日が初めてじゃなかった
そう前置きをしてからシェリーは私に忘れられた過去を語ってくれた
アーレス夫妻は子ども達に心配をかけないようにあの男のことはずっと黙っていたらしく、自分の母親が狙われていたと知ったのもシェリーが自分で調べて漸く分かったことだ
そしてあの男はそんな何も知らないシェリーと一度顔を合わせていたという
「驚きましたよ、その事を聞いた時は…それと同時に全く覚えていなかった自分にもね」
自嘲気味に笑うシェリーに何も言えずに大人しく話の続きを聴くことにした
私が初めてあの男と顔を合わせたのは下町の広場でした
その時あの男は昼間っから酔っ払っていて、その上今のキュアラと歳の近そうな花売りの少女に絡んでいたんです
ちょうどそこを通りかかった私が二人の間に割って入って、落ち着くように言っても聞く耳を持たず終いには子どもに説教をされたとさらに逆上して騒ぎ始めた
元々小さな騒ぎになっていて遠巻きに見ている人が少なからずいたんですけどそれが余計に増えて、このままじゃ大騒ぎになって収拾がつかなくなると思って少し強引にでも話を聞いてもらおうとしたら、いきなり押しのけられて後ろにいた少女に殴りかかろうとしたんです
さすがに見過ごせずその腕を掴んだら今度は逆に殴られそうになったからつい腕を捻って捻じ伏せてしまって…とりあえず諭しながら冷静になるまでそのまま取り抑えてようと思ったんですけどさらに暴れられて
「その時の私は少し護身術をかじった程度だったのでそう長く拘束してもいられず、あいつの酔った勢いでの馬鹿力に適わなかったんです。でも、拘束から逃れたあいつは反撃する前に周りの非難の声にたじろいだんです。元々プライドが高いので公衆の面前で多くの人から非難を貰うのなんて屈辱でしかなかったんでしょう、結局その声に耐えられなくなってそのまま逃げて行きました」
「……まさかその理由だけでシェリーを!?」
改めて認識したけど本当に頭おかしいなあいつ!!
声を荒げた私を見てシェリーはゆっくりと首を横に振って力なく呟いた
「色んなことが重なってしまったんです」
「それはどういう…」
「…どうやらその日、偶然にもあいつが父さんに叱責された日だったんです。それでやけ酒をして八つ当たりで少女に絡んでいたら私が現れて庇った、その姿が母を庇う父の姿と重なったそうです。うちの店でも非難され広場でも非難されプライドはズタズタ、それだけでも殺意は十分だったんでしょう。でも…最後の決め手となったのは私が父と母の子供だったということでした」
"驚いたぜ!俺を馬鹿にしやがった二人が親子だったんだからなあ!しかもガキの方は俺のこと覚えてすらいなかった!あいつらのせいで周りの奴らが俺を罵って見下した目で見てきやがった…親父もあいつらの味方……この俺に恥をかかせた張本人共を許せるわけねえだろうが!だから運命だと思ったんだよ、これは俺がアーレス家全員に罰を与える運命なんだってなあ!!"
「録音機から流れ出る男の狂気じみた声が暫く離れられませんでしたよ。それに…まさか自分の存在があいつの殺意を助長させてたなんて…」
目を伏せるシェリーの声が震えている
こういう時どう声をかければいい?どうすればいい?……一々言葉で考える必要なんてないな
「………」
「…セツィーリア様?」
椅子から立ちシェリーの側まで行って何も言わずにその震えてる両手を包み込んだ
「こういう時って温かい手で包んであげるのが定番なんだけどさ、ごめんね、私冷え性なんだ。でもさ、手の冷たい人の心は温かいって言うじゃん?それに、私の手が冷たい代わりにシェリーの手は温かいじゃない?だから、シェリーの温かさが伝染して私の手も、ほら!温かくなってる!」
シェリーの手を包んでいた手をそのままその頬へと持っていく
必然的に合う視線
少しびっくりしているシェリーは私を見つめた後
「……まだ結構冷たいですよ?」
「うっ」
まさかの切り返しだった
「それに、私の手は温かいから心は温かくないっていうことですか?」
うええええ!?まさかのシェリーが超屁理屈言ってくるー!!
「い、いやいや!決してそのようなことは!手が冷たい人ですら心が温かいんだから手がもう既に温かい人なんて当然心も」
温かいに決まってるじゃん!と続くはずだった言葉は
「ぷっ…あはははは!」
いきなり笑い出したシェリーの笑い声によって遮られた
そして気づいたのだ
私はからかわれたのだと
「シェリー!!」
「ははっ、すいません、セツィーリア様がかわいかったもので」
「かわいいでからかっていいと思ってんのかー!?」
あとかわいいって煽てとけば私が照れて許すとでも思ったか!?残念でしたー!今の私はからかわれた羞恥に身を燃やしているので照れる暇はないんですうー!
ちょうどまだ頬を包んでいたのでそのまま前後にシェリーの頭を揺らした
もう!!雰囲気台無しだよ!あと何気に恥ずかしかったからああいうツッコミもらっちゃってさらに恥ずかしくなっちゃったじゃん!
もういい!まどろっこしいことはなしだ!
「シェイルス・アーレス!!」
「はい!」
おっ、反射にしてはなかなかいい返事
「お前は少女を庇ったこと後悔しているのか?」
「!…いえ、してないです」
はっきりきっぱりと告げられた言葉に笑みを深める
「ならシェリーがショックを受ける必要なんてない!お前は正しいことをしたんだ、女の子を守ったかっこいい男だ!…言いにくいけど、シェリーの件がなくてもあいつの動機ははっきりしていた、そしてあいつは捕まってなおシェリーを苦しめようとしている、だからそんな奴の言葉を気にしちゃだめ!…つまりだね、その、結局本当にありきたりな言葉しか出ないけど、」
おうっと~…まさかの言葉詰まり…!
とにかくシェリーが気に病む必要はない、シェリーは何一つ悪くないっていうことを伝えたいだけなのに、ここで語彙力の欠乏!……もう!どうしてこういう時に限って…!いつもは馬鹿な話をぺらぺらといつまでも話してるのに…!
さっきの体勢のままうろたえるものだから間近でシェリーに百面相を見せ続けていたことに気づかなかった
だから頬に当てていた手にシェリーの手が重ねられたことにも触れられるまで気づかなかった
「セツィーリア様、大丈夫ですよ」
「いや、シェリー、無理はいけな」
「はは、無理なんてしてないですよ、本当です。確かに話を聞いた時は結構落ち込みました、でも…セツィーリア様がまたこうして話を聞いてくれた、私の手を握ってくれたじゃないですか。私にはもうそれで充分だったんです。だって…俺はもう、あなたに救われていたから」
これで本当の本当に、前へ進めます
私と手を重ねたまま顔を見合わせて微笑んだシェリーの笑顔は
今までで一番美しく
輝いていた
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