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24話・カイルの実力
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24話・カイルの実力
*
「……そこまでだ! 二人とも、剣を引け!」
カイルが強引に二人の間に割り込みました。
リーシャの「デタラメな一振り」と、リナの「神速の刺突」が交差する寸前。ピリついた空気が一気に霧散します。
「……はぁ、はぁ……。やるわね。私の全力に、これほど涼しい顔で付き合えるなんて」
リナは木刀を下ろすと、額の汗を拭い、清々しい……というよりは、どこか戦慄を孕んだ満足げな笑みを浮かべました。
「えっ? すずしい……? いえ、私、ずっと追いかけ回されて、お掃除が全然追いつかなくて必死でしたよぅ!」
リーシャは膝に手をついて肩で息をしています。彼女にしてみれば、目の前の「汚れ(攻撃)」を払おうとしても、相手が水のように形を変えてすり抜けてくるので、パニックの連続だったのです。
しかし、リナの目にはそれが「底知れない余裕」に見えていました。
「謙遜しなくていいわ。……決めた。あなた、私の『とある知人』の護衛を引き受けてちょうだい」
「……は?」
横で冷や汗を拭いていたカイルが、思わず素っ頓狂な声を上げました。
「ちょっと待て。こいつは見ての通りの素人……というか、ただの掃除屋だぞ。護衛なんて務まるわけがないだろう。それに、さっきから言ってるだろ。冷酷な策士でもなんでもないんだって。尾ヒレがつきすぎなんだよ」
「いいえ。理不尽なまでの防御能力、そして予測不能な太刀筋。……そして何より、この私とこれだけ打ち合って、服に一箇所の『汚れ』すら作らせない精密な制御。今の模擬戦で、私は確信したわ」
リナはカイルの言葉を「照れ隠し」か何かのように完全にスルーして、リーシャを指差しました。
「近々、ある高名な学者が、古い神殿跡の調査に行く予定なの。あそこは長年放置された『不浄の魔物』が巣食う魔窟。……でも、あなたなら大丈夫なはずよ」
「……神殿跡! 放置された不浄! それって、とってもやりがいのあるお掃除現場ですね! やります、私やります!」
リーシャの目が「大掃除チャンス」にキラキラと輝き始めます。
「おい、リーシャ! 勝手に受けるなと言ってるだろ……! 学者の護衛なんて、気を使う仕事なんだぞ!」
カイルは天を仰ぎました。
(……絶対に勘違いだぞ。あいつに『策』なんて高尚なもんがあるわけないだろ。それに尾ヒレつきすぎだろう。誰だよ冷酷な策士って。ただの掃除馬鹿だぞ。……だが、不浄の魔物か。あいつの『お掃除』なら、案外相性はいいのか……?)
「決まりね! 私はリナ。報酬は学術院からたっぷり出させるわ。もちろん、『策士』のあなたと、その苦労人そうな相棒の二人分ね」
「……苦労人って。ああ、そうだよ。苦労してるよ、今この瞬間もな……」
カイルの予感通り、事態は「ただの掃除」では済まない方向へと、猛スピードで加速し始めるのでした。
*
カイルは、一切の呪いも返り血も寄せ付けない鮮やかさで、剣を鞘に収めました。
「な……っ! なによ今の!? 魔法攻撃をまともに受けて、無傷……!? それどころか、霊体にただの鉄の剣を通した……!? どんな高等な対魔術スキルを使っているのよ!」
戦い終えたカイルに、リナが驚愕と共に詰め寄ります。しかし、カイルは当然のように鼻を鳴らしました。
「スキル? 冗談だろ。俺はただ、あいつらの動きを見切って、魔力の薄い部分を叩き斬ってるだけだ。血の滲むような修行をすれば、これくらい誰でもできる。要は『技術』だよ、リナ」
リナのようなこの世界の住人は、「異世界の理(魔力)」という概念自体をまったく知りません。だからこそ、カイルがどれほど無茶な芸当を見せても、彼が「これは技術だ」と言い張りさえすれば、リナ側は「……そういうものなの?」とおかしいと思いつつも、納得せざるを得ないのです。
ところが、隣にいたリーシャが、じーっとカイルを見つめて言いました。
「……カイルさん。私のこと『変な力』とか言いますけど、カイルさんこそ、自分のこと棚に上げて私にどうこう言う資格、ありますか?」
「……あ?」
