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Act 10.戦う小鳥

注がれる油

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 今度は明確な強い意志を持って腕を引かれ、教会の固い椅子の上に放り投げられた。

「痛っ」

 背中を強く打ち付けられて、痛みに呻く間もなくその上から斯波が覆い被さってくる。

「ちょっと、待て! 斯波!」

「辰巳」

 待てという静止の声も虚しく、再び唇を重ねられる。先ほどのような軽いものではなく、食われるのではないかと危惧する位、荒っぽいキスだった。

 息遣いと水音が教会内に反響する。

「やだっ、やめてくれっ」

「埋め合わせしてくれるんだろ?」

「こういう意味じゃない!」

「知らないよそんな事」

 不貞腐れるように斯波が呟き、やめるどころか体全体で押さえつけられ、ズボンを簡単に剥ぎ取ってしまう。

 なんでこうなってしまったのか。

 虫の居所の悪い斯波にタイミングが悪く重なってしまった時差ぼけの眠気を恨まざるをえなかった。

 最近学会があったこともあり、斯波との金曜日の夜の約束も行ける日が少なくなっていた。行けない時は事前にメールを入れているから、待ちぼうけを食っていたということもないはずだ。
 行けないということを謝った時も、学会ならしょうがないと返ってきた文面に安心しきっていたのがいけなかったのか。

 何にせよ斯波の虫の居所の悪い理由を聞かない事にはこうも理不尽な態度を取られる事に我慢ならない。

「何をそんなに苛立っているんだ」

「煩い。関係ないだろ」

 関係ないと良いながら、なぜこうも理不尽にされるのか、さすがの俺も腹が立ってくる。

「じゃあ、退けよ」

 覆い被さってくる斯波を突き飛ばす形で振り払った。

 思いの外強く押してしまったらしく、斯波が前の椅子の背にぶつかり「いてっ」と声を上げた。

 肩を打ったのか蹲って左肩を押さえている。
 斯波も俺にそんな反撃をされると思っていなかったらか、一瞬呆然とした顔をした。

 痛みのせいかしんなりとした斯波にさすがに悪いと思って、「ごめん。強く押しすぎた」と謝罪をすれば、ゆらりと斯波が肩を押さえたまま立ちあがった。

 立ち上がった斯波と目が合って、目に灯った怒りの火に俺はゾッとした。
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