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Act 3. 学園に入った鳥
0の数が、2桁位おかしい
しおりを挟む部屋に戻ると、台所を漁り薫の私物と思わしき急須を見つける。
ポットを探してみたが、見当たらなかった為、電気ポットを沸かし、急須でグランマの紅茶を入れた。ティーカップも無かった為、マグカップで代用だ。
あまりにも不格好だから、今度ティーセット一式を買っておこうと心に決める。
先に自室に向かわせた伊吹の元へ紅茶を持っていく。
伊吹はちゃっかり俺のジャージを履いて、ベッドの上に寝転がっていた。スラックスは横に丁寧に畳まれている。
ちなみに、俺の綺麗好きの影響で、伊吹も俺も外に出た服でベッドに乗らない。
俺は机に紅茶を置き、素早く部屋着に着替えた。
「この家具気に入ってくれた?」
「ああ、凄く俺の好みだ」
そう答えて、マグカップを伊吹に渡す。
ベッドに彫刻された模様といい、ヨーロピアン調の家具が、伊吹には良く似合っていた。
生まれ変わる前の家ならお目にかかる事の無い様な一品だ。
昨日今日何気なくスルーしていた自分が恐ろしい。
「ここの家具って備え付けじゃなかったんだな。伊吹が揃えてくれたんだろう?」
「折り畳みのパイプベッドとデスクなら付いてるらしいけど、サイズ的にも小さかったから新調したんだよ」
「スペイン製か」
「流石。マリネールで揃えてみました」
グランマが好きな家具の種類だ。0の数が、2桁位おかしい。
「はぁ」
「大丈夫。俺の財布から出てるから」
あくまで父様に迷惑かけてないよ、とにこやかに言う伊吹。我が双子の弟ながら、金銭感覚は一桁二桁ずれている。
純粋に小鳥遊だけで育っていたら、俺もそうなったのだろうか。
金の使い方を考えろとか、色々言おうとしたがやめた。
多分、伊吹が俺の知らない所で家具選びに奔走してくれた事を考えると、出てくる言葉は一つしかない。
「ありがとな、伊吹」
「どういたしまして。ところで、さっき携帯にメール入ってたよ」
「ああ」
俺は紅茶を飲みながら、伊吹から携帯を受け取った。
ちなみに、今日の紅茶はメイソンのアールグレイ。
「桐生神って、誰?」
「今日道案内してくれた変態……じゃなかった、変態」
「織、それ言い直しになってない」
「先輩」
「ふーん」と伊吹は足をバタバタさせた。
メールの内容は、[今日は有難うございます。]から始まって、聞いてもいない俺への愛が書かれている長文。
最後に論文の質問が書いてあった。もちろん、中間の長文は読み飛ばした。
「俺の研究に興味があるとかで、今のメールもその質問だ」
「……もしかしてさ、桐生って人、黒髪でスカした感じの人だった?」
「スカしてるかは不明だが、黒髪で無駄に顔立ちは整っていた気がする」
「目尻に泣きぼくろあった?」
「あったんじゃないか?」
「なんで曖昧かなー」
「しょうがないだろ。男の顔を見つめる趣味はない」
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