「カイルさんの今の動き、幽霊の魔力が触れた瞬間に霧みたいに消えてたんですよ。身体の中に魔力が全然ないのに、私以上に不自然です。……自分だって異世界の理を使いまくって、無理やり技術に見せかけてるじゃないですか」
リーシャの真っ直ぐな指摘に、カイルはしばらく黙り込みましたが……やがて、深く、重い溜息をつきました。
「…………。ああ、確かにその通りだ。否定はしねえよ」
カイルは、意外にもあっさりと認めました。
実際、霊体を斬るには「理」に干渉するしかないことは、リーシャも自分も分かっている既実です。リナのような無知な相手には「技術」で押し通せても、同じ「理」を扱うリーシャの前でまで、その言い訳を続けるのはあまりに滑稽だと悟ったのです。
「……だがな、リーシャ。俺はお前みたいに、理をそのまま垂れ流して『お掃除』なんて言ってるわけじゃない。何十年も素振りして、なんとか自分でも納得できる『技術』の形にまで整えたんだ。そこは譲れねえんだよ」
「あ、カイルさん、そんなに落ち込まないでください。不自然でも、強いんだからいいじゃないですか」
「やかましい! 俺は……俺はただ、真っ当な人間のふりをしていたかったんだ……!」
カイルがヤケクソ気味に叫ぶ横で、リナは完全に置いてけぼりでした。
(……え? なに? 認めちゃったの? 異世界の理……? 整えた……? 全然意味が分からないんだけど……。とにかく、この二人の中では『異常なこと』が前提で会話が進んでるの……?)
目の前で繰り広げられる、異次元すぎるレベルの言い合い。リナは、カイルが「技術」だと強弁していた時よりも、今の「あっさり認めて開き直った姿」に、得体の知れない恐怖を感じていました。
(……やっぱり、この人たちに関わっちゃいけなかったんだわ……)
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「……そこまでだ! 二人とも、剣を引け!」
カイルが強引に二人の間に割り込みました。
リーシャの「デタラメな一振り」と、リナの「神速の刺突」が交差する寸前。ピリついた空気が一気に霧散します。
「……はぁ、はぁ……。やるわね。私の全力に、これほど涼しい顔で付き合えるなんて」
リナは木刀を下ろすと、額の汗を拭い、清々しい……というよりは、どこか戦慄を孕んだ満足げな笑みを浮かべました。
「えっ? すずしい……? いえ、私、ずっと追いかけ回されて、お掃除が全然追いつかなくて必死でしたよぅ!」
リーシャは膝に手をついて肩で息をしています。彼女にしてみれば、目の前の「汚れ(攻撃)」を払おうとしても、相手が水のように形を変えてすり抜けてくるので、パニックの連続だったのです。
しかし、リナの目にはそれが「底知れない余裕」に見えていました。
「謙遜しなくていいわ。……決めた。あなた、私の『とある知人』の護衛を引き受けてちょうだい」
「……は?」
横で冷や汗を拭いていたカイルが、思わず素っ頓狂な声を上げました。
「ちょっと待て。こいつは見ての通りの素人……というか、ただの掃除屋だぞ。護衛なんて務まるわけがないだろう。それに、さっきから言ってるだろ。冷酷な策士でもなんでもないんだって。尾ヒレがつきすぎなんだよ」
「いいえ。理不尽なまでの防御能力、そして予測不能な太刀筋。……そして何より、この私とこれだけ打ち合って、服に一箇所の『汚れ』すら作らせない精密な制御。今の模擬戦で、私は確信したわ」
リナはカイルの言葉を「照れ隠し」か何かのように完全にスルーして、リーシャを指差しました。
「近々、ある高名な学者が、古い神殿跡の調査に行く予定なの。あそこは長年放置された『不浄の魔物』が巣食う魔窟。……でも、あなたなら大丈夫なはずよ」
「……神殿跡! 放置された不浄! それって、とってもやりがいのあるお掃除現場ですね! やります、私やります!」
リーシャの目が「大掃除チャンス」にキラキラと輝き始めます。
「おい、リーシャ! 勝手に受けるなと言ってるだろ……! 学者の護衛なんて、気を使う仕事なんだぞ!」
カイルは天を仰ぎました。
(……絶対に勘違いだぞ。あいつに『策』なんて高尚なもんがあるわけないだろ。それに尾ヒレつきすぎだろう。誰だよ冷酷な策士って。ただの掃除馬鹿だぞ。……だが、不浄の魔物か。あいつの『お掃除』なら、案外相性はいいのか……?)
