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Act 5. 祭に興ずる鳥

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 3人の動きはさっきの試合で大体読めた。
 この3人の中で一番上手いのは薫だ。
 他の2人も上手い事は上手いが、オフェンス向きの人間だろう。カットの仕方が甘い。

 しかし、俺と3人の身長差を考えると、きっと3ポイントで決めた方が絶対に無難だ。

「さて、どうするか……」

 何パターンか攻め方を考案しながら、ラインに立って、一人の選手へとボールをパスした。

「本当に大丈夫か?」

「手加減してると痛い目みるかもな?」

「まさか」

 選手のボールが俺に戻ってきた瞬間。
 フェイントを掛け、左に抜けた。

「くそっ!」

 相手の意表はつけた。
 素人なら、聞き手の右に抜けてくるのが普通だ。

 それに、向こうが素人だと油断しきっている事もあって、容易に抜けた。

 薫がいち早く気づき、俺の前に立ちはだかる。

 ハーフコートだと、展開が早いし、ゴールまでの距離も少ない。

「上手いとは思っていたが、結構やるな」

「そりゃどーもっ!」

 今度はバックターンを入れながら、もう一度方向を切り返し、シュートを構える。

「打たせるかっ!」

 素早く薫がガードに切り替え、目の前で大きく飛んだ。
 さっきの試合で、そう来ることは予想済みだった。

 俺は大きく後方にジャンプしながら、ボールを放った。

「入れっ!」

 後ろに飛んだ勢いで、思いっきり尻を付く。
 ボールは弧を描いて、綺麗にゴールに収まった。

「っしゃっ!」

 拳を握る。
 感覚は全部覚えている。

 あれだけ愛したバスケを、もう一度プレーしている。
 それが酷く嬉しくて、同時に酷く懐かしかった。

「決まった……」
「嘘だろ」
「あいつ何者だよ」
「経験者だろ」

 周りで見ていたバスケ部員達呆然として、口々にボヤく。

「さすがやー伊織ちゃんっーーーー!!!」

 勢い良く周りから走ってきた日下に抱きしめれた。

「信じてたでー」

「さっきは思いっきり疑ってただろ」

 笑いながら、俺も日下を抱きしめ返す。
 途端、日下から引き剥がされるように、ぐいっと後ろに引かれた。

「ん?」

 引かれた方を見ると、眉間に皺を寄せる薫と目が合った。

「薫?」

「薫ちゃん、羨ましいんやろー」

 抱きついていた俺達の間に入ってきた薫に、日下が茶々を入れる。

「羨ましいのか?」

「いや……」

 そうじゃないが、と口を濁す薫に今度は、俺から抱きついた。ずっと運動していたからか、薫のじっとりとした暖かさに包まれる。

「あ、おいっ」

「薫、ありがとう。すごく楽しかった」

 長身に抱きついてポンポンと背中を叩いて離れた。

「い、伊織っ」

「ん?」

「薫ちゃん赤くなっちゃって、初やなー」

「違うっ、暑いだけだ」

「そーいう事にしといたるわ。でも、なんかバスケしてる時の伊織ちゃん可愛いなー」

 そう言われて、この上なくテンションが上がっていた事に気がついた。

「ごめっ、なんかはしゃいで」

「いやいや、ちゃうねんちゃうねん。なんかそうしてると、ちゃんと高校生に見えるわ」

 完全に昔に戻っていたような気がする。
 伊織である事を忘れ、一瞬寛人に戻ったような感覚だった。

「や、老成してるとかそういう事ちゃうねんで? せやなくて……」

 伊織ちゃんらしいっていうか、なんやろ。ともごもごと日下がつぶやきながら考えこむ。

「わかってる。ありがとう」

 その後、日下が顔を赤く染めていたことは、景品を貰いに行った俺が見ることはなかった。
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