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Act 12.古都に舞う鳥
来訪
しおりを挟む気恥ずかしさに逸らした視線に、今度は薫が覗き込んでくる。
「見るなよ」
「さっき楽しそうにしてたのは誰だ?」
自分がやるのと、やられるのでは恥ずかしさの度合いが全然違い、「見せろ」「見るな」のやりとりをしてじゃれ合いともとれるようなことをしていた時、突然部屋のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だ、と薫と無言で顔を見合わせる。
薫が玄関に向かい、玄関口を覗いた先の相手が俺宛だったのか、薫が神妙な顔をして、こちらを振り返った。
「誰?」
「斯波辰巳」
予想外の相手に反応出来ず、顔が思いっきり強ばった。
当然空気で薫が感じたのか、どうする?と言わんばかりの顔でこちらを伺っていた。
「………」
どうする?と聞かれれば会った方が良いに決まっている。こんな時間に尋ねてくるぐらいだから、きっと何かあるのだ。
でも、怖い。斯波と2人になるのが怖い。
「伊織?」
でも、逃げたら此処で終わりだ。斯波という存在を腫れ物のように気にして学園を過ごしたとして、なんの意味があるのか。斯波にとっても、きっと良い影響を及ぼさない。
伊吹の時と一緒のような気がした。
ここで斯波に会わなかったら、この先話す機会は一生来ず、後戻りが出来ない所まで進んでいってしまう気がした。
だから、此処で”なあなあ”にしては絶対に駄目だ。
怖さに歯を食いしばって、玄関まで向かう。
心配そうにする薫に、「大丈夫」と頷いて、扉を開けた。
「伊織ちゃん………」
そこには、縋るような瞳の斯波がいた。
「………」
何を言うべきか、何から話すべきなのか、どうすべきなのか、固まっていない方向性の元で発する言葉を見失う。
「用事があるから、少し出てくる」
寝る準備をしていて、用事がある訳ないのに、薫が気を遣って席を外してくれる。
「あ、うん」
ありがとう、の言葉は斯波がいる所ではおかしいため、後で言うと心に決める。携帯だけ手にして部屋を出て行く薫を見送り、気まずそうにする斯波を中へと案内した。
斯波をソファに座らせ、紅茶を用意しようかとキッチンに向かおうとしたとき、突然腕を掴まれた。
急なことに身体が強張り、何かと斯波を見れば「気を遣わなくていい」と言われ、内心ほっとする。
硬直する身体はきっと隠せてない。
その事を裏付けするかのように、部屋中にギクシャクとした重い空気が漂っていた。
「………この間は、ごめん。俺、本当に最低なことを………」
「………」
また部屋に沈黙が落ちてくる。
「許されない事をした………本当にすまなかった」
重い口を開き、斯波がそう告げた。
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