「決まりね! 私はリナ。報酬は学術院からたっぷり出させるわ。もちろん、『策士』のあなたと、その苦労人そうな相棒の二人分ね」
「……苦労人って。ああ、そうだよ。苦労してるよ、今この瞬間もな……」
カイルの予感通り、事態は「ただの掃除」では済まない方向へと、猛スピードで加速し始めるのでした。
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カイルは、一切の呪いも返り血も寄せ付けない鮮やかさで、剣を鞘に収めました。
「な……っ! なによ今の!? 魔法攻撃をまともに受けて、無傷……!? それどころか、霊体にただの鉄の剣を通した……!? どんな高等な対魔術スキルを使っているのよ!」
戦い終えたカイルに、リナが驚愕と共に詰め寄ります。しかし、カイルは当然のように鼻を鳴らしました。
「スキル? 冗談だろ。俺はただ、あいつらの動きを見切って、魔力の薄い部分を叩き斬ってるだけだ。血の滲むような修行をすれば、これくらい誰でもできる。要は『技術』だよ、リナ」
リナのようなこの世界の住人は、「異世界の理(魔力)」という概念自体をまったく知りません。だからこそ、カイルがどれほど無茶な芸当を見せても、彼が「これは技術だ」と言い張りさえすれば、リナ側は「……そういうものなの?」とおかしいと思いつつも、納得せざるを得ないのです。
ところが、隣にいたリーシャが、じーっとカイルを見つめて言いました。
「……カイルさん。私のこと『変な力』とか言いますけど、カイルさんこそ、自分のこと棚に上げて私にどうこう言う資格、ありますか?」
「……あ?」
「カイルさんの今の動き、幽霊の魔力が触れた瞬間に霧みたいに消えてたんですよ。身体の中に魔力が全然ないのに、私以上に不自然です。……自分だって異世界の理を使いまくって、無理やり技術に見せかけてるじゃないですか」
リーシャの真っ直ぐな指摘に、カイルはしばらく黙り込みましたが……やがて、深く、重い溜息をつきました。
「…………。ああ、確かにその通りだ。否定はしねえよ」
カイルは、意外にもあっさりと認めました。
実際、霊体を斬るには「理」に干渉するしかないことは、リーシャも自分も分かっている既実です。リナのような無知な相手には「技術」で押し通せても、同じ「理」を扱うリーシャの前でまで、その言い訳を続けるのはあまりに滑稽だと悟ったのです。
「……だがな、リーシャ。俺はお前みたいに、理をそのまま垂れ流して『お掃除』なんて言ってるわけじゃない。何十年も素振りして、なんとか自分でも納得できる『技術』の形にまで整えたんだ。そこは譲れねえんだよ」
「あ、カイルさん、そんなに落ち込まないでください。不自然でも、強いんだからいいじゃないですか」
「やかましい! 俺は……俺はただ、真っ当な人間のふりをしていたかったんだ……!」
カイルがヤケクソ気味に叫ぶ横で、リナは完全に置いてけぼりでした。
(……え? なに? 認めちゃったの? 異世界の理……? 整えた……? 全然意味が分からないんだけど……。とにかく、この二人の中では『異常なこと』が前提で会話が進んでるの……?)
目の前で繰り広げられる、異次元すぎるレベルの言い合い。リナは、カイルが「技術」だと強弁していた時よりも、今の「あっさり認めて開き直った姿」に、得体の知れない恐怖を感じていました。
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