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350 一方、その頃の王子は……
しおりを挟むご褒美(魚)をエサに交渉ができると分かったので、その他にもイタズラしないようにとか、床や壁で爪とぎしないようにとか、猫ちゃんに色々と言い聞かせてから家を出た。
注意事項は伝えたけれど、猫ちゃんを一人でお留守番させているとなると、どうにも落ち着かない。
あの子、何をしでかすか分からないところがあるからなあ……
部屋で騒いでいないか。勝手にお外に出ないか。
そのまま迷子になったり、道路に飛び出して車に轢かれたりしないか。
バイト中も、そんな心配が頭から離れない。
それでもどうにか仕事をこなし、大学に行って落ち着かないまま講義を受けて、昼は食欲がないことを先輩に心配されながら学食でうどんを食べて、午後の講義が終わったところで『帰りにケーキを食べに行こう!』と声をかけてきた先輩のしつこい誘いを断って、急いで帰路につく。
だけど、どんなに急いでいても、途中で約束のお魚を買うことだけは忘れない。こういうのは、お互いの信頼関係が一番大事ですからね。
そして――!
「にゃーん♡(ゴロゴロゴロゴロ♡)」
アパートに着いて鍵を開けた途端、玄関で可愛くお出迎えをしてくれる猫ちゃん。元気な様子にホッとしつつ抱っこをすれば、エコバッグの中の新鮮なお魚を気にしながらも、喉を鳴らしながらゴキゲンで頭を擦り付けてくる。
……うわあ、メッチャ大歓迎じゃないですか! なあに、猫ちゃんてば、もしかして私のことずっと玄関で待っててくれたの? まさか、ペット禁止のアパート生活で、こんな貴重な体験ができるなんて……!
大家さんごめんなさい。でも、見た目が多少猫っぽくても、中身は偽王子なんで!!
とりあえず、猫ちゃんは朝と変わらず元気そうだし、見たところ部屋にも異常はないようだ。どうやら、私との約束をしっかりと守ってくれたらしい。
そんな良い子の猫ちゃんには、きちんと報酬をあげなくてはいけませんね。
そんな、しっかり者の猫ちゃんに比べて…………
「王子さぁ……。置いて行かれた猫ちゃんがわざわざ玄関まで出迎えてくれてるのに、何でその元凶の王子がのんびりとゲームやってんのよ?」
「ん? ああ、召喚主か。おかえり。いや、今ちょっとセーブができないイベント中でだな……」
こちらの質問に答えつつも、絶対に画面からは目を離さない王子様。ゲーム内では着々と婚約破棄が進んでいる。
どうやら、ずっと気になっていた婚約破棄イベントに入れたようだ。私も邪魔されるのは嫌いだから、気持ちは分かる。
「そっか。まあ、それなら仕方ないわね。――さ、おいで、猫ちゃん。おやつに買ってきたお魚を焼いてあげるからね!」
「にゃーん♡ にゃーん♡」
ゲーム中の王子は放っておいて、換気扇を回しながら猫ちゃん用のお魚を焼く。時短と節約を兼ねて、ついでに自分の夕飯用のお魚も焼いちゃいます。
うん。食欲を誘う、とってもいい匂いがしてきましたよ!
「どう? 猫ちゃん、お魚美味しい?」
「にゃあーん♡」
「あ、これも食べたいの? 仕方ないなー、分けてあげるけど、こっちはまだ熱いからフーフーしてからね」
「にゃーん、にゃーん(ペロペロ♡)」
「あはは、こらこら、お魚食べた口で顔を舐めないでよー、顔が生臭くなっちゃうじゃーん。お風呂入るから、別にいいけど!」
「にゃーん、にゃーん♡(ゴロゴロゴロゴロ♡)」
「あ、あの、召喚主! イベントシーンが終わったから、僕にも何かおやつをだな……」
猫ちゃんとじゃれていると、王子がおずおずと話しかけてきた。どうやら、ゲームが一段落したので、おやつを強請ることにしたようだ。
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